響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~   作:碧河 蒼空

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 最後はギャルゲ脳。


労働衛生環境

 オーディション翌日の練習。

 合奏練習にて課題曲の“プロヴァンスの風”が頭から通しで演奏されていた。指揮台に立つ滝先生の手が止まると同時に楽器の音がピタリと止む。

 音楽室が無音になった事を確認した俺は右手に持つ緑の旗を上げ、左手のストップウォッチのボタンを押した。

 

「3分25秒」

 

 コンクールでは一校当たりの持ち時間が十二分と決まっている。当然、時間をオーバーする事は許されていないので、こうして実際に演奏時間を計り、演奏のペースを確認した。

 

 俺の読み上げたタイムに滝先生が納得の表情を見せた所で、本日の練習は終了した。 別教室で練習していたもなかも音楽室に集まる。

 

「みなさん、家にある使ってない毛布を貸してほしいんです」

 

 部員全員が集まる中、滝先生が要望を口にした。

 

「うち毛布ちょーあまってます。••••••でも毛布で何するの?」

 

 加藤がすぐに返事をするが、毛布を使う意図が初心者の彼女に分かるはずもなく、近くで片付けをしていた俺に聞く。

 

「毛布を床に敷いて音を吸収させんだよ」

 

 俺は手を動かしたまま、加藤の質問に答えた。

 

「へぇ。何でそんな事すんのさ?」

「本番のホールは音楽室なんかより音が全然響かないんだ。広さは段違いだし、客席を埋める人間なんかは吸音材みたいなもんなんだ。音楽室での感覚に慣れて本番で音が足りないなんて事にならないように、練習から環境を本番に近づけんだよ」

 

 もしも全国に出場したならば日程は10月。厚着になればなるほど観客や審査員は俺達の音をより吸収する。

 

「あとは音が響かなくなる事で音のズレや濁りが聞き取りやすくなる。要するに粗捜ししやすくなる訳だな」

 

 ちなみに、ベルが後ろを向いているホルンは床からの反射音が演奏の目安や独特の響きを作っている為、床に毛布を敷かれると特に演奏難易度が跳ね上がったりする。マジで御愁傷様としか言いようがない。

 

「ついでに言えば、手入れのされていない毛布を使ったりすると埃っぽかったりカビ臭かったり、挙げ句の果てにはダニ被害が出ることもある」

 

 伝統的に部で所有する毛布を使う学校ではあるあるだ。普段は雑に長期間仕舞われている故に。

 聞き耳を立てていた滝先生も心当たりがあるのか、困ったような笑いを浮かべていた。なるほど。滝先生は経験済みか。

 

「うえ゙っ••••••」

 

 最悪の事態を想像したであろう加藤がゲンナリと顔をしかめる。ふと回りを見ると加藤と同じリアクションをする初心者達がちらほら。経験者組の中にも苦虫を噛み潰したような顔をしている者も見つけることができた。

 

「最低限、乾燥機に掛けておく事をおすすめする」

 

 ほんと、俺の労働衛生環境を整えるためにも••••••。

 

 片付けを続けていると、何やら元気の無い吉川先輩が目に留まった。彼女は譜面台の上で閉じられていた譜面を捲っているが、そこに座っていたのは確か中世古先輩だったのではないだろうか?

 

「高坂ってラッパの?」

「はい。ララ聞いちゃいました」

 

 ホルンパートの女子が高坂の名前を出して話をしている。吉川先輩も気付いたようで、視線はホルンの集まりに釘付けとなっていた。

 噂話をしていた瞳ララは吉川先輩に気付き、気まずそうに目を逸らす。それで自分にも関係のある話だと察した吉川先輩が瞳の元へと足早に近付いていった。

 

「ねえ、何を話してたの?」

 

 そこからは声を潜めたようで、俺が話の内容を聞く事は叶わなかった。

 

「比企谷、ちょっといい?」

 

 もなかトランペットの吉沢に自由曲の事を質問された為、吉川先輩を意識の外へ追い出す。途中から加部先輩も合流してトランペット組に助言を行った。俺の講義が終わる頃には音楽室に吉川先輩の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 俺が学校を出る頃にはだいぶいい時間になっていた。上を見上げると、青空が朱に侵食されている。

 夕暮れは時に感傷の象徴とされることがある。連続的に色が変わりゆくこの空こそ、せつなさのグラデエション••••••なんてな。

 空を映すあかね色に染まる坂を俺は下っていった。

 

「ソロのオーディションに不正があったかも知れないんです!」

 

 児童公園の横を歩いていた時、聞き覚えのある声が公園の中から聞こえた。

 

「高坂さんがと滝先生が以前から知り合いだったみたいなんです。だからきっとそのせいなんじゃないかってっ」

「そうかな?そんな事無いよ」

 

 公園へ入っていくと、そこには吉川先輩と中世古先輩が話していた。

 

「でも••••••」

「私はもう納得してるから」

「でもっ!」

「先生は私より高坂さんがソロに相応しいと判断した。それがオーディションでしょ?」

「だからそのオーディションが!••••••っ」

 

 中世古先輩が吉川先輩の肩にそっと手を起く。その静かな動作が吉川先輩にそれ以上の言葉を紡がせなかった。いや、さっきから中世古先輩は吉川先輩に言葉を紡がせないようにしている?

 

「優子ちゃんもコンクールに出るのよ。これからは全員で金賞を目指して頑張る。違う?」

「••••••」

 

 どこまでも中世古先輩の言うことは正論だ。吉川先輩も言葉が見付からず視線を下げた。

 

「その話は口外しないでって他の子にも言っておいて。じゃあね」

「香織先輩!諦めないでくださいっ」

 

 だから、吉川先輩から出た悲痛な叫びはただの願望だ。

 

 一度は背を向けて歩き出した中世古先輩の足が止まる。

 

「最後のコンクールなんですよ?諦めないで••••••香織先輩の••••••香織先輩の夢は絶対に叶うべきなんですっ!!」

「••••••ありがとう」

 

 一度は別れを告げた中世古先輩は振り返って、そう言ってまた歩みを再開した。

 

 帰り道から公園に入ってきた俺と、公園から帰り道に戻る中世古先輩。俺達が鉢合わせるのは当然の事だった。

 

「聞いてたの?」

「••••••すみせん」

「盗み聞きなんて悪い後輩だな~。比企谷君もこの事は誰にも言わないでね」

「••••••分かりました」

 

 俺と中世古先輩は公園の出口へと歩く。

 

「吉川先輩、放っておいて良いんですか?」

「優子ちゃんも冷静になれば分かってくれるはずだから。本当に私は納得してるんだから」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

  何も言わない(優子ルート消失)

→ ••••••それは本当ですか?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




今まで作中で八幡が演奏した楽曲。

ユーフォ・フォー・ユー
I Need to Be in Love
時代
プリキュアメドレー

 各話にもリンクを張ったので、暫くしたらここのリンクは削除します。
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