響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~   作:碧河 蒼空

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楽器

 川島にLINEを送った所、ほどなくして返事が返ってきた。向こうさんは今しがた解散したようで、これから会えるようだ。俺と小町は川島と落ち合う事となっている公園の出口へ向かった。

 

 俺達が合流地点に着いて、しばらくすると川島がいつもの二人を引き連れてやって来た。

 

「比企谷君、小町ちゃん、お待たせしました」

「みどりさん、お疲れ様です!凄くかっこよかったです!」

 

 小町と川島がキャッキャッしてるのを尻目に、俺は残った二人に声を掛ける。

 

「そっちもお疲れ」

「うん。比企谷も、来てくれてありがと」

 

 加藤が俺に感謝の言葉を伝えた。今日は小町に着いてきただけなのだが、それは言わぬが花だろう。

 

「てか、あの子が比企谷の妹?」

「おう。目に入れても痛くない最愛の妹だ」

「え、シスコン?」

「千葉の兄妹なら普通だぞ」

「あはは••••••そうなんだ••••••」

 

 苦笑いする加藤の横では何とか前さんが視線を俺と小町の間で行き来させている。

 

「••••••本当に兄妹?」

 

 何とか前さんは思わず口から漏れたと言った感じだった。

 

「ほんと、自分でも小町が俺に似なくて良かったと思っている」

「それ自分で言っちゃうんだ••••••」

 

 何とか前さんにジト目を向けられていると、小町が加藤と何とか前さんにターゲットを変える。

 

「お二人も兄のクラスメイトなんですってね!初めまして、妹の小町です。兄がいつもお世話になってます」

 

 俺とは正反対のコミュニケーション力を発揮する小町は、物怖じする事無く二人に話しかけた。

 小町のターゲットが変わった事でフリーとなった川島へ声をかける。

 

「よう。川島もお疲れさん」

「はい!今日は見に来ていただき、ありがとうございます!」

「なに、今日は小町とデートだからな」

 

 俺と小町を通して千葉の兄妹に知見のある川島は微笑まし気に笑う。

 

「相変わらず仲が良いんですね。流石、千葉の兄妹です」

 

 やはり川島は分かっているな。流石、共に愛する妹を持つ同志。

 そういや、あの二人が一緒ということは、川島にはこの後予定があるのではないだろうか?

 

「このあと三人でどこか行くのか?悪かったな、寄り道させて」

「そんなこと無いです!せっかく来ていただいたのにご挨拶もしないわけにはいきません!」

 

 すると川島は妙案を閃いたとばかりに両手を合わせた。

 

「これから三人でご飯を食べに行くところだったのですが、比企谷君も一緒にどうです?」

 

 待て。女子三人の聖域に、腐った目の男子が混ざるなど、生態系への冒涜ではないか。川島は何とも思わないだろうが、他の二人は別だろう。”なに本当に着いて来てんの?”と空気読めない奴の烙印を押されかねない。

 

「いや、そっちはそっちで楽しめよ。俺は小町とーー」

「いいですねー!是非、ご一緒させてください!」

 

 俺が川島の誘いを断ろうとすると、小町は俺に最後まで言わせること無く、川島に返事をした。

 

 いや、お前二人と話してたんじゃないのかよ。

 

「加藤さんと黄前さんも良いですか?」

「勿論、良いよ!」

「まあ、良いんじゃない?」

 

 加藤と何とか前さんも拒否することは無かった。

 

「やったー!」

 

 何がそんなに嬉しいのか、小町は大袈裟に万歳をして喜びを露にしていた。

 

 

 

 

 

 

 宇治駅近くのファミレスに入った俺達は注文を済ませ、料理が運ばれてくるのを待っていた。

 ドリンクバーのコーヒーを、砂糖とミルクをこれでもかと投入して啜りながら、俺は四人の会話をBGMとして聞き流していた。

 

「葉月さんは普段なんの楽器をしてるんですか?」

 

 早くも小町は加藤達を名前呼びしている。

 

「ふっふーん。こう見えて私、チューバやってるんだ!」

 

 そう誇らしげに話す加藤。何がこう見えてなのだろうか。

 確かにチューバは大きいし重いし肺活量が必要性だが、小柄な女性にも素晴らしいチューバ奏者はいる。

 

「おおっ、格好いい!あの大きい楽器を操る葉月さん、マジリスペクトです!」

「いや~」

 

 何だ、このIQが低そうな会話は••••••。

 

「久美子さんはユーフォですよね!」

「そうだよ。小町ちゃんよく見てたね」

「実は、兄もユーフォ奏者なもので。ついつい視線が行っちゃったんですよ」

「へぇ」

 

