日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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タイミングの悪さが重なる

「おい、今、盗んだものを返せ。それはネビルのだ。」

 

その声を聞いて、振り返ると、真顔のポッターが立っていた。どうも、盗んだと思われたらしい。周りはさっきまで騒がしかったのにシンとして、こちらの様子を伺っている。

 

「別に盗んだわけではないさ。この後、しっかりロングボトムに返す。話したいこともあるしね。」

 

「君がやる必要はないだろう? 僕がやる。こっちに渡してもらおう。」

 

「………それこそ、君がやる必要もないだろう? しっかり返すさ。ロングボトムは大事な友人だし。」

 

「スリザリンのお前なんかを信用できるか!!」

 

いきなり、隣のウィーズリーが怒鳴った。その言葉には多くのグリフィンドール生が賛同しているらしく、心なしかことらを睨む人数が増えた気がした。そんな中、グレンジャーは何を言うのでもなく、ただ顔を背けた。

ウィーズリーの言葉は同時にスリザリン生の反発も引き起こした。

結果、俺とポッターが向かい合っている周りで寮対抗の言い争いが引き起こされた。

俺はどうしたものかと何もできずにただ立っていただけだが、ポッターはしびれを切らしたらしい。

 

「こっちに寄越せったら!」

 

そう強く言うと、こちらににじり寄って来た。と、同時に手からガラス球の重みがなくなった。そちらを見ると、何とドラコがガラス球を持ってポッターを睨みつけていた。

ポッターが一瞬怯んだのを見て、すぐさま箒に乗り、樫の木の高さまで舞い上がっていった。

 

「どうした、ポッター。ここまで来てみろよ。」

 

挑発までしている。

突然のできごとに多くの人と同じように、俺も固まった。

ふと、視界に入ったブレーズを見ると、彼はウインク一つして口パクで

 

「ツ・ン・デ・レ」

 

と言った。俺が状況を理解するには、それだけで十分だった。

 

挑発を受けたポッターはグレンジャーの声も聞かず箒に乗ってドラコの所まで飛んでいった。その乗りさばきは見事なもので、ドラコもまずいと感じたのだろう。持っていたガラス球を高く放り投げた。

 

あーあ、後で弁償だな、ありゃ。すまん、ロングボトム。あとでしっかり謝る。

 

そんなことをのんきに考えながら。事の行方を見ていた。

正直、事の行方なんてどうでも良かった。

ただ、ドラコが俺の味方をしてくれたこと。俺のために、ポッターの相手をしてくれたこと。それだけで十分だった。

だから、ポッターが見事ガラス球をキャッチしたこと、直後、マクゴナガル先生に連行されていったことにあまり罪悪感はなかった。

ポッターが連行されてから、俺はドラコに話しかけることができた。

 

「ありがとな。おかげで助かったよ、ドラコ」

 

「別に、君のためじゃないさ。ポッターがムカついた。それだけさ。」

 

どことなく冷たい感じだが、ブレーズとの会話を思うとおかしく思えた。

ここで笑ってはいけないと腹筋に力を入れながら、本題に入る。

 

「なあ、誤解を解きたいんだ。聞いてくれるか。」

 

返事はなかったが、ドラコはここを動く気はない様だ。聞いてくれるのだろう。

 

「あのな、マグルの追放には反対だが、何も純血主義を嫌っているわけじゃないんだ。」

 

「何だい? 言っていることが矛盾しているよ?」

 

「してないさ。純血主義は何もマグルの追放だけじゃないだろう? 区別することも立派な純血主義だろ?」

 

「? どこがだい?」

 

「要は、俺が目指すのはマグルの環境に置かれていた者とそうでない者の区別を明確にするべきだと思っているんだ。魔法はさ、マグルにとっては危険すぎるんだ。魅力的すぎる。だから、いきなりそれを手にしたらどうなるかなんて誰も予想できない。………俺を含めてね。今は、まだいいさ。でもその内、今みたいに魔法使いがマグルの世界で好き勝手やって、知らない奴を魔法界に呼ぶなんてことをしていたら大きな問題になる。魔法界でもマグルの世界でもね。そして、もっとマグルとの溝が深まるんだ。それを止めたい。」

 

「………要は、魔法使いがマグルへの干渉を止めろと?」

 

「うーん。そんなものかな? 悪いな、上手くまとめられなくて。でも、これも純血主義に充分つながるだろ?」

 

「………まぁ、部分的だけどね。」

 

「なら、言いたいことは伝わった?」

 

「ふむ……。大体はね。そうか、魔法界に来るマグルじゃなくて人間界に行く魔法使いかぁ。まあ、純血主義の主張の一つではあるね。………まぁ、君が一応は純血主義者っていうことは認めるさ。」

 

「ああ、ありがとう」

 

「………確かに勘違いをしていたね。でも、僕はマグルを追放するべきだって考えているよ。そこはどう考えるんだい?」

 

「それは、これから一緒に考えていけばいいさ。初めて会った日に言っただろ? ただ、追放するだけの考えを止めようって。」

 

「………そうだったね。その時から勘違いしていたのかもね。………僕が悪かったよ。」

 

ドラコから謝罪が出たのには素直に驚いた。それは周りも同じで、ブレーズは

 

「マルフォイが謝った!!」

 

とつい叫んでしまい、ドラコに追いかけられる羽目になった。赤面しながら追いかけるドラコを見て、また仲良くやれそうだと確信した。

 

 

 

