デュエル・マスターズK×K   作:月兎タンク

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最近、デュエマ熱が再発したんで頑張って2話目を書いてみました。
今話からようやくまともなデュエマが始まりますけど、オリカのオンパレードなんで苦手な方はブラウザバックを推奨します。


降臨せし“宇宙の捕食者”

『……ようやく帰って来たのねウィナー…。私はずっと貴方の帰りを待っていたのよ…?』

 

『……どうしてこんな事をした…?()()()()()…!!』

 

 久方ぶりにこの惑星に降り立った俺が見たのは、背筋が凍る様に悍ましい地獄絵図の数々…。

 かつて彼女が語っていた夢とは程遠い光景に居ても立っても居られなくなった俺は、気付けば近衛兵を投げ倒し女王の間にて鎮座する姫へ刃を向けていた。

 

『お前は言っていたじゃないかッ!!!『必ずこの国民を誰1人悲しませない平和な国にしてみせる』と…!!それなのに…あの地獄絵図は何だ…?一体何がお前を変えてしまったというんだ…!?』

 

『…仕方がなかった…では貴方は決して納得しないでしょうね?だって貴方は宇宙の愛と平和を守る“英雄(ヒーロー)”なのだから』

 

 その瞬間、俺が微かに抱いていた希望は容易く打ち砕かれた。

 彼女は自分自身の意志であの地獄絵図を作り出したんだ。俺が知る誰よりも心優しかった彼女が。

 

『ねぇウィナー?私はね…この星の粛清が終わったら、次は他の星を侵略しようと思うわ…。その星の侵略が終わったら、また別の星を侵略する…。どう?とっても良い“願い”だと思わない?』

 

 そう語る少女の瞳には何も映っていなかった。そこに“狂気”も無ければ、“歓喜”も無い。ただただ“虚無”だけが映し出されていた。

 

『もう……夢と希望に満ち溢れていた“クェーサー”は居ないんだな…』

 

『ええ。とっくの昔にね』

 

 1秒の間すらも置かずに俺の言葉をクェーサーと呼ばれた少女が肯定した瞬間…。俺の心に鋭い痛みが走る。

 

 もう俺は言葉を発する事は出来なかった。これ以上、少女と話を続ければ使()()から逃げ出しそうだったから。

 

『さらばだ。クェーサー……』

 

 場面が変わった時には既に“使命”は終わっていた。

 

 俺の手にある大剣は少女の腹部を突き刺し、少女は吐血し衰弱していた。

 

『私…は……貴方の英雄譚を…聞くのが好き…だった……』

 

 事切れる直前の今際の際。そこに居たのは狂気の姫ではなく、俺がよく知る心優しき姫その人だった。

 

『貴方に…語ったゆ…めを……忘れたことは……一度だ…ってない…。けど…私には……無理だ…った…!』

 

 少女は眼から涙を流す。それは…今まで押さえ込んできた後悔の涙だったのだろう。

 

『でも…!あな…たは違…う…!!貴方は……本物の…ヒー…ロー…!!貴方なら…きっと…!!みんなを…笑顔にすることができる…!』

 

『……』

 

『お願い…ウィナー…。私の…夢を……受け…継いで…!もう……この星のよう…な…!悲劇を…繰り返さないた…めに……』

 

 今際の際に人としての理性を取り戻したクェーサーは遂に事切れた。

 

 後世の歴史には彼女は血に塗れた悲劇を起こした最低最悪の暴君として語り継がれるのだろう。

 

 だが、俺は彼女を責める事は出来ない。俺はあくまでもこの星に放流した旅人でしかないのだから。

 

 ただ……ありし日の彼女を知る者としては……

 

 彼女もまた、被害者だったのだろう。

 

 彼女とて狂いたくはなかった筈だ。

 

 ただ国民に笑顔でいてもらいたかっただけなんだ。

 

 けど…この星はそんな清い願いすらも抱く事は許されなかった。

 

 その末に生み出されたのが狂乱の女王・クェーサーだ。

 

『…安らかに眠ってくれクェーサー…。君の夢は俺が受け継ごう』

 

 勝った者が正義であり、負けた者は悪であるこの世界に身を置く俺に君の夢を実現出来るかは分からない。

 

 …けど、せめて俺だけは優しかった頃の君と誰よりも純粋な夢を覚えておこう。それはきっと…彼女の鎮魂の為となるから。

 

……………

…………

………

……

 

「……夢カ」

 

 身に覚えの無い、しかしなんだか懐かしくてやけにリアルな夢だった。

 

「夢ノ中ニ居タ(ドラゴン)…。アレガ俺ダトイウノカ…?」

 

 夢に出てきた狂気の女王は龍の事を“ウィナー”と呼んだ。そして俺が唯一覚えていた名も“ウィナー”だ。記憶喪失の俺でも分かる。あの龍と俺が関係無い訳がない。

 

「他ニ俺ガ持ッテイタノハ…。精々、“コレ”クライカ…」

 

 俺は“フトン”から起き上がると、収納スペースに閉まってある白を基調とし黄金の装飾が施された謎のガジェットを取り出す。

 初めてカツロとカツミに出会った日…名前の他に唯一持っていたのがコレだった。

 

「相変ワカラズ分カラナイナ…。“コレ”ハ一体、何ニ使ウモノナンダ?唯一、手ニフィットスル場所ニ黒イ“ボタン”ノヨウナ遊ビガアルガ、押シテモ何モ反応シナイ…」

 

 ガジェットの用途は分からない。だが、そのなかには何らかの物体がギッシリと詰まっている事だけは手で感じる重量から分かる。

 それでも、思いつく限りいじくり回しても、変化がある兆しすら見せない。

 

 その時だった。

 

ーー思い出せ!!!お前の…“ウィナー”の使()()を…!!!

 

「ッ…!?」

 

 突然、俺の脳内に声が木霊した。しかもその声は、俺の声と瓜二つだった。

 

「俺ノ…“使命”…?」

 

 譫言のように虚無に向かって“使命”の概要を尋ねるが、返答する者は誰も居ない。

 

 …教えてくれ。俺は一体何者なんだ…?

