もしもfgoの杉谷善住坊がキヴォトスにいたら? 作:鈴橋鳴海
十字路での戦後処理を手伝いを終え、作業を見渡せる位置にいたカンナの隣に立ち、今のD.U.の状況をカンナから詳しく聞いた。
ゼンは陰鬱になりながらもある予想が確信に近いものに変わりつつあることに気付き、不馴れながらも敬語で自身が受け持った依頼を話した。
「弧坂ワカモの脱走、立場上詳しいことは言えませんが、貴女が予想している通りでしょう」
「そうですか、通りであの不良達の武器が良いと思いました」
「彼女が直接武器密輸入に関係なかったとしても、性格上利用するでしょうね」
「この規模の破壊活動では人手が入りますから、身近にいた人達を片っ端から扇動したのでしょう」
「暴れていた彼女達はただのヘルメット団とはわけが違います、そんな相手でもこの有り様にされたのですから、その手腕は舌を巻きますね」
「厄災狐は頭が良いですから、扇動も思考誘導もお手の物でしょう」
不良集団が意外にも指揮系統があったことから、より賢いヤツからの入れ知恵だと当たりを付けていたゼンは当たってほしくない予想が現実になったことで項垂れた。
先ほどまで暴れていた不良達の一部は狐坂ワカモに良いように利用された腕利きの傭兵だとゼンは感じ取り、公安局局長のカンナまで出張るのも納得できる出来事だったことと。
脱獄事件の真偽を確かめるだけでは終わらない仕事となり、午後の食べ歩き時間も潰れたことを。
そう考えていると、何かしら納得していなかったのか未だ此方を見ているカンナから尋問が来た。
「……やけにお詳しいですね、何かご関係がおありで?」
「知り合いではありませんが、拙僧より上の実力者と仕事でうっかり鉢合わせることもあるので、常々情報を仕入れてました」
「なるほど」
少し疑いの目を向けられたが、納得したように此方の視線を外すカンナ。
弧坂ワカモに関する情報は手に入れるだけでも一苦労する程に痕跡を消すのが上手く、無駄足をさせられ金をドブに捨てることも暫しある。
そんな相手からやっと掴んだものと言えば常に狐の仮面を付けている程度のもの。
「ヤツのやり口を知ってると言いましても、扇動された不良共……達から口を割らせたことを元にしたもので、殆ど推測です」
「推測……ですか」
「正直、当てになりませんよ?」
「……いえ、参考にはなりました」
結局のところ、仕事の対象が脱獄しているのは確定となったことで半分仕事を終わらせたとゼンは一時人心地付いたと思い、ため息をはいた。
が、カンナは躊躇いがちにあることを聞かれた。
「それと失礼ですが」
「なにか?」
「不馴れで喋り辛いのでしたら口調を崩してもらって構いません、堅苦し過ぎて此方まで肩が凝りそうです」
「……悪い、気を使わせちまったか」
端から見て不馴れな敬語を使っているのが分かっていたのだろう。
一応百花繚乱の作戦参謀からの仕事ということもあり雇い主に恥をかかせない程度には礼儀と敬語を守っていた。
だが逆に不快だったのだろう、ゼンはそう思いカンナに謝罪しようと編み傘を取り頭を下げようとした。
「いえ、此方は助けられた側ですからお気になさらず」
「それなら良いんだけどよ」
カンナの制止で頭を下げることは出来なかったが、やきもきした胸中になりながらも次は自然な敬語を意識しようとしたゼンだったが、余計にストレス貯めるだけになりそうだと思った。
そうして柄にもなく細かいことを気にしながら辺りを見渡し、目の前の惨状に眉をひそめた。
「しかしまぁ、ここいら一帯酷い有り様になっちまってるな」
「此処だけではありませんよ、連邦生徒会本部付近までは及んでいませんが危機的状況には変わりませんから」
「おいおい良いのかいそんな状況伝えて? 一応一般人なんだぜ?」
「構いません、本部まで行くのでしたら危険区域から速やかに避難できるよう、優先的に安全な道を教えますので」
「それもそうか、俺もこれ以上危ない橋を渡るのも厳しくなると思ってた」
狐坂ワカモの情報を少しでも集めたいが、ヘルメット団と傭兵が徒党を組んで暴れてる集団がここ以外にもまだ居る事を否定できない。
ならばいっそのこと本部まで移動して聞いた方が無難だろう。
そう判断したゼンはカンナに別れの旨を伝えた。
「これ以上は仕事の邪魔になるだろうから、そろそろ行くぜ」
「ええ、ご協力感謝します」
「お前さんも怪我せんようにな」
