もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】 作:CP厨の悪魔
――プルル……プルル……ガチャ
「私だ」
「――――」
「そうか。マキマが」
「――――――」
「……では、
――ガチャ
「こんな日が、来なければ良かったんだがな」
「美智子、宗介、愛してる」
「……ふふ、言葉にするのは歯痒いが――悪くない気分だ」
コーヒーを一口飲む。
「一ノ瀬……最後までお前の淹れるコーヒーは不味いままだったが……お前が選ぶ豆は全部最高に美味かった」
「あとは、頼んだ」
これは、とある男の独白。誰も聞くことのない、届くことの無い最期の言葉であった。
◇
マキマは沈黙を保っていた。思考が読めないその表情と、同心円状の瞳は、マキマの最大の力を封じた
「理解できませんね」
「あなたも、大隈総理も」
「褒めてあげますよ。えぇ、本当によくやってくれましたね」
「――ですが、その行動はあなたの言うところの"残機"が減っただけにすぎません」
「背後にいるデビルハンター約300名、東京本部、全国にいる公民直属のデビルハンター約700名……総勢1000名近くが、私の支配下にあります。もしかしたら、確認してないだけでもっといるかも」
「各都道府県の本部長は既に契約済みですよ」
「……なるほど、保険か。今回解除されたのは
屁理屈だ。しかし、それもまた契約としては成り立つ。理不尽な話だが、これが支配の悪魔としての権能。
能力自体は総理から聞かされていたが、実際に目の当たりにすると舌を巻くしかない。
「流石だね」
「しかし……よくやりますね。代理を立てて契約しているって思いませんでしたか?」
「彼は政治家だよ。言葉の使い方には長けているんだ。契約内容には「日本国の内閣総理大臣・大隈聡として、支配の悪魔・マキマと契約する」――としか言わなかったんだよ。大隈は」
「なるほど。代理や別の人物への引き継ぎはさせないため、ですか」
「悪魔と違って人間同士で何十年と戦ってきた相手さ。老獪だったろう?」
「えぇ、本当に」
会話が途切れる。マスターはコーヒーを一口飲んだ。
「さて、ここまで長々と話したが――君は僕に聞きたいことがあるんじゃないのかい?」
「例えば――デンジ君たちを、君の支配の力を持ってしても捕捉できなくなった事とか」
「……長々と話すつもりはないんですけどね」
「こうして口車に乗って、今もまだ均衡を保ってる時点でバレバレだよ」
「ゆっくりと話そうじゃないか。コーヒーもある」
マスターの提案に、少し黙るマキマ。数秒考え込んだ後に大きなため息をついて、カウンターに座った。
「喉が渇いているので、アイスコーヒーを」
「了解。キンキンに冷えているのを出してあげる」
注文に応えたマスターは、手際良くグラスに氷とコーヒーを注ぎ入れ、マキマに渡す。マキマは一口飲んで、喉を潤すと話を続けた。
「カラクリは空気の悪魔――ですか」
「いいや」
「では、あなたが持っている最強の切り札たる――監獄の悪魔の力でしょうか」
「いいや違うね、それは大隈に使ったよ。昔、契約の悪魔というのを捕まえてね。釈放を条件に今回の契約を履行してもらった」
「では……一体なにを……?」
マスターはふ、と笑いながらコーヒーを揺らす。湯気からはコーヒーの香ばしい匂いが立ち上っており、純粋にコーヒーを楽しんでいるようだった。
「――珈琲の悪魔って、知ってるかい?」
「見た目はただのコーヒー豆と変わらないんだけどね、挽く時だけ血のような赤い粉が出るんだ」
「でも、お湯を注ぐと不思議なことにただのコーヒーになってしまう」
「こいつを飲むと不思議な事に、どんな体臭を放ってようがコーヒーの良い香りがするようになるんだ」
「それに、毎日のように豆の種類が変わる。ある時はブルーマウンテン、ある時はキリマンジャロ、ある時は――ってね」
「人間には不味く感じられて、悪魔には美味しく感じるみたいでね」
「ただ、それだけの悪魔。――ああ、弱い。弱すぎるとも」
「でも悪魔は鼻が効くと、言うだろう?」
「――君の鼻を出し抜くにはもってこいだった」
マキマは手元のコーヒーを見るが、ただのコーヒーにしか見えない。だが、マスターが言うにはこれも珈琲の悪魔なのだろう。
「珈琲の悪魔に自我は無いよ。なんせ弱すぎるからね」
「契約ができない。ただ、こいつは流されるままさ」
「本体は既にレゼちゃんに預けた。取説も入れてるから、彼女なら上手く扱ってくれるはず」
「珈琲の悪魔は挽けば挽くほど、その分だけ増える」
「今、君が飲んでいるのはこの店に残る最後のコーヒーさ」
「僕を殺して奪えばいい――って考えたろ?対策済みだよ」
マスターは言い切ると、カップに入ったコーヒーを飲み干した。
「……さすがは「最優」と呼ばれただけはありますね。全てお見通しとは」
「ですが、お喋りはここまでです。苦手な人間と話すのはストレスが溜まりますから」
「そう?僕は楽しかったよ。お客さんと話すのはマスターとしての何よりの楽しみだからね」
マキマもまた、コーヒーを飲み終えるとカウンターを立ち二、三歩後ろへ下がった。
「君がなんでデンジ君を狙うのか知らないし、興味も無いけど――彼らの幸せは守られるべきものだ。愛の逃避行を邪魔するんじゃないよ」
「映画だとその逃避行は失敗すると、相場は決まってます。そちらの方が美しいですから」
「僕はね、一流のバッドエンドよりも三流のハッピーエンドの方が好きなんだ」
「それにこれは映画じゃない。現実だ。彼らの脚本は彼ら自身が紡ぐべきなんだよ」
「はぁ、つくづく理解できませんし、合いませんね」
「ハハッ、残念だよ」
マスターも立ち上がった。
マキマは既に構えていた。店の外にいるデビルハンター達を突入させるために。マキマは支配が出来ないとわかると、ここで問題の種を潰すためにマスターを殺す気でいる。
「足元を掬われた君に一つ忠告」
マスターはニヤリと、悪い笑顔を浮かべる。
「――足元注意」
マキマの足に、コツンと、感触があった。
そこには、ピンの抜かれた手榴弾が転がっていて――
――ドガアアアン!
決戦の合図は、爆発と共に。
「最優のデビルハンター」と、「支配の悪魔」の死闘が始まった。
デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!
ちなみに、珈琲の悪魔はちゃんとやれば人間にも美味しくふるまえるけど、マスターの腕はデビルハンター以外ポンコツなのでまずいまんまだぞ!
※コメント欄に未来の悪魔が多すぎる……