 

♢♢♢

「ダイレクトアタック…」

 

「うっわ〜!また負けた〜!!スゴいウィナーさん!!!デュエマを始めたばっかなのに、もう私じゃ相手にならないくらいに強くなるなんて!!」

 

 裏山で記憶喪失の変態を拾ってから早くも数週間が経った。…なんか数ヶ月以上経っているようにも感じるが、今はそんなことはどうだっていい。

 

 “ウィナー”と名乗った変態は、何の運命が働いたのか俺ら姉弟の自宅兼ジジイの職場のカードショップ“切札(ジョーカー)”のアルバイトとして雇われることになった。

 それもただのアルバイトじゃない、衣食住の3点セット付きの謂わば住み込みのアルバイトだ。

 

「ホッホッホ!!もう勝美はすっかりウィナー君に懐いとるようじゃの〜。どこぞの捻くれ(もん)と違って」

 

「うっせ。あんな全裸でミステリーサークルの中央に居た変態に心を開く姉貴の方が異常なんだよ。俺としてはあんな素性の知らない奴を住み込ませる爺ちゃんの気もしれないっての」

 

「相変わらず疑り深い奴じゃの〜。まあ、お前さんの気持ちも分からんくもないが、別にウィナー君はトラブルを起こしとらんじゃろ?まっ!ドロボーが入られても、我が家にあるのはDMのカードだけじゃがな!!!」

 

 何がおかしいのかは分からないけど、ツボに入ったジジイはガッハッハと大声で笑う。

 …確かにウィナーはウチに来てから変なトラブルは起こしてない。相変わらずカタコトの日本語しか喋れないけど、頼まれた雑用だってちゃんとこなしてるし、見てくれは少し変だけど飯だって普通に美味い。…そう考えると普通に小間使いとしては優秀だな。

 

 …いやいや!!俺は姉貴とジジイとは違うぞ!!俺の勘が言ってる、絶対ウィナーは普通じゃない!

 こういう記憶喪失のイケメンは大体重い過去とか、ロクでもない因縁を持っているって相場が決まってんだよ!残念だったなウィナー!俺は賢いんだ。

 

「ハァ〜…まったく…。その頭の硬さは一体全体誰に似たのかのぉ?そんなんだから“()()()”に認めらん……」

 

バンッ!!!

 

「なんじゃ?怒ったのかの?」

 

 痛って…。気付けば俺はレジカウンターの机を両手で強く叩いてた。当然、俺の非力な筋力じゃ、使い古された机にすら傷なんか付けることは出来やしない。

 俺が得た物があるとすれば、両手の掌に痺れるような痛みくらいだな。

 

「こんのクソジジイ…!俺が怒るって分かってて、地雷を踏み潰しやがったな…!」

 

「…別にお前さんの慎重さを否定する訳じゃないがな、もう少し肩の力は抜いた方がいいぞい。慎重は時に視野を狭める、もしもお前さんが本気で“アヤツ”に認められたいのなら、柔軟さを身に付けなければ話にならんぞ」

 

「チッ…!もういい!!俺は部屋に戻る!!残りの仕事はジジイ1人でやってろ!!」

 

 我慢の限界を迎えた俺は、ジジイから頼まれた店の仕事をほっぽり出して自分の部屋に戻る。

 

「……分かってんだよ…。それでも俺は…ジジイのような熱血バカにはなれねぇよ…」

 

 俺は情けない自分に救いを求めるように、引き出し中にしまっておいたデッキケースから一枚のカードを取り出す。

 そのカードは、裏面こそはDMのロゴが入ったパッ見どこにでもあるようなカード…。だけど、その表面にはDMカードの華である筈のクリーチャーの姿は()()()()()()()。つまりは白紙だ。

 

 けど、俺は知ってる。この厚さ数ミリ程度の紙の中に眠っている存在が居る事を。俺は“そいつ”に向けて静かに語りかける。

 

「……なぁ、一体お前はいつになったら俺を認めてくれるんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ボルシャック”…」

 

♢♢♢

「とゆー訳で、配達頼むぞい!勝路!ウィナー!」

 

「任サレタ」

 

「…うっす」

 

 勝路が祖父と喧嘩をした翌日。ウィナーはデッキの配達を頼まれていた。

 彼が居候兼アルバイトである以上、雇い主から仕事を頼まれるのは何もおかしな話ではない。

 だが、何故か無関係の筈の勝路もウィナーの配達に同行するように命じられ、本人は物凄く嫌そうな顔をしている。

 

「ねぇねぇ!おじいちゃん!!私もついて行っていい?配達先の近くのカードショップで大会があるからさ〜!」

 

「ホッホッホ!ついでとはいえ仕事熱心で感心じゃわい!どこぞの不貞腐れた孫も爪の垢煎じて飲んで欲しいくらいじゃ!」

 

「うっせー!!!俺だって好きで道案内する訳じゃないっての!!ちゃんと、仕事分今月の小遣い増やしてもらうかんな!!!」

 

 同い年の姉と比較されるのが余程腹に立ったのだろう。勝路は顔を真っ赤にしながら激怒し、荒くドアを開け指定の荷物の配達に向かう。

 

「…ソモソモ、俺達ハ一体、何ヲ配達シテイルンダ?」

 

 しかし、肝心のウィナーは配達物の内容を一切知らされていなかった。これではただの闇文明的な怪しいバイトである。

 

「フッフ〜ン!勝美ちゃんが教えてしんぜよう!!我が社カードショップ“切札(ジョーカー)”は〜!なんと!!デッキの販売も行っているのです!!」

 

「デッキ…?デュエル・マスターズノカ…?」

 

「そのとーり!!ウチのおじいちゃんはね〜!昔は誰もが知るすっごいデュエリストだったの!!もう現役は引退してるけど、今でもデッキビルダーとしては超有名なんだから!!」

 

「ケッ、どーだか。あんな性悪ジジイがスゲェデュエリストだったとか、にわかに信じられないけどな」

 

「うっわ〜。出たよ、勝路の捻くれ症候群。そんな不貞腐れた人生を送って楽しいの?」

 

「クリーチャーに取り憑かれたオカルトマニアの姉貴には言われたかねぇっての」

 

 本来はウィナーの純粋な問いから始まったにも関わらず、いつの間にか同い年の姉と弟は一触即発の空気となり、今にも姉弟喧嘩が勃発しそうになる。

 

