もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】   作:CP厨の悪魔

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愛・花・コーヒー

 

 

「俺ぁ新幹線に乗ったら駅弁食うって決めてたんだ」

「へぇ〜駅弁。美味しそう……」

「この唐揚げウマいよ。レゼも食う?」

「食う!」

 デンジとレゼは二人で座って、駅弁を食べていた。デンジが、箸で掴んだ唐揚げをレゼの口元へ運んだ。

「あーん」

「……デンジ君。こういうこと、他の人にしたりするの?」

「あん?あー……ポチタ以外だとレゼが初めて、かも」

「へー……」

 誰かに食べ物をあげるという行為自体は、ポチタにしていた。だが、女性にそういうことをするのは初めてだった。……意識すると、なぜだか少し恥ずかしくなった。

 少し躊躇していると、デンジの持っている箸に感触があり――

「あっ!」

「ふむふむ……確かに美味しいね、この唐揚げ」

 食べられてしまった。レゼはからかうように笑いながら、味の感想を伝え、デンジは口をパクパクさせながら顔を赤くしている。

 とても尊い。素晴らしい光景だった。

 しかし――

「……ナンデ、ワガハイ真ん中?」

 中央に自分――空気の悪魔が入っていなければの話だったが。

「仕方ないでしょ〜?実体化したまんま電車に乗っちゃったんだから。いきなり透明化しちゃったら周りの人に悪魔だってバレちゃうよ?」

「ダカラって、真ん中はナイ!真ん中ハ!」

 邪魔したくない。その一心だった。

 しかし、強引にレゼに座らされ――レゼの妹として乗車させられた空気の悪魔は席にいる間ずっと不服そうな顔をしていた。

「ワザワザ、レゼと同じ髪色二してまで……」

 今の空気の悪魔の髪は、白雪のような白髪では無くレゼとお揃いの紺色の髪色になっており、髪型も似せていた。

「ね、お姉ちゃんって呼んで良いんだよ?()()ちゃん」

「コトワル!ワガハイ、姉!」

 空気の悪魔と呼ぶのもまた、面倒を起こしそうになるため、二人は彼女の事をエア、と呼ぶことにしていた。

「……それに、デンジ君と隣同士になるの……少し恥ずかしかったし」

「ん〜?なんかいったか?レゼ」

「いーや何も?」

「……ムフー」

 レゼの小さな独白に、駅弁を夢中で食べていたデンジが反応するが、なんでもないようにレゼは振舞った。しかし、ここは空気の悪魔。どんな小声でも聞き逃さない。満足気に頷く。

 ――「次は山形〜山形〜終点です」

 いつの間にか。窓の外を見れば、夕日が差し込んでいた。もうすぐ目的地に着くらしい――

 

「――……エ?」

 

 悪魔には、人間と契約している時細い、一本の線のようなものが繋がっている感覚がある。

 さっきまで、繋がっていたのは三本。

 マスターと、デンジと、レゼの分。

 けれど、今ついさっきそのうちの一本が――マスターとの契約が切れた。

 悪魔との契約が切れる場合、起こるパターンは三つ。

 一つは、契約者か悪魔のどちらかが一方的に契約を打ち切るパターン。もう一つは、契約している悪魔が死ぬパターン。そして、最後のひとつは、契約者が死ぬパターンだ。

 最初と、二つ目のパターンは有り得ない。だって、どちらとも()()しているから。マスターが一方的に打ち切ることはしないし、逆もまた然りだ。

 なら、考えられる可能性は必然的にたった一つに絞られる――。

 

「………………………………………………」

 

 空気の悪魔は押し黙る。ふと、デンジとレゼを見る。楽しそうで、幸せそうだ。……良い、空気が漂っている。

 ――この空気を壊したくない。

 ただ、ただ、空気の悪魔は見てるしかできない。ぽっかりと空いた空洞を自覚しながら。

 空気の悪魔は人が争う時に出る空気が嫌いだ。人が、悲しむ時に出る空気が嫌いだ。人が、悲しい涙を流している時の空気が嫌いだ。

 そして、何より嫌いなのは――誰か、大切な人が亡くなった時の空気が、最もきらいだった。

 

「バカ、ダゾ……マスター……」

「エアちゃんどうかした?浮かない顔しているけど」

「イ、イヤァ!?べッ別ニ〜?」

「なんか調子悪そうだぜ?腹でも壊したか〜?」

「ちょっとデンジ君!女の子なんだからそういう事言っちゃダメでしょ〜!」

「ッ……ア、アァ!全ク、デリカシーが無いナ!デンジは!」

「は〜??納得いかね〜」

 

