日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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テストが終わった(二つの意味で)

感想が今までの最大数! ありがとうございました

ここで、活動報告で行わせていただいたアンケートについて発表します。

Ⅲの2だけを書こうと思います。クリスマスの話なんで、次くらいにでも更新しようかと思います。アンケートのご協力、ありがとうございました。


混乱しました

スネイプ先生の発言は俺の頭の中から鏡のことを消し去るには十分な威力を持っていた。

 

「俺が第二の闇の帝王? それは、俺が、「例のあの人」のようになるということですか?」

 

自分の声が震えているのがわかる。それもそうだろう。名前さえ言うのを禁じられるほどの極悪人、それも自分の両親を殺したような奴になるかもしれない、と本気で言われて全く動揺しない奴などいるものか。

そんな俺とは対照的に、スネイプ先生は表情を眉一つ動かさず話を続ける。

 

「そうだ。だからこそ、校長はお前の望みを知ることでその可能性が今はどれ程のものかを確認したかったのだ」

 

「俺が闇の帝王になるっていう根拠は? そこまで言うなら、余程のものがあるんでしょう?」

 

たまらず、噛み付くように聞いてしまった。俺の将来が犯罪者などまっぴらゴメンだ。それも自分の望みを見たすぐ後に発覚するなど、冗談でもタチが悪い。

 

「……少し教えよう。まず、お前には闇の魔術に対する大きな才能がある」

 

「そんなもの、どうやって知ることができるんですか?」

 

「校長は人の才能を見抜くことにおいて、これ以上にないほどの能力を持っていらっしゃる。それに加え、お前の才能は吾輩にも分かる程のものだ。これは間違いない」

 

「……分かりました。俺には闇の魔術の才能がある。しかし、それだけですか? だったら、俺が闇の魔術とやらに近づかないように警戒すればいいだけの話じゃないですか」

 

「発言を慎みたまえ。人の話は最後まで聞くものだ。続いての理由だ。お前の生い立ちは闇の帝王に似ている。優秀な魔法使いの血を引いていながらマグルに育てられた。その上、魔法使いとしての大きな才能を持ち、優秀な成績を収めている。主席を取るには十分すぎる程のな」

 

「そんな人、これまでにもいたでしょう? 現に成績ならハーマイオニーの方が優秀だ! それにあいつもマグル育ちだ!」

 

「発言を慎め! お前は吾輩の話を聞きたくないのか? ならばいい。さっさと自室に戻って寝ろ。聞きたいのならば今から吾輩の話が終わるまで一切の質問を禁ずる」

 

「……」

 

怒鳴られ、何とか黙るだけの冷静さを取り戻す。しかし、なんとしてでも先生の口から間違いだったと聞きたかった。俺は先生の言葉を否定できるような材料を持ち合わせていない。それに、先生の話は戯言だと笑い飛ばすにはあまりに重すぎる。

 

「では、話を進めよう。先ほど言ったようにお前と闇の帝王は似ている。お前が道を踏み外せば、第二の闇の帝王になるほどな。……ついでに言っておこう。今まで純血、半純血でマグルに育てられた者は、お前を入れて両手の指の数にも満たない。それほど珍しい。さて、校長がこれを見せた理由だな。分かると思うが、お前が道を踏み外さないようにするためだ。そのために、まずはお前が道を踏み外していないことを確認しなくてはならない。既に確認のための措置は取られているが、最も手っ取り早いのはお前の心の奥底にある願望を知ることだ。……この鏡は便利な物だ。本人が自覚していようがいまいが、正確にその者の願望を映しだす。嘘はつけない」

 

そう言って、少し鏡から顔を背ける。まるでこの鏡は視界に入れるのも不快だと言わんばかりに。

 

「映ったもの次第では、早々に手を打たねばならなかった。その点、お前の願望を聞く限り現状ではお前が道を踏み外す可能性は極めて低いと言えるだろう」

 

この言葉で、初めて落ち着くことができた。ようやく先生の口から否定的な言葉が聞けたからだ。同時に周りを見る余裕も出てきた。スネイプ先生が妙に周りを気にしていることに気が付く。

 

「お前の願望は校長に伝えておく。これで少しは警戒がとけるだろう。……話は終わりだ。何か聞きたいことはあるか?」

 

そう言いつつもどこか少し落ち着かない。何か引っかかる。明らかに何かを避けようとしている。まるで俺が何かに気づく前に、話を終わらせたい様だ。

俺は一体、何に気づいていないんだ? いや、スネイプ先生は何を気にしているんだ?

