もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】 作:CP厨の悪魔
「レゼとなら学校いきたかったかな。楽しそうだし」
――ある日のランチタイム。いつもの席でデンジは、自然と口から出た言葉に驚いていた。
「(何言ってんだオレは……)」
デンジの言葉を聞いたレゼは、にんまりと笑うとデンジの肩に手を回し、耳元で「行っちゃいますか、夜」と囁く。耳朶を打つその言葉は、声はデンジの身体を容易く絡め取ってしまう。
「夜?」
「一緒に、夜の学校探検しよ?」
また、あの上目遣いだ。死ぬほど可愛い、抗いがたい誘惑。マキマが頭を過ぎるものの、デンジは振り払えなかった。心はマキマのモノのはずのに、身体はかってにレゼとの夜の学校探検に行きたがっていた。
「します……」
絞り出したその返事は、酷く情けなかった。
「(あれっ、夜の学校探検って住居侵入罪じゃあ……んー……まぁ……若人の青春に水を差すのも……うーん……)」
新聞を読むふりをしてしっかり聞き耳を立てていたマスターは二人の夜の学校探検に引っ掛かりを覚えていた。流石に、聞こえていたのならここは止めるのが大人だ。……しかし、二人の境遇を考えればこんな機会も滅多にない。
借金まみれで、ろくな義務教育も受けられなかったデンジ。
閉鎖的な空間で、学校というより訓練所とも言えるような場所で育ってきたレゼ。
どちらも学校とはかけ離れた世界で生きていた筈だ。そりゃあ興味もあるし、行ってみたいだろう。
「(……ま、いいか)」
いつしか若者二人の関係の行く先が楽しみになってきたマスターにとって、別に気にする事でも無くなった。
仮に
そんなマスターの心境など知ってか知らずか、二人はどこを回ろうか、なんて会話に花を開かせている。
――今日もまた、穏やかな時間が二道に流れて行く。
「裏手ニ鼠……」
マスターは口ひげを少し撫でると、楽しく盛り上がる二人を尻目に路地裏へ繋がる裏口へ向かった。
裏口を出ると、そこはゴミ一つない綺麗な道が続いていて、ちょうどまっすぐ通ると駐車場に出る。マスターはいつもその駐車場に車を停めて、裏路地を通り、裏口からカフェ「二道」に出勤している。
マスターは辺りを見渡す。すると、換気扇の隙間にシッポのようなものが見えた。
「こいつか」
「ソイツ……」
「いやぁー困ったもんだね。飲食店なのに、鼠が入ろうとするなんて」
「行政に怒られちゃうし、最悪業務停止になっちゃうし……」
シッポを掴む。かなり大きく、まだ若い鼠の様だ。
「それに……」
力を込めて、思いっきり引き抜く。
じたばたと暴れる鼠。その目をじーっと、見つめる。
「……いや、気のせいかな。確かにこの鼠からなんか嫌な気配を感じたんだけど」
「タベテイイ?」
「良し」
「ヤッタ」
突如、空に現れた口に鼠を放り込む。口元から鼠のシッポが飛び出ていたが――麺でも啜るかのように最後まで飲み込むと、空間に溶け込むように口も、鼠も消えてしまった。
不意に、マスターは空を見渡す。
「――最近、カラスも増えてきたなぁ」
「生ゴミ漁られるのも面倒だし……どうしたものか」
「ねェねェ、アレもいい?タベテ、いい?」
「うーーん……怪しまれないようにねぇ?」
「ワカッテル!ワカッテル!」
「ならば良し」
マスターが虚空に向かって返答すると、少しの風が吹いた。すると、先程まで聞こえてきたカラスの鳴き声までもがピタリ、と止んでしまった。
「にしても……最近多いな。この辺に巣でも出来ちゃったかなァ」
ため息とともにぼやきつつ、また、店に戻る。
いつものことだった。小動物から虫に至るまで、空気の悪魔は人間以外の生命を察知する。見つける度にマスターはその虫や、鼠、猫、野良犬に至る全てを食わせていた。例外はない。それが、マスターと結んだ契約だからだ。
しかし、何故か最近は空気の悪魔が察知する頻度が高くなった。たしか
「(まさか、ね)」
手を洗い、コーヒーを一口飲んだマスターは嫌な想像が頭を過ぎる――が、きっとそれは偶然だろうと思うことにした。――が、
「(一応、打つべき手は打っておくかな)」
ありとあらゆる可能性が脳内に浮かんでは消え、浮かんでは消える。
――相手はおそらく公安か、ソ連か。はたまた……。
現役時代を思い出すようだった。昔も、ソ連やらアメリカやらヨーロッパ諸国を含めた諸外国から日本が保有する銃の悪魔の肉片を求めてやってくるエージェント相手に立ち回っていた。ただし、現役時代と違う所は守るものが銃の悪魔の肉片ではなく、カフェの看板娘と、最近来てくれるようになった常連客へと変わったことぐらいだろうか。
