日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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テスト勉強のストレスをぶつけたら、完成してしまった。

投稿します。


イタズラ、後に私の望み

もう直ぐクリスマス休暇になる。

ゴードンさんと何通か手紙のやり取りをして、今年はホグワーツに残ることにした。

ゴードンさんは帰ってきてもいいと言っていたが、ハーマイオニーとの約束もある。ゴードンさんの宿に戻ったら、そうそう調べ物なんてできないのは分かっている。スネイプ先生の見張りとやらもできなくなる。無茶をさせないと決めた手前、頼まれた仕事はきっちりやらなくては………。

ホグワーツに残る理由はそれだけではない。両親の遺した本に書いてある、秘密の通路などの確認もしてみたいのだ。

両親の書いた本は、「私たちのホグワーツの全て」と言うだけあって、かなりの量のものが書かれている。勿論、それは授業の内容であったり、ホグワーツの歴史であったり、秘密の通路であったり。

ゴードンさんも了承してくれて、「好きにしていい。帰りたくなったらいつでも帰って来い」と言ってくれた。

ついでに、ホグワーツに残るのは、スリザリンでは俺だけだった。クリスマス休暇に何をするかという話で、俺がホグワーツに残ると言ったらちょっとした騒ぎになった。

 

「何故だい!? 別に、帰る家がないわけじゃないんだろ!? ここにいたって、楽しいことなんて無いだろうに……」

 

「ドラコの言うとおりだぜ。何だったら、俺の家に来るか? お前だったら、お袋も大歓迎だろうよ」

 

「そうだ! 僕の家でも構わない! 母上も父上も手紙で、是非君に会ってみたいとも言っていたんだ! どうだろう? 君さえよければクリスマスは僕の家で過ごすようお願いしてみるよ?」

 

「あー……。気持ちは嬉しいが、そう気にするな。俺にとっては、ここは初めての魔法界なんだ。充分楽しめるよ。それに、両親の本に書かれている秘密の通路だとかも確認してみたいしね。ああ、そうそう。一緒に残らなくても大丈夫。お前らだって、家族に会いたいだろ? ありがとな、二人共」

 

それを言うと、二人は何も言えなくなってしまった。両親のこととなると強く言えなくなるのだ。親切を利用するようで悪いが、まあ、嘘ではないので許して欲しい。終わったら全部隠さず話してやるから……。

 

 

 

 

 

クリスマス休暇の前日となった。魔法薬学の最後の授業で、ポッターもここに残ることが分かった。そういえばハグリッドが以前、ポッターが俺と同じ境遇だと言っていたな。色々あって、すっかり忘れてしまっていた。

ドラコはポッターが学校に残ることをからかっていたのだが、俺が視界に入ると直ぐに口を閉ざしてしまった。俺のことを気遣ってくれるならポッターをからかうのをやめればいいのに、どうやらそれだけはしたくないようだ。本当に、犬猿の仲ってやつだ。

 

「ジン・エトウ。少し待て。話がある」

 

魔法薬学の授業も終わり休憩時間に入ると、珍しいことにスネイプ先生が俺に声をかけてきた。ハーマイオニーのことがあってから、どうも意識してしまう。少し警戒しながら振り返った。

 

「どうかしましたか、スネイプ先生?」

 

「お前はこの休暇はホグワーツで過ごすそうだな?」

 

「はい。なにか問題でもありますか?」

 

「いや、何もない。むしろ好都合だ。……今夜、お前の部屋を訪ねよう。校長に頼まれて、お前に見せなくてはならない物がある」

 

「見せなくてはならない物、ですか?」

 

「左様。そうだな、九時頃にお前の部屋に行く。その時間にはしっかり待機しているように」

 

「分かりました。見せなくてはならない物とは、一体何ですか?」

 

「……すぐに分かることだ」

 

スネイプ先生は言いたいことだけ言うと、すぐにいなくなってしまった。俺もすぐにドラコたちのあとを追った。

この日は昼食を食べ終えると、帰宅する生徒はすぐに荷物を持って列車に乗らなくてはならない。ドラコ達に軽く別れを告げて、さっさと自室に戻った。

 

 

 

 

 

スリザリンの寮内は閑散なんてものではなかった。俺以外、誰もいないのだから。

チラリと時計を見る。まだ四時過ぎだ。あと五時間ほど、ここで時間を潰していなければならない。

談話室の暖炉に火を点け、近くに椅子を持って行き、図書室から借りた本を読む。普段は誰かしらの騒ぐ声が聞こえるはずだが、今はパチパチと薪の燃える音以外、何も聞こえない。

