響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~ 作:碧河 蒼空
「お守りですか?」
「そ。コンクールメンバーに私達が手作りして送るの」
一学期の全行程が終わり、夏休みに突入しようとも、俺の奉仕活動は続いている。
コンクール間近ということもあり、我が校の吹部は毎日のように練習が行われているが、部員でない俺には流石に何日か休みを与えられていた。
どうやら昨日、俺が休んでいた日におまもりの材料を、もなかのメンバーで買いに行ったらしい。
「今日、練習が終わったら福井ちゃんの家で作るんだけど、比企谷も手伝ってくれない?」
「いや、女子の家に行くのは流石に••••••」
「私は気にしないよ?」
トロンボーンの福井は俺が自宅に来ても気にしないと言った。
いや、そういう問題じゃないんですよ。思春期男子のああいったこういった問題がですねっ。
そもそも、そういう態度は男子を勘違いさせちゃうからやめようね!
「じゃあ、比企谷ん家でやるのはどうですか?」
加藤がおかしな提案をしやがった。
いや、どんな思考回路を巡らせたらそうなるんだよっ••••••。
「おー、ナイスアイディア!」
「それじゃあ、比企谷の妹に聞いてみますね」
そう言うと、加藤がスマートフォンで通話を始めた。
てか、何でお前が小町の連絡先知っている!?
「小町ちゃん大丈夫だって!」
予想通り、すんなり許可が下りたようだ。直後にポケットの中で震えるスマートフォンと、液晶に映るLINEの通知。
小町『断ったら小町しばらくお兄ちゃんと口利かないからね』
愛する妹により退路を絶たれた俺は、お守り作りの手伝いという残業が確定した。
練習後、チームもなかを引き連れて六地蔵駅から稲荷駅へ向かう。いつもなら一緒に帰るとしても川島一人だが、今は十人もの女子が俺の同行者として同じ車両に乗っていた。彼女たちがこれから我が家にやってくるかと思うと、今から胃が重い。僅か三駅を十分足らずの道のりではあるが、俺のメンタルは大きくゴリゴリと削られるのだった。
そんな中でも、小町は嬉々として家の掃除を済ませ、俺達の到着を待ちわびているであろう事は想像に容易い。
電車を降りた途端に襲い来る夏の熱さは俺の足を更に鈍らせた。
俺の後ろから聞こえてくる賑やかな声を可能な限り意識から外し、蝉の鳴き声に耳を傾けながら自宅までの慣れた道のりを歩く。
蝉の合唱に合わせ、脳内でユーフォを演奏する事でようやく女子陣の存在を忘れることに成功したが、すぐに自宅に到着すると、誰かが言った“ここが比企谷の家か~”という言葉によって現実に引き戻された。
「たでーまー」
家に入り奥へ声を掛けると、小町がバタバタと玄関までやってくる。
「おかえり!葉月さんいらっしゃい。中川さんと加部さんもお久し振りです」
「小町ちゃん、久し振り。お邪魔するね。あと、ごめんね。いきなりこんな大人数で押し掛けちゃって」
代表して加部先輩が小町に挨拶した。
「とんでもないです。お兄ちゃんがこんなに女の子を家に連れてくる日が来るなんて、小町感激です!」
もしこれが逆に、小町が男を家に連れてきた日には、Fate/ZER○のキャスターコンビの如き猟奇的なパッションをもって、そいつの体でユーフォニアムを作ってしまうかもしれない。
小町に彼氏なんてまだまだ早い。お兄ちゃんは許しませんよ!
「ほらっ、お兄ちゃんはボサッと突っ立ってないで、皆さんを中に案内する!」
小町の俺に対する声のトーンだけ明らかに低い••••••。
俺は靴を脱いで框を上がり、チームもなかをリビングへ先導した。
普段は最大でも四人と一匹しか入らないリビングにこれだけの人数が入ると、どうしても狭く感じる。普段は感じない香りが鼻腔をくすぐり、どうにも落ち着くことが出来なかった。
••••••彼女達が帰ったら換気をしないと。
お守りのデザインは既に決まっているらしい。手芸を趣味に持つという福井が記念すべき一個目を完成させた。
「はいっ、どうですか?」
出来上がったのはお菓子の最中をモチーフにしたお守り。真ん中には送る相手のイニシャルがあしらわれている。
素人目にはケチを付けるところが一つも見当たらない。実際、周りで見ていた者達は口々に彼女を称賛していた。
作り方の書かれた紙を渡された俺も、悪戦苦闘しながら福井に遅れて一個目を完成させる。最後に隠し要素として“大吉”と書かれた紙を折り畳んで中に仕込んだ。
A編成五十五人分を俺達十一人で作るわけなので、全員同じ個数を作るならば、あと四つを作る必要がある。
「にしても、俺が作ったのなんか貰って喜ぶ奴いるのかね••••••」
川島あたりは喜びそうだけどな。
俺が何気無く呟いた一言に、全員の視線が俺に集まった。全員、何言ってんだと目が語っている。
「そんなの嬉しいに決まってるじゃん」
加部先輩が呆れるように言ったのに合わせて、全員が頷いた。
気まずくなって視線を逸らした先では小町がニマニマと笑っていた。
俺は逃げるように作業へと戻るのだった。
黙々とお守りを作る俺に対し、女子達は和気藹々と作業をしている。
「何それっ、デカ!?」
中川先輩の手にある巨大なお守りを見て驚く森田先輩。
中川先輩は誰にあれを渡すつもりなのか?••••••と少し考えた所で、そんなの一人しかいないことに気付いた。
「おっ、比企谷もうそんなに出来たんだ」
加部先輩が横から俺の手元を覗き込む。
「今日は手伝ってくれてありがとう」
「いえ。にしても、何で急にお守りなんです?」
「••••••今、部の空気良くないじゃん?私達にも何か出来ること無いかなってね。ま、こんな事しか出来ないんだけどね」
加部先輩は自らの不甲斐なさを誤魔化すように笑った。
俺は止めていた作業を再開する。
「良いんじゃないんすか?お守り、貰ったら嬉しいんですよね?」
「••••••もしかして励ましてくれてる?」
「どうですかね?加部先輩が自分で言ってた事を言っただけです」
「むぅ。もっと素直になっても良いんじゃないかなっ?」
加部先輩は犬でも撫でるかの様に俺の頭をワシャワシャしてきた。
「ちょっ、何してんすかっ?」
「可愛くない後輩を可愛がってんの」
加部先輩のワシャワシャは、中川先輩の“二人とも手を動かして”の一言が入るまで続いた。
この前のアンケートを見ると、加部ちゃん先輩の顎は壊れない派が圧倒的に。
本作において、もなかのトランペットという理由で抜擢されたキャラではありますが、彼女愛されてるんですね。