異世界でモンスターになったのでなんとなく生きてみる 作:ふともも辺りに絡みつく触手
森の奥まった部分にある盆地
そこではあちらこちらの地面が抉れ、木々がなぎ倒されている
そしてその中心
人の形をしているが、人ではない
銀の髪を風にたなびかせ長身で細身の二十代半ばほどの男が整った顔に穏やかな笑みを浮かべ、禍々しい角と羽を持つその男がそこには居た
その男に相対するように薄茶色の髪を乱れながらもまとめ上げ、白と金と黒の軽装を纏った女性が立っていた
女性は柔らかそうな顔立ちをしているが瞳の光は鋭い。
その立ち姿には確かな実力が滲んでいるがただ——今は遠目にも分かるほど疲弊していた
その男は倒れたモンスター達を踏みにじりながら女性を追い詰めている
「その程度か、ジン・ルーヴェン?お前の妹は、もっと長く楽しませてくれたぞ」
女性の動きが一瞬止まる
その一瞬を見逃さず男が間合いを詰め、腕を振るう
女性は弾き飛ばされ岩肌に叩きつけられた
「せっかくここまで追いかけてきたのだろう?半年もかけて。随分と健気なことだ」
女性が立ち上がるが膝が震えている。それでも瞳の光は消えていない
男はその様子を眺めながら、まるで芸術品を鑑定するような目をした
「お前の妹もそういう目をしていた。最初は」
男が回想するように目を細める
「……黙れ、ヴァルンハイン」
「プライドが高くて、折れない子だった。だからこそ時間をかけた甲斐があったよ
あの子が初めて泣いた時の顔を覚えているか? 私は覚えているぞ。実に美しかった。折れない人間が折れる瞬間というのはどうしてああも——」
「黙れと言っている!!ヴァルンハイン!!!!」
魔法が男に向かって放たれた
男はそれを同じく魔法で相殺した
「感情的になるな。お前の妹は最後まで冷静だったぞ。泣きながらも、それでも私を睨み続けた」
男は一歩、また一歩と女性に近づきながら続ける。
「だから最後まで丁寧に時間をかけた。せっかくの逸品だったのだから」
「……っ」
「壊れた後は用がないから捨てたが——あぁ、そうか。だからお前が来たのか」
男は合点がいったというように頷いた。
まるで今気づいたとでも言いたげな、白々しい仕草だった。
「妹の代わりに私を殺しに来た。なるほど、姉らしいことだ」
「……絶対に殺す」
「殺せるか?」
嘲る声であるがただ純粋な事実を告げる声だった
「お前の妹は私殺せなかった
お前も同じだ。半年鍛えようが結果は変わらない」
穏やかな声に戻る
「だがせっかく来てくれたのだから、妹と同じように付き合ってやろう」
女性のの足元のモンスターの死骸が動いた。逃げ場を塞ぐように取り囲んでいく
「お前が壊れる顔も、きっと美しいぞ」
その言葉と同時にモンスターの死骸が女性へと向かって動き出す
女性が迎撃しようと構えた
力の差はもう十分理解してる
このままもう憎き仇に無残に殺される未来が見えている
それでも彼女には抗わないという選択肢はなかった
おそらくこのまま彼女の願いは叶えられず
男の思うままにこの戦いは終わるのであろう
ただただ男にとっての喜劇で女にとっての悲劇で終わるそんな舞台に
「ちょっとよろしいかしら」
そんな
まるで散歩のついでに挨拶したような声が響いた