日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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秘密の部屋編、開始です

まだホグワーツに行けない……


秘密の部屋編
大人の事情(買い物前半)


夏休みがほとんど終わり、そろそろ新学期が始まる。

心休める休日というのは本当に久しぶりで、心置きなく羽を伸ばすことができた。

ホグワーツの友達とはフクロウ便でやり取りをしている。実は休暇中、魔法やら何やらを感じる機会というのは宿題をやっている時か手紙をフクロウが持ってくるとき以外にない。手紙の内容も近時報告に近いものだし、外に出てもここはダイアゴン横丁から少し離れた静かな場所で人が通るのも珍しい。どうしてこんな所に宿を立てたのか疑問に思うほどだ。しかし、客はちょくちょく来るのだから不思議だ。ふと思ったのだが、ここはマンションというよりホテルのような物なのだろう。長期滞在など、俺ぐらいのものだ。まあ、宿泊所だから当たり前か。

窓からスッとフクロウが飛んでくる。部屋に置いてある止まり木に止まると、手紙を落として入ってきたのと同じように去っていく。手紙を拾って見るとハーマイオニーからで、内容は珍しく相談であった。

どのような相談かというと、なんでもポッターからの返信がないそうだ。もう十通以上も送っているのに、音沙汰なし。ポッターも両親を亡くし、親戚に預かってもらっているのは聞いたことがある。しかし、どうにもその親戚が極端な魔法嫌いの様だ。で、もしかしたらホグワーツに関わるもの全てを廃棄しているかもしれない、何かできることは無いだろか? というものだ。

正直、そんなことを相談されても困る。ハーマイオニーの力にはなりたいが、ポッターが学校に来られなくなって困るのはむしろ俺よりダンブルドアとかだ。相談する相手を間違えている。学校にその実態を報告すれば、何かしらの対策をとってくれるはずだろう。もし魔法に関わるもの全てを廃棄されたとしても、それはポッターの責任ではない。理由を説明すれば、そこまで酷いことにはならないはずだ。宿題などの補修は免れないだろうが。

それに、ハーマイオニーは少し勘違いをしているようだが、俺はポッターに対してあまり良い感情はない。むしろ悪いくらいだ。

同情はしている。一歩違えば同じような境遇だったかもしれない身としては、当然のことだ。だが、それだけだ。

俺の中でポッターのイメージと言えば、スリザリン嫌いで、無鉄砲で、早とちりな奴。そもそも、ポッターと俺の関わりと言えば飛行訓練での一悶着とドラコの突っかかりだけ。ポッターの一面しか見ていないのは認めるが、知らない一面を考慮に入れてポッターの人格を考えるのはただの妄想にしかならない。ポッターの噂もよく聞くが、クィディッチやら賢者の石やらで兎に角スゴイということぐらいしか分からない。言い訳かもしれないが、見える範囲で判断するなら俺にとって嫌な奴に映る。

かと言って折角の手紙にまあこんなことを書けるわけもないので、当たり障りのないことを書いておく。

手紙を書き終え、宿の共通フクロウ便を使い手紙を出す。窓から飛んでいくフクロウを見て、そろそろ自分専用のフクロウを購入しようと思う。毎回、宿のフクロウを借りるのも迷惑だ。今度、ドラコとブレーズと買い物に行く約束をしている。その際、ついでにフクロウも買おう。

部屋に戻り、教科書を開く。遊び道具がない俺にとって、教科書の補助教材でも十分な暇つぶしになる。一年前まで何でも出来ると思っていた魔法が、実は法則や理論に基づいて発動していることを知るのは中々面白い。俺の成績がいいのも、きっとマグル育ちだからかもしれない。そう考えると、仮にも純血主義者としては複雑な気分になるのだが……。

いつの間にか暗くなっており、夕食を食べてベッドに入る。いつも通りの休日が今日も終わった。

 

 

 

 

 

ドラコ達の約束を前日に控えた今日、本格的にやることが無くなった。手持ちの教科書もほぼ完全に読んでしまい、手紙もない。たまに暇な時にゴードンさんと話をすることがあったのが、ゴードンさんも仕事がある。他の客がいる時は顔を見ることさえないのも珍しくない。

