疑心貌   作:カカラカ

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【アマテラス】無重力落下

 

 

 

【アマテラス】無重力落下

 

 

 低速落下の心理的誘導にハマってしまった。

 母を背後から刺した。骨に引っ掛かる感覚が悍ましく、正義を助長する。私の脳はもう眼の前を認識から外している。手を離して倒れる体も飛び跳ねる血もすべてが風とおんなじ自然現象に変わりはない。

 獅子奮迅の人生が今、星に変わって記憶の彼方に飛んでいった。夏の木枯らしが哀れと歌う。

 

 無造作に並ぶ数多の本棚に吸い込まれて、綺麗に並べられていた本は無情にも放り出され、けたたましい勢いで紙が揺れる音が響く。本に囲まれてるもんだから。あまりの轟音に思わず耳をふさぎたくなって、手が動かないことに気づいた。

 夢の中での微睡みがただの死を待つ準備だなんて思いもしなかった。一冊、まるで意思を持ったように、顔の目の前まで飛んできた本があった。パラパラパラ……ページを捲る見えない手に、体の全てを捕まえられて。叫ぼうとしても口から溢れるのは気泡だけ。パラパラ、ブクブク。いつしか視界全てが口から漏れ出る泡で埋もれた時。陸に叩きつけられた。そこはどこよりも眩しい場所で、黄金の太陽が挨拶をしていた。地面が波打ち、草木は風に踊らされヒトの真似事をしてて、そこに人はいなかった。人間なんて一人だけだった。

 歪む。おかしくなったのは頭じゃなかった。人としての自意識と眼前の不可思議。いたちごっこの思考に区切りをつけたくて、地面におもいっきり飛び込んでみた。

 

 手を伸ばしたら何でも届いた。欲しいものも、汚い心臓も、耳をつんざく言葉の数々も。憎たらしいもの全てを手で潰して広がった世界に安堵はなかった。未知はなくなって。全てが明らかになって。心すらも必要じゃなくなった。言葉は最低限。相手のことも、自分も。どんなふうに生きるかとか、そんなのは分かったから。

 人生を選ぶ時代になった。生まれ変わって、やり直し。言葉に意味はないなんて。愛とか必要ないだなんて。不安は無くなった。怒ることも、泣くことも。人間の負とされてたもの全部なくなっちゃって。だから私は人間の負になった。言葉全てに心を込めるし、そっけなくされたら惨めに泣くし自分の態度一つ一つに一喜一憂して。死ぬときも生き方も全部見せられた。骸に力がないなんて。そんなの明らかになってるし。悲劇もない。誰かと争うこともないし。世界は平和になった。何も無くなった。人に価値が無くなった。だから飛び込んだ。不思議に浮かぶ未知の本に。めくる項一枚一枚に目を輝かせて、是が非でも食らいついてやった。

 

 嘲りと油断、怠慢。逃した獲物はデカかった。触れたら火傷するなんて言うけども。火傷どころか大火事になって為す術もなく国全部燃えてしまった。

 愚者の先達に学ぶ。愚曰く、自分は特別らしい。自身は他とは天地の差があり、個性豊かで全てができるだそう。愚者の戯言は才人の真実であり、才人は愚者の妄言から好きに選び好きに行うことができる。愚者は全て欲の才能を持っている。止まらぬ欲と現実との齟齬が仕方なく笑えぬ勝利のカカラカ。眼前に広がる悠久の海に恒久の星に手を惹かれる月。

燦々とギラめくテクノロジーに三位一体の獣が雄叫びを上げる。敵襲だと。

 

 何百年何千年何億年君といたいだなんて。そんなに過ごしてても最終的には愛を囁くだけの骸になりそうだ。一々の行動に反応していては反骨心旺盛、四面楚歌での乾坤一擲、ハードル走での高跳びも決めて差し上げよう。

 宝石のように抱える命、摩訶不思議の裏道。須らくデウス・エクス・マキナの思し召し通り。価値はないのに。喰い破る膜を分厚く重ねて。血撒き散らしながら世界を頭に詰め込んでる。呼ばれた。

 

 目先の快欲に駆られて飛びつく獣。誤った誘惑法と混乱の末の泥雲特化。解法無しの齟齬まみれ吐瀉まみれ。裕福は退屈を迎え入れ、窮屈は反発という熱意を孕む。貧困に喘ぎながら苦と共に育つのは人としての幸せよりも存在価値の幸せを傍受している。

 鬱々と日々を過ごし、愛もない家庭に渋々と帰宅する。目も合わさず、笑い声も上げず、礼も愛想もない。

 こんな生涯に夢も希望も抱いていない。年を重ね、親が死に、食うには困らない程に稼げたら退職。兄が死に、心も死に、遂には世界が滅ぶまで。生き長らえるのだろう。私が死ねば世界は滅ぶか? 否、私が世界を滅ぼし死ぬのだ。この受動ばかりの家畜生に、雨垂れのような欲があるとするならば。

 

 

 

 

 

 

 

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