 小町の余計な一言で何とか前さん始め、三人の視線が俺に集中した。

 

「なんだ、やっぱ吹奏楽やってたんじゃん。どうしてやめちゃったのさ?」

 

 以前、話をはぐらかされた加藤から無邪気な問いが飛んでくる。

 

「あー。そこは兄のデリケートな部分なので、そっとしておいていただけると••••••」

「そうなんだ••••••ごめんね、比企谷」

 

 加藤は罰が悪そうに俺に謝った。

 

「別に大した話じゃねぇよ」

 

 大した話じゃないと口では言いつつも、俺が続きを話す事はなかった。

 

「君、ユーフォやってたんだ」

 

 その声は頭上から降ってきた。

 通路側へ視線を上げると、北宇治の制服を着た女子生徒が立っている。緑色のリボンを見て、彼女が三年生であることが分かった。眼鏡の奥に覗く透き通るような青い瞳は俺の事を捕えていた。

 

「あすか先輩?」

 

 何とか前さんが驚いた声をあげる。

 

「お疲れ様です。あすか先輩もここでお昼ですか?」

 

 加藤が挨拶すると川島も座ったまま頭を下げた。三人ともこの先輩を知ってるという事は、彼女もまた吹奏楽部員なのだろうか。

 

「お疲れ~。そうだよ。あっちに春香と香織もいるわよ。それじゃあ君、隣失礼するね」

 

  あすか先輩と呼ばれたその人は、有無を言わさぬ動作で俺の隣に滑り込もうとしてきた。俺は咄嗟に小町の方へ詰め、物理的な距離を確保する。

 中学の頃の俺であれば、これだけの事でこの先輩にドギマギさせられていたかもしれないが、訓練されたぼっちとなった今の俺には通用しない。むしろ、その笑顔の裏にある面倒な予感さえも感じる。だから不用意に男子に近付いて顔を覗き込むのは止めていただきたい。心臓に悪いです、

 

「はじめまして~。田中あすか、察してるかもだけど吹部の三年だよ。低音のパートリーダーやってま~す」

 

 顔の横でヒラヒラと振られる手。……あ、これ、絶対に関わっちゃいけないタイプの人間だ。

 

「中学で何あったかは知らないけどさ、ここにいるみんな低音パートよ?友達と一緒ならはいりやすいんじゃない?」

「••••••そういうのじゃ無いんで」

 

 こいつらとは別に友達って訳ではないし、吹奏楽に限らず部活動自体するつもりがないのだ。

 

「ふーん••••••」

 

 田中先輩は真面目な顔になると俺の目をジーッと見つめた。なんだか、俺の事を見透かされているようで居心地の悪さを覚える。

 しばらくすると気が済んだのか、田中先輩は立ち上がった。

 

「ま、考えといてよ。いつでも歓迎するからさっ」

 

 去っていく田中先輩を目で追うと、少し離れた席に座った所でその姿はパーテーションの陰に隠れた。

 

「低音パートは人気無いからなぁ。これからあすか先輩と遭遇する度に勧誘されるかもね。まぁ比企谷も事故にあったと思って諦めて」

 

 何とか前さんのどこか悟ったような表情で発せられた助言に俺は辟易する。

 

「ただでさえ入学早々事故にあってんだ。これ以上は勘弁願いたいんだが••••••」

「••••••そういうリアクションに困るやつ止めてよ」

 

 ばつが悪そうに何とか前さんは抗議した。

 

「あはは••••••久美子もトロンボーン転向するはずが、あすか先輩に捕まっちゃったもんね」

「経験者は貴重ですからね。低音はあまりやりたがる人いませんから」

 

 人気の無い楽器は一度経験すると抜け出せなくなる。希望者が居なければ経験者にお願いという名目の、お前がやれば丸く収まるという同調圧力が発生するからだ。

 

「比企谷君はユーフォを始めた理由などあるんですか?」

 

 川島の問いに俺は渋い顔で答えた。

 

「うちは元々、小町がトランペットをしたいって言ったのが切っ掛けで俺も一緒に始めたんだが、親父のやつ小町には新品のトランペットを買ってやったのに、俺には知り合いに貰った薄汚れたものを渡しやがった。しかも、それがトランペットですらなくユーフォだったってわけ」

 

 “八幡のは大きくて立派だろ”とか抜かしやがった親父にも、当時そんな言葉に騙された俺にも腹立たしさを覚える。

 

「ま、今となってはユーフォ気に入ってるし、別に良いんだけどな」

 

 テーブルに料理が運ばれてきたので、この話は終わりとなった。

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