どれくらい経っただろうか? 本を読み続けていると、外から話し声が聞こえた。これだけ静かだと寮の外の話し声も聞こえるのだな、と少し感心しながらその会話に耳を傾けた。どうやら、二人の男性が話しているようだ。

 

「おいおい、いいのか、フレッド? ここ、スリザリン寮だぜ?」

 

「おいおい、怖気づいたのか、ジョージ? 心配すんなって。スリザリンにはクリスマス休暇に残っているような奴はダーレもいやしない」

 

「でもそれじゃ、反応がなくてつまらないだろ?」

 

「だからこそ、存分に暴れられるってもんだ。クリスマス中は苦情がなきゃ、何やっても先生だって大目に見てくれるのさ。それに正直、パーシーをいじるのは少し飽きたんだ」

 

「それは言えてるな」

 

……会話を聞くに、どうやら暇を持て余した二人組がスリザリン寮にイタズラを仕掛けに来たらしい。

声が似ていることを考えると、兄弟だろうか?

 

「さて、合言葉だが、何かいいのはないか?」

 

「さあ? どうせ、スリザリンのことだ。嫌味ったらしい合言葉に決まってる」

 

「じゃ、思いついた言葉を片っ端から言っていくか」

 

「OK。 じゃ、まずは……「純血」!」

 

惜しいな。それは先月の合言葉だ。

しかし、俺はどうしたらいいのだろうか? 止めるべきだろうか? いや、今はここには俺しかいない。だから他寮の奴を二人くらい中に入れても問題ないだろ。本音を言うと、少し静か過ぎて寂しかったのだ。

 

「なんだよ、「半純血」ですらないのか……」

 

「はぁ、お手上げだな。他に何かないか?」

 

「他ねぇ……。スリザリンにふさわしい言葉なんて、「卑怯者」ぐらいしか残ってないぜ?」

 

ギギギギギ‥‥……

 

「「おいおいマジかよ、当てちまったぜ……」」

 

「……勘違いしないでくれよ? 合言葉は「栄誉な名誉」だ。扉が開いたのは、俺が内側から開けたからだ」

 

なんだか感動したような呟きが聞こえたので、否定しながら扉から出る。

そこには赤毛の双子が立っていた。

俺はこいつらに見覚えがある。確か入学式の時、ものすごく遅いテンポで校歌を歌っていた二人組だ。

 

「なんでスリザリンが残ってるんだ!?」

 

「何でって言われてもなぁ……」

 

「毎年、スリザリン寮は誰もいないって聞いたのによ。ビルの奴、嘘ついたのか?」

 

「いや多分、俺が初めてなんだろ、スリザリンでここに残るの」

 

片方は俺に対する驚きを、片方は情報源であろう人物に対する怒りを露に話しかけてきた。ここまで言って、双子はまじまじと俺のことを見てきた。なんだか探るような目つきで、警戒しているのがわかる。

まあ、いきなり寮から出てきて、合言葉まで教えるのだ。無理もないだろう。しかも俺はスリザリン生。罠か何かを疑っているのかもしれない。しかし、ここで何もしないのでは始まらない。思いっきって、なかに誘うことにした。

 

「立ち話もなんだし、折角だ。中に入らないか?」

 

「え? いいのか?」

 

「構わないだろ。残ってるの、俺だけだし。秘密にしといてくれよ?」

 

そう言って、二人をスリザリン寮に案内した。案内といっても、扉をくぐって直ぐの談話室までだが。

案外素直についてきた二人は初めて入る寮に心を奪われ、興味深げに辺りをキョロキョロ見渡していた。

 

「好きなところに座ってくれ。何だったら、椅子を動かしても構わないよ」

 

「あ、ああ」

 

「そういえば、自己紹介もしてなかったな。俺はジン・エトウ。皆からはジンって呼ばれてる」

 

「ああ、俺はフレッド・ウィーズリーで、」

 

「俺はジョージだ」

 

「フレッドとジョージな。了解。……? ウィーズリー? もしかして、ロナルド・ウィーズリーの兄弟か?」

 

「ロンを知ってるのか? そうだ。俺達はロニー坊やのお兄さんってな。……あれ? ていうことは、お前、一年生!?」

 

「そうだけど?」

 

自分の兄弟の知り合いということもあってか、また、俺が年下だと分かってか、ようやく二人の意識が俺に向いてきた。

 

「うわぁ……。全然そう見えねぇ」

 

