もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】 作:CP厨の悪魔
電車を待っていた。海岸でデンジと別れて、ただの気まぐれで募金した時に貰った赤いガーベラをくるくると、いじりながら。いまから、遠くの田舎に向かう。
遠く、遠くへ。人の少ない場所なら、マキマの監視もソ連の追っ手も暫くは追えないだろう。いつか来る終わりまで、ゆっくり過ごす――なんて、考えた。
だけど、ああ、何故だろう。この赤いガーベラを見ていると、あの大雨の日を思い出す。この花とは対象的な、白いガーベラを。
……あの時が、一番のチャンスのはずだったのに。
首のピンを引く手が止まってしまったのは、何故なんだろう。
思案する。思案して、思案して、思案し続けて。
電車が来るアナウンスが響いた。
定刻通りの列車が来るらしい――……。
レゼは歩く、いつもの道を。列車には乗らなかった――いや、乗れなかった。
自分の中で燻るこの想いに気付くと、もう止まることは出来ない。
デンジと出会った電話ボックスを通って、角を曲がり、階段を登る。あとは一本道、ちょっとした路地裏を通れば二道だ。
今まで、早足だったのが少しずつ速まり、小走りになって――
そして
◇
レゼが来た。デンジとの約束を守って、二道に。
デンジにとって、それは何よりも嬉しくて、幸せな事だった。
マスターはレゼがようやく来たことにホッと一息着きながら立ち上がった。
「レゼちゃん、遅刻だよ〜」
「ほらほら、デンジ君が待ってたみたいだから、謝っておくんだよ」
「――そういえば、少し倉庫に取りに行かなきゃ行けないものがあったな。取り入ってくるから、デンジ君のからのコップに水のおかわり、入れとくんだよ」
レゼは謝る暇を与えずにどこかへ消えてしまったマスターに対して、少し困惑したが、今はそれどころじゃなかった。
「……デンジ君ごめんね」
「なんの事だ?」
「色々な事だよ。酷いこと言ったし、酷いことも沢山しちゃった。それに……」
「キミの仲間も沢山殺したし……」
「嘘も沢山ついちゃったんだ。デンジ君、ホントはね――私も、学校行ったことなかったの」
贖罪だった。
ここに来るまでずっと、ずっと抱えていた罪悪感――その全てを打ち明けた。
「なーんだ!そんな事か〜!」
「……へ?」
「この前言ったろ?「仕方なく無いけど、仕方ねぇ」って」
「レゼがどんなに嘘を付いてたとしても、今、約束通りに来てくれてんだから、俺ぁ何も気にしない!」
「そんなことで俺がレゼを嫌いになるはずなんてないからさ」
デンジは元気に、明るく答えた。レゼの贖罪も、罪悪感も全て吹き飛ばすような笑顔で。
デンジは突き抜けた馬鹿だ。いま、この場で誰よりも。けれどそんなデンジにレゼは確かに、救われたのだった。
「なぁレゼ、あん時言っただろ。俺も戦えるから、2人なら逃げれる確率は上がるってよ」
唐突に、真面目な表情になったデンジはレゼに向き直った。
「……うん」
「2人で逃げるって事はよ、俺がレゼを守って、レゼが俺を守って、助け合って行くってことだろ?」
「…………うん」
「でもよぉ〜〜男ってのは好きな女を守るモンだって映画で見たんだ」
「レゼは、俺よりも強い。けど、一人で置いてかれるのは嫌だぜ」
「だからさ……何が言いたいかっつーと……」
「レゼは俺がずーっと、傍にいるから、レゼも俺ん近くに居てくれ」
「俺が、レゼを守るから」
そう言うと、デンジは持っていた花束をレゼに手渡した。
それは、誓いの言葉。嘘偽りのない、デンジの本心。ずっとずっと、デンジが頭の中で考えていた事の全てだった。
「デンジ君」
「うん?なんだよレゼ――」
長い前髪で隠れて、表情が見えなかったレゼがデンジに急接近する。花束を受け取って、デンジの手を握った。
レゼは熱の灯った瞳で、デンジと目を合わせる。
そして、そのまま顔を近付け――
「ふ、むぅ……ちゅ……る…ん」
「――ぷはっ。ねぇ、デンジ君。私ね、キミが好き」
「さっきの、答えなきゃね」
「私は、デンジ君から離れない。ずーっとずーっと」
「……ありがとう。そして、今までごめんね。嘘ばっかで」
「デンジ君はずっと、正直に好きだって言ってくれたのに、私は自分にも、キミにも嘘を付き続けてた」
「でも、それももう終わり!――逃げよう、一緒に。どこまでも」
それは、デンジの誓いの言葉に対する返答。
今まで、嘘で塗り固められてきた自分の仮面を剥がすように。心の底からの温かみを感じながら、レゼはデンジの胸に飛び込んだ。
舌を噛みちぎらない、愛の篭った深いキスとともにレゼは微笑む。
デンジは呆然としていたが、ハッ、と正気に戻った。
「………………おれ、すげ〜幸せだ」
「っぷ、なにその顔〜!うりうり〜彼女からの初キスだぞ〜?感想は無いんですか〜彼氏さん?」
「か、かれしっ……?……いや、その、唐突でよくからわかんなかったっていうか……」
「うーむ……まぁ良しとしましょう!今度はちゃんとすぐに、答えるように!」
「それ、すげ〜難しいような気ぃするぜ……」
デンジは、今までにない胸の温かみを感じていた。
好きな女の子とキスをして、好きな女の子の彼氏になれて、今も隣で笑っていている。昔からすれば、有り得ない事だった。けれど、今もまだ口に残っているレゼの唇の感覚は現実であるということをはっきりと示していた。
「(なぁ〜ポチタ、見てっか。オレ、今色んな夢が叶ってるんだぜ……)」
思い出すのは心臓にいる家族のこと。きっと、ポチタもデンジの胸に広がる温かみを感じているのだろう――そう思うと、嬉しさが止まらなくなったデンジであった。
「――お二人さん、少し話しても良いかな」
いつの間にか、倉庫から帰ってきたマスターがふたつの紙袋を片手にやってきた。
いつになく、真剣で、真面目な表情にデンジは困惑する。いつものマスターの雰囲気じゃなかった。
「僕ぁね、君らの事は深く詮索しないつもりさ」
「レゼちゃんの本当の上司のことも、デンジ君の胸にあるスターターのこともね」
「えっ……」
「……」
「君たちのこれからについての話にもなるから、しっかり聞いてほしいな」
「君たちが知って欲しい事は二つ」
「一つは僕が元内閣官房長官直属のデビルハンターだったってこと」
ぎゅ、とレゼはデンジの腕を強く掴んだ。デンジが隣を見ると、いつの間にか横に座っていたレゼの瞳が少し揺れている事に気付いた。
「もう一つは、いま現在、公安デビルハンター東京本部庁を悪魔に襲撃させていること」
「――これは最後の選択になる。二人とも、覚悟はいいね?」
デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!