 

「俺が第二の闇の帝王に成り得る理由は、似ているというだけですか?」

 

「……不満か?」

 

「ええ、まぁ。珍しいと言っても、もう一人くらい俺と似たような境遇の奴がどこかに……!」

 

ここまで言って、あることを思い出した。今日の魔法薬学の授業でのことだ。あの時もすっかり忘れていた。

 

「ポッターだ! ポッターはどうなんですか!?」

 

少しだが、先生が固まった。どうやら当たりを引いたらしい。先生はポッターが話題に出ることを気にしていたのだろう。ポッターが闇の帝王になる疑いが無いなら、俺にだって無くてもいいはずだ。

俺とポッターの違い。それが分かれば道を踏み外しても極悪人にならなくて済むかもしれない。

 

「あいつも、俺と似た境遇にいる! 立派な分類に入る血筋でマグル育ち! その上、才能に溢れている! クィディッチがいい例だ! むしろあいつは俺より……」

 

「あやつは違う」

 

一気に熱が冷めた。これよりも冷たい声というのを、俺は聞いたことがない。声だけで誰かを殺せそうだ。自分が当たりではなく地雷を踏んだことを今更ながら知った。

 

「あやつは箒と英雄気取りだけが取り柄の傲慢な奴だ。なんの関係もない」

 

ここで何か余計なことを言えば、俺の身の安全は保証できない。それ程のオーラを、スネイプ先生は纏っていた。突然のことに驚き、どうするべきかを考える。

俺には今、二つの選択肢がある。身の安全か、現状を詳しく知るための爆弾か。どちらを選ぶかなんて決まっている。俺の第二の闇の帝王になる確率が現段階において、極めて低い。今、それ以上の価値を持つ情報が果たして必要だろうか? 爆発のリスクを負うほど……。

俺は沈黙を決め込んだ。それで、何とか先生も落ち着きを取り戻した様だ。いつも通りの口調で俺に言ってきた。

 

「質問は終わりか? ならば、直ぐにここを去るぞ」

 

ポッターのことを聞きたい。でも質問できない。地雷確定だ。何があったかは知らないが、先生のポッターへの憎しみは生半可ではない。「殺す程ではないだろう」っていうのは大きな誤りだったようだ。

足早に部屋を出る先生。そのあとを追う。結局、寮に着くまで一言も話さなかった。

寮まで一言も話さなかったお陰で、多少なりとも鏡のことについて考えることができた。寮に着いて、先生との別れ際、ふと気になったことを聞いてみた。

 

「先生。先生が見た鏡には何が映っていたんですか?」

 

 

 

 

 

 

スネイプが今年にダンブルドアから頼まれた仕事は二つ。ハリーの保護とジンの監視。

ジンを監視するたびにスネイプは思う。

何故、彼はスリザリンに入ったのだろうか?

闇の魔術の才能が大きいことは認めよう。だが、ダンブルドアから彼は魔法界からマグルを追放したいと考えていると聞いていた。そして、それが組み分けの結果につながったと。しかし、彼の行動はそんなことを微塵も感じさせない。それどころかハーマイオニー・グレンジャーのようなマグル生まれとも仲良くやっている。純血主義の代表といってもいいドラコ・マルフォイとも純血主義を巡って対立したこともあった。正反対もいいところだ。もしあれが演技ならば、成る程、大したものだ。警戒を通り過ぎて敬意に値する。闇の帝王も学生時代は人あたりの良い立ち振る舞いをしていたという。彼の立ち振る舞いは余計にダンブルドアの警戒を煽ったのだろうか? ダンブルドアは既に警戒措置が取られているのにも関わらず、ジンに「みぞの鏡」を見せたがった。しかも既に取られている警戒措置というのはかなり強力で下手を打てばジンの命に関わるものなのに、だ。そこまでしているのに、わざわざ「みぞの鏡」を使うのには少しばかりの疑問が残った。あれは中々危険なものなのだ。

