もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】 作:CP厨の悪魔
――ブゥン!
チェンソーの
――誰かが胸の紐引っ張ったのか……?
意識がだんだんはっきり戻ってくる。しかし、誰が引っ張ったのだろうか。確か、最後は腕のチェンソーを巧みに操り、レゼを絡み取るとそのまま海へと飛び込んだはずだ。
――そーだ……オレ、レゼと海ン中に……
「――っは!!?」
「チェ、チェンソー様……」
隣にぐったりとした様子の――魔人形態に戻っているビームが寝ていた。
「……ありがとな、ビーム」
「……ギャウ……ぐぅー……ぐぅー……」
デンジの感謝の言葉に、弱々しくも、嬉しそうに返事するとそのまま眠りに落ちた。――少し明るくなってきただろうか。激闘の夜を終えて、ゆっくりと朝日が登ろうとしていた。
波がデンジを濡らす。夏の早朝の砂浜は少し冷たかった。少しだけ、デンジはぼーっと体育座りで海を眺めてから、ビームとは反対の方向――レゼの方へと目を向ける。
「……」
レゼはボム形態のまま、横たわっていた。――死んでいるのだろう、呼吸している様子は無い。
あとは公安に引き渡すだけだ。そうすればまた、一日三食食べられて、綺麗な布団と清潔な家での暮らしに戻れる。
……だがここでレゼの首のピンを抜けば、生きかえる。しかし、生き返ったレゼはそのまま逃げてしまうだろう――。
どちらかを、選ばなければならない。二つの道が、デンジの前にはあった。だが、デンジは迷う事なく、選んだ。
ピンを引き抜く。すると、ボムの黒々とした無機質な顔から、デンジのよく知る綺麗なレゼの顔が出てきた。……変身を解除した影響か、レゼは全裸になってしまい、デンジはドギマギしながらも自分のシャツを着せる。
レゼの可愛らしくも大人っぽさのある寝顔をまじまじと見る。いつもは元気で明るい女の子の顔しか知らないデンジからすれば新鮮だった。
「超クソ可愛い……」
自然と。そんな言葉が口から漏れる。しばしの間眺めた後に、デンジはまた海へと向き直った。
きっとしばらくもしないうちに目を覚ますだろう。
自分と同じタイプだから、分かる。
デンジは考える。脳内に浮かんだ、
――……レゼが目を覚ましたら聞いてみよう。
デンジはそう思いながら、朝日が昇る様子をじーっと見つめる。レゼが目を覚ますまで、ずっと。
先に触覚が戻った。ザリ……とした手触りに、身体中に砂利が張り付くような感覚を知った。
次に嗅覚が戻った、潮の香りがする。
次に聴覚が戻った、波の音がする。
最後に、視覚が戻った。天井はどこまでも遠い、早朝特有の青白い空が視界いっぱいに映った。少し、状態を起こしてみると、体育座りしているデンジと、その隣で呑気にサメの魔人が仰向けになって、眠っていた。
――蘇ったのか。
レゼは冷静に、今の状況を理解した。デンジに敗北した事、海中で溺死したこと、サメの魔人にここまで連れてこられたこと、そして――デンジが自分を生き返らせた事。
「信じられない……どうして私を甦らせたの……?」
心の底から、呆れた声が出た。公安に受け渡せば良かったのに――。
「……オレは素晴らしき日々を送っている」
「何回もボコボコにされて酷い目にあって死んでも、次の日ウマいモン食えりゃそれで帳消しにできる」
「でも……」
「ここでレゼを捕まえて公安に引き渡したら、なんか……魚の骨がノドに突っかかる気がする」
「素晴らしき日々を送っていても、時々ノドん奥がチクってなりゃあ最悪だ」
その考え方は、甘すぎる。
レゼはソ連のスパイで、デンジの心臓を奪えと命じられて潜入してきた。そのためのハニートラップ、そのための夜間の学校探検、そのための夜のプール……。
「今、私に殺されても同じこと言える?」
――そう、全ては罠なのだから。
レゼは拒絶のつもりで、言い放った。
「殺されるなら美人にってのが俺の座右の銘」
だが、デンジは違った。自身満々に、ドヤ顔で、「殺されてもいい」と、言った。
そんなデンジの上目遣いが、本当に馬鹿らしくって。
「っぷ、あはははははは!!!はああ〜〜あ〜……」
「もしかして……私がまだキミを本気で好きだと思っているの?」
「キミに会ってからの表情も、頬の赤らめも全部嘘だよ。訓練で身につけたもの」
全て打ち明けた。全部嘘だと、デンジが惚れるようにした演技であったと。
デンジは口をあんぐりと開けて、ショックを隠しきれなかった。だって、自分の事が好きだって思っていたから。今更、勘違いだって突きつけられるとは思っていなくて……。
そんなデンジをレゼは、冷酷な瞳で見下ろす。