「……ヤメルンダ。君タチハ姉弟ダロ?ダッタラ、喧嘩ナドセズニ仲良クスルベキダ。争イハ何モウマナイゾ」

 

「ほら〜!ウィナーさんもそう言ってるんだしさ〜!その振り上げた拳を下ろしなよ勝路〜!」

 

「…ハァ、ジジイの次にいい性格してんよ姉貴は…。もういいや、喧嘩すんのも馬鹿らしくなってきた…」

 

 推定年長者であるウィナーの仲介により、何とか姉弟喧嘩だけは回避した一向は引き続き配達先へ歩みを進める。

 

「…そういや、姉貴は大会に出るんだったな。今回はどんなデッキを使うんですか?“長考の勝美”さん?」

 

「あ〜!!また私の悪口言った〜!別に私は長考してません〜!ただ、デュエマに関しては慎重なだけです〜!」

 

「ケッ、今まで出場した大会全部時間切れの姉貴が何言ってんだか。それで?結局、何のデッキ使うんだよ?」

 

「今回は速攻だよ!ほら、見て見て〜!」

 

 姉から手渡されたデッキを確認する。姉が使おうとしているデッキは火文明単色の低コストのクリーチャーが主体の速攻デッキだ。

 

 ……しかし、姉のデッキを見た勝路は何やら身体をワナワナと震わせている。

 

「おい姉貴コラァ!!!このデッキ、俺のじゃねぇか!!何、勝手に人様のデッキを盗んでんだ!?」

 

 そう、姉が手渡したデッキは正真正銘、切札勝路が自身のお小遣いをはたいて組んだデッキだったのだ。

 

「いいじゃん。もう、勝路はロクにデュエマもしてないし。ストレージにカードを眠らせるより、使ってあげた方がカードに眠るクリーチャーたちも喜ぶでしょ?」

 

「んならせめて俺に許可取れっての!!勝手に部屋に侵入された挙句デッキをパクられたら気分が悪いだろーが!」

 

 結局、ウィナーの努力虚しく実に姉弟らしい理由で口喧嘩を始める勝路と勝美。

 彼らの喧嘩を見ていたウィナーはというと…

 

「ねぇ、ウィナーさん!どっちが悪いとo…」

 

「……」(ツー…)

 

 目から一筋の涙を流していた。

 

「「な、泣いたァァァァ〜〜〜!!!???」」

 

 大の大人の号泣に、先程まで喧嘩していた姉弟は喧嘩していた事すらも忘れ、綺麗に声を重ねてしまう。

 

「ほ、ほら勝路!!アンタのせいでウィナーさんが泣いちゃったじゃん!謝りなさいよ…!」

 

「ハァ!?元は姉貴が俺の部屋からデッキを盗んだんだからだろーが…!ここは姉貴が謝るべきだっての…!」

 

 諸事情あり祖父に育てられている切札姉弟は、大人が泣く場面に慣れていない。故に正しい対処法も分からずにただ慌てふためくだけしか出来なかった。

 

 ……その時だった。()()()()()()()()()

 

「見つけたぞォ…!!!“旅人”ォ…!!!」

 

「「・・・誰?」」

 

 兄弟とバイトの前に現れたのは、まるで1週間は風呂に入っていないような酷い悪臭を放ちながら目の下に大きなクマを持つ青年…。

 

「……あっ!思い出した!!!この人…近所でも有名なカード狩りだよ!!!名前は確か…“シャーク”だったっけ…?」

 

「マジかよ…!?クソ…!!おいシャーク野郎!それ以上、近づいてみろッ!!!ケーサツ呼ぶぞ!!!」

 

 人相の悪い青年に最大限の警戒を送る姉弟だが、不思議な事に青年の瞳に映るのはウィナーだけだ。

 

「辛かったァ…!苦しかったァ…!何せ、私に下された命令は“旅人”の抹殺…ただそれだけなのですからねェ…!居場所も分からない貴方を探すのは骨が折れましたよォ…!!!」

 

「俺ノ…抹殺…?」

 

「抹殺って…!ウィナーさんを殺すってこと…!?」

 

「狩るのはカードだけじゃなくて、人の命も刈り取るってのかよ…!?普通に犯罪者じゃねぇか…!!」

 

 抹殺なる現代日本ではまず聞く事のない単語を耳にした姉弟は、本格的に命の危険を感じ、1秒後には背を向けて逃げられる体制に入っている。

 

 だが…ウィナー達が逃げるは叶わなかった。何故なら……

 

「逃すかァ!!!決闘領域(デュエル・スペース)展開ッ!!!」

 

 まるで「金庫が開かないなら、金庫ごと持ってけばいいじゃない」という泥棒のように。

 まるで「宝が見つからないなら、ある場所ごと買い取ればいいじゃない」という金持ちのように。

 彼らが住む世界を変える事で、逃す暇すら与えなかった。

 

「ブホォ!?ど、どこだここ…!?」

 

 姉弟とバイトが迷い込んだのは、大釜を思わせる中央にポッカリ穴の空いた岩山に紅の溶岩がグツグツと煮えたぎり、周囲には巨大な肉塊や野菜らしき物体が吊り下げられた地獄のような世界。

 

「なになに!?ここって地獄…!?もしかして、私たちもう死んじゃったの〜!!?」

 

「おんやァ?“旅人”だけを連れ込むつもりでしたが、余計な蠅まで紛れ込みましたかァ!!!まぁ、いいでしょう!!どっちみち貴方達は死ぬんですからねェ!!!」

 

 口調こそは丁寧ではあるが、強面の人相に違わない悪魔のような汚い高笑いが地獄中に響き渡る。

 

「……と言いたいところですが、貴方達には一つだけ助かる道があります」

 

「助かる道だと…!?」

 

「な〜に、そう難しい事じゃあありません。後ろに居る白髪の青年を私に差し出せば良いのですよォ。そうすれば…貴方がたの命だけは助けてあげましょう」

 

「ウィナーさんを差し出すって…!そんな…!」

 

 一方を生かす為にもう一方の命を犠牲にする…。突如として襲い掛かった非情な決断を前に、少女は小さく身体を震わせて怯える事しか出来ない。

 

