疑心貌 作:カカラカ
【骸骨】襤褸、あるいは不明
変わりゆく世界。一人の少年から始まり、希望を次世代へと託した末の変革。
この骸骨はずーっと見続けてきた。悲惨な運命を辿った少年も、それに憤り改革に励む次世代の若者達も。
近い将来、支配者は倒れ、隣人と笑い合える社会になるだろう。少年はそう願い、希望を繋いだ者達もそれを望んでいる。幾年も語り継がれるであろう理想的な幸福あふれる未来だ。
この骸骨は何も成さない。時代にも人にも何も残せない。
支配者にも、少年にも味方をせず、ただ傍観を気取る。
人を己の価値観のまま、何者かという定義に嵌め込み、時には感心し時には好意を抱き、時には蔑み……時には嫌悪する。
譫言のように誰かを何かに分類しなければ気がすまなかった。分類できなければ、怖かった。
いつしか、誰かに己が何者だと決め付けられるのを酷く恐れるようになった。自分を染めたくない、自分でありたい。自分とは誰だ、自分はどれだ、自分ならどんなだ──
問えば問うほど迷う、己の在り方。己の不明を願うばかりに、その暗鬱で強い願いがなんの間違いか理想として体の中に居座り、もともと入っていた人間性はどこかに追いやられてしまった。己が何者か見失ってしまった。
ふと空を見上げたくなる事がなくなった。本を読み、言葉一つ一つの意図を考える楽しみがなくなった。好きな食べ物に喜ぶことがなくなった。なにより、人との関わり方が分からなくなった。
いつだろうか。己が何も成さなくなったのは。己が己を見つめられなくなったのは。
不明である事は心地よかった。液体のように掴めぬ者としてあり続け、心を閉ざせば誰にも触られずに済んだからだ。
だがふと鏡と向き合った時。己が人間の姿をしながらも、まるで肉がついていない、形だけの紛い物のような気がして、得も知れぬ悍ましさを感じた。
いつから間違えていたのだろうか。
かつて少年から差し伸べられた手に気づかぬふりをした時か。
かつて支配者の束縛から解かれ隠れた時か。
己が口は歴史を語ることしかできない。そこに己の立場など一つもないからだ。
己はそこから逃れたいのか、それともこのまま変わらない日々を送りたいのか。
分からない……分からないが、思索したところで己がすることはなにも変わらない。
客観と言う名の人生放棄。己が魂を失った者の道の終わり。吐く言葉全てが無価値であるからこそ、襤褸は歴史を語る。
無意味にも己の命を取り戻そうとする悪霊のように、今日も己は知らぬ顔で人のふりをする。