もしもfgoの杉谷善住坊がキヴォトスにいたら? 作:鈴橋鳴海
「んで、頼みごとってのはなんだい、調停委員会の作戦参謀殿?」
時は朝、日が登り始めたばかりの頃。
百花繚乱が拠点にしている屋敷に頭上にヘイローと呼ばれる天使の輪に似た物を浮かべている生徒──杉谷ゼンは胡座をかきながらの言葉とは裏腹に神妙な面持ちで対面の人物と向き合っていた。
視線を向けられている相手はお茶を啜りながら礼儀よく正座でいる人物もまた頭上にヘイローを浮かべている猫耳を生やした黒髪の生徒──桐生キキョウに投げ掛けられた言葉に眉を顰めながら視線をゼンに合わせた。
百花繚乱紛争調停委員会所属作戦参謀。
桐生キキョウの肩書きであり、杉谷ゼンに仕事の頼みをするために呼びつけた張本人。
「同僚ではないけれど、目上には敬語を使いなさい杉谷」
「おっと失礼しました、桐生キキョウ先輩殿?」
快活に笑いながら言葉を正したが、それでも馴れ馴れしさが抜けていない言い方にキキョウはため息をつき、茶碗を脇に置きながら本題に入った。
「狐坂ワカモが脱獄したという真偽の調査よ」
「……あの爆薬庫みてぇな暴れ狐が?」
敬語を忘れるほど驚きつつも緊張感を滲ませながら今度の依頼は厄介ごとであると感じ取った杉谷は顎に手を添えながら悩んだ。
『狐坂ワカモ』または厄災の狐と呼ばれる百鬼夜行連合学園きっての問題児。
詳しく知らないが停学処分を受けていることだけは知っていることと、学園内においてはトップクラスの実力者と言うことを聞き及んでいる。
潜伏、扇動の名手であり、ことゲリラ戦による破壊活動では右に出るものはいないと杉谷ゼンは考えている。
どこに居るかどころか、隠れ家も掴ませない相手を見つけるのは困難を極める上に不意打ちも上等な相手と戦闘になったら勝てる気がしない。
「なんともまぁ、やばい奴さんが動き始めたかもしれないってことか」
「停学中であっても百鬼夜行の生徒であることには変わらない、あくまでも事実確認だから接触して戦闘する必要はないわ」
「それなら連邦生徒会に聞いた方が早いんじゃない……ですか? わざわざ拙僧に仕事を出す必要も無いでしょう」
「電話越しではぐらかされるより直接見た方が確実でしょう?」
「……見た者が正直に話すとお思いで?」
「あら、貴女いいかげんな仕事をして小銭稼ぎする不良生徒だったの?」
「冗談だよ、だから目くじら立てるなよ先輩?」
「敬語忘れてるわよ」
「……目くじらを立てないでください先輩」
「いえ、私も言い過ぎたわ」
「おーこわっ」
軽口で冗談を言ったらおっかねえ顔で睨み付けてきたかと思いきや突然柔和な笑顔で謝罪したキキョウ。
杉谷は内心、掌で転がされ口では勝てないことを再度思い知った。
「まあ銃口を向き合わせなくても良いんなら引き受けますよ、おまんまの食い上げにならずに済むしな」
狙撃で撃ち抜ける自信はあっても別の攻め方で追い詰められるのがオチだしなという感想を内心に留め、出掛ける準備をするために荷物を纏め始める。
「待って、依頼両ぐらいは聞きなさい」
「必要ねえよ、お前さんは報酬を誤魔化したりさっ引くことはしないだろ?」
あっけらかんとした返答にキキョウはため息を吐き、半目になりながらゼンを見ていた。
脇に置いておいた狙撃銃を肩に担ぎ、編笠を被り直し、肩掛け布を左肩に引っかけ紐で縛りながら立ち上がった杉谷は縁側に向かって歩いて行った。
その後ろ姿を見ながらキキョウは違和感に気づきゼンに問いかけた。
「杉谷、いつもの銃はどうしたの?」
「ん? ああ、俺の火縄と普段使いはどっちも修理に出しちまった」
「そう、その銃は初めて使うものでしょう?」
「初めてって言えば初めてだな、M700って銃だと聞いたが使い方は教えて貰ったよ」
縁側の縁の地面に置いてあった草履の紐を結びながら銃の由来をキキョウに話した。
杉谷が担いでいた狙撃銃『M700』は猟銃としても使われる軍用銃であり、優れた信頼性もあって好んで使うスナイパーは数多くいる。
だが百鬼夜行学園の地元では扱う店自体が少なく、他学園からの輸入品となれば非公認の部からの購入が疑われる。
「ほら、多種多様な銃器を買い漁る物好きな爺様の店があるだろ?」
疑惑の眼差しに気づいたのか、弁明と違法性が無いことを告げたゼンにキキョウは納得したように険しい表情は和らいだ。
「ああ、あの雑火屋とこのお爺さん、それなりのお年なのに好奇心が凄いのね」
感心したような呆れたような曖昧な表情で銃の出所に思い至り、今回の依頼には支障がないことを確認し、杉谷を見送るために縁側に移った。
「あそこはギリギリ公認の店だろ? 色々が多すぎて足の踏み場もねぇけどよ」
「歩ける場所もないは大袈裟ね。 そう、あの店の物なら問題ないわ」
「おう、なら安心だ」
草履の紐を結び終え、屋敷を去るために門まで向かおうとしておもむろにキヴォトスの中心地にある建造物に目を向けた。
たとえどんなに離れようとも見失うなわないほど天空に存在する巨大なヘイローを幾重にも浮かべる塔──サンクトゥムタワーに向かうことになった杉谷ゼンは感慨深そうにしながら。
「ところでキキョウ先輩?」
「なに」
「地図、借りても言いかい?」
「良いわよ」
「悪い、助かるよ」
なんでも無いかのように振り向きながら振り返る杉谷に、分かっていたのか懐から連邦生徒会周辺の地図が書かれた紙とついでにある事情に苦言を呈した。
「いい加減、スマホでも買ったらどうなの? 未だに携帯なんて使ってる人はいないわ」
「そうは言うがな、弾代に銃の修繕代に家賃に生活費もろもろ差っ引いたら買い換える余裕無いんだよなぁ」
「宵越しの銭は持たない勢いで飲み食いするからでしょ」
「仕事終わりの数少ない贅沢に文句言われる筋合いは無いやい」
「そんなだから部員が入ってこないんでしょ、ねぇ狙撃研究部部長?」
「うぐぐっ」
貰った地図を握りしめながら悔しそうに呻く杉谷を尻目に、門まで追い越して来たキキョウは振り返った。
「仕事の時間よ、早めに片付けて」
「おう、サクッと終わらせて午後は食べ歩きと洒落込むか!」
短く、それ以外必要ないと言わんばかりに行動を促された杉谷は笑いながら門の外へと出る。
D.U.地区へと向かう後ろ姿を見ること無く屋敷へと戻るキキョウは百花繚乱が抱えている問題の多さに辟易したため息を吐きながらもやるべき仕事を片付けるべく執務室へと足を運んでいった。
杉谷ゼンも、桐生キキョウもまた知る由もない。
この仕事の依頼を境にキヴォトスの多くの事件に関わり解決する大人が百鬼夜行学園にも介入し、多くの生徒が変わっていくことを。