「今度私とデートしようよ」
そう一方的に言ってくるのは俺の上司であるマキマと言う人だ。
赤い髪を三つ編みにし、どこか不思議そうな雰囲気を纏っている人。
この人は美人で公安の中でも人気のある人であるのは周知の事実であろう。
しかし俺にとってこの上司にあたる女はまさに理解のできない人間であった。
理由は簡単だ。公務員だからと言って楽に稼げると思っていた頃の俺はこの仕事のヤバさをまだ知らなかった。
急に悪魔との戦闘を最初から強いられる事があり死にかける事も数回ではなかっただろう。
そんなまだ右も左もわからない頃に会ったのが今の上司であるマキマという人だ。
悪魔との戦闘で疲れて休憩室で仮眠している所、横に座ってきたのだ、席は幾らでもあるというのにだ。
そして目覚めた俺にこう言った。
「君、私のものになる気はない?」と
美人にこんな事言われて嬉しくないわけがない。
しかしながら人間の寝起きというのは思ったよりも頭が起きていないのだろう。
「・・・え?急になんですか、あなた」
などと、とても上司にするような発言ではないような事を言ってしまった。
まさかこんな事を言われると思ってなかったのか、マキマさんは目を見開きながら驚いた顔をしていたのを覚えている。もちろん美人だ。
きっとその時の自分の顔はとても滑稽であっただろう。
気づいたら時には遅かったのだ。
「私、君の事逃す気なんか無いから」
すぐに表情を変え、ニコッとした笑顔を俺に向けながらそう言ったのを今でも鮮明に覚えている。
それから目をつけられて、マキマさんは俺が出勤しては最初に会う人ランキング堂々の1位たる地位を獲得している。
さらには昼食を食べようとしたら一緒に着いてきて結局一緒に食べる事になったり、パトロールをしている時、気づいたら横にいるなんて事もあり、もはやこの上司が隣にいる事が日常茶飯事となってしまった。
このような奇行を前にされて俺は彼女を普通の人間と思う事など出来なくなってしまったのだ。
日頃から付け回されている人にデートに誘われて君達は自然に接する事が出来るだろうか?
美人ならええやろー、だと?その通り!
と言いたいが、どうにもこうにもこの人はストーカーである事を忘れてはならない。取って食われる覚悟で望まなければいけないのだ
「え、嫌です」
否定の言葉を言ってみた物の我が上司はニコニコと微笑みながら圧を掛けてくる。
「今度私とデートしようよ」
「嫌です」
どうやら我が上司は同じ言葉しか喋れないようだ。
これが俗に言うbot化現象なのだろうか。
残念ながら今の俺にbotと化した上司に対処する力は無い為ここは脇目も振らず上司の部屋から逃走する事にしたのだった。
***
おはよう諸君、俺だ
突然であるが俺は死にかけている。
なぜかって?
簡単な悪魔の討伐だと思い気楽に任務をしていた。
任務の悪魔は殺せたのだが何故か近くにゾンビが居たのだ。
そう、あのゾンビである。いかにも噛み付いて感染させて来そうなゾンビである。そいつらが5, 6人程度なら良いだろう。
ぱっと見た感じ100人はいる模様。
うん、勝てる気がしない。
そんな訳で息を切らしながらこのゾンビどもから逃げている訳であるが・・・
いかんせん室内であるからか逃げた所そこらへんにゾンビがいるのである。
これこそ袋のネズミだな、なんて余計な事を考えている内に気づいたら沢山のゾンビによって壁に追い詰められていた
我が人生百片の悔あり・・・
などと間抜けな考えをしている所に突如、車が突っ込んで来たのである。
そして運転手は我が上司。ドヤ顔をしながらこっちを見てくる。
・・・・・うんワイルドすぎる。ここ工場のなかですよ?
