異世界でモンスターになったのでなんとなく生きてみる 作:ふともも辺りに絡みつく触手
人間とのファーストコンタクトを終え、今は山の中で魔法を作っている
具体的には今回の邂逅で必要だと感じたものを形にしている最中だ
リリアーナ達と接触して分かったことがいくつかある
一つ、人類に敵対する私と同じような姿を持っている存在が居る
一つ、《影》は対人においても有効に機能する。
一つ、そして恐らく一番重要なことだが——自分が人外であることは隠せても、何かしらの方法で看破される可能性がある
リリアーナの騎士が私に気付いたのは魔法の探知ではなくあくまで状況からの推測だったけど、この世界に長く居れば居るほどそういった見破る方法に出くわす可能性は高くなる
「見つかっても逃げ切れるのは分かったけど、備えておくに越したことはないわね」
そう呟きながら魔法の構築をする
作っているのは主に三つ
最初の二つはほぼ完成した。三つ目は少し時間がかかりそうだった
そうこうしているうちに手が止まる
先ほどの襲撃のことが頭を過ぎったからだ
「モンスターがあそこまで集まるのは異常、とリーダーの騎士さんも言ってたし……まぁ確かに私が山に来てからも種族を越えた群れで行動するのは見たことがないわね」
山での生活で積み上げてきた観察眼がある
この山に来てから今日まで、私はかなりの数のモンスターを見てきた。狩ったものも、ただ観察したものも含めて
その経験から言えることがある
モンスターというのは基本的に群れを作ってもそれは同じ種族で種族を越えた集団行動など滅多に起こさない
起こったとしても、それは食料を巡る争いだとか、外敵に対する一時的な共同行動だとか、何らかの本能的な理由が必ずある
だがあの襲撃は違った
角の生えたイノシシ
大型の熊に似た何か
普段は単独行動をするはずの飛行型のモンスター
それらが統率の取れた動きで一つの馬車を囲んでいた
「あの襲撃の規模と統率は、何かの意図があった」
意図。つまり誰かが意図的にあの状況を作り出したということだ
そう考えると好奇心が疼く
この世界に来てからずっとそうだが、今の私は怖いという感情がほとんど湧かず、面白いという感情の方が先に来る
それが良いことかどうかは分からないが、今の自分にはそれが自然だった
「……ちょっと調べてみましょうか」
当初の目的である人間の強さはある程度把握できた
騎士達の実力は見た
リリアーナという少女の、この世界に生きる人間のここの強さも見た
この世界の人間がどういう技術や魔法を持っているかも少し分かった
とすれば今現在これからの目的らしい目的は特にないのでならば面白そうなことを追いかけてみるのが一番だろう
作りかけだった三つ目の魔法を一旦置いておいて、ちょうど完成した二つ目の魔法『魔力の痕跡を読み取るための魔法』を携えて外に出た
先日の場所にはもうリリアーナ達は居なかった
まぁ当たり前か
騎士達を欺き、馬車の結界を素通りし、なおかつ訳の分からないことを聞いてきた人外がいた場所に長居するほど間抜けではないだろう。むしろあの場を素早く離れた判断は正しい
影を伝いながら、戦ったモンスター達の痕跡を辿り始める
「新しい魔法っていつでも使うのは楽しいわよね」
そう言いながらついさっき完成した魔法を発動する
感覚が鋭く研ぎ澄まされていく
モンスターの残り香、魔力の流れ、足跡の向き
私の感覚はそれらを驚くほど正確に捉えた
我ながら良い魔法が出来たと思う
「みんな同じ方向から来てる。それにこの魔力の痕……モンスター自身のものじゃないわね」
モンスターに混じって、別の何かの気配がある
人間のそれより濃く、複雑で——そして私に近しい気配
人間ではない何かがここに居た。そしてその何かがモンスター達を動かした
「面白いじゃない」
自然と口元が緩む
私はその痕跡を辿って移動し始めた