「年上だと思ってたぜ……」

 

「ああ、よく言われるよ。ところで、さっき外でイタズラするみたいなこと言ってたけど何するつもりだったんだ?」

 

「ああ、そのことか」

 

「何、ちょっとした実験さ」

 

「実験?」

 

「そう。俺たちの発明品のな」

 

「他の奴らに迷惑かかっちゃいけないからな。スリザリン寮まで来たってわけよ」

 

「イタズラする奴が迷惑かけちゃ悪いとは驚きだな……」

 

「「それは言わないお約束さ!」」

 

それから、二人の発明品というのを見せてもらった。最初の警戒心も、自己紹介のおかげだろうか? 今は無くなっていた。

持ってきていたのは本物によく似た偽物の杖、食べたら炎を噴くポテトチップス、時限式のひどい匂いを発する爆弾など、かなり本格的なものばかりだった。これを二人で作ったというのだから、本当に驚いた。

一通り見せてもらった後は、感嘆して賞賛以外の言葉は思いつかなかったくらいだ。

 

「これ、ホントにすごいな……。販売だって、夢じゃないだろ」

 

「お、ありがとさん! しかしなぁ、研究もなかなか楽じゃないんだよな」

 

「そうそう。まずは見つからないように場所探しから始めないといけないし」

 

「どっか、先生とかに見つからないような広い場所って無いものかねぇ」

 

余程の苦労をしているのであろう。ハァ、と重たいため息をつく。

そんな二人に、

 

「場所……あるかもよ? 絶好の場所が」

 

俺はクリスマス休暇に実行しようとしていたことを思い出しながらこう言った。

 

 

 

 

 

「ここか? その本に載ってる廊下ってのは」

 

「ああ、多分。とりあえず、試してみたらどうだ?」

 

両親の本を片手に、フレッドとジョージを連れて八階の廊下まで来た。ここに、「必要の部屋」と呼ばれるものがあるらしい。

この「必要の部屋」というのは一般的には知られていない部屋だ。自分の目的を強く思い浮かべ、壁の周りを三回歩くことで開く特殊な部屋。両親の代でも、両親を含め知っている人は十人に満たないだろうと書かれていた。その上、先生は誰一人知らなかったらしい。

しかも、この部屋のすごいところはそれだけではない。この部屋は一回一回、自分の目的に合った構造に変化する。実験が目的なら実験用の機材が設置されるし、大量の物を収納したい場合は大きめの棚やクローゼットが設置される。夜の営みが目的なら、恐らく、大きめのベッドが設置されるだろう。欠点としては、食べ物や生き物は出てこないことくらいらしい。

早速、フレッドが廊下の周りを三回歩き回った。

すると、壁にヒビの様なものが広がり、扉が現れた。どうやら両親の本に偽りはなかった様だ。

嬉々として扉を開けた二人は、部屋の中を見るなり、こらえ切らずに歓声を上げた。

 

「最高だ! 申し分ない広さだ! しかも機材まである!」

 

「それだけじゃねえ! 材料を保管するための箱まで置いてある! これでコソコソとデカい袋を持たないで済む!」

 

二人は早速とばかりに、先程見せてもらった発明品を取り出すと、加工、実験を始めた。

実験には俺も付き合わされ、爆弾や花火を派手にぶちまけた。今まで派手に動けなかったためか、二人も遠慮なしに片っ端から発明品を使っていった。

もうやることがなくなった時点で、時間は八時すぎ。二人と会ってから、少なくとも三時間は経っている。流石にはしゃぎ疲れ、また、スネイプ先生との約束もあるので今日はここでお開きとなった。

 

「そろそろ俺は寮に戻るよ。この後、少し用事があるんだ」

 

「そうか。俺たちも、そろそろ戻ろうぜ? これからは何時でもここを使えるんだ。今日はここまででいいだろ」

 

「そうだな。流石に、そろそろ顔を出さないと怪しまれちまうし」

 

「ああ、できれば、ここのことは誰にも言わないでくれ。せっかくの秘密の部屋なんだ。あまり大勢に知られたくはない」

 

「勿論!」

 

「俺たちだってそうさ!」

 

そう言って、三人で必要の部屋から出て各自の寮に向かう。二人は必要の部屋が本当に気に入ったようで、別れ際、何かお礼をさせてくれと言ってきた。折角だから、たまに実験に付き合わせてもらうことにした。こんなに面白いもの、みすみす逃すのはもったいない。

約束の時間まで、まだ三十分以上ある。先程までの騒ぎの余韻に浸りながら、ゆっくり歩いて寮に戻った。

 

