もしもカフェのマスターが元デビルハンターだったら【本編完結】   作:CP厨の悪魔

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支配・悪魔・コーヒー

 

 

 

 

 改めて思う。マキマという女性はきっと何しても画になるんだろうな――とマスターは、カウンターに座る彼女を見据える。

「――やっぱり、ここのコーヒーは美味しいですね」

「こんなこと言ってくれるのはマキマさんぐらいなものだよ」

 ほかの人と来たら、やれ美味しくないだの、ドブ味だの、ここじゃないところで飲むだの……あれ、何故か涙が滲んで……

「にしても……外は花火大会ですか」

「マキマさんは見にいかないのかい?」

「えぇ。人混みも多いですし、何より今日は天気が荒れそうですから」

「へぇ、そうだったんだ」

 ちなみに、この日は晴天。雲ひとつない夜空が広がり、打ち上がる花火はとても綺麗に映えるだろう――と、今朝見たニュースを思い出していた。

 マキマは口に微笑みを浮かべている。誰もが振り返ってしまうような魔性の微笑みだ。しかし、なんと形容すればいいのだろうか。向けられる視線には殺意が籠っていないはずなのに、首の裏筋にはナイフを突き立てられているような――

「公安はやっぱり忙しい?」

「そうですね……先日の悪魔騒ぎでもう手一杯です」

「あぁ……確か刀の悪魔だったっけ。大変だね」

「本当に。猫の手も借りたいぐらい」

 マキマは一口、コーヒーを口に含み、香りを楽しんでから飲み込む。一つ一つの動作を丁寧に行っているようだった。

「それで言うとその刀の悪魔騒ぎを収めたっていう公安のチェンソー君。彼すごいよねぇ……僕、ファンになっちゃった」

「……」

「悪魔についてはそこそこ詳しいつもりだったけど、あんな悪魔もいるんだね。なんだかヒーローみたいでかっこいい――」

「チェンソーは公安で飼っているただの悪魔です。ヒーローなんて格好良いものじゃありません」

「……そうかい」

「それに――あなたは()公安でしょう?踏み込み過ぎですよ」

「ははいやはや、少し話しすぎちゃったかな。気を悪くしたのならごめんよ」

 ――少しでも会話を盛り上げようとしたが、なんか怒られてしまった……。

 何かが気に障ったのだろう。素直に謝罪したマスターにマキマは何も言わず、ただじっと見つめるだけだった。しかし、すぐに興味を無くしたのか、ゆらゆらと湯気が揺れるコーヒーに目を落とした。

 マキマとは、公安時代に少しだけバディを組んでいた事がある。――もっとも、悪魔退治の任務ではなく、マスターの後任に座る彼女に業務を教えただけであったが。彼女はとても要領が良く、優秀で、二日ほどで業務について教え終えたかと思えば、翌日からフル稼働で問題なく引き継いでしまった。

 当時は良くこんな優秀なデビルハンターを引っ張って来たものだと感心したが、後日彼女の正体を――当時の官房長官にして現在の日本総理大臣に教えられた時は納得した。

 ――支配の悪魔、マキマ。

 全ての悪魔は名前を持って生まれてきて、その名前が恐れられれば恐れられているほど強い――それがこの世界の常識だ。そして、その常識からするならば支配の悪魔は恐ろしく強い。マスターは、その実力を見ることは無かったが、雰囲気と、纏う空気から理解した。

「そういえば、デンジ君がこのお店でお世話になっているとお聞きました。いつもありがとうございます」

「いいよいいよ〜彼、良い子だよ〜。僕が現役の頃だったら部下に欲しかったぐらいさ」

「そうですか、それは良かった。私としても、彼は重要な人材ですからね」

「デンジ君がそれ聞いたら喜ぶよ〜良く彼から君の名前を聞くからね。マキマさんが随分と慕われてるようで僕も嬉しいよ」

「あぁ、そうですか」

 ――良かった。もうさっきの不機嫌は無くなったようだ。

 マスターは胸の中でホッと一息ついた。

 悪魔とは言え、大事なお客様だ。機嫌を損ねてお店に来てくれなくなるのは避けたい。

「――マスターさんは田舎のネズミと都会のネズミ、どちらが良いですか?」

 唐突に。マキマはそんな質問を切り出した。

「確か……イソップ寓話だったかな。田舎のネズミは安全だけど美味しいものが少なくて、都会のネズミはその逆――みたいな話だったっけ」

「そうですね。その認識で大丈夫ですよ」

「なら僕は都会のネズミがいいな。――僕にとって美味しいものはコーヒーだから」

「へぇ……意外でした。てっきり田舎のネズミかと」

「まあ、安全に越したことはないよ。……あぁでも、都会のネズミを選ぶのは僕一人の場合だけかな。もし、相手がいて、それが自分にとって大事な人だったとして――その人が田舎のネズミを選んだのなら、僕も田舎のネズミを選ぶ」

「……コーヒーが飲めなくなるかもしれないのに?」

「大事な人と一緒にいれるなら、平気さ」

「……」

 本心だ。たとえ、コーヒーと店を捨てろと言われたら、断固として拒否の姿勢を取るが――コーヒーと店を捨てる代わりに、あの日居なくなった家族とまた暮らせるようになるのであればマスターは喜んで捨てるだろう。

「少し、興味深い話でした」

「そう?それなら良かった。ちなみにマキマさんはどっち?」

「私は田舎のネズミを選びます。私はどちらかと言うと平穏な方が好きなので」

「じゃあ、大事な人が都会のネズミを選んだとしたら?」

「……そう、ですね。んん……大事な人が出来た事が無いので……少し難しいです」

「ふむ……変なこと訊いちゃったかな」

「いえ、お気になさらず。先に話を振ったのは私ですから」

「そうかい」

 ――その後も、和やかに近況を報告しつつマキマは、コーヒーとティラミスをしっかり完食完飲すると、仕事が残っているからと言い、席を立った。

 

 

「ごちそうさまでした。それじゃ」

「わざわざありがとう。また来てよ」

「――えぇ、今度と言わず、明日にもまた来ちゃうかも知れません」

「お、嬉しいね。ならマキマさんのために美味しいコーヒー、用意しておくよ」

 

 

 

 

 「あいつ、イロイロ企んでる!」

「だろうねぇ……」

 「ハナシてる時、透明のワタシをニランデイタ!」

「レゼちゃんのこともあって、ウチを視察しに来たんだろうね」

「全く……」

「ウチの看板娘に何するつもりか知らないけれど――」

 外を見る。大輪の火の花が一つ、また一つと、大輪を咲かせて消える。きっと、あの大輪の花の元で、デンジとレゼは仲を深めているのだろう――

 

 

 「――若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね」

 

 




これは命令です。デンレゼの幸せを祈りなさい。

※誤字脱字報告ありがとうございます。いつも助かっています。
※明日は更新お休みさせていただきます。すみません
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