響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~   作:碧河 蒼空

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エスケープ

「期間限定のマネージャーってどうゆうことなの??」

 

 合奏練習が終わり、各々がパート練習へと散っていく喧騒の中、加藤に詰め寄られる。

 

「生徒指導だとよ」

「••••••なにそれ?」

 

 ほんと、何なんだろうな?

 俺と加藤は二人して困惑していた。

 

 こいつらの青春が嘘であり悪でありご都合主義なのかしっかり確かめろ、ね••••••。

 そんなものがここで見つかるというのだろうか?

 

 俺は加藤の顔をじっと見つめて思考の海に沈んでいた。

 

「え?何、どうしたの?」

「••••••悪りぃ。何でもない」

 

 狼狽える加藤から音速で目を逸らす。

 女子をジッと見つめるとか、在らぬ容疑を掛けられかねないリスク行為だ。

 

「あの、比企谷君。本当によろしいのですか?」

 

 視界の端に、心配そうにこちらを見上げる川島が入り込む。

 

「別に入部する訳じゃない。先生も言った通り府大会までの腰掛けだ」

 

 別に川島が俺の事を気に掛ける必要はないし、俺もそんなこと求めてはいない。

 

「そんなこと言わないでさぁ、このまま入部しちゃいなよ。今ならまだコンクールメンバーに間に合うかもよ~?」

 

 背後から遠慮の無い言葉と共に肩を叩かれた。振り返ると、そこには宇治のファミレスで遭遇した先輩が獲物を狙うような笑みを浮かべて立っていた。

 

「やあ、昨日ぶりだね。副部長の田中だよ。あすか先輩って呼んでくれて構わないからね」

「はあ••••••」

 

 昨日も感じたが、この先輩は他者との距離感がバグっているのではないだろうか?

 彼女は鮮やかにその身を翻し、俺の前へと出る。

 

「それでどう?入部。低音パートリーダーとしても大歓迎よ?」

「こんな中途半端な時期に入った奴がコンクールメンバーに選ばれたら問題では?」

 

 田中先輩は面白い玩具を品定めするように目を細めた。

 

「ふ~ん。もう自分が入れば当然のようにメンバーに選ばれるつもりでいるんだ。大層な自信ね」

「••••••そうは言っていません。仮定の話です」

「そうなの?じゃあ、そういう事にしておこうかしら」

 

 田中先輩の射貫くような視線。

 まただ。この人のさもこちらを見透かしているかの様な目は苦手である。

 

「こら、あすか。比企谷君を困らせない!」

「やんっ」

 

 わざとらしい悲鳴を上げながら、田中先輩は新たに現れた女子生徒に首根っこを掴まれた。

 

「失礼しました。私は部長の小笠原です。事情は松本先生から聞きました。府大会までの間よろしくね」

 

 軽く会釈をした部長は真面目そうな雰囲気の人で、その佇まいは落ち着いている。

 

 よかった。横にいる副部長とは違い、部長はまともそうだ。

 

「えー。彼、貴重な低音経験者なんだよ?」

「だとしても決めるのは比企谷君自身でしょ」

 

 田中先輩のストッパーとなってくれている小笠原先輩への評価が俺の中でうなぎ登り。値幅はストップ高待ったなしである。

 

「比企谷君、あすかが迷惑を掛けたら言ってね。経験者に手伝ってもらえるのは心強いわ」

「はあ••••••」

 

 小笠原先輩は公的な挨拶を終えると少しだけ口調を崩した。きっとこちらが本来の小笠原先輩の話し方なのだろう。

 

 心強い、ね••••••。こちとら吹奏楽部でも三年間ほぼボッチで過ごしてきたのだ。他人の手伝いなんて高度な社会スキルを期待されても困る。いっそ俺の事なんてきれいさっぱり忘れ、勝手にやってて欲しい。

 てか、田中先輩が俺の素性をバラしたせいで俺の仕事が増えてしまったのではないか?きっと小笠原先輩の頭の中では俺に回す仕事の再調整が行われている事だろう。田中先輩とは違い、おかしな事は言われないであろう点は救いか。

 

「今後のお願いについては滝先生と相談して伝えるから、今日はひとまず練習を見学して部の雰囲気を感じてね」

「あ、それじゃあパート連は低音にしなよ。知ってる顔が多い方が良いんじゃない?」

 

 小笠原先輩に見学を指示されると、田中先輩が蜘蛛の巣に誘うような提案した。低音パートは川島を始め加藤や何とか前さんといった顔見知りの連中がいるのだが、田中先輩の存在が低音パートを近付きがたい場所へとしている。

 

「いえ。せっかくなので小笠原先輩の所へお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「えーっ!?」

 

 俺が低音パートを拒否したことに田中先輩は驚きの声を上げた。

 

「サックスパートにですか?構わないけど、友達と一緒じゃなくて良いの?」

「はい、是非お願いします」

 

 言葉とは裏腹に感情の無い声音で言う。

 

「分かったわ。楽器を持ってくるから少し待ってて」

 

 小笠原先輩がこの場を離れ、俺と低音パートの面々が残った。

 

「何でサックスパートなのよ」

 

 田中先輩は不満気に口を尖らせる。

 

「中学では嫌というほど低音をやってきたので。たまには別の視点から観察したいと思いまして。他意はありません」

「あえて他意は無いって言うあたり絶対他意あるやつじゃん」

 

 何とか前さんがまた余計な事を口にする。そんなんだから失言王とか言われるんだぞ。

 ••••••何だ失言王って?

 

「比企谷君、お待たせ。じゃあ行こうか」

 

 バリトンサックスを抱えた小笠原先輩が戻ってきた。未だ納得のいかない様子でこちらを睨む田中先輩を無視して、俺は小笠原先輩と共に安息の地であるサックスパートの練習場所へと移動した。

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