 拗ねるデンジに、からかうレゼ。

 そう、これで良かったのだ。見たかった景色がここにある。

 ――でも。

「マスター……オマエも一緒じゃナキャイヤだったゾ……」

 そんな、空気の悪魔の呟きは誰の耳に届くこと無く、終点を告げるアナウンスと共に、掻き消えてしまった――。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――中国、とあるホテルにて。

「クァンシ様ぁ〜とっても良かったですぅ〜」

 銀髪に眼帯、鍛え抜かれた身体を惜しげも無く見せつけている――クァンシ。そして、抱きつくのはピンツィ。彼女が腰掛けるベットには他に三人の魔人が寝息を立てていいる。

 その場にいる女性――全員が全裸だった。予想をせずとも、彼女らは()()の後だと言うのが容易に分かる。

 ――プルル、プルル……

 クァンシの滞在しているホテルに備え付けられている電話が鳴った。代わり出ようとするピンツィを頬へのキスで静止し、受話器を取る

「私だ」

「――――――――」

「……何?」

「――――――――――――……」

「悪いが。その依頼は受けられない」

「――?――――――!!!」

「何を言おうと無駄だ。気に食わないなら刺客でもなんでも差し向けると良い――」

「お前達への返答は、刺客の首一つだけで済むかな?」

「………………」

「はぁ、切れたか」

 受話器の向こうでは彼女の上司――中国政府の上層部が何やら騒いでいたが、クァンシの一言で押し黙ってしまった。

 ――「最優」が死んだ。今こそ日本が保有する銃の悪魔の肉片を奪え――

 そんな、依頼だった。

「……はぁ。ピンツィ、皆を起こしてくれ」

「何か、あったんですか?」

「――少し、日本へ行かなくてはならない用事ができた」

「あぁ、それと荷物もまとめておいた方がいい。長期間滞在することにもなりそうだから」

 ピンツィは素直に頷くと、他の三人――ロン、コスモ、ツギハギを優しく起こして行く。

 そんな彼女たちを愛おしく思いながら見つつ、クァンシは大きなため息を一つ、ついた。

 

「一ノ瀬……お前が先だとは……」

 

 

 

 ――日本。デビルハンター共同墓地にて。

 岸辺は墓の前に立っていた。その墓には、一ノ瀬――マスターが生前愛用していたエプロンが掛けられている。

「案外早い到着だな。……お前の女たちは」

「本国が刺客をチラつかせてたものでな。慌てて来日する羽目になったよ。彼女たちは日本観光。浅草寺が見たいと騒いでてな。それに――」

 クァンシはいつものラフな格好のまま、手には花束を持って墓前に立った。

「こんな湿っぽい場所は、彼女たちに似合わない」

「……筋金入りだな、クァンシ」

「お前は随分老けたな、岸辺」

 軽妙なやり取り。だが、目の前の墓で眠る人間は公安時代に共に戦った戦友だ。漂う空気は、重い。

「コイツは、なんで死んだ」

「マキマの子飼いを逃がす為……いや、正確にはその子飼いとモルモットの駆け落ちを手助けして、マキマに殺された」

「……っく、ふふ……ははははは!!!!」

 クァンシは笑った。岸辺の返答を聞いて。

 おかしくてたまらないといった様子のクァンシに、岸辺は何も言わずに、スキットルから酒を呷る。

「――なぁ岸辺、一ノ瀬が監獄の悪魔と契約した時の対価について知ってるだろう?」

「……あぁ、お前と一ノ瀬、そして俺で雷の悪魔と戦ってた時に聞いたよ」

 ――監獄の悪魔、僕は……桐島ユカとの思い出、記憶全てを捧げる。だから、僕を()()()()()

 状況は絶体絶命だった。突如として都市部に現れた雷の悪魔は、その一切を焼き尽くしたのだった。"狂犬"岸辺も、"最古のデビルハンター"クァンシすらも、歯が立たなかった悪魔だ。