 

「校長。既にあの()()をしている彼に、わざわざ「みぞの鏡」を見せる必要があるのか少々疑問が残りますがな?」

 

「あの指輪の元々の効果はあの子の監視などではない。守るものじゃ。加えて、もしあの指輪があの子を滅ぼすなら、それはあの子が完全に闇に堕ちたということじゃ。力を欲することも、自らの価値を血筋に求めることも、あの指輪があの子を滅ぼす理由には成りえん。これでは警戒というにはあまりに雑なものじゃ」

 

「ですが、もし彼の願望が闇に近づくものであり、それを自覚してしまったら、状況は悪化しますぞ?」

 

「いや。自らの願望を知ることは、彼にとっても重要なことじゃ。たとえそれがどのようなものでものう」

 

「では、彼が闇の帝王になり、指輪で滅ぶことをお望みで?」

 

「そうではない。何も鏡を見せる理由は彼の警戒措置だけではない。彼自身が今の自分を理解するのに必要なのじゃよ。何かに立ち向かうのであれば、そのことをよく知らねばならん。それが自分自身の時もじゃ。セブルス、儂はかつて犯した過ちをもう一度犯したくはない」

 

スネイプはダンブルドアが自分の思っていたものとはまた別の意図を持っていることを悟った。ダンブルドアにとって、ジンが闇の帝王の素質を持っていることは、彼が自分の生徒である事に何の弊害にもならないのだ。そう、かつての闇の帝王と同じように。もしかしたら、ジンにかつての闇の帝王の姿を重ねているのかもしれない。彼が道を踏み外さないようにすることを、自分の過去の過ちの免罪符としようとしているのかもしれない。そう考えると、鏡を見せることはジンのためであり、ダンブルドア自身のためということになる。

ならば、スネイプが止める義理はない。

 

「では、お好きなように。校長の指示に従いましょう」

 

「そうしよう。そこで、セブルス。君に頼みたいことがある」

 

「何なりと」

 

「ジンにみぞの鏡を見せ、何が映ったかを聞き出して欲しいのじゃ」

 

予想はしていた。ダンブルドアは、監視も含め、何かとジンをスネイプの近くに置きたがる。これもその一環だろう。しかし、流石に次のことは予想していなかった。

 

「その際、彼に闇の素質についても、少しばかり伝えておいてくれ」

 

「……よろしいので? それはいささか、早すぎるかと」

 

「かまわぬ。これも必要なことじゃ。儂はまだ、何も言わずに彼を納得させるだけの信頼を得ておらん。彼は聡明な子じゃ。ここで事実を伝えねば、それは後に儂へ巨大な不信感になるじゃろう」

 

「しかし、それでは本当に闇の帝王の二の舞に……」

 

「セブルス、儂はかつて犯した過ちをもう一度犯したくはないのじゃよ」

 

ダンブルドアは先ほど言った言葉をもう一度言うと、話は終わったとばかりに不死鳥のフォークスの世話を始めた。

スネイプは黙って頭を下げ、校長室から出て行く。

 

 

 

鏡を見せるのは早いほうがいい。そう、今日の夜にでも……。そう思い、鏡を置いてある部屋まで案内した。

彼が鏡を通して見たものを確認し、闇の素質について話す。それだけのことだった。しかし部屋に入り、鏡を見た瞬間、それだけでは済まなくなった。

 

…………ああ、リリー、そこにいたのか。

 

鏡に映っていたのは、忘れるはずもない、愛した人の姿だった。突然のことに呆然としてしまったが、隣にいたジンが声をかけてきて我に返る。自身は鏡が見えない位置に移動して、ジンに鏡を見せる。

 

そうだ、あれはただの望み。リリーではない。リリーは死んだのだ。

 

そう自身に言い聞かせ、目の前の生徒と話を進める。さっさと話を終えて、こんな部屋から出たかった。このまま鏡を見つめたら、泣いてしまいそうだった。子供の頃の自分に戻ってしまいそうだった。だが、そんな気持ちを嘲笑うかのように、目の前の生徒は追い討ちをかけてきた。

