もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】 作:CP厨の悪魔
山形行きの電車を待っていた。つい数時間前はたった一人で待っていたが、今回は違う。隣にはデンジが居て、彼の腕にもたれ掛かるようにして待っている。
「なぁ、レゼ」
「なぁにデンジ君」
「あのマスターの事、最初から知ってたのか?」
「元ないかくかんぼーちょうかん?のデビルハンターって言った時にレゼだけ驚いてなかったようだからさ、気になって」
「うん、知ってたよ。だってあのマスター、国際的にも有名なデビルハンターだったから」
「そんなにすげー人だったのか……」
「すげー人なんですよ。きっと、マスターも私の正体知ってたんじゃないかな」
「んでも、マキマさんもすげー強い悪魔なんだろ?」
「まぁね。私の国――ソ連では最注意人物がマキマで、その次にリストアップされてるのがマスターなんだよ」
「へぇ〜〜」
そんなに強そうに見えなかったが、そこまでの人物だったとは知らずに素直に感心するデンジ。
「ならよぉ……あの二人が戦うなら……どっちが勝つんだ?」
「んー……正直に言うなら、分からない。マキマは支配の悪魔だって言うことが事前に知られていたからある程度の力の予想はされてた。けどマスターの方には確かな実績があったんだ」
「ジッセキ……?」
「簡単に言うと、その人がやったすごいこと。デンジ君は知らないだろうけど、"モスクワの赤い霧"や"ツァーリ消失事件"の裏にはマスターが居たって話があるんだ」
「……どれもよく分かんねぇけど……とにかく、マスターは相当凄いってのはわかった。だからその……」
「――大丈夫。きっとね」
ここまでしてくれた恩人に協力したい気持ちは2人にはあった。けれど、ここまでしてもらって、戻ればマスターの選択を不意にすることになってしまう。
「もうすぐ電車が来る訳だけど――デンジ君」
「まぁ……流石に気付いているぜ」
デンジは胸元の紐に手を掛け、レゼは首元のピンに指を掛けながら振り返った。
「――さっきから見てる君は、何者?」
「ドゥワッ!!何故ワガハイが見えテル!?!?」
そこには、幼い少女がいた。白く、長い髪を靡かせ、デンジとレゼの会話を聞き入っていた彼女はいきなり自分を認識してきた二人にびっくり仰天といった様子だった。
「いや〜車にいた時からなんか変な気配はいるなって思ってたんだ。でも、何も見えないから気のせいかなって」
「んでもさっき少し周りを見渡した時、何も無いところから出てくるお前を見てよぉ〜」
「公安からの追っ手かもしれないって思って、気付かないフリをしてたんだ」
「「俺(私)たちの邪魔するなら――」」
何も無い虚空から現れる人間なんていない。つまり、目の前の少女は悪魔で、ともすると追っ手かもしれなかった。少女の姿をしていても、悪魔は悪魔。殺すつもりで、変身しようとしたその時――
「グ、グゥァァァ!!!空気読メ!ワガハイ!ゴメン!ホントゴメン!二人ヲ邪魔しに来タンじゃナイ!」
「えぇ〜」
「コワ〜」
「夢中にナリすぎて透明化解除ナンテ……」
「トモカク!ワガハイは、オマエタチと契約しに来タ!」
「オマエタチの肺に住まセてもラウ変わりに、ワガハイはマキマの目とナル小動物や虫を喰ウ!」
慌てたように、まくし立てる少女に2人はドン引きしていた。
「ワガハイの名は――空気の悪魔!カフェ二道のマスターの親友ダ!」
デンジは何故か、既視感を覚えていた。どこかコイツと似たようなのを知っていると。
少し考えて、あぁ、と納得した。
――コイツ、パワーに似てる。
◇
――マキマは少し、苛立っていた。
足元に手榴弾を仕掛けられたから?違う。例え自分が食らっても適当な人間が割を食って死ぬだけ。すぐに傷は再生するし、意味は無い。
マスターや大隈に出し抜かれたから?違う。そこに関しては逆で、感心すらしていた。良くもまぁやってくれたな――と。
デンジに逃げられたから?……部分的にはあっているが少し違う。別に器に興味は無い。どんな感情を向けられようと、マキマにとってはどうでも良い事だから。
では、何に苛立っているのか。それは簡単、
マキマはチェンソーマンが好きだ。もはや、愛していると言っても過言では無い。どんなところが好きなのか?それは、
――だと、言うのに……!
「はぁ……」
爆発で店外へと吹き飛ばされたマキマを抱きとめるデビルハンター達の手を借りながら立ち上がると、爆煙で吹きすさぶ煙の向こう――二道を睨んだ。
「本当に無事とはね。便利な力だ」
「貴方のせいで一人、デビルハンターが死にましたが?」
「僕はさっき悪魔を討伐すると言ったはずだ。目の前にいる悪魔――支配の悪魔をね」
「悪魔を討伐する以上、犠牲は付き物だよ。君もデビルハンターの真似事をしていたのなら知っているはずだろう?」
皮肉を言ったつもりだったが、逆に返されてしまった。マスターの一言はいちいちマキマの癪に障る。
「マキマ、これは……?」
「天使君、六十年」
「へっ……?」
「聞こえなかった?六十年使用する武器をだして、今すぐ」
外に待機させていた天使の悪魔が近付いて来るや否や、乱暴に武器を用意させるように命じた。もはや、ここで殺しておかなければ夢も何も無いと考えたマキマは躊躇するつもりなど毛頭無い。
状況が分からないながらも、かつてないほどの威圧感に圧され、天使の悪魔は言われるがままに「六十年使用剣」をマキマに手渡した。そして、臨戦態勢に入る。狙うは心臓。一突きで決着をつけるべく、構えた。
「――羆、二十年恩赦。前足」
煙の向こう、二道の中からそんな声がマキマの耳に届いた瞬間――視界が巨大な獣の爪で埋め尽くされた。
凄まじい勢いで突き出されたそれは、マキマの剣を簡単に打ち砕き、周囲のデビルハンター数十名を巻き込んで吹き飛ばした。
「ごふっ……」
マキマの胸に爪が突き刺さる。心臓を一突きで射抜かれた。
「僕相手に様子見?良くないな、最初から切り札はガンガン使ってくものだよ」
「竜巻、四十年恩赦。周囲の市民を巻き込まないように囲め」
突如として、竜巻が二道とマキマの周辺に吹き荒れる。
おそらくこれは周辺住民が近づけないようにするための結界。そして、マキマに増援を呼ばせないための壁だろう――と、マキマは推察する。
「ああ、全く……面倒だ……」
「今のでいくつの残機が減ったのかな?」
「ま、気にする必要も無いか。何回か君を殺すだけでいい――」
二道からゆっくりと出てきたマスターは、周囲のデビルハンター達を見渡しながら、マキマを焚きつける。長い、黒いロングコートから一本の煙草を取り出し、火をつける。
「舌を狂わせるからこれは嫌いなんだけどね。仕事前はいつも吸うんだ。願掛けみたいなものさ」
煙草を吸って、煙を吐く。たゆたう煙はコーヒーの湯気のようで。
「――そして、ひと仕事終えて締めの一本。これが格別なんだ」
「それなら、残念でしたね」
マキマは瓦礫をはらいながら、立ち上がる。
「――それが、最後の一本ですよ」
援軍は、
デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!