「…俺ガ攫ワレレバ、2人ノ命ハ助ケテクレルノカ…?」

 

 しかし、何故かウィナーは顔色一つ変える事なく自ら進んで命を差し出そうとする。

 

「ウ、ウィナーさん!?何言ってるの!?あなたがさらわれちゃったら、殺されちゃうんだよ!?」

 

「…ソレデモ、2人ノ命ガ助カルナラ、俺ハ構ワナイ」

 

 ウィナーの目には“恐怖”や“自己満足”はなく、ただ“覚悟”だけが輝いていた。

 彼は本気で信じているのだ。自分の命で姉弟が助かるならば、あなたの一つや二つくらい安い物だと。

 

 …だが、バイトの覚悟に“待った”をかける者が居た。

 

「……姉貴…!俺のデッキを寄越せ…!」

 

 そう、誰よりもウィナーを嫌っていた筈の切札勝路である。

 

「え……?」

 

「早くッ!!俺のデッキをッ!!!」

 

「わ、分かった…!」

 

 普段以上に切羽詰まった様子の弟の圧に逆らえなかった勝美は、急いでデッキケースから弟のデッキを取り出し投げ渡す。

 

(…クソが…!もう()()()()()は嫌だってのに…!なんで俺の人生はいつもこうなんだよ…!)

 

 姉からデッキを受け取った勝路は、己ニ降りかかる呪われた運命を呪いながらも、今はただ消える事はない“過去(トラウマ)”を繰り返さない為に覚悟を決める。

 

「カツロ…?」

 

「目覚めの時間だッ!!俺のデッキィ!!!」

 

 その瞬間、勝路のデッキは眩い光を放ち()()()()()

 

「なになに!?なにが起こってんの!?」

 

「コ、コレは…!?貴様…!まさか…!」

 

「オイ犯罪者ッ!!俺は今からお前に…!()()()()()()を申し込むぜッ!!!ウィナーを攫いたきゃ、俺を倒してからにしなッ!!」

 

「真ノ…デュエル…?」

 

 “真のデュエル”なる謎の単語に首を傾げるウィナーと勝美。すると、勝路の覚悟に呼応するかのように大地が揺れると、溶岩地帯から地面が隆起した。

 

「なるほど…。小粒の中に戦士が紛れ込んでいましたか…。だが、戦士といっても雛ですらない卵のようですがねぇ」

 

「じゃかましいッ!!!もう賽は投げられたんだッ!!テメェに拒否権は無ェ!!!」

 

「ハンッ!!拒否権ン〜?何か勘違いしているようですねェ?私は逃げるつもりは毛頭もありませんよォ!!!このアントナン、食材如きに遅れを取る程落ちぶれていませんからねェ!!!」

 

 あれよこれよという間に進んでいく展開にウィナーと勝美は置いてきぼりとなる。

 …だが、自分達の命は勝路に掛かっている……。それだけは理解出来た。

 

「「デュエマスタートッ!!!」」

 

 決闘者(デュエリスト)同士による開始の合図が木霊し、プレイヤーの正面に5枚の(シールド)が展開される。

 

 これは謂わば命綱。この5枚の盾が無くなり直接攻撃(ダイレクトアタック)を喰らった瞬間、どちらかの決闘者(デュエリスト)が命を落とす。

 

「先行は俺からだッ!俺は“赤い稲妻 テスタロッサ”をマナゾーンに置き、1マナ払ってコイツを召喚するぜッ!!来いッ!“凶戦士 ブレイズクロー”!!!」

 

勝路マナ:1→0

 

ブレイズクロー『待ち侘びたぜェ!!!この瞬間(とき)をよォ!!!』

 

 戦場に姿を現すのは、黎明期から活躍し続ける老兵であり、速攻の代名詞たる“凶戦士”。

 爬虫類に似た容姿を持つ戦士は、抗戦的な笑みと共に右手の鋭い鉤爪をアントナンを護る盾に向け、闘争心を露わにする。

 

「く、クリーチャーが実体化した…!やっぱりカードに精霊が宿るっておじいちゃんの言葉は本当だったんだ…!」

 

「クリー…チャー…」

 

「…俺はこれでターンエンドだ。さぁ!次はお前のターンだぜ!」

 

<TURN CHANGE:side アントナン>

 

「ククク…!その威勢の良さがどこまで続くやら?私のターンッ!ドローッ!!!」

 

 デッキトップからカード1枚引いたアントナンは、ニヤリと笑うと手札から1枚のカードをマナゾーンに置く。

 

「私は“調和の糧 アングリーバーガー”をマナゾーンに置きますッ!!」

 

アントナンマナ:0→1

 

 マナゾーンに置かれたのは、火の元素(エレメント)を持つ憤慨するハンバーガー…のような怪物(クリーチャー)が描かれたカード。

 怪物(クリーチャー)の名の下には、創造主より与えられし誇り高き種族名が刻まれている。

 

「コズミック…イーター…?」

 

 “コズミック・イーター”。直訳すれば、『銀河の捕食者』…。

 地球人たる勝路からすれば、捕食者ではなく捕食される側の存在がそのような種族を名乗るとは笑止千万だが、アントナンは一切気にする事なく決闘を続ける。

 

「そして更にィ!!!私は1マナを払って、この能力を発動しますッ!!!その名前も……『イーター・シフト』!!!」

 

アントナンマナ:1→0

 

 対価(マナ)が支払われた瞬間、アントナンの手札にあった1枚のカードが超次元ゾーンへ移動する。

 

「“イーター・シフト”…。“パンドラ・シフト”に似てる能力だな…」

 

「私はこの“調和の理 ウォッシュ”を超次元ゾーンに置きます。そ〜し〜て〜?その瞬間、“ウォッシュ”の能力発動ッ!!手札を1枚捨て、それがコズミック・イーターならば私は山札から2枚引きますッ!当然、私が捨てたカードはコズミック・イーターなので、2ドローッ!!!」

 

アントナン手札:5→4→6

 

 アントナンが捨てた手札は超次元と同じ憤慨するハンバーガー。1つの料理を対価にアントナンは2枚の利益を得る。

 

「私はコレでターンエンド。さぁ、貴方のターンですよ?」

 

<TURN CHANGE:side アントナン>

 

「……」

 

 ドローステップの直前。勝路は改めて自身の手札を確認する。

 

(今の俺の手札には“()()()”が揃ってる…。3キルするには十分すぎる手札だ…。…だけど、相手は俺の知らないカードと戦術を使ってきやがる…。ここは一旦様子を見て、4キルルートに切り替えた方がいいか…?)

