もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】 作:CP厨の悪魔
――数年前、辞表を提出した日、カフェ「二道」のマスターとなる前のことだ。
「辞める――というのは、どういうことかな」
「文字通りですよ。公安も辞めて、デビルハンターも辞めてカフェを開きます。丁度資金も集まりましたし、ここまで歳食ったらセカンドライフのことも考えなきゃ――」
「そういうことを聞いているんじゃない」
公安の最高幹部達に加え、内閣官房長官までもが彼を取り囲むように座り、苛立たしげに吐き捨てる。
彼の返事が相当気に食わない様子だった。
「何故、辞めるのかと聞いているんだ」
「君には次期東京本部の本部長のポストまで用意したというのに……」
「そうだとも。これは異例なことなんだよ?君のような叩き上げがここまで登り詰めるなんて……普通はありえない話なんだがね」
口々に。
彼を責め立てるように、非難するように取り囲む老人達は話す。
彼は優秀なデビルハンターだ。最強と謳われている彼の同期と違い、上層部に従順で印象も非常に良かった。彼の同期は暴走気味で、アル中で、バディ共々しょっちゅう問題を起こしていた為か、余計に期待されていたのであろう――その矢先の辞任騒動。上層部からすれば裏切りとも取れる宣言だった。「最優」。その二つ名は内閣府にも届いており、つい先日彼は内閣官房長官とも会食に行くほどで――ともかく、彼らは焦っていた。
ここで辞められてはあの男――岸辺が事実上のトップに成りかねない、と。
取り囲まれている彼は、ぐるりと老人連中を見渡し、呆れてため息を吐くと、ゆっくり口を開いた。
「……はぁ……何故も、なにもありませんよ。疲れたんです。何もかも馬鹿らしくなっちゃって」
「馬鹿らしい?だと?この日本を守る公安のデビルハンターがそれを言うのか!!?」
「ふざけるなよ!誇りはないのか貴様には!」
「なにが最優だ!最低のデビルハンターが!」
喚き散らかす老人達は口々に彼を非難していた。
しかし、非難の集中砲火の最中、彼はずっと空を向いていた。涙を堪えていた訳ではない。ただ、家族や友人、散っていった仲間たちを思い出していた。
「僕ぁね、ここに入って数十年間……銃の悪魔をこの手で殺すことだけを考えていたんです」
「そりゃァ公安には恩義を感じてますよ。ここまで戦えるようにしてくれたし、それなりにいい暮らしもさせてくれた。でもね」
「僕の心はあの日で止まってるんです」
「死んでいった他の仲間も、同じでした。だからこそ、生き残った僕は何がなんでも、奴を殺さなきゃ、そんな気持ちで今まで生きてきました」
「でも……いくらなんでも
彼が公安のトップ、そして官房長官に見せた資料――それは銃の悪魔に関するものであり、そこには彼の生き方を揺らがす、とある
「銃の悪魔はとっくの昔に討伐済み。今は各国列強が抑止力のために肉片を保管している――」
彼は心の底から軽蔑した表情で更に続ける。だが、彼に相対する者たちは弁明すらせず、ただ黙ったままであった。
「僕ぁね、東京本部の本部長になれたら本格的に銃の悪魔討伐のための陣頭指揮ができるって思ってたんです。だから、今までの無茶ぶりにも何とか応えてここまでやってきた」
「でも、これは無いでしょう……死んでった仲間たちは、僕の怒りは無駄ですか?」
ここで、ようやく内閣官房長官が口を開いた。
「……そんなことは無い。が――仮に戦争が起こった時、負けるのは銃の悪魔を呼べなかった方の国だ」
「はっ、くだらない。戦争で呼び出された銃の悪魔によって人々が殺されるのも――昔、銃の悪魔が現れたことによって人々が大量に死んでいくのも、同じでしょうに」
「だが、国は守られる」
「っ、そういうことじゃ!そういうことじゃないでしょう!僕は、僕たちは戦争に勝つために戦ったんじゃない!銃野郎を殺すために戦ったんだ!命を掛けたんだよ!」
「――僕の、これまでの人生は一体なんだったんだ………!」
怒りのままに、思いの丈をぶちまける。
血反吐を吐くように、誰かの言葉を代弁するように。
思い出すのは――家族との思い出、散っていった仲間たちの笑顔。
