もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】 作:CP厨の悪魔
田舎の一幕
鈴虫の鳴る音が田んぼ中に響き渡るような、夜中。
真夏は過ぎたとはいえ、まだ少し蒸し暑い。そんな夜道をデンジは空気の悪魔と共に歩いていた。
今日は朝から晩まで、木こりの仕事をしていて、初めてポチタ以外のチェンソーでの作業だったが、結構上手くいって、現場の人にも筋が良いと褒められた。
「あ〜腹へったな〜!」
「ワガハイも〜」
「エアは虫とか動物食ってたじゃん。それでも腹へんのか?」
「オヤツ!ゴハン、別腹!」
「そーいうもんか」
「ソーイウモン!」
軽いやり取りをしつつ、デンジは田んぼの中にポツンと建つ家に着く。
ここは、山形に来た時に悪魔に襲われていた地主の使わなくなった家で、命の恩人だからとデンジとレゼのことは深く聞かずに、快く貸してくれた家だ。野宿も覚悟していた二人は最初は断ったものの、半ば強引に鍵を渡された。
「ただいま〜」
「おかえり!ご飯もうできるから手を洗って早くおいで〜」
家に入ると、レゼの声が厨房から聞こえてくる。味噌汁の匂いが、デンジの空腹を一層強くする。
「いただきまァ〜す!……うん、唐揚げ、ギョーザもウメェけど……やっぱ味噌汁になるんだよなァ……不思議だなァ……」
「ウメ……ウメ……」
手を洗い、うがいを済ませたデンジ達は味噌汁を片手にしみじみと語った。――美味い。レゼ曰く、赤味噌とのことだが、正直違いは分からない。
「バカ舌の癖に味がわかってそうな事言いますね〜?」
「へっ、色んなモン食ったからなぁ〜俺もオトナになったわけ」
「へー?じゃあ食後のコーヒーはブラックにしてみる?」
「……ミルクと砂糖を沢山欲しい、デス……」
「あはは!お子ちゃまだ〜」
先に食事を済ませていたレゼは、デンジとエアが二人して夕飯を食べている様をニコニコ笑いながら眺めていた。
傍から見れば幸せそうな家庭の一幕に見えるであろうそれは、穏やかな晴れの日を思わせる。
――心がポカポカと温まる感じがする。
レゼは無性にそんなことを想った。――けれど、同時に。
『こんな幸せは続かない』『いつか終わる日が来る』――と、心の中の誰かが釘を刺す。
レゼの目の前で広がる晴れの日は、いつか故郷で見たような寒く、薄暗いだけの景色に変わってしまうのだろうか。
蜘蛛の巣に囚われた蝶の様に、じわりじわりとナニカが自分を巻き取ろうとしていた。
食事を済ませた二人と共に、少しのんびりしていると不意にエアが口を開いた
「……ワガハイ、今日は夜の散歩とヤラに行ってクル」
「え〜いきなりだねぇ?」
「散歩かぁ……前はただ歩くのがなんで楽しいんだかって思ってたけど、今は違ぇな。隣に
「っ……全くデンジくんってば能天気だね」
「へっ、――なら、俺も一緒に行こうか?」
「ワガハイは今日一人のキブン〜」
「んだと生意気な」
――デンジは家族と言うと、エアとレゼを見比べるようにして笑った。
……そう、家族。そんなふうに自分を思ってくれているのは嬉しい。けれど、でも。
早川アキと、パワーという兄弟のような繋がりが。
だが、その関係を捨てさせてまでも私と共に来てくれている。それが、罪悪感となって、レゼの心の中に大きな痼として少しずつ溜まっている感じがした。
――レゼは、笑えている。けれど、笑っているようにしている。
……実の所、最近は眠れていない。ファンデーションなどで隈を隠しているが、ひとたび落としてしまえば薄い黒が目元に現れてしまう。
「ワガハイ、空気が読めるタイプのデキる
「はぁ〜?なんだそりゃ!こんなちっちゃいのにかぁ?」
「デンジ!身長の事を言うトハ!」
馬鹿にしたかのようにエアの頭をわしゃわしゃ撫で終えると、満足したのかデンジは風呂へと向かっていった。
見送る様に手を振り、片付けの準備をしようと立ち上がろうとした時、不意に、エアがレゼを呼び止めた。
「レゼ、チョット」
「どうしたの?」
「多くはキカナイ。ケド、一つ確かに言えるコトがアル。
――デンジは、決して"今"を後悔してナイゾ」
「――っ!」
「バカだけど、マヌケじゃナイ。今は無理デモ、甘えるくらいが丁度イイ」
エアは、うっすらと笑みを浮かべつつ、レゼを励ました。
「ワガハイもナニカしてあげたい。――ケド、今、レゼに必要なのはデンジ。それダケ」
「エアちゃんは……ほんとに……!」
「フフン、ワガハイデキる悪魔だからナ!」
得意げに笑うと、エアはすうっと、姿を消した。先程言っていた夜の散歩に出掛けるのだろう。
マスターといいエアといい、なんだってここまでお人好しなのか。
レゼの心はさっきよりも格段と、軽くなった。
きっと、今日はよく眠れる事だろう――。
◇
――夜、寝室にて。
煎餅布団二つをくっつけ、二人は真っ暗になった部屋で静かに眠気の波に身を任せていた。
「……ねぇ、デンジくん」
「お〜?」
少しふわふわした声で、デンジはレゼの方へ顔を向ける。
「私ね、いま、とーっても幸せ」
「……へへ、それは良かった。スゲー良かった」
「幸せすぎて死んじゃいそうなくらい、ね。
――さっきさ、デンジくんは私たちのことを家族って言ってたよね。なら、エアちゃんは私たちの娘になるのかな?」
「エッ……え〜アイツはどっちかってぇと妹だろ〜」
「あはは!そうかな?
……じゃあさ、私は?」
「そりゃあその……アレだよ……」
「ン〜?」
モニョモニョとデンジの口が忙しなく動き、耳まで真っ赤な顔を見て、レゼは満足気に笑顔を浮かべる。
「彼……女、デス……」
「ぷっ、ふふふ……そっか、そうだよね……デンジくんは彼氏で、私はその彼女。
――ねぇ、デンジくん。今までさ、そういうカップルっぽいこと、したこと無かったよね」
「そう……か?デートとか、色々したじゃん」
いつの間にか、レゼはデンジの布団に潜り込んでいて、蠱惑的な笑みが浮かんでいる。デンジはそんなレゼに、舌なめずりを幻視した。
「それはそうなんだけど、もっと別のこと。夜のこの時間になって、二人でシちゃうこと」
「ま、まさかセッ――」
デンジが直接的なことを言う前に、レゼの人差し指がその口を塞ぐ。
「――しよ?」
「しまァす!」
それは即決だった。
デンジも、
――夜は更けていく。綺麗な満月は、平等に照らす。
彼らの住む家の屋根には一人の少女が、上機嫌に鼻歌を奏でいて。
なんてことのない、田舎の一幕。
デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!