響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~ 作:碧河 蒼空
オーディションを終え、期末試験を挟んだ後に結果発表が行われた。
結果から言うと、中川先輩は落選した。ユーフォから選ばれたのは田中先輩と黄前。田中先輩の実力はもはや言うまでもなく、黄前も黄前で七年間の経験者という折り紙付き。役者は揃っていた。
結果の受け止め方は人それぞれ。拳を握り喜びを露わにする者、冷静に受け止める者、冷静さを装うも表情を隠しきれない者、顔を覆い涙を流す者。
中川先輩は自らの名前が呼ばれなかったという現実をどこまでも淡々と受け止めているように見えた。
そして、この結果発表における最大の波乱が、トランペットのソロに高坂が抜擢されたことだった。
メンバーが決まると、Aメンバーは早速コンクールに向けて練習が開始される。Bメンバーが滝先生に別教室へ呼び出され、残されたAメンバーはパート練習となった。
俺は合奏練習の準備で音楽室に残り、黙々と椅子を並べている。椅子を並べ終えた後はBメンバーに合流するように言われていた。
先程までオーディションの結果発表が行われていたこの音楽室も、今は俺が椅子を並べる音のみとなっていた。
作業を終えた俺は椅子の並べられた教室を眺める。今は寂々とした空間に奏者が集まった所を想像した。前列に木管、その後方に金管とパーカッションと並び、この中でユーフォは上手後方に座る。
俺はユーフォ奏者の元へと向かった。彼を妄想の中にいた彼を消し去り、代わりに俺が空いた椅子に腰を下ろす。
目を閉じて思い描いたのは金色の光が降り注ぐ舞台から望むホール。演奏されるプロヴァンスの風に合わせて俺の指もユーフォのピストンを沈める。
演奏が終わると目を開いた。
回りの椅子の上には透明な空間があるだけで、白く無機質な景色が視界に写る。
俺は立ち上がると、リノリウムの床と上履きのゴムが擦れる高い音をたてながら外は廊下へ繋がる扉を抜けた。
BメンバーにはもうB編成で演奏する曲が通達されただろうか。
上位大会こそ無いが、金銀銅の評価はされる。彼女らは府大会までA編成のサポートをしながら、自らの曲も磨かなければならない。
Bメンバーのいる教室に着いたので、扉を引いて中に入った。扉のたてる音に気付いたBメンバーの視線が俺に集まる。
加部先輩がチョークを手に教壇へ立ち、その他は思い思いの席に座っていた。
黒板に書かれている文字に目をやると••••••。
サブメンバー
サポートメンバー
チーム補欠
チームネクスト
フォーチュンチーム
チームミスキャスト
ザ・ホープ
明日があるさ
ココロシャウト
ダイブトゥーサウンド
アマゾナイツ
サウンドオブフェアリー
二番出汁
Bチーム
ダイゴロー
「••••••何ですか?これ」
俺はこれを書いたであろう加部先輩に尋ねた。
「私達のチーム名候補だよ。部長から名前を決めるように言われてるの」
「••••••そのチーム名がミスキャストや二番出汁で良いんですか?」
「そうだよ!みんなもっと真面目にやろうよ」
加部先輩は他のメンバーを叱咤するが、
「いや、書いた加部先輩も加部先輩ですからね」
あなたも同罪ですよ?何しれっと被害者面してるんですか。
「ていうか。もっとこう、この十人ならではみたいな個性が欲しいよね」
サックスの先輩がそんな事を言う。
「ダイゴローなら個性はバツグンですよ!」
これ以上の個性を求めるんですか?この十人以外でこんな名前を冠するチームがあると思ってるんですか?あと誰だよダイゴロー••••••。
「みんなの頭文字を繋げるのはどうですか?」
「「なーる」」
その発送は悪くない。加部先輩とサックスの先輩も同意した。ただ、
よしざわ あきこ
かまやつ つばめ
ひとみ らら
ふくい さやか
もりた しのぶ
なかがわなつき
たかの ひさえ
かとう はづき
なかの つぼみ
かべ ともえ
「よ・か・ひ・ふ・も・な・た・か・な・か」
••••••人数が多いんだよなぁ。てか加部先輩も書く前に気付いてくださいよ。
「先輩の頭文字だけ集めたら良いんじゃないですか?」
••••••さっきからこいつは天才か?いや、これまでの案が天災だったのか。
このメンバーで先輩の頭文字を合わせると。
「なもか••••••かも••••••もなか!!」
周囲からは“チームもなか”に賛同の声が上がる。加部先輩はお笑いコンビみたいじゃないかと言うが、ダイゴローよりも全然良いと俺は思った。
「••••••王国」
「それはモナコ。って王国でもないし」
天然なのかネタなのか、ボケたやつは隣に座る女子に食いぎみにツッコまれている。さてはこいつ、最初の戦犯の一人か?
「まあ、コンクールが終わるまでだしね」
加部先輩はそう締めくくった。
ちなみに、このチーム名は代々、北宇治の伝統として引き継がれていくわけだが、それはまた別の話。今は俺含め、ここにいる誰もが知る由もない事だ。
このチーム名を報告した時、チーム名の由来を知った田中先輩に安直と切り捨てられたが、余計なお世話だとここに記しておく、まる。