 

 “未知”という名の不信感を前に、速攻使いには似つかわしくない思考が勝路の脳裏を過ぎる。

 

(…って!何考えてんだ俺!?“ ()()()()()”ならまだしも、今の俺が使ってんのは火単速攻なんだ!何が様子見だ!んな暇は最初から無いっての!!)

 

 攻め一辺倒で、一切の守りを捨てるインファイト戦法しか出来ない速攻デッキにとって、様子を見るという選択肢は初めから存在しない。

 ひよった態度を見せかけた自身を恥じた勝路は、己の迷いを振り切るようにデッキトップからカードを引く。

 

「俺は“S-駆”をマナゾーンに置き、2マナァ!!来いッ!“一番隊 チュチュリスッ”!!」

 

勝路マナ:2→0

 

チュチュリス「やってやるっス!!!」

 

 まるでコミックの中から飛び出したかのような、愉快なデザインの紅白ネズミがスケートボードに乗り、颯爽と登場する。

 

「“チュチュリス”は俺が使うビートジョッキークリーチャーのコストを1少なくする!そして、そのまま“ブレイズクロー”でシールドにアタックッ!!!」

 

ブレイズクロー「イヤッハーーッ!!!」

 

 凶戦士の鋭い鉤爪は護りなき盾を砕き、シールドの破片の雨霰が降り注ぎアントナンを襲う。

 

「シールドチェック…。トリガーは無しです」

 

 どうやら“奇跡”を掴み取る事は叶わなかったようで、盾の中に埋め込まれていた1枚のカードがアントナンの手札に加わる。

 

「俺はこれでターンエンドッ!」

 

<TURN CHANGE:sideアントナン>

 

「私のターン…。ドローッ!!!」

 

 ドローして早々、アントナンは火文明のカードをマナゾーンに置き、全てをタップする。

 

「私は2マナを支払い、超次元ゾーンから召喚を行いますッ!!!」

 

「超次元ゾーンからだとッ!?」

 

「いでよッ!!“アングリーバーガー”!!!」

 

アングリーバーガー「キシャー!!!」

PW:2000

 

 戦場の異次元の穴が引き裂かれ、内部から現れたのはアメリカのジャンクフードたるハンバーガー…を模した独特な容姿のクリーチャー…。

 ここまでそっくりだと、クリーチャーが擬態してのか、調理されたのに関わらず動いているのか分からない。

 

「“アングリーバーガー”…。こいつは一体、どんな能力を持ってんだ…?……おい!テキストを確認させろ!!」

 

「ハァ?嫌に決まってるじゃないですかァ。コレはれっきとした真のデュエルなのですよォ?そう易々と情報を与える訳がないじゃないですかァ?」

 

「グヌヌヌ…!」

 

 要求虚しくアッサリと断られてしまった勝路は、ロクな情報も無しに全く未知のクリーチャーを相手しなければならなくなる。

 

(シールドの数では俺の方が上とはいえ、情報戦で有利なのは圧倒的に奴…。もう悩んでる暇なんてねェ!次のターンでケリをつける…!)

 

「フッ!私はコレでターンエンド!」

 

<TURN CHANGE:side勝路>

 

(このターンで…決める…!)

 

勝路手札:3→4

 

 このターン内での決着を決意した勝路は、火文明のカードをマナゾーンへ置くと全てのリソースを一気に放出する。

 

「俺は二体目の“ブレイズクロー”を召喚ッ!!!これによって、コイツは更に3コスト軽減され、“チュチュリス”の効果でオマケに1軽減!つまり……俺が支払うコストは1ッ!!!」

 

勝路マナ:3→2→1

 

 既に“切り札”を引き寄せていた決闘者は、たった今召喚した凶戦士の上にカードを重ね、勝利皇帝(ガイアール)の力を受け継いだ紅の大猿を降臨させる。

 

「これが俺の切り札だッ!!!来やがれッ!!“我我我 ガイアール・ブランドォ”!!!」

 

G・ブランド「イーーッヤッハァァァァ!!!」

 

 凶戦士を媒介に降臨せしは、パンドラ世界の英雄の名と魂を受け継ぎし、ビートジョッキーの王“我我我 ガイアール・ブランド”。

 その圧倒的な速さから、勝路達が住まう世界においても速攻の頂点として数々の決闘者達の記憶にその名を刻んだ勇者だ。

 

「ブランド…?」

 

「来たァ!!!このデッキの切り札クリーチャーっ!!!実質的に勝路が場のクリーチャーは6体も同然だよっ!!」

 

「まだまだァ!!!俺はこのターン中に2体のクリーチャーをバトルゾーンに出してるッ!それによりコイツのコストは合計6軽減されるッ!

 

勝路マナ:1→0

 

「来いッ!“罰怒 ブランドッ”!!!」

 

罰ブランド「マジでBADだぜェェェェェ!!!!!」

 

 戦場の地面から巨大な火柱が立つと、その中から巨大なギアが特徴の鎧を身に包み、ホバーボードを乗りこなすもつ1匹の大猿が降臨する。

 

「たった3コストで大型クリーチャーを2体も…!」

 

「おっと?()()()()()()()()()?」

 

「ひょ?」

 

「俺の手札の最後の1枚がこのクリーチャーである時…!コイツをコストを支払わずに召喚することができるのさッ!!!三度降臨せよォ!!!“轟轟轟 ブランドォォォ”!!!」

 

 このターン四度目となる紅のカードがバトルゾーンに置かれると、天より巨大なロケットが着陸する。

 ロケットは凄まじい轟音を響かせ、人型へ変形するとロケットは白銀の鎧を身に包んだ大猿へと変わる。

 

轟ブランド「俺ちゃん参上ッ!!!行くぜ行くぜ行くぜェェェェェ!!!!!」

 

