日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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何かすると、何か起こる

未だにグレンジャーの誤解を解くことができずにいた。

ポッターが箒をもらってから、ドラコの機嫌は最悪だった。以前に増して、何かあるごとにポッターに突っかかるようになった。グリフィンドールへの対応も悪化した。

そんな中、グレンジャーのことを話題に出したら切れることは目に見えている。流石に、仲直りができてすぐ喧嘩の火種なんて作りたくない。

そもそも、スリザリンのほとんどはグリフィンドールとマグル生まれを嫌っている。その両方を満たしているグレンジャーについてなんて、誰にも相談できなかった。

唯一、知り合いで相談できるのはロングボトムだけだが、寮が違うので話す機会は無いに等しい。

特に解決策も思い浮かばず、時間だけが過ぎ、気がつけばもうすぐハロウィンという時期になった。

ハロウィンをとうとう前日に控えた今日、学校全体が浮かれていた。着ていくものや、でるであろうご馳走について盛り上がっている。

パンジー・パーキンソンもその一人だった。

談話室で一人、宿題をしている俺に話しかけてきた。

 

「あ、いたいた。ねぇ、明日ってハロウィンじゃない? ドラコって何か予定あるかしら?」

 

「ドラコ? いや、無いだろ。明日は楽しみだとは言っていたが。」

 

「じゃあ、お願い! 明日、一日中ドラコを貸して!」

 

「………まあ、二人きりになりたいなら協力はするよ。けど、ドラコに直接頼まないのか? 二人きりとは言わなくとも、一緒に過ごそう位はさ。」

 

「言えたら言ってるわよ! 恥ずかしくて言えないから、こうして頼んでるんじゃない!」

 

「そりゃそうだな (あれ? もっと恥ずかしいことしてなかったか? 腕組んだりとか………) 」

 

「言うのが恥ずかしいなら、ふくろう便でも使えよ。そっちのほうがロマンチックだろうし。」

 

そう言いながら、ブレーズが会話に入ってきた。

 

「今書けば、明日の朝か昼には届くだろ。そっちの方がいいんじゃないか?」

 

「ふくろう便って、学校の奴にも送れるのか?」

 

「何だ、そんなことも知らなかったのか? ポッターの箒の件を思い出してみろ。ありゃ、マクゴナガルからのもんだろ。生徒の間じゃ、告白とか秘密の呼び出しにはうってつけの方法なんだぜ。」

 

「それよ! あなたって天才!」

 

そう言って、ブレーズとパンジーは手紙に何を書くかについて盛り上がり始めた。が、俺はそれどころではなかった。

ふくろう便! その手があったか! 今書けば、明日の朝か昼には届くらしい。ハロウィン当日なら多少は気が緩んで俺の話を聞いてくれるかもしれない。

そう考えると、未だに話し込んでいる二人をおいて、急いで自室の戻り手紙を書いた。内容は、どうか会って話をしたいというメッセージだけだが、何とか思いが伝わるように慎重に書いた。

書くのに思ったより時間がかかってしまった。

場所は大広間から少し遠めの所にあるグリフィンの像の前を指定しておいたから、こっそり出ることさえできれば二人で話すことは可能だろう。

その日は手紙を出したら、直ぐに就寝時間になってしまった。

 

 

 

ハロウィン当日、朝から美味しそうな料理の匂いが漂ってきた。寮など関係なしに皆がウキウキしている。

午前の授業が終わり、昼食をとっている間にハロウィンのパーティーは用事があって少しの間だが抜けることをドラコたちに伝えた。ドラコは不満そうな顔をしたが、パンジーとブレーズは昨日のやりとりから俺がパンジーのためについた嘘だと思っているようだ。特に問題もないので何も言わずにスルーはしておいた。

午後の授業が終わり、皆が大広間に向かっている間に俺は手紙に書いた待ち合わせ場所に向かった。

 

「あ、ジン! ちょっといいかな?」

 

しかし、途中でロングボトムに声をかけられた。スリザリン生でなかったことにホッとしつつ、どうした? 返事をした。

 

「うん。実は、ハーマイオニーが午後から一切、姿が見えないんだ。昼食の時も大広間にいなかった。何か知ってるかなって思って。」

 

「グレンジャーが? そうか。俺は何も知らない。それより、昼の郵便の時もグレンジャーはいなかったのか?」

 

「? うん。見当たらなかったよ? どうしたの?」

 

「いや、実はな………」

 

ロングボトムにグレンジャーとの仲違いしたこと、昨日の手紙のことを説明した。喧嘩の要因については少しばかり説明に骨が折れたが、ロングボトムはすんなりと状況を理解してくれた。

 

「で、ジンはどうするの?」

 

「とりあえず、グレンジャーの捜索だな。手紙は読んでないに決まってるから、ここにいても仕方がない。」

 

「じゃあ、僕も一緒にさがすよ!」

 

「助かるけど、いいのか? 大広間じゃ、ハロウィンパーティーをしてるんだ。無理して協力しなくてもいいんだぞ?」

 

「うん。いいんだ。二人がずっと喧嘩してるのは嫌だし。それに、このまま帰ったって気になって楽しめないよ。」

 

「………悪いな。」

 