 

「ポッターだ! ポッターはどうなんですか!?」

 

今はその名前を聞きたくなかった。自分の中に、フツフツと抑えきれない怒りが溢れてきた。気がつけば、声に出してポッターを罵っていた。それが父親か息子か、自分でも判断はつかなかったが。

幸い、それ以上の追求はなかった。何事もなかったかのように振る舞い、部屋からでていく。寮までジンを送った。その間ずっと沈黙していたため、鏡のことについて考えることができた。

 

何故、ダンブルドアは自分に鏡を見せる役割を頼んだのだろう? そもそも、ジンをそばに置きたがった理由は? 自分が鏡を見れば、リリーが映るであろうことは当然予想できた。しかし、それに何の意味がある? 彼の望みは今の仲間と一緒にいることだ。それを自分が確認して何になる?

 

ここまで考えて、ふと思った。自分がジンの年頃の頃、この鏡を見たら何が映っていたのだろう? 言うまでもない。この少年と同じものが見えたはずだ。

あの頃の自分はリリーのためにスリザリンであることを捨てられず、スリザリンであることのためにリリーを捨てられなかった。その自分が何を望んでいたか。その両方を捨てないでいることに決まっている。

今、過去に戻ったならば、自分はリリーのためにスリザリンであることを捨てるだろう。そして、目の前の少年は当時の自分と似たような境遇にいるのかもしれない。

言ってしまえば、彼がグレンジャーかマルフォイ、どちらを選ぶかということだ。このままでは、自分と同じ様な境遇になるかもしれない。それを阻止するために、ダンブルドアは自分のそばにジンを置くのかもしれない。自分が黙って見ていられないであろう事をあの人は知っているのだ。全て憶測に過ぎないのだが、何故かそうだと思えた。

 

この少年にだったら、自分の望みを話してもいいのかもしれない。闇に堕ちるとはどういうことなのか、自分を捨ててまで守りたいものとは何なのか、それを教えてやるのも悪くないかもしれない。

 

そう思っていたら、向こうから仕掛けてきた。

 

「先生。先生が見た鏡には何が映っていたんですか?」

 

この捉え様によっては不躾な質問、この少年には自分の答えがきっと必要になってくるだろう。だが、まだ早い。これからもっと自分で悩んで、苦しんで、どうしようもなくなった時に手を差し伸べてやろう。結局、自分で選んだ道でしか、受け入れることも突き進むこともできないのだから。

自分でも珍しいと思うほど、少し穏やかな気持ちになってきた。鏡にいたリリーのお陰か、目の前の少年が自分と同じであることへの同情か分からないが口から出た言葉は温かみがあった。

 

「それを話すのはまだ早い。お前がもう少し成長することができたら、困難に立ち向かうことになったら、話してやろう」

 

似合わんセリフだ。そう思わずにはいられなかった。目の前の少年も、驚いた表情でこちらを見ている。そのまま何かを言う気配もないので、何もせずに自室へと戻った。校長への報告は、明日で構わないだろう。今はただ、何となくこの穏やかな気持ちに浸っていたかった。

 

 

 

 

 

驚いた。今日はスネイプ先生の知らない面ばかりが見つかった。あの凍てつくような怒りを見せたかと思えば、どことなく父親を想起させる穏やかな表情をして去っていった。どちらが本当のスネイプ先生なのか分からない。

あの穏やかな顔をできる人が、誰かを殺すなんて出来ると思えなかった。しかし、ポッターの話をしたときの先生は誰を殺してもおかしくなかった。

フゥ、と一つため息をついて俺も自室に帰った。今日は色々ありすぎた。混乱した頭じゃ、何を考えても無駄だ。今日はもう寝てしまおう。

 

秘密で膨れたはずの胸は、不思議と以前よりも軽くなっていた。何か大きなものに支えられている気がする。

 

 

 




少しごちゃごちゃしているかもしれません。これでもわかりやすく書いたつもりです……。

スネイプ先生の心情、ジンが闇の素質についてどう思ったかなど、わかりにくいところがありましたら言ってください。なるべくネタバレしないように説明、修正しようと思います。

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