そんな阿保な考えをよぎらせながらワイルド上司の助手席に乗っていざ退散。
「ありがとうございます、助かりました」
このストーカー上司がまさか自分からこんな所に来るとは、
「どういたしまして、何か嫌な予感がしたから来てみたんだけど、どうやらゾンビの悪魔も居たみたいだね。本来の任務とは対象外だからこのまま本部に帰ろうか、それに君も散々逃げてて疲れていそうだしね」
さすが日頃からストーカーしてるだけあって人の事が良くわかっているようだ。今この時だけは自分をよく見ていてくれた事に感謝しよう。
「でも安心してね、もし君が死んじゃったら私も一緒に死ぬからね」
そしてこの上司は唐突に一体何を言っているんだろうか、そして何を安心すれば良いのだろうか。
「突然どうしたんですか?それになんで急に一緒に死ぬとか言い出すんですか」
きっとこの時の俺は純粋な疑問だったのだろう。こんなヤバい発言など無視してしまえば良いものを聞き返してしまったのだ。
「君と一緒に死ねば君は寂しくないでしょ?それに私にとっての今の生きる意味が君だからね。もし死んでしまっても天国でも地獄でも一緒に着いていってあげるよ」
この時改めてこの上司からの重い感情に気付いたのだ。
挙句の果てにはこれに付け足して俺が欲しいなどと小声で言い出したのだ。
無視を決めようにも赤信号の中こちらを微笑みながら見てくる我が上司。
美人でかわいい事に変わりは無いのだが、今までの事を踏まえるとこの美しさに勝りそうな恐怖がある事を忘れてはならない。
「マキマさんってなんでそんなに俺に執着するんですか?」
そう、分からないのだ。我が上司がなぜこんなにも俺に執着するかが
別にすごい強い訳でもなく、すごく顔が良い訳でもない、どちらも至って普通である。
「私が君に執着する理由?それはね君に会った時からね、君は良い匂いがするんだよね。ずっと側にいて欲しい匂い、心地良い匂いがするんだ。それが理由かな」
俺は心底驚いた。当たり前であろう、女性に匂い関連の話題を出されては自分の匂いを気にしない方がおかしい。
しかし香水など仕事前につけた記憶も無いため結局この人に対する変人である印象はあまり変わらないままだ。
その後、物静かな時間が車の中で過ぎていくのを感じた。
しかし不思議と気まずい雰囲気を感じる事は無かった。改めて見ると本当に美しい顔だと思う。
日頃からストーカーをしているとはとても思えない。
「君さ、私と一緒に暮らそうよ。衣食住だってあるし職場までは一緒に行くことできる。これって良い事しかなくない?」
急に口を開けたかと思うとまたもや変態発言をしてきた。
確かにいいことしかないのは自分でもわかっている。俺が住んでいるアパートはそこそこ遠いし、毎朝満員電車に乗りながら出勤している。
しかしだ。俺はこの上司と安全に一緒に暮らすことができるのだろうか。いやできるはずがない。今のままでも十分やばいんだ、これ以上いくとお互いにどうなるのかわからない。
「たしかに良い事しかありませんが、遠慮しておきます」
「君が否定してもいつか一緒に暮らすようにさせるから覚悟してね」
この上司はどうやら諦めが悪いみたいだ。他の人なら普通の対応で済むのになぜ俺だけにこんな執着してくるのかは未だに理由を聞いても理解できていない。
「ねぇ、今から一緒にご飯食べに行かない?」
急に話題を変えてきたが、今の時間は1時過ぎ。
特に断る理由もない。
「いいですよ、何食べに行きます?」
***
それから中華店に行きお互い食事をした。
なぜ我が上司は激辛麻婆豆腐を食べているのに汗ひとつかいていないのだろうか。平気な顔をしながら真っ赤っかの麻婆を食べている。
少し黒くなっているところもある。
そんな上司は俺の頭に強烈な印象を残した。
俺は餃子を食べた。
おいしかった。
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