こうして、ロングボトムと一緒に行動することになった。手分けして探そうかとも思ったのだが、ロングボトムの鈍さを考えると、一人にするのはなんとなく気が引けた。

二人で思いついた場所を探しているうちに、大広間からだいぶ離れた女子用トイレからすすり泣きが聞こえた。

 

「この声って………」

 

どうやら、ロングボトムにはグレンジャーの声に聞こえるらしい。しかし、場所が場所だ。入るか悩んでいるとロングボトムは先陣を切って入ってしまった。

 

「お、おい!」

 

驚いて止めようとしても、遅かった。仕方なく、俺も遅れてはいると、ロングボトムが閉まっているドアの前に立っていた。そこにグレンジャーがいるらしい。

誰かが来たことがわかったのだろう。音を立てまいとしているのがドア越しでもわかった。

 

「ハーマイオニー?」

 

控えめな声でロングボトムがそう呼ぶ。これでもし違っていたら処罰ものだと思ったが、杞憂に終わった。

 

「ね、ネビル!? どうしてあなたがここにいるの!? ここ、女子トイレよ?」

 

慌てたように言うが、その声は少し涙声になっており先程まで泣いていたのが手に取るように分かる。

 

「俺が頼んで、一緒に探してもらってたんだ。」

 

俺の声を聞いたとたん、息を呑むのがわかった。流石に予想外だったのだろう。グレンジャーが何か言う前に、畳み掛けるように話す。

 

「誤解を解きたくてね。以前、純血主義かと聞かれた時にYESとは言ったけど俺の考えを聞いてもらってないから………。せめて、何を考えて純血主義に賛同しているかは知ってもらいたい。それで、できれば許して欲しい。多分、グレンジャーが思っているような考えじゃないと思うから。」

 

しばらくの間、沈黙していた。しかし、か細い声でグレンジャーが返事をした。

 

「知っているわ。飛行訓練の時のマルフォイとの会話、聞いていたもの。」

 

なら、と話をしようとしたが、グレンジャーの話はまだ続いた。

 

「で、でも、あなた達だって、私のこと影で疎ましく思ってるんでしょ? 知ったかぶりで、頭の固い、あ、あ、悪魔みたいな奴だって………。」

 

そう言い切ると、またすすり泣く声が聞こえた。なぜ、グレンジャーがこんなにも自棄になっているのか分からない。俺は言葉につまり、何も言えないでいた。しかし、ロングボトムは違った。

 

「そんなことない!!」

 

普段の様子からは想像できないようなはっきりとした口調でグレンジャーの言葉を否定した。

 

「僕、ドジでノロマだから、他の人よりたくさん失敗するんだ。でも、そんな僕の手助けをしてくれるのも、色々教えてくれるのも、いつだってハーマイオニーじゃないか。魔法薬学も、変身術も、飛行訓練の時だって、助けてくれた。いくら僕でもそのことを忘れるなんてしないよ。それに、僕は、ハーマイオニーのこと、大切な友達だって思ってる。」

 

だから、そんなこと言わないで………。そう言い切ると、ロングボトムまで泣きそうになってしまった。

 

ロングボトムの言葉を聞いて、ようやく、状況がつかめてきた。グリフィンドールで何かあったのだろう。大方、友達に絶交を言い渡されたか何か………。それで、色んなことに自信がなくなって、喧嘩中の俺とも仲直りできないと思い込んでしまったのだろう。

俺だって、グレンジャーのことを友達だと思っている。しかし、そんな言わなくてもわかるようなことも、言わないと分からなくなっているのだろう。だったら、言ってやろう。

 

「なあ、グレンジャー。お前のことを疎ましく思っているなら、わざわざハロウィンパーティーを抜け出してまで探しに来ないよ。誰に何を言われたか知らないけど、俺達がお前と仲良くしたいって思うのは別問題だろ? 俺達はその誰かさんじゃないんだ。お前のこと、本当に大事な友達だと思っている。だから、泣いてないで出てきてくれよ。せっかくのハロウィンだ。一緒に楽しもう?」

 

気がつけばすすり泣きも止まっていた。少ししてトイレのドアが開き、グレンジャーが出てきた。恥ずかしげにうつむいているが、もう泣いていない。ロングボトムも、先程までの堂々とした態度とは打って変わって恥ずかしそうにモジモジし始めた。

正直、俺もさっきの言葉を思い返すと「何言ってんだ、俺は」と恥ずかしい気持ちに襲われる。でも、恥ずかしがってる目の前の二人を見ると、なんだか、自分のことを棚に上げてるようだが、余裕が出てきた。

 

「もう落ち着いたか?」

 

「え、ええ。あの、ごめんなさい。変なこと言っちゃって。」

 

「気にするなよ。それより、大広間に行こうか。急がないと終わっちまう。」

 

「そ、そうだよ。せっかくのご馳走だもの。食べたいよ。」

 

「そ、そうね。」

 

そう言って、トイレから出ようとした。が、出口に近づくと急にグレンジャーが立ち止まった。

 

「? どうかしたのか?」

 

「……ねぇ、何か臭わない?」

 

「トイレなんだ。当たり前だろ?」

 

「そうじゃなくて、何か別の………。」

 

「まあ、匂いなんて大したことないだろ。さっさと行こう?」

 

 

 

 

 

 

大したことがあった。

 

三人一緒にトイレから出たら、待っていたのは巨大なトロールだった。

 

 

 

 




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次回の更新は、遅めになってしまいそうです。申し訳ないです。

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