そう考えると、そんなに悪くない気分だな――と思うマスターであった。
「――ん……」
「これにも気付いちゃうか。岸辺隊長とはまた違ったタイプ、ちょっと面倒になりそう」
「最期に……あそこのコーヒーはもう一回飲んでおこうかな」
「もったいないなぁ。いいコーヒー淹れるのに」
「仕方ない。邪魔をするなら――」
「失礼します。少しお耳に入れておいて欲しいことが――……電話中でしたか?」
「ちょっと独り言。うるさかったかな?」
「い、いえ……」
「それよりも報告って?」
「あぁ、はい。先日のサムライソードの件ですが――」
◇
「お疲れ様でした〜!」
「お疲れ様〜。今日もありがとね」
夕方。レゼはバイトを切り上げ、マスターに元気よく挨拶をして二道から颯爽と去っていった。きっと、デンジと二人で夜の学校探検のために早く帰るのだろう――。
レゼが二道を出てすぐに、入れ替わるように客が入ってくる。この時間帯には珍しい――滅多に来ない夕方からの客だった。
「いらっしゃ――」
読んでいた本から顔を上げ、挨拶をしようとして――止まる。
「よぉ。相変わらず客は少なそうだな」
「懐かしい顔だ――岸辺君」
現最強のデビルハンターが、黒いコートを揺らして立っていた。
「注文は何にする?」
「酒」
「あのねぇ……ウチはカフェなの。居酒屋やBARじゃないんだから酒なんてあるわけないでしょ」
「なら適当なソフトドリンクで良い」
「え〜……コーヒーは頼まないの?」
「別に、コーヒーはここじゃないところで飲めるからいらねぇ」
暗にここのコーヒーは不味いって言ってるようなものだ。マスターは肩を落としながらも、カウンターに座る岸辺にコーラを渡した。
岸辺は受け取ったコーラを半分ほど飲み干すと、少しの間思案して、懐からおもむろに取り出したスキットルの蓋を開けて中の酒をコーラの入っているグラスに注ぎ出した。
「え〜割るの?」
「甘すぎる。酒がねぇと飲みきれん」
――別にいいけど、いいけども……。
目の前で行われる暴挙に少しドン引きすると共に、昔と変わらない岸辺を見て懐かしい気分になった。
「それにしても、なんでここに?昔話に花を咲かせに――なんて殊勝な性格じゃないでしょ?」
「お前の店にしては綺麗にしてあるんだな」
「……?まぁそりゃあ飲食店だから当然じゃん」
いまいち噛み合わない会話に疑問符が浮かぶ。岸辺は一体何を話したいのか、さっぱり分からない。
「わざわざ空気の悪魔に頼んで虫の一匹も入れないようにしてるんだから、そんじょそこらの飲食店には負けないぐらい綺麗なカフェだよ。ここは」
「……その言葉が聞けて安心した」
「お前の言う通り、昔話をしに来た訳じゃねぇ。なぁ――公安に戻るつもりはないか?」
「…………いきなりぶっ込むね。理由を聞いても?」
「殺したい悪魔がいる。だが、俺一人じゃどう足掻いても無理だ。最低でもお前かクァンシのどっちか、最高で両方ってとこだ」
岸辺の無表情からは何も読み取れない。若かった頃はもっと感情豊かだったが、今はもう、擦り切れてしまってるようだった。それだけ、公安の仕事が過酷なのだろう。だが、マスターの答えは決まっていた。
「申し訳ないけど、断る」
「はぁ、まぁ分かっちゃいたがな」
「君が酒に頼らなきゃやってられなくなったように、僕もこの店と、このコーヒーがなきゃ、僕は僕の人生に意味を見い出せなくなったのさ」
「……」
「僕ぁこの店を捨てるくらいなら死んだっていいよ」
数秒間、沈黙が流れる。
岸辺が大きなため息を一つ吐き、財布からソフトドリンク代を置くと、扉の方へと向かった。
「また来る」
「今度はコーヒーも頼んでってよ。昔より腕は格段に上がってるからさ」
岸辺は答えること無く、店を去っていった。
「珍しいですね。寄り道でカフェなんて」
「昔の知り合いに会いに行っただけだ」
「昔話をするために?そんなタマじゃないでしょ」
「いいや、勧誘だ。本気で誘ったんだがな」
「振られたんだ〜」
「……」
「無言で威圧してこないでくださいよ」
「ならお前は早く公安に来い」
「いや〜きな臭い話しか聞きませんし、第一オレ高校生なんで」
「最近の高校生ってのぁデビルハンターもやるんだな」
「金が無いもんで」
デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!
※投稿遅れてごめんなさい。これも労働の悪魔ってやつが悪いんです
※誤字脱字報告ありがとうございます。助かっています