もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】   作:CP厨の悪魔

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学校・鼠・支配

 

 

「デンジ君はさ、都会のネズミと田舎のネズミ、どっちがいい?」

 唐突に。窓を打つ大雨を見ながら、夜間の学校でデンジに問いかけた。

「なにそれ」

「イソップ寓話っていうお話の一つでね。田舎のネズミなら安全に暮らせるけど、食べられるご飯は少ない。でも、都会のネズミなら豪華な食事にありつけるけど、人や猫なんかの危険が沢山ある――だいたいこんなお話」

「――俺ぁ都会のネズミがいーな」

 ……想定外の答えに、何故かレゼの心が揺れた。

 ――デンジが田舎のネズミを選ぶと思っていたから?

 一週間、二道で交流してみて分かった事だがデンジはまともな環境で育てられていない。ご飯だっていつも三食食べれていたかも分からない。いつだって死の気配は隣にあった筈だ。

 「秘密の部屋」にいたかつての幼い自分のように。

 同情――いや、これは共感か?……分からない。今の自分をぐるぐると取り巻く感情に整理が追いつかない。

 知りたい、知りたくない。デンジがどう思っているのか――

「え〜〜!?田舎のネズミの方がいいよ〜平和が一番ですよ」

「都会の方がウマいモンあるし、楽しそうじゃん」

「キミは食えて楽しけりゃいいのか?」

「ああ」

 聞いてしまった。そして、少しデンジの事をわかってきた。

 そして、自分が何を思ったのかを。

「……」

「――じゃあ明日さ、近くでお祭りあるから一緒に行かない?きっと楽しいしおいしいよ」

 ――レゼは、デンジの瞳の奥にいる()()()()()()が、気に食わない。

 デンジに都会のネズミを教えてしまった、誰かが。

 

 

「……仕事終わってからなら、いーよ」

「いえーいやった!約束ね!」

 ――夜の学校、降りしきる雨の中。

 この空間、この時間だけはまるで世界に二人だけのようで――デンジはこのまま世界の時間が止まってしまえば良いのに、なんて思ったのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 カフェ二道のランチタイム。もはや日常とまで化した二人の会話をいつものように盗み聞きしたマスターは、二人がどうやら今日の花火大会にデートへ行くらしい――ということが分かった。

 つまり、これは……

「(こ、告白イベント!?!?)」

 気が早い。いやしかし最近の子は進んでると、お隣さんから聞いたことがある。いやしかし、こんな短期間で……?

 マスター、現役時代にも覚えがないほどの大混乱に陥る。

 ――夏の恋愛映画の定番だ!本当にあるなんて!

 年甲斐もなくウキウキしだした心をコーヒーで沈める。純粋に、応援したい。だが、ここで出張るのは違う。あくまで二人の会話、二人の世界だ。二人のどちらかが話しかけるまではただの置き物として、さも話なんか聞いていないような態度で新聞を読む。――もはや、新聞の文字など、読み終えているはずだが。

「やっぱりよぉ、お祭りと言ったら焼きそばにワタガシ、それとたこ焼き!!リンゴアメってのも美味しいらしいし……あ〜めちゃくちゃ楽しみだ……なぁ!レゼ!」

「アハハハ!!ほんっとうにデンジ君って食べることばっかしか考えてないの〜?もっとさぁ、私とのデートの方も楽しみにして欲しいな〜、なんて思っちゃったり」

「もちろん楽しみに決まってんじゃん!一気に何個も夢が叶っちまって、俺、いま超幸せ!!」

「……っ……それよりもデンジ君、知ってた?浴衣ってさ……穿いて無いんだってよ?」

「穿いてないって……ま、まさか……」

「下着。穿いてないんだって〜」

「エ、エ、エロ女ァ!!やっぱとんでもねぇエロ女!!」

「ッふ、アハハハハ!!!」

 いつものように、からかいあってじゃれ合う二人。しかし、昨日の夜の学校探検のおかげか、距離がグッと一気に近付いているようだった。最初の頃はレゼがボディタッチする度に動揺していたデンジも、今や自然に受け止めている。

