響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~ 作:碧河 蒼空
うちの八幡は合奏でこそ本領を発揮するタイプ。
吹部の練習が終わりを迎え、もなかのメンバーも音楽室に集まる。窓から見える7月下旬の空はこの時間になっても尚、澄んだ青色を残していた。
小笠原先輩による号令が掛かると、部員達は自らの楽器を片付け始める。俺は一足先に床に敷かれた毛布の回収に取り掛かっていた。
「比企谷君、この後何か用事はありますか?」
音楽準備室へ運ぶために畳んだ毛布を重ねていると、川島に声を掛けられる。
「別に何もないけど」
「でしたら今日一緒に帰りましょう!」
笑みを深めた川島は両手の指を合わせて言った。
「それでは、緑も毛布を集めますね」
川島を始め、自分の楽器を片付けた一年生達が続々と毛布の片付けに混ざり始める。俺は毛布の山を一つ抱え、音楽準備室へと向かった。
音楽準備室に毛布を置き、廊下に出された音楽室の机を戻そうと再び廊下に足を運ぶ。机の纏められている所へ近付いたその時、今日の練習には参加していなかった中川先輩と、音楽室から廊下に出たばかりの滝先生に鉢合わせた。
「言われたもの書いてきました」
中川先輩は滝先生に何やら紙を差し出している。
「はい、確かに受け取りました。中川さん、お疲れ様でした」
窓から差し込む光が照らす中川先輩の顔はどこか不服そうに見えた。
••••••もしや滝先生が受け取ったあの紙は彼女の退部届なのではないか?
「中川先輩、その紙は何ですか?」
俺は直接中川先輩に尋ねた。俺の存在に気付いた彼女はこちらを小さく睨む。
「あんたには関係ないでしょ?」
俺の質問を取りつく島もない態度で冷たく突っぱねた。その頑なな態度が俺の最悪の予想に拍車を掛ける。
「••••••先輩、部活辞めるんですか?」
「はぁ?なんでそんな事になる訳?」
中川先輩は急に困惑した様子を見せた。
••••••おや?
「ぷ、あははははっ••••••!」
滝先生と中川先輩の向こう側から笑い声が飛んできた。そちらに焦点を合わせると、帰り支度を済ませ、楽器ケースを背負った田中先輩が腹を抱えた笑っている。
「あー、可笑しい。比企谷さっきのまだ真に受けてんだ」
この後、腹をよじらせている田中先輩によって二人にネタばらしをされた。
俺はその間あまりの居たたまれなさに音楽室へ逃げようとしたが、それも田中先輩に襟首を掴まれ阻止された。
「へぇ、比企谷そんなこと考えてたんだ。そんなに私のこと心配だった?」
中川先輩も俺をからかうように聞いてくる。
「あ~あ。さっきまで凄く比企谷に腹立ててたけど、何かもうどうでも良くなっちゃった」
そういった彼女の肩は緊張の意図が切れたように下がった。
「これはただの反省文です。比企谷君が心配されたような大事にはなっていませんので、ご安心ください」
滝先生が至って真面目な顔でそう補足してくる。その言葉に俺は、更に顔の熱が上がっていくのを感じる。
「それじゃあ、私は帰るね。これでも今日の練習休んでるわけだし。滝先生、あすか先輩、お疲れ様でした」
俺に背を向けて二人に挨拶をした後、中川先輩はこちらへと振り返った。俺に向けられた表情からはもう敵意を感じない。
「比企谷もまた明日」
そう告げて彼女は軽い足取りで去っていった。