響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~ 作:碧河 蒼空
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何も言わない(優子ルート消失)
→ ••••••それは本当ですか?
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「••••••それは本当ですか?」
「もちろん。どうしたの?」
「吉川先輩はいつだって真っ直ぐで、間違った事はしなくて••••••」
気が付くと俺は立ち止まっていた。中世古先輩は振り返り、俺の言葉に耳を傾ける。
「吉川先輩だって高坂が上手いのは分かってるはずです。そんな吉川先輩が何であんなこと言ったと思いますか?••••••尊敬する中世古先輩が自分に嘘を吐いてるからじゃないんですか?」
中世古先輩の嘘は部の空気を乱さないための、どこまでも優しくて正しい嘘なのかもしれない。だが、今日まで中世古先輩を真っ直ぐに見続けてきた吉川先輩にはそれが痛々しく映ったのだろう。
吉川優子は中世古香織の代弁者なのではないか。
「••••••比企谷君はみんなの事よく見てるんだね。なら、比企谷君はどうするのが正解か分かるよね?」
中世古先輩のその問いかけは、どこか俺にすがりつくような、あるいは試すような響きを孕んでいた。
「何が正解かなんて立場や見方で変わるもんでしょう。悪いんですけど部外者の俺にはそんなの分かりませんよ」
「そっか。明日、改めて優子ちゃんと話してみるよ」
中世古先輩が歩き出して暫くしてから、俺も帰路に着いた。
らしくない事をしたと自分でも思う。思い返すと羞恥心で顔に熱が上りそうだ。先程の俺はだいぶ恥ずかしい事を言った気がした。
だが、これで吉川先輩は大丈夫だろう。中世古先輩とちゃんと話せれば心の整理も着くだろう。
だが、この時点で俺も中世古先輩も現状における危機感が足りていなかった事を、正に翌日知ることとなった。
事件が起こったのは部活が始まってすぐ。
俺は部活前が始まる前に、中世古先輩が吉川先輩を帰りに誘っていたのをただ見ていた。
••••••そんな悠長な余裕など無かったのに。
「先生!一つ質問があるんですけど良いですか?」
吉川先輩の信念と決意の硬度は俺達の想像を遥かに超えて強固だった。
「滝先生は高坂麗奈さんと以前から知り合いだったって本当ですか?」
全員で音楽室の床に毛布を敷いた直後、不発弾が掘り起こされる。
「それを聞いてどうするんですか?」
滝先生は吉川先輩の問いに対し、その意図を問うた。
中世古先輩も吉川先輩を制止するが、切られた口火は止まらない。
「噂になってるんです。オーディションの時、先生が贔屓したんじゃないかって。答えてくださいっ先生!!」
「贔屓したことや、誰かに特別な計らいをしたことは一切ありません。全員、公平に審査しました」
滝先生は吉川先輩の質問に淀みなく答えるが、最初の問いに関してははぐらかしたままだった。
「高坂さんと知り合いだったというのは?」
勿論、吉川先輩は納得しない。追求の手は止まらなかった。
「••••••事実です」
滝先生はどこまでも冷静に認めた。そんな先生とは裏腹に、その場にいた全部員に動揺の波が広がった。
滝先生が語るのは、お互いの父親が知り合いで、高坂の事は中学時代から知っているとの話。
高坂を見ると、教室の隅に置かれた椅子を持つ手が震えていた。彼女が感じているのは、直接ではないものの、上級生から責められている当事者である事への恐怖••••••ではないだろう。
ここで一番マズいのは高坂が怒りに任せ余計な反論をしてしまう事だ。これからコンクールに向かって一致団結しようという矢先に、彼女と滝先生にヘイトが集まる事になるからだ。滝先生が高坂を贔屓していて、共犯の高坂が我が身可愛さに逆ギレするというシナリオが完成してしまう。
そこに真実など関係ない。既に役者が揃っているからだ。吹部のアイドルであり、男女問わず指示を集めている中世古先輩。カリスマ性を備え、二年生の中でも強い影響力を持つ吉川先輩。そして、悪役となるのは部内でろくにコミュニティを築けていない高坂に、彼女と以前から繋がりのあったという顧問の滝先生である。
「なぜ黙っていたんですか?」
「言う必要を感じませんでした。それによって指導が変わることはありません」
現時点において、ここで滝先生が何と言おうと、それは悪徳顧問の言い訳という、脚本通りの台詞としか受け取られないだろう。
だが、ここから一気に情勢を引っくり返す方法に俺は辿り着いている。
俺は川島の様子を先程から伺っているのだが、ふと彼女は俺の視線に気付いた。
唯一の懸念事項は、この場で俺と一番関わりの深い、友達思いの川島だ。
••••••頼むから邪魔しないでくれよ。
「だったら••••••」
「はぁぁ~あ••••••」
俺はありったけの皮肉を込めて、大袈裟な位にため息を吐いた。
悪役からヘイトを逃がすには新たな悪役を登場させれば良い。
「最低ですね、吉川先輩。先輩は自分の好きな人にソロを吹かせたいだけなんでしょ。今だって、滝先生に贔屓していたって言わせたいだけなんだ」
「何を言って••••••」
「先輩だって分かってますよね。どうして高坂が選ばれたか」
吉川先輩に反論の余地を与えない。俺は続けざまに言葉の刃を畳み掛けた。
「だから滝先生に身内贔屓というレッテルを張り付けた。そうやって高坂を貶めて中世古先輩を繰り上げ当選させようとしてる。これが中世古先輩の夢だってんなら笑えないですね」
俺は嘲笑うように良い放つ。
「吉川先輩がどうしても分からない振りを続けるってなら教えてあげますよ。高坂がソロに選ばれたのは、中世古先輩が高坂より下手だからですよ」
俺の言葉を聞いた吉川先輩の目が吊り上がった。
「あんたねっ、いい加減にしなさいよ!!」
吉川先輩が俺に掴み掛からんばかりの勢いで詰め寄る。
「やめてっ!!」
中世古先輩が悲鳴のように制止を掛けたその瞬間だった。俺と吉川先輩の間に割り込む者が現れる。茶髪のポニーテールが宙を舞うのと同時に平手が俺の頬を撃ち抜いた。
「すみません、香織先輩。やめられません」
乾いた音が音楽室に響いた直後、中川先輩はそういうと俺の胸ぐらを掴む。その表情は怒りと悲しみが入り交じったようだった。
「またそうやって自分が悪者になって丸く納めようってつもり?自分は府大会が終わったら居なくなるから関係ないって!!」
マズい、これは流石に予想外だ。なんとか流れを引き戻さないと。
「いや、俺は事実を••••••」
「黙って!!比企谷こそ何も分かってないなら教えてあげるわよ」
中川先輩は背後で唖然と立ち尽くす吉川先輩を指差す。
「私もこいつも、今更比企谷のこと部外者だなんてこれっぽっちも思ってないからっ!!」
中川先輩の剣幕に完全に圧され、俺は思わず息を飲むことしか出来なかった。
「そこまでです」
滝先生が手を叩いて俺達を止める。言葉尻は決して強くないが、その言葉には有無を言わさない力が込められていた。
「吉川さん、中川さん、比企谷君。三人は私と一緒に来てください。他の皆さんは各自パート練習から始めてください」
滝先生が冷静に指示を出したことで、ひとまずはこの場が治まったのだった。
あれ?夏紀ルートに入ってない?