響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~   作:碧河 蒼空

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騒動の後、もなかにて

「やあ少年。無事、戻ってきたようだね」

 

 パート練習から戻ってきた田中先輩は俺と吉川先輩を見るなり面白そうに近付いてくる。

 

「••••••なるほどね~」

 

 田中先輩は吉川先輩を見ながら顎に手を当てて呟いた。

 

「“当事者は和解しました。だからみんなも比企谷を責めないで”って所かしら?」

「なっ、ちょっと、あすか先輩!?」

 

 吉川先輩は顔を赤らめて田中先輩に抗議する。

 

「別に照れなくても良いじゃない」

「照れてません!それじゃあ比企谷、練習付き合ってくれてありがとうっ」

 

 吉川先輩は捲し立てるようにそれだけ告げると、逃げるようにトランペットパートの輪の中へ戻った。

 

 なるほど。みんなが不思議そうに俺達を見ていた理由に合点がいった。

 

緑輝川島(サファイアかわしま)にも感謝するのよ?滝先生と三人が出ていった後にみんなの前で君を庇ってたんだから。とっても健気だったわ~」

 

 ••••••やっぱり川島は黙ってはいないよな。

 

「晴香やカトちゃんに加部ちゃんにもね。まあ、夏紀なんて下手したら停学ものだけど」

「••••••停学?」

 

 聞き捨てなら無い田中先輩の言葉に俺は思わず聞き返す。

 

「そりゃそうでしょ。先輩が後輩に体罰なんて今のご時世問題になるわよ」

 

 まさかさっきの滝先生と中川先輩の話って••••••。

 

「そんなに焦らなくても大丈夫よ。君が問題にしない限りはね。滝先生だって部の不祥事でコンクール辞退なんてしたくないだろうし?でも、それだけの衝撃的な出来事があったから、君のしたことが有耶無耶になってるとこもあるのよ?」

 

 田中先輩がそこまで話した所で滝先生が音楽室へ入ってきた。

 

「君は随分と愛されてるね。それじゃあね~」

 

 田中先輩はヒラヒラ手を振ると、ユーフォの席へと向かう。

 モヤモヤを残したまま、俺はもなかの練習場所へと移動した。

 

 もなかが練習する教室に入ると、メンバーのほぼ全てが揃っていた。

 A編成の合奏練習中、何も仕事がない時はもなかの練習を手伝うことになっている。これは滝先生に指示されたことだ。

 

 教室内を見渡すが、ここに中川先輩の姿は無かった。

 

「中川先輩はどこか行ったんですか?」

 

 トランペットを持ちながら譜面を見つめ、ピストンだけを沈めていた加部先輩に尋ねる。

 

「夏紀なら今日は練習出れないって連絡があったよ」

 

 加部先輩の言葉に、俺の脳裏に田中先輩が言っていた“停学”の二文字が頭を過った。

 

「夏紀に何か用事?」

「••••••いや、大したことじゃないんで」

 

 俺は余計なことを思考の外に追い出す。

 田中先輩だって言っていたじゃないか。コンクール辞退なんて最も避けるべき事態なはずだ。

 

「そう、ならここ教えて欲しいんだけど」

 

 俺は邪念を振り払うように、差し出された加部先輩の譜面を覗き込む。

 

 もなかの自由曲であるコパカバーナはノリの良いラテン・ディスコのリズムや華やかなソロが特徴的だ。この曲を演奏するに当たり、軽快なリズムと華やかなハイトーンが鍵となる。

 

「それじゃあ手拍子をするので、それに合わせて吹いてください」

 

 俺が手拍子で作るリズムに合わせて加部先輩はトランペットを奏でた。高校から吹奏楽を始めた加部先輩と、先程まで聞いていた吉川先輩の演奏を比べると、どうしても技術に大きな開きを感じてしまう。

 

「タイの後の音が遅れがちです。そこは少し早めに狙うくらいが丁度良いかと。あと、唇を強く押し当てたり、歯を食い縛ってません?高音が薄くなってます」

「うーん、高い音を出そうとすると、どうしても力はいっちゃうんだよね」

「ある程度はそれで出るかもしれませんが、すぐ天井にぶつかります。B編成の持ち時間ならまだしも、A編成で演奏する事を考えれば今のままだと最後まで保ちません。来年、A編成で吹きたいなら今から取り組むべきかと」

 

 加部先輩にとって耳の痛い話なのか、ぐうの音が漏れた。

 

「あと、顎に負担が掛かるので顎関節症の原因にもなります。このまま今の吹き方を続けるとトランペットを吹くことすら出来なくなるかもしれません。リラックスして吹けるようになればタンキングの自由度が格段に上がるので、短期的にもメリットは大きいですよ」

 

 腕を組んで“うーん”と唸る加部先輩は決心が付いたように“よしっ”と言う。

 

「分かった。やってみるから教えて」

「はい。では••••••」

 

 ふと周囲からの視線に気付いた。教室にいる全員から好奇と感心が入り交じったかのような眼差しを向けられている。

 

「え••••••何、どしたの?」

「いや、聞いてはいたけど、やっぱ比企谷って経験者なんだなぁって。何かさっき優子に喧嘩売ってた時と雰囲気違うし」

 

 俺の疑問に答えたのは、アルトサックスを持った先輩だった。

 

「だから言ったじゃない。比企谷はあんな奴じゃないって」

 

 加部先輩が俺の代わりにどこか誇らしげに答える。田中先輩の言う通り、俺がいない間、彼女が部内で俺をフォローしてくれていた形跡を、その言葉の端々から感じられる。

 

 楽器の音が一つもない教室に扉を引く音が響いた。

 

「すまない、面談が長引いた。早速だが合奏練習を始めるぞ」

 

 コンクール期間中、もなかを指導する事となっている松本先生が現れ、教壇に立った。俺は加部先輩の練習を中断して、合奏の為に集まったもなかの輪から外れた。




次も短いので明日も更新します。

翌年に加部友恵の顎は••••••

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