今日は暇だろうか? それなら少し話でもしたい。忙しいのであれば手伝いをするのもいい。そう思い階段を下りていく。

ゴードンさんと言えば少し気になるところがある。あの人はホグワーツに通っていなかった様だが、どうやって両親やハグリッドと知り合ったのだろうか? 本人はホグワーツに通っていなかったと明言している訳ではないが、キングズ・クロス駅のこともあるし、帰ってきてしたホグワーツの話に驚いたり興味津々だったりする。ここはホグワーツに通っていなかったと考えるのが普通だろう。では、なぜ通っていなかったのか? そう考えるとある答えが浮かぶ。

ゴードンさんはスクイブなのだろう。そういえば魔法を使っているところも見たことが無い。そうならばこういう、突っ込んだことは話しづらいし聞きづらい。いつか本人が話してくれるのを待つしかないだろう。

一階に着き、カウンターを抜けてリビングの様な場所に行く。普段、ゴードンさんは暇な時はここによくいる。

今日も暇なようで、ソファーに腰掛け新聞を読むゴードンさんがいた。俺に気が付いたようで、新聞を畳み話しかけてくる。

 

「どうした? 暇になったのか?」

 

「うん、まあ、そんなところ。忙しいなら何か手伝おうかなと思って」

 

「そうか……。生憎、こっちは暇でな。お茶にでもしようか? この間、ロンドンに行ったときに上手い茶菓子を見つけてな」

 

そういうと、立ち上がり紅茶と茶菓子を用意してくれた。ここでも魔法を使わないあたり、先ほどの考えは間違えていないのだと思う。

用意してくれた茶菓子を食べながら感想を言い合ったりして過ごしていたのだが、ふとゴードンさんが明日の話をしてきた。

 

「明日は確かマルフォイ家と学校用品だとかを買いに行くんだよな?」

 

「うん。ここも来る途中にあるからって迎えに来てくれるらしい。場所を知っているあたり、客だったこととかあるの?」

 

「いや、アイツはここを絶対に使わないな。そうか、迎えに来るのか……。悪いが、アイツが来たら対応はお前に任せる」

 

ゴードンさんが何か嫌悪に近いものを見せるのはこれが初めてだ。マルフォイさんに少し不安を覚える。

俺の不安が分かったのだろう。ゴードンさんは苦笑いしながら俺に言う。

 

「別にお前は心配しなくていい。そうだな、アイツはお前にとっては何も害はない。これは俺とアイツの問題だ」

 

「そう……」

 

「明日の準備は大丈夫か? アイツは名家だからな。しっかり身だしなみとか整えておかないとなめられるぞ?」

 

「分かった。じゃ、準備してくる。お菓子、ありがとう。美味しかったよ」

 

そういって立ち上がり。三階に上がる。

実はすでに準備は終わっている。ただ、なんとなくゴードンさんが一人になりたそうだったのでその場を去った。

ゴードンさんとマルフォイさんの間に過去に何があったかは知らない。しかし、それは今もゴードンさんを苦しめているのかもしれない。ドラコには悪いが、俺の中でマルフォイさんがブラックリストになった。

 

 

 

 

 

翌日、ドラコ達が迎えに来た。ブレーズとはダイアゴン横丁で落ち合うらしく、迎えに来たのはドラコとマルフォイさんの二人だ。

宣言通りゴードンさんはマルフォイさんに会おうとせず、マルフォイさんも俺だけ出てきても気にせず出発しようと声をかけてきた。

挨拶だけを見るならマルフォイさんは予想と違いかなり紳士的だった。もっとも、ダイアゴン横丁に着くまで俺はドラコと話をするのだがマルフォイさんは黙って前を歩くだけだったので何とも言えない。

 

「今回の教科書のリスト、君はもう見たかい?」

 

「ああ。普通は一年の教科書を引き続き行うはずだが、何を思ったか新しいのがドッサリと来るな」

 

「それも、ギルデロイ・ロックハートの本ばかりだ……」

 

「あれは教科書とかじゃなくて、小説の分類だと思っていたんだがな」

 

「まあ、腐ってもマーリン勲章を受賞するだけの奴が書いた内容の本だ。何か書かれていてもおかしくはないだろうが……」

 

「買ってからのお楽しみかな? まあ、最近は暇だったから丁度いいかもな」

 

こうしてダイアゴン横丁に着くと、マルフォイさんがブレーズと合流する前に用事を終わらせたいと言った。

 

「もっとも、少々家庭がらみのことだから家の者だけで済ませたいのだが……」

 