「す、すっご…!たった1ターンで大型クリーチャーが一気に3体も召喚されちゃった…!」

 

「……」

 

「アレ?どうしたのウィナーさん?そんなにブランドシリーズのカードを見つめてさ?」

 

 皆が勝路の大量召喚に驚く中、ウィナーだけは召喚された3匹の大猿の王に視線を向けていた。

 

「…分カラナイ。タダ…アノクリーチャートハ、何処カデ会ッタヨウナ気ガスルンダ…」

 

 ウィナー本人にも、何故自分が大猿達にここまで興味を惹かれるのか分からない。

 ただ……自身が失った記憶…よりも更に深い()()()()()()()()がウィナーに強烈な既視感を覚えさせているのだ。

 

「どうだアントナンッ!この物量はそう簡単には返すことはできねーぞッ!!!」

 

「クッ…!」

 

「このターンでしまいだッ!!!“罰怒 ブランド”でW・ブレイクッ!!!」

 

罰ブランド「ヒャッハーッ!!!」

 

アントナン盾:4→2

 

「シールドチェック…。……クハハハッ!!!流石は私ィ!!!S・Tッ!“粉砕拳 グルメスクラッパー”!!!この呪文は、パワーが7000以下になるように相手クリーチャーを選んで破壊するゥ!!!私は“ブレイズクロー”と“チュチュリス”を選んで破壊ィ!!!」

 

 アントナンが呪文を詠唱し終えると、暗雲立ち込める空から紅に染まる巨大な右腕が出現し、拳パーツが分離する。

 すると、分離した腕パーツから強力な風が発生し、指定通りブレイズクローとチュチュリスは吸い込まれてしまった。

 

「PONPONッ!クラッシュッ!!コレぞ、我がコズミック・イーターに伝わる伝説の調理器具、グルメスクラッパーですッ!!!」

 

 幸いな事に粉砕(クラッシュ)されたクリーチャーはグロテスクな姿を見せる事はなかったが、それでもようやく出会えたクリーチャーが無惨に殺された光景はショックだったようで、勝美は体操座りで俯いている。

 

「うう…!クリーチャーちゃんがあんなプラゴミみたいな呪文の餌食に…!」

 

「それがどうしたァ!!!まだ俺のバトルゾーンにクリーチャーは居るぜッ!!!次は“轟轟轟 ブランド”で攻撃だァ!!!」

 

 轟轟豪 ブランドはW・ブレイカー。そして、アントナンの残りのシールドはあと2枚。

 加えて勝路の場には我我我 G・ブランドが居る。このクリーチャーは攻撃後に破壊され、進化元のクリーチャーを残した上で自分のクリーチャー全てにスピードアタッカーを与え、アンタップする能力を持っている。

 

 つまり、攻撃が可能なクリーチャーは実質6体も居る訳だ。この物量を返すにはそう簡単にはいかないだろう。

 

「行っけェェェェェ!!!!!ブランドォォォッ!!!」

 

「……ッ!!駄目ダッ!勝路ッ!!!」

 

「なっ…!?ウィナー…!?」

 

 何か勘のような物が働いたのだろう。勝負を急ぐ勝路をウィナーは止めようとするが、時既に遅し。

 “轟轟轟 ブランド”のカードはタップされ攻撃が確定してしまう。

 

轟ブランド「チェストーーーッ!!!!!」

 

アントナン盾:2→0

 

「クハハハッ!!!運命はァ…!私の味方なのだァァァァァ!!!!!」

 

 盾の中より光り輝くのは無色の閃光。

 

「ソレハ…!アグ…!グアァァァァアアァァァッ!!!!!」

 

「ウィナーさん!?どうしたのウィナーさん!?しっかりしてよ!!!」

 

 純白の閃光を目にした瞬間、激しい頭痛がウィナーを襲う。まるで、厳重に塞がれていた筈の封印が内側から強引に破られるような苦痛…。

 痛みのあまり、ウィナーは苦しみ悶え倒れてしまう。

 

「ウィナーッ!!!」

 

「よそ見をしている場合ですかァ!?貴方のバトルゾーンをご覧なさいッ!!!」

 

「俺のバトルゾーン…?ーー!!! んだよ…これ…!?」

 

 アントナンに促され、自身のバトルゾーンに視線を戻した勝路は、その異常な光景を前に目を見開き驚く。

 

「G・ブランドが…!()()()()()()()()()()()()…!?」

 

 勝利へのラストアタックを決める筈だった三体目のブランド。しかし、彼に生気は感じられない。

 まるで、魂を喰らわれたかのように真っ白に燃え尽き、ただ立ち尽くしている。

 

「S・T…“捕食王の牙(グルマン・ファング)”。この呪文は、相手のクリーチャーを1体選び、次の貴方のターンの始めまで()()()()()()()()()()効果があります」

 

「無視だと…!?だ、だが!進化クリーチャーが召喚酔いしないのは、能力じゃなくてルールだ…!まだ俺に打点はある…!!」

 

「おっと、そうはメメントモリ…いや、問屋が卸しませんよォ?私は手札に加えた“調和の理 フランペ”のG・ストライクを宣言。このターン、G・ブランドは攻撃不可能です」

 

「クッ…!」

 

 次々と繰り出される未知の呪文を前に、勝路の軍勢は崩壊し遂に攻め手を失ってしまう。

 

「俺は…“罰怒 ブランド”のマスターBADの効果で、“轟轟轟 ブランド”を破壊…。ターン…エンドだ…」

 

 もはや打つ手を失った勝路は、最後に残った1枚の手札に全てを賭け、ターンエンドを宣言する。

 

「コズミック…イーター…!グルマン…!」

 

「ウィナーさん…!しっかりしてよぉ…!!」

 

「ピーピー煩いですねェ。そこで大人しくしておきなさい“旅人”よ。そこの食材を殺した後は、一瞬で楽にしてあげますから」

 

<TURN CHANGE:sideアントナン>

 

「ククク…!さっきはよくも食材の分際で私を驚かせてくれましたねェ…!そのお礼に貴方に教えてあげましょう…!コズミック・イーター料理長の御業を…!!!」

 

アントナンマナ:3→4

 