「私は失敗した。……キミと戦うのに時間をかけすぎた」
「じゃあ、私は逃げるから」
これで、これで会うことはもう無いだろう。レゼはデンジに背中をむけて、立ち去ろうと歩き出した。
任務は失敗。このまま逃げても、ソ連が失敗したモルモットをわざわざ生かしておくとは思えない。これから一生、逃亡生活だろう。そして、自分一人で、割れた硝子が敷き詰められた道を、歩んで行く――
――しかしながら、デンジの心は揺らがなかった。
「一緒に逃げねぇ?」
「へ?」
――君は、優しい子だから。
「俺も戦えるから逃げれる確率あがるぜ」
――進む道がどんなに痛みに溢れていたとしても……
「私は沢山人を殺したよ?私を逃がすって事はデンジ君。人殺しに加担するって事になるけど、分かってる?」
「仕方なくねぇけど、仕方ねぇな。まだ俺ぁ好きだし」
「全部嘘だっつーけど、俺に泳ぎ方教えてくれたのはホントだろ?」
――その隣で、痛みを感じさせないぐらい明るく元気に歩いてくれる人が、きっといる。
「(…………なんて、馬鹿馬鹿しい…………)」
マキマに出会えて、毎日美味しい物が食べれて。今までとは想像も付かないぐらい、デンジにとっては素晴らしき人生だった。
けれど――
どんだけ、いい日々を送っていても偶にチクリと罪悪感に苛まれる人生なんて、嫌だ。
だから、デンジは選んだ。レゼと共に、歩む道を。
レゼと一緒なら、きっと今の素晴らしき人生よりも最高に楽しく生きていけるかもと思ったから。
レゼが歩む道が茨にまみれているのなら、デンジが代わりに歩いて見せると覚悟したから。
数秒間、沈黙が辺りを包む。そして、レゼがデンジの胸元へ飛び込んだ。
レゼはデンジを強く抱きしめ、放すと上目遣いをしながら、デンジの頬に触れ、肩に触れ、最後に首に手を回し――
ゴキっ!
「あっ!」
デンジは首の骨を折られて倒れ込んだ。そして、そのままレゼは振り返ることなく、その場から立ち去る。
「もう少し、賢くなった方がいいよ」
「ぐっ……」
――しかし、デンジは諦めない、諦めきれない。
「レゼ!!なあっレゼ!」
「今日の昼に……!あのカフェで待ってるから!!」
叫ぶ。レゼの姿が見えなくなろうとも、きっとレゼなら来てくれると信じて――。
「起きろビーム!!」
「う……うぇ……う〜〜ん……」
「手ェ動かねぇ!俺のエンジン吹かせ!!」
――今日の早川家は誰も居ない。アキは朝から台風の悪魔の事後処理に駆り出され、パワーは未だマキマに預けてから帰って来ていない。
デンジにとっては好都合な日だった。
封筒にパンパンに入った現金を、リュックサックに詰める。公安に入ってから、初めて貰ったまともな給料だ。
これから始まる逃避行には、欠かせないものになるだろうと、朝の早い段階から銀行で金を下ろし、準備していた。
デンジは家を出る。もう帰ってくるつもりは――無かった。
◇
「――デンジが引っ掛かったのはその部屋の一人だ」
「ソ連が国家に尽くす為に作った戦士――モルモットと呼ばれる連中だ」
アキは先日の、爆弾の悪魔の正体の話を岸辺から聞いていた。
……確かに、境遇は同情できる。幼い頃から感情を殺すように育てられ、ソ連の言いように使うように教育された事に関しては。
しかし、目の前で対魔2課の人達に野茂や副隊長を殺した事とは別だ。
自分が世話になった人を殺された怒りは、やるせない気持ちと綯い交ぜになって、複雑ではあったが――許すつもりは無かった。
「ま、デンジに関しては後でフォローしてやれ。女に慣れてないとこうなるのは目に見えていた」
「なんで俺がアイツの為に……」
「っ隊長!岸辺隊長!!!」
「なんだ?騒がしいな」
「こ、公安対魔3課の木村です!!至急お耳に入れて欲しいことが!」
慌てた様子で、木村と名乗る公安職員が岸辺とアキの元へ駆け寄ってきた。
「なんだ」
「東京本部に複数の悪魔出現!!現在、襲撃を受けています!!!」
「な、何!?」
「マキマはどうしてる」
信じ難い情報にアキは動揺するが、岸辺は冷静なままだった。
「それが……悪魔の仕業か東京本部が霧に覆われて何も……」
「っ!!急ぎましょう岸辺隊長!!このままじゃ公安が危ない!!」
霧と聞いて、岸辺が低い声で唸った。
「霧……複数の悪魔の同時出現……まさかあの野郎……」
「……?何を……」
「お前には関係ない。速攻で片付けるぞ」
二人は木村の運転する車に乗り込むと、公安へと急ぐ。
「――何をしでかすつもりだ……一ノ瀬……」
デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!