 

 

 

 

約束の九時前になると、スネイプ先生が寮にやって来た。来ると直ぐ、見せなくてはならない物の場所まで俺を連れて行った。

そこは今では使われていない教室だった。古ぼけた机や椅子が並んでおり、少し埃をかぶっている。そして何より特徴的なのは、その場に場違いな立派な鏡が置いてあることだ。

 

「見せなくてはならない物とは、あの鏡ですか?」

 

「間違いではないが、正確には、鏡に映る自分の姿だ」

 

「自分の姿? ……要するに、鏡の前に立てばいいんですね?」

 

「そうだ」

 

そう言われ、鏡の前に立つ。スネイプ先生への警戒心もあったが、好奇心の方が強かった。

鏡の前に立ち、見ると、予想していなかった光景に思わず声を無くした。

鏡に映っていたのは自分の姿ではなかった。もっと大人な、しかし、自分によく似た人だった。

その人の周りには同じ年ぐらいの人達が一緒にいて、楽しそうに仲良く談笑している。

少し髪がボサボサだけど、美人な女の人。ポッチャリしているが、見るからに優しそうな男の人。少し気取った感じの色白な男性に、ノリの良さそうな黒人の男性、少し派手な感じの女性とお淑やかなお嬢様風の女性など、どれも初めて見る人のはずなのに、どこか見覚えがあった。

少し見て、気が付いた。どれもハーマイオニーやネビル、ドラコ、ブレーズ、パンジー、ダフネといった俺の仲のいい友人の面影がある。そして、なぜだか分からないが、あることに確信を持った。

 

この俺によく似た人は、「俺」そのものだ。他の奴らも似ているんじゃない。本人なんだ。

 

辺りを見渡したが、やはり、部屋にいるのは俺とスネイプ先生のみ。

もう一度鏡を見ると、やはり、大人になった俺達が映っている。鏡の中の皆は楽しそうにしている。

 

……すげえ。夢みたいだ。

 

鏡の光景を見て、そう思った。

ここに来てから本当に色々なことがあった。どれも刺激的で、きっと大人になって色あせた記憶の中でも、輝いて残っていると思えるようなものばかりだった。そして思うのだ。大人になっても今みたいにこいつらと一緒にいられたら、どんなに素晴らしいだろうって。

ここに来てから、いや、ここに来る前からかもしれない。将来が不安なんだ。

安定した職に就きたい。マグルと魔法使いの抗争も避けたい。そのため、他の純血主義者との考えの折り合いもこの先にはつけないと。

そういったことを乗り越えて、どんな未来を望んでいるのか。その答えが、今、目の前にある。

 

「エトウ、何が見える?」

 

しばらく鏡に見とれていたが、スネイプ先生の質問で我に返った。同時に、なぜここに連れてこられたかを思い出した。正直に言うかどうか迷っていると、すかさず釘を刺された。

 

「嘘をついても無駄だ。吾輩には通用しない。正直に答えろ。何が見えた?」

 

そう言う先生の声は本気で、正直に答えるしかなかった。

 

「……少し大人になった俺が、ここにいる友達と談笑しています」

 

「そうか。それがお前のなんなのか、予想はついているようだな?」

 

「……俺の、願いでしょうか?」

 

そう言って、もう一度鏡を見る。見れば見る度に、俺は鏡の中の俺になりたくて仕方がなくなった。

 

「そうだ。この鏡は、見た者の心の底にある願望を映し出す。エトウ、鏡ではなく吾輩を見ろ。何故、校長がそれをお前に見せようと思ったか、不思議に思わんかね?」

 

「いえ、別に」

 

嘘だ。本当は気になる。しかし、それ以上に鏡から目を離したくなかった。

 

「エトウ、二度も言わせるな。鏡ではなく、吾輩を見るのだ。もう一度聞く。何故、校長がお前にその鏡を見せ、お前の願望を知りたいと思ったか、疑問に思わんのか?」

 

そう苛立ったように威圧され、ようやく鏡から目を離すことができた。視界にこれ以上、鏡が入らないようスネイプ先生に向き直り、質問に改めて答える。でないと、鏡から抜け出せない気がしたのだ。

 

「すみません、やっぱり気になります。」

 

「……そうであろう。説明してやる。何故、校長がこんなにもお前を気にかけているか」

 

俺を見据えながら、はっきりと言った。

 

「校長が、お前が第二の闇の帝王になると危惧しているからだ」

 

 

 




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