「まずは“アングリーバーガー”の能力を発動ッ!!!私がこのターン初めて召喚するコスト8以上のコズミック・イータークリーチャーのコストを3少なくするッ!!ただし…クリーチャーを召喚した後、“アングリーバーガー”は破壊される」

 

「ヘッ…!能力の無駄打ちか…!?お前のマナゾーンには4枚しかカードが無いッ!!!8−3は5だってことすらも知らないのかよ!?」

 

「ハァ…。どうやら貴方はつくづく料理人には向いていないようですねェ。料理人にとって、目の見える“食材”は模範解答ではありません。目に見えない裏まで理解する事で、初めて一流の料理人へ成れるのですよォ?」

 

「んだと…!?」

 

「シンパシーを発動ッ!!!対象は当然、バトルゾーンにあるコズミック・イーターッ!!!私のバトルゾーンには“アングリーバーガー”が居ますッ!彼の能力とシンパシーで合計4軽減ッ!!!」

 

アントナンマナ:4→0

 

「偉大なる捕食王に仕えし厨人(くりうど)よ…!その炎を以て、主に仇なす愚者を滅殺せよォ!!!」

 

 天より堕ちしは紅蓮の火球。

 そして“それ”は新たな生命を宿した卵でもある。

 

 悠久の眠りから覚めた生命は、細胞に刻まれた記憶を頼りに火球を四分割へ引き裂き、この世に解き放たれる。

 

「目覚めよ我が魂ッ!!!“調和の炎 BH(バーニング・ハーモニー)アントナン・カレーム”を召喚ッ!!!」

 

「アントナンだとッ!?その名前…!それにその言い方…!やっぱりお前は…!」

 

グルル…!!!キシャァァァァァッ!!!!

 

 戦場に降臨せしは紅蓮の龍皇。その姿は不死鳥(フェニックス)のように美しく、惑星のように雄大である。

 

「あれって…!アポロヌス・ドラゲリオン…!?」

 

「アポロヌスだとォ?チンケな不死鳥如きと一緒にするんじゃないィ!!!私こそは太陽その物であるゥゥゥゥ!!!!」

 

 愛の化身アポロヌス・ドラゲリオンにも似た容姿を持ちながら、より龍らしい禍々しさを併せ持つ巨大なクリーチャー、アントナン・カレーム…。

 産まれたばかりにも関わらず、その本能で敵を判別した紅龍は唸り声を上げながら、愚者である勝路を見下す。

 

「まだ終わりではありませんよォ!!!先ほど手札に加えた“フランペ”の能力を発動ッ!!!私のバトルゾーンにコスト8以上のコズミック・イータークリーチャーが居る時、手札から踏み倒せますッ!!!」

 

フランペ「ハッ!!!」

PW:6000

 

「そして…私を召喚したので、“アングリーバーガー”は破壊されます」

 

「それでも…!アントナンのバトルゾーンには2体の大型クリーチャーが居る…!」

 

「さぁ!!!仕込みは終わりましたッ!!!いざ……調理開始ィィィィィ!!!!!」

 

 戦場へ集結した2体の料理人(コック)。その先陣を切るのは、料理長に遅れて招集された“フランペ”だ。

 

「クソッ!こいつはスピアタかッ!!!」

 

「それもただのSAではありませんッ!!!コイツはW・ブレイカーですッ!!!さァ、愚者の命を削りなさいッ!!!」

 

 料理龍が吹く炎は盾を容易く溶かし、数百度にも及ぶ高熱の雨が少年に襲い掛かる。

 

勝路盾:5→3

 

「危ナイッ!!!」

 

 だが、すんでの所でウィナーが勝路を吹き飛ばし、運良く怪我は回避する。

 

「良カ……ッタ……」

 

「ウィナー…!なんで…!?」

 

「理由ナンテ…ナイ…。タダ…オマエハ……俺ヲ…助ケヨウト…シテクレタ…。ダカラ…俺ハ……オマエヲ…助ケタ…」

 

 吹き飛ばした衝撃で頭部を激しく損傷してしまったウィナーは気を失ってしまう。

 助けられた勝路は、ただ“あの時”のように立ち尽くすしかなかった。

 

「チィ!運の良い奴めッ!!だが……まだショーは終わってませんよォ!!!」

 

「しまっ…!」

 

「“アントナン・カレーム”でアタックッ!!!す・る・と・き・にィ?アタックトリガー発動ッ!!!」

 

 “フランペ”の身体から赤いオーラが放出されると、紅龍に吸収され紅蓮の炎は更に火力を増す。

 

アントナン・カレーム:PW6000→9000

 

「パワーが…上がった…?」

 

「“アントナン・カレーム”はバトル・超次元ゾーンにあるコズミック・イーターの数だけパワーが3000上がるのですッ!そして〜?このクリーチャーのパワー以下の君のクリーチャーは全て破壊されるのですッ!!!」

 

「マズい…!今のG・ブランドは能力が無効化されてる…!」

 

「食材にもならぬ薄汚い大猿よォ!!!灰となり土壌の肥やしとなれェ!!!」

 

 紅龍の炎が口から放たれ、大猿達に襲い掛かる。スピードに自慢のある猿王達は回避を試みるが、その巨大に比例するように広範囲に渡る炎の洪水を躱わすには、スピードが足りずに燃やし尽くされてしまった。

 

「コレで終わりではありませんよォ!!!“アントナン”の能力で墓地に送られたクリーチャーの数ゥ!!シールドをブレイクするのですッ!!!」

 

「ってことは…!勝路の墓地に送られたクリーチャーは4枚だから…!」

 

「さあ、ココで簡単な算数の問題です!3-4の答えはなんでしょうか?」

 

「マイナス…1だ…!」

 

「大正解ィィィィィ!!!!!」

 

 紅蓮の炎に焼き尽くされて勝路の命綱だったシールドは全て灰と化す。

 それでも希望はまだ残っている。そう…S・Tという希望が…。

 

「最後の…!シールドチェック…!」

 

「お願い神さま…!勝路に…!S・Tを…!」

 

 これまで神など信じてこなかった勝路は人生で初めて神に祈りながらシールドを確認する。

 

 そんな祈りなど無駄だと忘れて。

 

「俺のシールドに…!トリガーは無い…!」

 

