疑心貌 作:カカラカ
未来お陀仏、空は黒いだろう、地面は白いだろう。部屋の中からひたすら妄想。殻の中に閉じこもったおれは現実を正面から見つめられない。
肌で感じる敵意、鈍臭い体捌き、漠然と抱く将来への不満。おれは怠惰な人間だが、おれはここで唯一の正常な人間だ。
食堂、施設内で唯一の食事場所であり、おれが嫌いな場所ランキング堂々の一位だ。
先生が言うには、おれは他人を見下す癖があるようで、周りの顰蹙を買っているそうだ。でもしょうがないじゃないか、やつらは全員おれよりも下なんだから。知能が足りてない、体の部品が足りてない、この施設にいるやつらはみんな、明らかに普通の人間じゃないだろうが。見下されるのも当たり前って話だな。
くだらない話が耳に入るたびその首を握りつぶしたくなる、本当にくだらない、このおれが食堂を嫌ってる理由だ。不良品共から聞こえる会話、それら全てが環境音として処理されず、虫の羽音がしつこく耳元をくすぐるような感覚となっておれを不快にさせる。これを嫌わないやつがどこにいる? おれはやつらの話に興味がない、にもかかわらず飯を食うために訪れた場所で強制的に質の悪いラジオを聞かされているんだ。どうせなら楽器の一つでも奏でてもらいたいね。……まあ、あそこのあいつは腕がないからそれすらも不可能か。まったく、不良品というのは優良品にとって存在してるだけで害悪だな。なぜすました顔で生き続けられるのか、優良品に苦労をかけさせてまで不良品を生かし続ける理由はなんなのか、おれには理解できない。
人には役割があると、先生はいつも言っている。やつらはそれに感銘を受けているらしいが、おれは納得がいかない。不良品に夢を与えるだけ与えても、その実態はなんの意味もない空っぽの夢だからだ。やつらに出番が来る日はないし、ただ優良品に迷惑をかけ続けて死んでいくだけの存在。役割としては人類のお荷物だろうか? 栄光の発展を阻止するためだけの存在か……生きているよりも死んでたほうが役に立ちそうだな。
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嘘だ、嘘、嘘っ、嘘だ!!
このおれが不良品相手に負ける……ッ? バカバカしぃ! 不良品のことだ、温情を与えられただけだろう……そうだ、そうに違いない。施設に産まれてからずっと、ずっとおれが一位だったんだ。実技テストも、筆記テストも……そう、おれが優良品であるから、おれが一位だった……。何もしなくても何でもできるおれと、何をしても何もできない不良品共、そう、なのに!!
一位の横に並ぶ文字が、見慣れたものじゃないことに気づいた後、おれはこの結果を確認しに来たやつらをぶん殴った。殴られたやつらはおれを見て怯えていた。そう、そうだろう。不良品はおとなしくしてれば良かったのに。おれの目の前を煩わしく飛び回るからそんな目に遭うんだよ。
チッくそッ先生、何するんだよ。おれはただ不良品を指導してあげてただけだってのに……先生もやつらの味方か? ああ…………そうだよな。そうじゃなかったらこの結果はおかしい。不良品がおれを超えることはできないからな。この施設にいるやつらはみんな、おれ以外はすべて不良品だったってことか。やけに不良品の肩を持つから違和感はあったんだ、そうか……そうだったか。
鍵を掛けた窓一つもない自室の中で大きく寝転がる。ベッドは二つあったが、今は一つしかない。おれが同室のやつを尽く排除していったからだ。
未だに怒りは収まらない。そもそも採点の基準もあの先生……不良品が判断しているからまともなものでは無かったのだ。そう、おれはすっかり忘れていたんだ……この施設が不良品の集まりだということを、な。
このおれに屈辱を味わわせたことを後悔させる……いや、そもそも不良品がのうのうと生き続けていることを後悔させなければ。
結果を出し続ければ施設を出られると思ってた、先生は優良品だと思ってた。でもそれは頭から間違いだった。
おれは自分でこの施設を出なければいけない……空の色も、地面の色も分からないおれは、一つだけ知っていることがある。
それは、この世界は間違っているってことだ。