現場を今一度見渡し、カンナに背を向けて歩き出すゼンを見送ろうと後ろ姿を見ていた時、ゼンの編み傘の後ろ側に弾丸程の小さな穴が開いていたことに気がついた。
「杉谷」
「ん?」
それを見たカンナは呼び止め、振り返ったゼンに走りよりながら顔の有る部分の髪を撫で上げて確認していた。
ゼンの分けていた長い前髪に隠れていたが、右こめかみに血が滲んだ跡を見つけた。
「痛っつ」
「当たっていたのか」
「まあな、大した怪我じゃないから大丈夫だろ」
何ともないように言っているが、カンナは理解した。
あの数秒の狙撃戦が生命のやり取りに等しい危険な行為だった事と。
「使われた弾丸は違法弾薬か」
「かもしれないな、カンナほど俺は丈夫じゃないが、それでも一発で血が出る怪我をさせる弾丸は碌でもないだろうよ」
「消毒して絆創膏を貼りますので少々お待ちを」
「いや、助かるよ」
カンナは話を聞きながら近くにいたヴァルキューレの生徒に消毒液と絆創膏を持って来るよう指示した。
その間にも逮捕し拘束したヘルメット団が次々と護送車に入れられていく所が見える。
一部の不良は尚も抵抗していたが、多勢に無勢で力ずくで押し込まれていった。
「カンナ局長、持ってきました」
「ありがとう、作業の進捗はどうだ?」
「既に大多数の収監準備は完了しました、しかし」
「どうした、なにか不備が?」
「いえ、不備はないのですが、交戦した時より今の不良達の人数が少ないです」
「一部は逃走したか」
持ってきた生徒が挙げた報告にカンナは眉間に皺を寄せながら逃走した人物の割り出しを指示しようとしたが、ゼンは逃走した人物に心当たりがあった。
「さっき言ってたスナイパーなんじゃねえか? 撃って倒れたところを何人かの仲間が連れ出したの見たぜ」
「貴女と撃ち合った者ですか」
ゼンは誰がいないのかを話した後、近くにあった座るのに丁度いい大きさの瓦礫に座り治療を受ける姿勢をとった。
カンナは胸ポケットから取り出したハンカチに新品のペットボトルに入っていた水をかけて濡らし、ゼンのこめかみの怪我を拭いた。
軽い痛みを感じ顔を一瞬しかめるゼンだが、声一つあげることなく我慢した。
今度は消毒液をハンカチに濡らしもう一度怪我の部位を拭き、濡らしていないハンカチの部分を使って拭き乾かした後、絆創膏を張り付けた。
「これでいいでしょう」
「ありがとな、怪我の治療までしてくれて」
「気にしなくても構いません、怪我した民間人を助けるのは当たり前ですから」
ゆっくりと立ち上がり治療の礼を告げて軽く頭を下げるゼンに当然の事と答え敬礼するカンナ。
「拙僧と違ってお前さんは立派だなぁ、その心意気を見習わないとな」
「そうでもありませんよ、今起きている騒動を治めるのも私の仕事ですから」
「それでも十分立派だけどな」
カンナの心意気に感心しながら手を振り十字路を後にするゼンにカンナは今度こそ見送った。
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道中何事もなくゼンは目的地にたどり着き周囲を確認していた。
連邦生徒会本部の建物が確認できる距離でゼンは近くにあったビルの影に移動し片膝を立ててしゃがみ、左手で携帯を持ってキキョウに電話を掛けていた。
「キキョウ先輩、仕事の経過報告だ」
「その様子だと想定外の事ね」
「ああ、まず結果から言えば狐坂ワカモの脱獄はほぼ確定と言っていい」
「……目撃した訳ではなく、活動の痕跡を見つけた辺り?」
「そっ、D.U.地区で不良集団の破壊活動が起きてた」
杉谷は『厄災の狐』に関する過去の記録を一通り頭に入れていた為、ヤンキーの集団は特に扇動しやすいだろうと当たりを付けていた。
「規模が大きいし尾刃カンナがいる公安に喧嘩売れる度胸が連中にあるとは思えねえ、誰かが唆して暴れさせたんなら辻褄が合う」
「厄災の狐ならやりそうな手口ね、でも公安が苦戦するとは思えない、そっちは気にしなくてもいいわ」
キキョウは問題視していなかったが、ある不安を過った杉谷は続けて報告した。
「……その程度なら問題ないんだがな、不良集団に傭兵が混じってたのが事をややこしくしちまってる」
「傭兵?」
「ただの傭兵でもねえ、俺でも初めて見る腕利きのスナイパーがいた」
「……貴女が知らないだけ……というのは考えづらいけど、どうなの?」