彼の、脳内の冷静になってる部分では内閣官房長官が言っていたことも理解はしている。一個人の感情と、国家間の諍いでは覆し難い壁があった。国防を担う者としては間違っては無い判断だ――。が、それでも。
背負ってきたものは、そんな
「――気持ちは、理解できる。私だって、いやここにいる者にだって親しい人が銃の悪魔の被害にあった人間は少なくない」
最初の糾弾する姿勢とは打って変わって、宥めるように話しかける内閣官房長官。
「えぇ――ですからもう、ここで話し合ったとて無駄でしょう。ヤツの脅威を見て尚利用しようとするあなたがたと、ヤツを何がなんでも殺したいと思っている僕、これじゃアナタたちとは上手くやって行ける自信が無い」
彼は、諦めたような、疲れたような笑いを顔面に貼り付けたまま返答した。
数秒間だけ、沈黙が場を包み込んだ。
内閣官房長官は顎に生えている髭を触りながら、無言でじっと目の前に立つ男をみると、纏う雰囲気を変えた。
「――大人しく辞めさせるとでも?君は優秀なデビルハンターだが、それと同時に危険人物でもある。ここで消される可能性は考えていないのか」
脅しだ。もはや説得は不可能と考えたのだろう、直球で、彼に選択を迫った。
命か、公安か。どちらかを選べという、二択を――。
「羆、蛸、狐、狗、空気、竜巻、罰、ナイフ、針」
「……?何をいきなり」
「僕が契約している悪魔たちの名前です。まだこれは一部にすぎないですけどね」
「僕を消すと言うならこの悪魔どもが暴れます。あの岸辺もこれには苦労するでしょう」
「……」
「僕ァね、コーヒーが好きなんです。いつか、カフェを開こうかなって思ってまして、ようやくその夢が叶えられそうで、年甲斐にもなくウキウキしています」
「…………お前が死ぬまで監視は付けるぞ」
「えぇ、構いませんとも。では、僕の辞職は認めてくれるということで」
「……あぁ、カフェでも定食屋でもなんでも開くといい」
吐き捨てるように内閣官房長官は辞表にサインするとそのまま立ち去ってしまった。それを見た彼は「今までありがとうございました」と、一言だけ残すと、あっさりと荷物を纏めて公安を去った。
まるで、綺麗さっぱり、そこから居なくなったかのように。
しかし、彼が去ったそのすぐ後に東京本部の六階――彼が元々座っていた場所に、ある女性が後任として就任することとなった。
彼女の名は――マキマ。
非常に優秀なデビルハンターとして、内閣府が直々に指名した。
――かくして、彼は公安を辞めカフェ「二道」を開くに至った。
◇
――今日も、二道にはデンジが来ていた。
いつものようにランチを頼み、いつものようにレゼと談笑していた。なぜだか、いつの間にか、隣合って座るのが当たり前のようになっている。
最近は学校に通ったことがないというデンジに、漢字の読み方をクイズ形式で教えていた。
「じゃじゃん!これは何とか読むでしょ〜!」
「んぁ〜?う〜ん……何とか……まる?」
「ふっふっふっ〜デンジ君にこれは難しすぎたかな〜?」
「いやっ!読める……読めるはず……!」
からかうように笑うレゼと、考え過ぎて今にも頭が爆発しそうなほど顔を真っ赤にさせるデンジ。
仲睦まじく会話する二人は傍から見ればまるでカップルのようで――そんな微笑ましい姿を見るのが、マスターの中で最近流行ってるマイブームだった。
「ヒントっ!ヒントくれっ!」
「ヒントは〜……えっちなこと?」
「どぅえっ!?!えっ、えっちな……?」
「ヒント
マスターはタジタジになっているデンジの顔と、頬を染めながら楽しそうにからかうレゼを見て、美味しそうにコーヒーを啜る。
――昔は色々あったけれど、今がこんなにも楽しく、平穏なのだから――
「――虫の一匹も、入らせる訳にはいかないよね」
「んんんん〜わかった!ばくがんだ!」
「ぶっぶ〜!正解は……睾丸でした〜!」
「こう、がん?なんて意味なんだ?」
「んふっふっ〜睾丸の名前の意味は〜金玉!」
「はぁぁぁ!!?また金玉ァ!?エロ女じゃん!エロ女!」
「っぷ、アハハハハ!女の子にひど〜い!」
「女ってのはどいつもこいつもこうなのかよ……」
「え〜?……私が、こんなことするのって……デンジ君だけだよ?」
「っ!?……ふ、ふ〜〜〜ん………(絶対に俺の事超好きじゃん………)」
デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!