響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~ 作:碧河 蒼空
俺がユーフォニアムを始めた切っ掛けは、小学生の頃に小町がトランペットをやりたいと言い出した事だった。
親父からお下がりのユーフォを与えられた俺は教本を隅々まで読み込み、夢中で息を吹き込んでいた。当時からぼっちだった事もあり、時間は有り余っていた俺はメキメキと上達していった。
中学に上がると、おれは迷うこと無く吹奏楽部の門を叩いた。
当時、一学年上にサックスを華麗に操る男子の先輩がいた。彼は演奏もさることながら、常に女子に囲まれているようなリア充の権化だった。
……認めよう。当時の俺には邪な下心があった。楽器が上手ければ、俺もあっち側の人間になれるのではないかという、愚かな幻想だ。
顧問の先生は金管楽器経験者で、初めて専門的な指導を受けた俺の成長スピードは独学だった小学生の頃の比ではなかった。
だが、出る杭は打たれる。それがこの腐った社会の理だ。
『お前さぁ、調子のってね?俺次のコンクールが最後なんだわ。邪魔すんなよ』
誰もいない音楽準備室に二つ上のユーフォの先輩から呼び出された俺は、ドスの効いた声で引導を渡された。
その年、俺は部活中に手加減して演奏することを覚えた。その甲斐あって、先輩の思惑通りに俺はコンクールから落選する。予定調和という名の、最低の茶番劇だ。
二つ上の先輩が引退すると、上級生にユーフォ奏者がいなくなり、俺は憂い無くユーフォを吹けるようになった。
学年が上がり、顧問から指導も必要なくなった頃、俺は遂にコンクールメンバーに選ばれる。
楽器が違えば純粋に実量を比較できるものではないが、俺の演奏技術は入部当初あれだけ眩しいと感じていたサックスの先輩をも軽く凌駕していた。
ただ、それでも人は俺でなく先輩の回りに集まるのだ。それも当然。先輩にとってサックスの腕前なんて、彼の魅力を引き立てる数ある装飾品の一つに過ぎない。サックスを吹こうが吹くまいが、彼はモテる。そして俺は、ユーフォを吹こうが吹くまいが、いつまでもぼっちのままだ。
『ねえ、比企谷ってユーフォ上手だよね』
合奏以外、常に一人でユーフォを吹いていた俺に話しかけてきた女子がいた。折本かおり、俺と同学年のフーフォ奏者である。彼女もコンクールメンバーに選ばれており、俺に教えを乞いてきた。
俺は度々折本に演奏を教えるようになった。ただ笑顔でお礼を言われる、ただそれだけの事で胸が高鳴った。
当時の俺は単純なもので、その程度の優しさに絆され、恋に落ちた。
コンクールが終わった後、勇気を振り絞って折本を呼び出し告白したのだが••••••。
『あー••••••ごめんね。比企谷はそういうのじゃないんだ』
勘違いという名の猛毒に冒されていた俺は、見事に玉砕した。
そして翌日。俺の決死の告白は、部内の格好の笑い話として全方位に拡散されていた。身の程知らず、勘違い野郎、部員たちの嘲笑と蔑みの言葉は隠すこともなく俺の耳に届いた。
この出来事により俺は女性不信と、部活動始め集団に対する嫌悪感を持つようになったのだが、俺の居た中学では部活動への参加が強制であったため、俺は引退まで吹奏楽部を続けた。
三年生になり進路を考え始めた頃、親父が京都へ転勤するという話が舞い込んだ。俺は自身の黒歴史と共にある人間関係をリセットするために、中学卒業と共に京都へ移ることを決めたのだった。