魔戦暦588年1月―第一回騎士団総会議
ガルデリア侵攻からおよそ六か月が経った588年1月、王都の会議場で今後の方策を巡る会議が行われていた。
窓の外には未だに焼け跡が広がり、街路には復興のための足場が雑然と組まれている。
空には煤が薄く浮かび、会議室の机に置かれた書類の端がわずかに灰で汚れていた。
「半年とはいえ、生き残った人々が暮らせる程度には復興した今、残った孤児たちをどうするかが重要です。ガルデリア国王」
暮らせる程度と言っても、未だまだ王国の元の風景を取り戻すには至らない。現状、瓦礫だらけで復興作業が行き届いていない場所もある状態だ。
「復興はまだ約15パーセントだ。ここから元の状態に戻すにはほぼ不可能だろう。それに加えて、他国からの支援も期待できないからな」
国王の声に、重い紙をめくる音が重なる。出席者の視線が資料に集まる。
「ガルデリア侵攻と同時期にまさか他国も魔王軍に侵攻されていたとは……」
小さな囁きが幾つか漏れ、窓の向こうの静けさと対照を成していた。
「魔王軍の第二の侵攻はまだ確認されていません。ですが、かつて抑止力となっていたその勇者が不在の今、いつ侵攻が起きてもおかしくありません」
その言葉に、会場の空気はさらに引き締まる。紙の束の上に指先が残る。
「考えるべきは、その対策だな。何よりも人材不足が非常に深刻だろう。戦うとき戦えるものが居なければ、それは魔王軍によるただの蹂躙になってしまう」
「ならばどうすれば……」
「今のことも考えるべきだが、長期的に見て国を存続させるための対策を立てることだな。何か案はあるか?ヘイネル」
ヘイネルは一瞬言葉を探し、目を伏せる。
「えっ……ぼ…僕ですか。そ…そうですね……戦える人材を育成するための教育機関とかですかね……」
「確かに。それはいい案だな。だが、育成するにあたり教育する側の人間を選出することだ」
「いい案を思い付きましたわ。いいかしら、ガルデリア王?」
「ああ」
セルフォリアが淡い微笑を浮かべて身を乗り出し、口を開いた。
「衣食住を保障する代わりに、戦う人材を育成するための魔術・剣術を学べる学校に通ってもらうというのはいかがかしら」
セルフォリアの声には確固たる自信があった。
「いい案だな」
全員が賛成した。
従来の学校は半壊し、代わりに孤児院が増えていた。孤児院は学校をそのまま利用した形で使われていた。
「最初に言ったの僕なのに……僕より賛同してもらってる……」
ヘイネルが小声で愚痴る。そのせいか、ヘイネルはセルフォリアの怒りに触れてしまった。
「何か言ったかしらヘイネル……あなたの案に補足してあげたのよ。感謝しなさい……!」
笑顔のまま声だけが怒っている。
「すみません……」
ヘイネルは普通にセルフォリアの怒りに押し負けたようだ。
「まぁまぁ良いではないか。では、話に戻るぞ。セルフォリアの言った案で行くが決めることが多いな……」
「先程言ったとおり、教育する側をどうするかだ…孤児関係なく出来れば子供たちが気負いなく通える学校を作りたい」
「魔術は私の協会で、剣術は他国に人員要請すれば良いじゃない」
セルフォリアがさも当たり前かのように呟いた。
「他国も攻められたんだぞ?」
ライオスの返答で部屋に一瞬の沈黙が落ちる。
「いや確か剣術の国ベインヘルド…あそこは魔王軍による侵攻がなかったはずだ」
国王の言う通り、剣術の国は侵攻を運良く回避していた。
「ライオスくん?早とちりは良くなくてよ。確かここに……」
セルフォリアは煽りながら一通の手紙を胸あたりから取り出す。
「うーんと。これは、ベインヘルドからの支援内容かしらねぇ」
ライオスに対し、憎たらしい笑顔を向ける。
「ま…まあ……それはいいが。どういう内容だ?」
「ガルデリア王国からの支援要請、人員要請があった場合それに応じるらしいわよ。仲良くした甲斐があったわね」
「分かった。要請しておく。人員はいいが、立地はどうする」
「瓦礫や死体が転がっているだけで、平地はたくさんあるわよ。焼け野原ばっかりだけどね」
「さすがにジョークが過ぎるぞ…」
「……大まかだがある程度決まったな。その他細かいところは、何度か会議と個々の話し合いで決めて実行することにしよう」
「皆、解散!」
国王はライオスに対して、耳打ちをする。
「ライオス…内通者の件について現在の状況を聞きたい。ジルガ総騎士団長から聞いてはいるがお前の調査結果と違うだろうからな」
「ガルデリア王、簡潔にいえば分からないとしか…怪しいと思われる者もおらず、尻尾はつかめません」
「お前もか……私も話を聞いてから何度か調査をしているがそれらしき痕跡すら見つからない。長い戦いになりそうだな……」
「何か見つけた場合、すぐに報告するように」
「分かりました!」
各人が書類をまとめ、重い扉を開けて外へ出ていく。会議室には紙の擦れる音だけが残った。
第一回騎士団総会議は幕を閉じ、教育機関設立の計画は静かに動き出した。