「ああ、これでも同業者には目を光らせてるからな、三大校でも僻地の学校の実力者でも見たことない顔だ、消去法でブラックマーケットの傭兵だろう」
「ブラックマーケット……、超人と評された連邦生徒会会長が健在だった時でも完全に制圧することが不可能だった場所」
連邦生徒会会長、その影響力は大きく、今まさにキヴォトス各地で治安の悪化を引き起こしている要因とも言える。
彼女が健在で活動していた間はあのカイザーコーポレーションですら容易に動きを見せなかった程だ。
そんな超人がついぞブラックマーケットの制圧を完遂することが出来なかったあの地域の不気味さが際立つ。
「あそこは情報の伏魔殿でもあるからな、嘘の情報が飛び交うから身元の詳細を追いかけるのも難しいし、偽名が通称になってるのが当たり前な場所だ」
「……そういえば貴女、そこに潜伏してた事あったわね」
「まあな、酷い目に遭った思い出しか無かったけどな、そこで情報の価値ってのを身に染みて分かったからな」
過去の仕事を思い出して身震いするが、得たものもあったので複雑な心境で語る杉谷。
時間もないことで本題をさっさと済ますために気持ちを切り替え、報告を続ける。
「話が逸れちまったが、問題なのは足取りだ、狐坂ワカモは一度ブラックマーケットに足を運んでいる可能性が出たってことだ」
「あくまで可能性ね」
「ああ、物的証拠がないし、カンナの所の部隊に逮捕された傭兵が吐くとは思えねえから足取りに関しては後回しだな」
「そっちは私の方でやっておくから、杉谷は目的地まで移動して」
「そう言うと思って連邦生徒会本部の前まで来てるよ、これから聞きに行く所だ」
「仕事が速いのは良いことよ」
ただでさえ治安が悪化の一途を辿っている中、これ以上の時間の浪費は看過できないキキョウはある提案を告げる。
「もし相手が解答を控えるようだったら私の名前を使いなさい、連邦生徒会でも流石に百鬼夜行学園の風紀委員会に当たる百花繚乱に無下な真似は出来ないでしょうから」
あまり良い印象がない連邦生徒会だが、それでも訪問した相手をあしらうような真似はしないだろうと考えたものだが、杉谷は気分を害したのか、珍しく詰め寄るような反論をした。
「……一応言っておくけどな、これでも雇い主の情報は一切吐かないのが信条なんだが、それでもか?」
「それでもよ、貴女の信条より今後のキヴォトス全体の治安の方が重要よ」
「………」
キキョウの正論に沈黙した杉谷。
相手の仕事のやり方に口出しする事になったが、それでも無理矢理納得してもらうしかないとキキョウは緊張しながらも次の反論を待った。
「いくら貴女でも、ごねるようなら」
「いや悪かった、キキョウ先輩の言う通り、心置きなく名義を借りて聞きに行くよ」
しかし帰ってきたのはあっけらかんとした笑い声で返答する杉谷だった。
「……もっと反論があると思ったのだけど?」
「雇い主の意向を優先にするのは当たり前だろ? そうじゃなくても治安を乱す暴れ狐がいるなら尚更反対しねえよ」
あくまでも雇い主の身の安全のために秘密を守ろうとした杉谷に対して、自身の身の安全よりも大事な事を成すために危険を承知で仕事を優先するキキョウ。
キキョウの覚悟を知った杉谷は安堵したように笑ってしまい、納得してしまったのだ。
「雇用主の私が、今から狐坂ワカモと戦えって言われても?」
「それも仕事と割り切って働くだけさ」
「……」
当たり前のように返す杉谷に今度はキキョウが黙った。
無論本気で命令するわけ無いが、それでもやり通すと杉谷の強い意思を感じ取ったキキョウは意地悪な質問をした事に嫌悪してしまう。
その気持ちを隠すように、杉谷に目的を再確認した。
「もう一度言うわ、狐坂ワカモとは戦わなくていい、彼女の脱獄の事実確認を優先して」
「分かった」
知りたいことは全て知り、電話を切ろうとしたキキョウだが、あることに気づき礼を言うことにした。
「傭兵の件も気を付けるわ、百鬼夜行にも潜り込んでいないか心配したんでしょ?」
「ああ、地元の治安が悪化してんのは知ってるからな」
豪胆で自由人気質なのに変なところで気を回す変な人だとキキョウは思った。
「んじゃ次の報告は帰る前にする事になるな」
「ええ、問題が起こらない限りそうして」
「分かった、吉報と土産を期待していろよ」
報告を負えて通話を切り、携帯を制服の内側に仕舞って立ち上がった杉谷は連邦生徒会本部の建物に向かっていった。