その日の夜は、まだゴイルが部屋にいた。荷物の整理とかで、帰ってくるのは明日だとか言っていた。ドラコの機嫌が直って、クラッブが久しぶりに安眠できると喜んでいたそうだ。

それを聞いて、密かにクラッブに何か奢ることを決意した。

朝になり、大広間に行くと、既にドラコたちがポッターに絡んでいた。何を言っていたかはわからないが、何事もなく終わったようだ。

その日は、久しぶりにドラコと行動した。前と違うことと言えば、ブレーズとパンジー・パーキンソン、ダフネ・グリーングラスの三人がちょくちょく加わるようになったことだ。

パンジーは以前からドラコにアタックしていたため、そこまで不思議ではなかったし、俺にとってブレーズはドラコの次に仲のいいスリザリン生なので大歓迎だった。ただ、ダフネ・グリーングラスは真意がよくわからなかったが、ドラコは彼女が気に入っているのか特に何も言わず、自然と話の中に入った。

この日を栄えに、たまに五人で行動するようになった。大きな進歩だと思う。

 

 

 

次の日、ポッターの前に大きな荷物が届いた。多くの人が気になってみていたが、ドラコは違った。

 

「ジン、こっちに来い。ポッターに追い討ちをかけるぞ。」

 

と、大広間を出て行った。急いであとを追い、しばらくするとポッターとウィーズリーが興奮した面持ちで大広間から出てきた。二人は俺たちを見て固まり、その隙にドラコが包みをひったくった。

 

「箒だ。今度こそおしまいだな、ポッター。」

 

ドラコは妬ましそうにそう言って包みを投げ返した。状況を把握すると同時に、箒が羨ましいんだな、となんだかドラコが幼く見えてきた。

 

「ただの箒じゃないぜ? なんたって、二ンバス2000だぜ!」

 

自慢げに語るウィーズリーとどこか誇らしげなポッターに「論点がずれてるぞ」とツッこみたくてたまらなくなった。しかし、ツッこむ間もなく会話が繰り広げられる。

 

「君の箒、コメット260かい? コメットは派手なだけで、二ンバスとは格が違うんだ」

 

「君に何がわかるんだい、ウィーズリー」

 

そうだ。ドラコの言いたいことはそんなことじゃないんだ。

 

「柄の半分も買えないくせに」

 

そんなことでもないと思う。

 

と、何も言えずにただ、目の前の口論を見ていると、フリットウィック先生が仲介に入った。

 

「先生、ポッターのところに箒が送られてきたんです。」

 

早速、先生に報告するドラコだが、

 

「いやー、そうらしいね。マクゴナガル先生が話して下さったよ。」

 

と、先生は怒る様子もない。どうやらポッターへの特別措置らしい。先生とポッターは箒について談笑した後に、こちらをニヤニヤながら見て

 

「実は、あの二人のお陰で買っていただきました」

 

と言ってきた。これには流石に俺もイラっときた。

何が俺達のお陰だ。お前がただ勝手に難癖つけてきただけだろ。規則破って自慢すんなボケ。

危うく口に出かけたが寸でのところで抑えた。ただ、顔には出ていたようだ。先生が心配そうにこちらを見ている。

胸糞が悪いとはこのことを言うのか。とりあえず、ドラコと荷物を取りに戻ろうとした。

しかし、そこで脇からグレンジャーが出てきた。

先程までの会話を聞いていたのだろう。何だか申し訳なさそうな表情で、しばらくこちらを見ていた。

そういえば、グレンジャーの誤解も解かないと、とは思うが、あいにく今はいい言葉が出てこない。口を開けば悪態が出そうだった。悪いとは思うが、何も言わずにドラコと通り抜けてしまった。

通り抜ける際、なんだかグレンジャーが泣きそうな顔をしていた気がした。

 

 

 

 

 

ハーマイオニーは既に自分が勘違いをしていたことに気がついていた。実は、飛行訓練の際にマルフォイとジンの会話を密かに聞いていたのだ。

勘違いといっても、あれはジンの言い方が悪かったと思っている。あれはYESかNOでも限りなくNOに近いYESだ。純血主義だなんて揚げ足を取っていると言っても過言ではない。

しかし、YESかNOで回答を求めたのは自分。全部が全部、ジンが悪いわけではない。

そう思って、何とかジンとの誤解を解こうとしてチャンスを伺っていたのだが、昨日からジンの周りにいるスリザリン生が増えた。そこで楽しそうにしているジンを見て、「自分は彼にとってどうでもいい存在なのでは?」という疑惑が浮かんでしまった。加えて、その日の夜は三頭犬からの逃走劇もあって衰弱していた。そこに先程の睨みとともに何も言わずに去っていく彼の姿を見て、もう彼の友達かどうかの自信が持てなかった。

そんな苛立ちや悲しみが渦巻いて、いつも以上にきつく二人に当たってしまった。気がつけば、未だ談笑している二人に

 

「校則を破って、ご褒美をもらったと考えているわけね?」

 

という言葉をぶつけていた。

 

「あれ? 僕たちとはもう口を聞かないんじゃないの?」

 

そう言う二人の自分がまるで全く悪いことをしていません、という態度に、話す気も失せて、さっさとそこから立ち去った。

 

残ったのは虚しさだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、エックンです
これが、現時点での最新話となります(引越し完了)

ここに引っ越して早くも評価やお気に入りをしてくださった方がいらしゃって、とても嬉しです。
文章でうまく表せないのですが、本当に感謝してます

どうか、これからもよろしくお願いします。

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