もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】 作:CP厨の悪魔
珍しく――悲しいことではあるが――昼時にお客さんがやってきた。金色の髪の毛と、血のような赤い目が特徴的だった。
――この子もなんだか……アイツに似ているような……
そう思いながらもコップに水を注いでお盆に載せていると、ちょうど遅れてきた看板娘――レゼが裏の扉からエプロンの紐を結びながらやってきた。
「遅刻した分給料から引いとくからね」
「ケチ〜」
「4番テーブルにお水ね」
「ケチケチケチケチ」
ケチもなにも、遅刻しなければいいだけの話なのだけなのに……と思いつつ読みかけの新聞を開いて、丸椅子に座りなおす。
未練がましくマスターを睨んでいたレゼだったが、客の前でこんな会話も悪いか、と考え4番テーブルに目線を向けると――
「って 早〜!?
えぇ〜!私より早く来たでしょ!?」
「まぁ……お礼貰いに来ただけだし」
――どうやら、このお店のお客では無くレゼへの客だったようだ。……自分の店のコーヒーの匂いが彼をここに誘ったのかと期待していたがそういう訳でもなかったようで、少し肩を落とした。
「一緒に飲みますか〜へいへいマスター!私と彼にコーヒーを!」
いつの間にか隣合って座っていたレゼと少年はマスターに対してまるで客のように、いや少年の方は正しく客ではあるがレゼはこのカフェの店員なのだから変なのだが、ともかく、コーヒーを図々しくも注文してきた。
「店員でしょ、アンタ」
「いいじゃないですか〜。モーニングにしか客なんて来ないんだし」
「もぉ〜〜〜〜〜〜」
マスターもこれには反論したいが、反論の余地がない……。
不承不承といった様子で立ち上がりコップを2つ、用意し、コーヒーを注ぎ淹れ二人に渡す。
マスターが丹精込めて作ったコーヒー、もしや彼ならば味がわかってくれるかもしれないと少し――期待した。しかし……
コーヒーを口に入れた少年の表情はみるみるうちに歪み、舌を出してあからさまに不味そうにしていた。そして、あまつさえ「ドブ味だよ!ドブ味!」などと言い放ったのだ。これにはマスターもさらに意気消沈であった。
(ま、まぁいいさ。彼は子ども。この味がわかるようになるまでには時間が掛かる)と、心の中で自分を慰める。
しかしながら――珍しい光景だとマスターは思った。あのレゼが男の子と仲睦まじく話している。元々人懐っこいというか、人の懐に入るのが上手い娘だと思っていたが、異性相手にあの距離、あの雰囲気とは……。
おそらくは例の「秘密の部屋」仕込みなのだろうが、外から見るとあれは相当な魔性だ――と、感じた。
多分、仕込みとかなにもなくてもいい勝負できるだろう。
「私の名前、レゼ。キミは?」
「デンジ」
「デンジ……デンジ君」
「デンジ君みたいな面白い人、はじめて」
――あっ、なんか一人の少年が恋に堕ちた気がする!
◇
あれから少年――デンジはよく二道に来るようになった。主にランチの時間帯だが、久方ぶりにできた常連にマスターも上機嫌で接客する。今日もまた、ランチを食べにデンジが二道へと訪れた。
「やァ、いらっしゃいデンジ君」
「うーっす。……レゼは?」
「多分遅刻じゃないかな?もう少ししたら来ると思うよ」
「またかよぉ!」
「またなんだよねーこれが」
困った困った、と苦笑しながらテーブル席に座るデンジに水を差し出しす。
「先に何か頼んどく?」
「んー、そーするわ……んん……そうだな……ポチタ、今日は何が食いたい?」
マスターの提案に頷いたデンジはメニューを開くと、胸元に向かって何か話しかける。
「……?ポチタって言うのは何かな」
「ん?あぁ〜ポチタって言うのは俺の……家族というか友だちというか……とにかく!大事だったヤツのことで今は俺ン胸の中にいるヤツのことなんだ」
「……なるほどね……いい話だ」
「だろぉ〜?んー……よし!決めた!今日はナポリタンに〜ピラフ!あとは……ティラミス!」
「はいはい。ちょっと待っててね」
――聞けば、デンジは16歳にして公安のデビルハンターをやっていると聞く。16歳でデビルハンター……その異常性を聞くとマスターはどうしてもやりきれない気持ちになる。天涯孤独で、ポチタなる人物(?)が恐らく唯一の肉親だったのだろうと、勝手に解釈していた。
「あー!デンジくんだ!」
「レゼちゃん」
「ハイハイ給料から引くんでしょ〜?ケチんぼ店長」
「アンタ店員でしょ……」
「悪ぃんだ〜!チコクってのはしちゃダメなんだぜ〜?」
「え~デンジ君までそっち側なの〜!?」
ガーン!といった効果音が聞こえてきそうな表情のレゼに、からかったかのように笑うデンジ。
騒がしくも、新しいランチタイムの日常に、マスターの心は満たされていた。
「思ったんだけど、デンジ君ってよく食べるよね〜」
「そうか?こんくらい普通だろ」
「いやいや普通はナポリタンかピラフのどっちかだから」
「えぇー!?勿体ねぇ!せっかく沢山食えるのに!」
「アハハハハ!なんじゃそりゃ!」
「――青春だねぇ」
今日もまた、カフェ「二道」のランチタイムはお洒落なジャズと共に、少年と少女は今日もまた楽しくも騒がしい時間が過ぎていった。
◇
デビルハンター東京本部、その六階。
マキマは、コーヒーの入ったカップを揺らしながら彼女の部屋で――ちょんまげ頭が特徴的な――早川アキの報告を聞いていた。
「鹿の悪魔が東京都練馬区に出現、三時二十三分頃に公安のデビルハンターによって討伐されました」
「――うん。ありがとう、アキくん。にしても鹿の悪魔か……なんだかジビエ系が食べたくなってくるね」
「そういえば……マキマさんが今日飲んでるコーヒー……いつものコーヒーと少し違う匂いしますね……」
「ん、よく気付いたね。そこの通りのカフェ、お店で使っているコーヒー豆を売っていてね」
一口コーヒーを含み、匂いを楽しむように嚥下すると、口元に微笑を浮かべ――
「二道って、カフェ。ここのコーヒー、結構美味しいんだ」
デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!