疑心貌 作:カカラカ
【アフレイド】泣き言、あるいは吐瀉
少しの物音で目が覚める。
いつもと変わらぬ景色、いつもと変わらぬ状態。
薄く横目で捉える料理中の妻の姿。
楽しむために寝たフリを続ける。
妻を見るたびに思い出す、僕らの出会いの日。
僕はあの日、太陽に焼かれた。
吸血鬼は日光で死ぬ、常識。ならば、日光を求める吸血鬼は何を考えるのか。
消化不良。
言葉が出なくなる。一人を嫌った末、笑われるのが日常になった。僕はそこにしか立場がない。
人で埋め尽くされた土俵に、僕だけが上がれない。
鬼を討伐。幽霊を退治。自分と違う、違うから異物だ。異物は撃退、敵は殲滅。
僕を形で例えるなら、それは丸だと思う。誰に対しても優しく接して、誰もが手のひらで遊ぶことができる。社会は四角でできてるのに、僕は完璧な四角にはなれない。
まるで質の悪いハリボテ。まともな人間は死骸を好まないように、人間モドキの僕を好むやつは居なかった。
今日はありがとう、楽しかった
途中で失礼なこと言ったかも、ごめんね
また遊ぼう、都合が合えば
──飲み込む。
それは辛いな
なんにも悪くないよ
そいつがおかしいだけだから
──飲み込む。
家が綺麗になっててびっくりしたよ
こんど姉ちゃん連れてくから
飯でも食べに行こう
──飲み込む。
気持ち悪いもの全て。そしたら真人間だから、僕は四角になれるから。
ひ、久しぶり、覚えてる?
誰って、ほら、放課後ゲーセンとか行ってた
そうそう、それ僕だよ
そっちはお嫁さん? い、いつの間に結婚してたの
なんで嫌そうな顔すんだよ、ははっこのやろ
……えっ、ああ、うん。それじゃあ
僕の頭は出来がいいらしい。嫌なことはすぐに忘れるから。簡単に、四角になれたって思えるから。
いや、四角ってなんだろ、僕、なに言ってんだろう。
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できない事が多かった。それは才能のせいだ。恵まれた知性を、身体を作らなかった親のせいだ。
僕は僕のまま生きていたいのに。みんなはそうしてるのに、僕だけ、僕だけができない。僕は正気じゃない。
言葉を選ぶとか、足並みを揃えるとか、そんな話じゃなくて。僕だけがズレてる。ずっと間違ってる。
正解不正解を学び続ける教育を受けて、僕はずっと不正解だった。正解を選べない、僕は正解を理解できていなかったみたいだ。
全てできない、生まれながらに人生は決まるから。
うらやましいな。夢を見て、そして叶える。努力で人は何でもできる。
でもこれは努力したやつしか言わない、いや努力できるやつしか言わない。だから正しい。やらない僕の言葉に価値はない。できない僕は正気じゃない。
人間は可能性の塊、頑張ることで星をも手にする。
人間は限界が存在する、努力じゃ届かない頂きがある。
底を知ったから這い上がれた。限界を感じたから手段を変えた。
考えるだけで吐きそうだ。羨ましい、羨ましい、僕には何も無いのに。
家族がいじめられたから仕返しのために労力を費やしたって。いいな、いいな、僕の家族もいじめられてよ。
信頼してた人に裏切られて人生どん底だって。僕も味わえるなら味わいたいな。そこから這い上がるんでしょ。
親友が死んだからそれを活力に努力したんだって、羨ましいな。僕の友達も誰か死なないかな。
そうしたら僕も変われるのかな。頑張れるのかな。
人は僕を理解できないだろう。でも僕もこれ以外の考えを理解できないから同類だ、僕たちは何も変わらない。
憤慨か不愉快を露わに言葉を返す人と、評論家気取りの俯瞰してる第三者。僕を何かに分類したがるんだ、じゃなきゃ安心できないから。人を見つめられないから。
吐き気。不愉快だ。例え指先一つでも気に食わなければ、それを含む全てを否定しなければ気がすまない。自分を守れない。僕は正気だと思うか?
泣き言、あるいは吐瀉。みんな抱えてる喉元の異物。
自分の正気を壊すもの。自分の正常を守れないもの。形が悪くて吐き出すも戻すも気持ち悪い、あるだけで不安になる。
消し去るには、ただそこに在る日光に自ら身を差し出すしかない。