響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~ 作:碧河 蒼空
「チョップ!チョップ!チョップ!••••••」
加藤葉月が川島緑輝の頭を何度も叩く。右チョップ、左チョップ、それは黄前久美子が止めるまで続いた。
緑輝は自分が葉月の背中を半ば強引に押してしまったばかりに、葉月が告白に踏み切り、振られてしまったのだと考え、責任を感じていた。
葉月はむしろ緑輝に背中を押してもらうつもりで相談したと言い、彼女を励ます。
「にしても、比企谷の演奏凄かったね。何と言うか、うん。ほんと凄かった」
この話は終わりと言わんばかりに、葉月は露骨に話を逸らした。
「そうだね。あれはあすか先輩以上だよ」
「マジで!?」
久美子の評価に葉月は驚きを隠せない。異なる楽器を単純に比較できるものではないが、田中あすかの実力が部内でもトップクラスであることは部内でも周知の事実。
「トランペットだって、ユーフォほどじゃないけど、強豪校でも通用すると思う」
比企谷八幡がユーフォニアムを演奏した後、高坂麗奈のお願い(脅迫)によりトランペットの演奏も行われた。
ちなみに、曲はプリキュアメドレー。古い曲が流れた瞬間、葉月と久美子の目が虚空を見つめ出した。幼い頃はプリキュアを応援していた二人も、今や夢から覚めた立派な女子高生なのである。それを同級生男子が演奏している姿に現実から目を逸らす。
一方の麗奈は終始、真顔でプリキュアメドレーを聞いていた。
「そりゃ高坂さんも勧誘する訳だ。比企谷って凄いやつだったんだね」
「葉月ちゃん、さっきから凄いばっか」
久美子がおかしそうに笑う。
「ええ。比企谷君は凄いんです」
この中で一番、八幡と関わりの深い緑輝が口を開いた。
「そして音楽が大好きなんです」
――そう簡単に嫌いにはならねぇよ。
今でも音楽が好きかと、かつて八幡に問いかけた時の答え。言葉とは裏腹に、目の前のユーフォニアムではなく、どこか遠くへ冷めた視線を向けていた彼の顔を緑輝は覚えている。
「比企谷君、言ってましたよね?部活に入らないのは人間関係が理由だって」
それは斎藤葵が退部した時の事。久美子の質問に八幡が言った答えだ。
「比企谷君の音は凄く純粋なんです。本当は誰かと響き合いたい、大切にされたい。そんな思いが比企谷君のユーフォから感じるんです。でも、それを認めてしまったらまた誰かに期待して傷ついてしまうから••••••」
緑輝は八幡の防衛本能を正確に言い当てた。
「あんなに優しく吹くのは、本当は誰かに見つけて欲しいからじゃないのかな、なんて••••••緑は思っちゃうんです」
本来ユーフォニアムは中低音域で周囲を支え、包み込む調和の楽器である。そんなユーフォニアムを捨てられずに抱え続けていること事態が、比企谷八幡という男の子の本質を表しているのかもしれない。