 ――コーヒーを飲む手が止まらない。どうしよう

 いやはやしかし、自分の開いたカフェでこんな光景が見れるとは思わなかった。

 最初は、ただ趣味のコーヒーを仕事にしたいという欲望だけだったはずが、看板娘と気のいい常連客の何気ない、しかし甘酸っぱい関係性が築かれていく様を見れるようになるとは――

 銃の悪魔の真実を知り、家族の仇も討てず、生きる糧を失い、公安を辞めて、マスターをマスターたらしめていた趣味だけが残って、このまま何もしないでいるよりかはマシと考えて始めたこのカフェで、初めて報われたような、そんな気がした。

 

「じゃあお祭りで」

「おう、またな」

「絶対に遅刻しないように仕事ソッコーで終わらせっから!」

「うん!待ってるね」

 扉の前でそんな問答が行われた後、デンジは店を飛び出して行った。レゼはデンジが見えなくなるまで手を振ると、店内に戻り、店内の掃除をはじめた。

 ――ふむ、まるで新婚さんみたいだな!

 だから気が早い。何度気ぶれば気が済むのか。

 口にはしない、大人だから。しかし、そう思わざるを得ない程、二人のやり取りは初々しい。上機嫌で鼻歌を歌いながら皿を洗っていると、不意にレゼがこちらに向き直った。

「ねぇねぇマスター、この辺で良い花火の鑑賞スポット知りません〜?」

「最高の所を教えてあげるよ」

「ほんとに!?ありがとうマスター!」

 一つ、知ってる。二人っきりになれる最高の穴場スポットを。マスターはレゼの質問に即答し、地図も書いて渡した。

「彼と行くんだろう?」

「まぁ……はい。そうですね〜」

「なら私の妹がレゼちゃんぐらいの歳に着ていた浴衣あげるよ。どうせもう着る人はいないしさ」

「……」

「藤の花の浴衣でね、きっと似合うよ〜」

「ありが、とうございます……でも、今日着ていく服は決めちゃってるから……」

「おやそれは残念。……ふむ、なら……来年着て行くといい」

「えっ……」

「来年も、再来年も。綺麗な花火を見るならやっぱり浴衣じゃないとね!」

 ――来年も、再来年も、おそらくレゼにはやってこない。

 そう、わかっている筈なのに。

「そう、ですね……ありがとうございます……」

 受け取ってしまった、着れるかもわからないのに。

 紙袋から覗く鮮やかな藤の花は、レゼにとって、酷く眩しく見えた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 レゼは早めに上がらせた。

 デートだ、女の子には色々準備があるだろうというマスターの気遣いだった。レゼは頬を赤く染めながらも、急いで待ち合わせ場所へと向かって行った。

 もう、合流出来た頃合だろうか。なんにせよ、二人の結果が楽しみで仕方ないマスターは本日十五杯目のコーヒーに口を付けた。

 

 ――カラン、カラン。

 

 不意に、扉の鈴が鳴った。

 誰かが店内へと入ってきたのだろう。マスターは顔を上げる。

 

 そこには、

 赤毛を三つ編みにして、黒いコートに公安の制服を示すスーツ姿の、二重丸のような金色の瞳が特徴的な美しい若い女性が入ってきた。

 マスターは覚えていた。

 自分のコーヒーを美味しい、と飲んでくれた数少ない客の一人で、わざわざおかわりもしてくれた。

 また、自分でも飲みたいと言い出し、使用しているコーヒー豆まで買ってくれた唯一のお客様。そして――

 「悪魔!悪魔!コイツ!悪魔!」

「いらっしゃい。久しぶり、かな?」

「そうですね……だいたい一週間ぶりくらいでしょうか」

「確かに、そのくらいだったかな。来てくれて嬉しいよ」

「ふふ、私も暇が出来たらまた行きたいって思ってたので、丁度良かったです」

「美味しそうにウチのコーヒーを飲んでくれたもんね。さて、注文はどうしようか?」

「うーん……じゃあ、エスプレッソと、ティラミスを」

「了解。まぁ、ゆっくりしてね――マキマさん」

 

 ――数少ない、二道に訪れる悪魔のお客様だ。




デンレゼ最高!デンレゼ最高!デンレゼ最高!
オマエもデンレゼ最高と言いなさい!

※藤の浴衣の意味は、いつまでも美しく、恋に酔う、ずっと離れない、という意味があるそうです。
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