「そうだ…!勝路のデッキは速攻デッキ…。トリガーなんて入ってるわけがないじゃん…」

 

 守りを捨てて攻めに徹するのが速攻デッキの本領。刹那的な生き方を良しとする彼ら(デッキ)が守りを求める筈が無い。

 

「どうやら万策尽きたようですねェ?なら……死ね」

 

アントナン「グギャラゴォォォォ!!!」

 

 無防備となった勇者を灰とするべく、紅龍の炎が放たれた。手札に防御札は0。この状況で革命や大逆転などありやしない。

 

 勇者が迎える結末は『死』ただ一つだけだ。

 

「避けてっ!!勝路ーーーっ!!!」

 

……………

…………

………

……

「ココ…は…?」

 

 “旅人”が目を覚ました時、そこにあったのは無数の星々が煌めく銀河だった。

 

 常人には平衡感覚すらも失ってしまいそうになる程、見分けのつかない殺風景な景色…。

 

 だが、“旅人”にはこの場所に()()()()()()()

 

『目覚めたか“自由(ジョーカー)”の力を受け継ぐ龍よ』

 

 謎の声が“旅人”の耳に届く。

 

 “旅人”はその声を知らないし、姿も見えない。

 

 しかし、どこか懐かしい声だ。

 

「アンタは…?」

 

 “旅人”は姿なき来訪者に向けて問い掛ける。

 

『オレはただの“旅人(カウボーイ)”さ。今は相棒と共に仲間を助ける為に旅を続けている。ただ…決して()()()()()()()()()()()()

 

「どういう事だ…?教えてくれ!アンタは俺の何を知ってる!?」

 

『悪いがオレはその答えを教える事は出来ない。オマエ自身の過去は、オマエの旅路の中にしか無いのだから』

 

「俺の…旅路…?」

 

『思い出せッ!!!オマエ自身の“使命”をッ!!!そして…オマエの真の名をッ!!!』

 

「グッ…!グアァァァアアァァァァア!!!」

 

 まただ。“旅人”の真の名を思い出そうとする度に、過去から目を背けるように激しい頭痛が襲い掛かる。

 

『耐えろッ!!その痛みは試練だ!!試練を通過せずには“旅人”はただの“人”なるッ!!!過去から目を背けるなッ!』

 

「そう…だ…!!!俺は…!俺の“使命”は…!!!」

 

『もうゴールは見えているッ!!!さぁ“旅人”よッ!今こそ、その名を叫べッ!!!オマエは…!!』

 

「俺は…!!!」

 

……

………

…………

……………

 

「避けてっ!!勝路ーーーっ!!!」

 

 姉の悲痛な叫びが地獄全体に木霊する。

 

 しかし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!!!

 

 紅龍の炎が勇者の命を奪う事は終ぞ無かった。

 

「・・・あれ?俺…生きてる…?」

 

 急死に一生を得た勇者は、自身の起こった状況を理解出来ず…

 

「き……!貴様ァ…!!!」

 

 認めたくない現実に直面してしまった人の器に宿りし紅龍は身体をワナワナ震えさせる…。

 

 何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 勇者の前に立ち、黄金の大剣を携えた者こそが龍が最も恐れていた“旅人”なのだから。

 

「ウィ……ナー……?」

 

「…大丈夫か?」

 

 勇者の窮地を救った“旅人”は片方の手を差し伸べる。

 その言葉は勝路の知るウィナーとは思えない程、力強く優しい物だった。

 

「お前…喋れたのか…?」

 

「…話は後だ。今は目の前の“敵”を倒す」

 

 そう優しく諭し勇者は後方へ避難させた“旅人”は、その怒りを表すように刃先を紅龍へ向けた。

 

「遂に目覚めたなァ!!!旅人ォォォ!!!だが問題ないィィィ!!!今ココで貴様を殺しィ!!!その血肉を我が主の胃袋へ捧げるやるぞォォォォォ!!!!!」

 

「フン!!やれるものならやってみるがいいッ!!!来いッ!!!“銀河の旅人(ギャラクシー・ウォーカー)”達よッ!!!」

 

 己の真名を思い出した“旅人”に呼応するように、40枚の光のカードが時空を突き破りの主人(マスター)元へ集まり1つの束と化す。

 

「我が名はウィナー!ウィナー・ザ・ジョーカーッ!!!“銀河の旅人(ギャラクシー・ウォーカー)”の名の元に…!コズミック・イーター!!!貴様らを討ち滅ぼすッ!!!」

 

 本当の戦いはここから始まる。




勝美:それにしてもビックリしちゃった!まさかウィナーさんがクリーチャーだったなんてさ〜!

勝路:いや、もっと他に驚くことはあんだろ!?俺が死にかけたとかさ!!

勝美:…あっ、確かに。

勝路:確かにぃ!?

次回 デュエル・マスターズK×K!

『復活の太陽 輝け!ウィナゴン!』

ウィナー:記憶を失いし旅人よ!今ここに再誕し、天を照らす光となれッ!!!

勝路:最後の最後でようやく喋るのかよ!?

【オリカ紹介】
♦︎調和の炎 BH(バーニング・ハーモニー)アントナン・カレーム
文明:火文明
コスト:8
パワー:6000+
種族:コズミック・イーター/クッキング・コマンド・ドラゴン
≪能力≫
■スピードアタッカー
■パワード・ブレイカー
■イーター・シフト火文明③: (このカードを使うコストの代わりに、[火(3)]を支払ってもよい。そうしたら、このカードを自分の超次元ゾーンに置き、以下の能力を発動し、このクリーチャーは超次元ゾーンから召喚してもよい。)
♦︎このクリーチャーが超次元ゾーンにある間、自分ターン中、相手のクリーチャーが出る時、かわりに墓地へ置かれる。(自分の《調和の炎 BH(バーニング・ハーモニー)アントナン・カレーム》のこの効果は、各ターン中1回のみ発動する)
■シンパシー:コズミック・イーター
■このクリーチャーのパワーはバトルゾーン・超次元ゾーンにあるコズミック・イータークリーチャーの1体につき+3000する。
■このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーよりパワーが小さい相手のクリーチャーをすべて破壊する。その後、墓地へ送ったカードの数だけ相手のシールドをブレイクする。
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