 一ノ瀬は状況の打開のために、その場で最善とする行動をした。幼なじみの思い出を全て契約に捧げたのだ。

 ――結果として、それは功を奏した。雷の悪魔は収監という形で退治され、世間に平和が戻った。

 その頃だろうか、一ノ瀬が「最優」と呼ばれだしたのは。二人はその呼び名が嫌いだった。一ノ瀬がそうやって賞賛される度、複雑な気持ちを抱いていた。

 今でも、戦いの記憶は脳裏にこびりついている。

「こいつは家族と同じ、もしくはそれ以上に大切な存在の思い出も、記憶も、全て消した。――私たちを助けるために、一般市民を守るために」

「一ノ瀬も、苦しんでた。……俺たちは良くも悪くも敵を作りすぎたからな……卑怯な奴ってのは、その人の大切な宝物を平気で踏みにじる」

 忌々しい記憶を思い出しているクァンシは、美麗に整った顔を歪ませる。岸辺はただ、無感情に返答するだけだった。

「ユカは殺された。太陽のように笑う彼女が、卑劣でクソッタレなヤクザ共に」

「お互いの気持ちは同じ方向を向いていた。後は伝えるだけのはず、だった」

「馬鹿だったよ、こいつは。本当に」

 花束を振り上げ、そのまま乱暴に墓に叩きつけようとして――辞めた。行く先を見失った手は、そのままそっと墓前に供えられる。

「あんなやつを好きになるなんて、ユカは見る目が無いな」

「――いっそのこと、私が奪ってしまえば良かったって、思ってるよ」

「……嘘だろ、それ。お前は二人の仲を応援してたじゃねぇか」

「……うるさい」

 岸辺の突っ込みに、無愛想に答えるクァンシ。そこには、先程まで漂っていた重い空気は無かった。

 無言で。岸辺はクァンシに煙草を一本差し出した。クァンシは何も言わずに、受け取る。

「火は?」

「あー……悪い。これをつけたのでガスが無くなっちまった」

「なら、それで良い」

 クァンシはそう言うと、岸辺の加えている煙草の先――まだ火がついてる部分を重ね合わせ、自分の煙草に煙を灯した。

 少しだけ、呆気にとられた様な表情になる岸辺だったが、「そういう所だよ……全く」という呟きと共に、紫煙を吐いた。

 

 岸辺はおもむろに胸元からメモを取りだし、クァンシに見せる。

「最近……悩みがあるんだ」

 『会話はマキマに聞かれている』

「……」

「なんだ……女の落とし方でも聞きたいのか?」

 『一ノ瀬が、マキマの力の底を暴いた』

「ジジィになってくると昔話が長くなっちまってなぁ」

「デビルハンターは老ける前に死ぬからな」

「さっさと引退しておけばいいのに」

 『こっちでも用意が進んでいる。マキマは次の総理大臣との契約の交渉が難航していて、監視の目も薄い』

「年金生活なんて信じらんねぇ。けど、もうそういう時期だからな」

 『一つ、策がある』

「今は悪魔より隠居してボケるのが一番怖いよ」

「時代を追えばボケはしない。ニュースとか新聞とか見続けろ。新しいものを常に味わえ」

 『俺と共に、戦ってくれ。また昔みたいに』

「……」

 岸辺の文字で書かれたそれを見るとクァンシは紫煙をくゆらせながら、ただじっと黙っていた。

 一度、煙を吐く。そして、吸う。少しばかり繰り返してから、口を開いた。

「ニュース……」

「朝のニュースに出ているレポーターにタイプの子がいて…………毎日そのニュース番組を見てたんだ」

「その子が出てる雑誌とかも買ったりしてた」

「私の日課は、そこで一ノ瀬の不味いコーヒーを飲みながら、それを見ることだった……」

「ある日、その子の年齢詐称が発覚して……」

「そこから芋づる式に昔の彼氏や悪行がテレビで流されるようになった」

「その子はそれでも朝のニュースに出続けたんだけど……」

「私はその番組を見なくなった」

 昔を思い出すように、遠い目をしながらクァンシは一拍置いた。岸辺はメモを見せ続けるだけだった。

「……その子が変わったんじゃなく、変わったのは私の脳みそ」

「この世をハッピーに生きるコツは無知の馬鹿で生きる事」

 ――交渉決裂だ。

 岸辺はここでクァンシを引き込むことが出来れば、今後の作戦の成功率も上がると考えていたが……おそらくこのクァンシの()()では、断られるだろうと、メモをポケットにしまった。

 クァンシは、まだ火が灯っている煙草を一ノ瀬の墓に備えた。まるで、線香のように。

 

「――けれど、私はまだ、その時飲んだまずいコーヒーの味を覚えている」

「……」

 

 クァンシは、そう言うと無言でその場を去ろうとした。

「どこにいくんだ」

「日本で暮らす用の家を探す。できるだけ広いところがいい」

「しばらく、中国には戻れそうにないからな」

「はぁ……クァンシ1人じゃ不動産は家を貸さないだろ。俺も着いていく」

「金はあるのか?」

「……私の荷物も、私の女たちの荷物もまとめて持ってきているよ」

「そうか」

 

 二人は、隣合って歩き、一ノ瀬の墓を後にする。

 墓には、花束と、まだ火が着いている煙草が二本、煙を立て昇っていた。




デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!

空気の悪魔と契約した時、一ノ瀬とユカは告白しそうな空気になっていたぞ!
空気の悪魔はそれを見るのに夢中になりすぎて、透明化を解除してしまい、それに気づいた一ノ瀬が慌てて告白を取りやめてしまって、ユカを守ろうとした――なんて一幕。
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