「ああ、それなら俺は先に銀行で金を下ろします」

 

「助かる。では、そうだな……。後程、銀行で落ち合おう。ザビニ君とも、そこで落ち合う約束をしているのでね。金を下ろしたら待っていてくれ」

 

そういうと、少し暗い横道へとドラコを連れて行ってしまった。俺もグリンゴッツ銀行へと行く。ここからは少し遠いところにあるので、店先に並んだ色んなものを見て楽しみながら向かう。

少々時間を食って着いたグリンゴッツ銀行。二回目なのだが、地下のトロッコは未だに圧巻だった。部屋までは少し時間がかかるはずだが、あっという間な感じだ。

部屋に着き、金貨や銀貨を袋に入れて戻る。そして地上に戻ると、声をかけられた。

 

「ジン! あなたもここに来てたのね!」

 

「ハーマイオニーか。久しぶり。元気そうだな」

 

「ええ、勿論! 誰も一緒にいないけど、一人で買い物するの? だったら、一緒に行かない? 私はハリー達とするんだけど、どうかしら?」

 

「悪いな、俺はドラコ達と来てるんだ。これじゃ、一緒にはいけないな」

 

「そう、なら仕方ないわね……」

 

ドラコが来ると聞いて少し残念そうに諦める。まあ折角だし、俺とポッター達の仲でも良くしておこうという所だろうか。ハーマイオニーを見ていると、スリザリンとグリフィンドールで少し板挟みになっているところもあるから。俺だけでもポッターと仲が良くなると楽になるのだろう。申し訳ないが、今回は厳しい。

 

「ハーミー、こちらは?」

 

ハーマイオニーの後ろにいた女の人が話しかけてくる。母親だろうか? 少し疲れている様だが、魔法界に慣れていないのだろうか?

 

「あ、お母さん! この人がジンよ」

 

「ああ、あなたがジン君ね。初めまして。娘から聞いているわ。スリザリンっていう寮にいるのに仲良くしてくれているんですってね」

 

「初めまして。こちらこそお世話になっています。それに、仲良くしてもらっているのはこっちの方です」

 

「あら、聞いた通りのいい子ね」

 

「でしょ?」

 

二人に微笑みながら言われ少し照れる。なんとなく自分だけ気まずくなっていたら、少し遠くの方で男の人の呼ぶ声が聞こえた。

 

「ハーミー、手伝ってくれ! 大体、いくら位必要なんだ?」

 

「待って! 今行く! じゃあジン、お母さん、ちょっと行ってくるわ」

 

どうやら父親に呼ばれたらしい。ハーマイオニーが駆け足で声のした方に行く。

友達の親と二人きりというのもなんだか気まずく、かと言ってここが集合場所なので動くわけにもいかない。沈黙よりなんでもいいから話そうと思っていると、向こうから声をかけてくれた。

 

「学校でハーマイオニーはどうかしら? 寮が違うから分からないかもしれないけど、あなたから見てどんな感じの子?」

 

「どう、ですか……。いい奴ですよ。さっきも言いましたが、やっぱり仲良くしてもらっているのはこっちです。知っているかもしれませんが、俺の寮とハーマイオニーの寮は特に仲が悪いんですよ。そんな中でも相手に声をかけたのは俺じゃなくてハーマイオニーです。他の奴とも仲良くできるのもアイツの人格のおかげですよ」

 

「そう、よかった……」

 

俺の答えに安心した様に笑みを浮かべるグレンジャーさん。やはり離れて暮らす娘が心配なのだろう。しっかり者だから、そこまで心配する必要はないと思うのだが……。

会話がまた途切れてしまい、沈黙が訪れる。やはり気まずくて、今度はこっちから話しかける。

 

「魔法界には慣れていないようですが、来てみての感想はどうですか?」

 

「驚きの連続ね。去年に初めて来たときは、これ以上驚かないぞって思ったんだけど……。今日来て写真が私にウィンクするのを見て飛び上がっちゃったわ」

 

だが、言葉とは裏腹にやはり疲れているようだ。俺も最初は意味不明な物ばかりで落ち着かなかったからよく分かる。

 

「ドラゴンの肝っていうのを見たんだけど、あれって食べるのかしら?」

 

「食べませんよ。安心してください。食べ物は普通ですから」

 

「あら、そうなの? また驚いちゃったわ」

 

ウフフと声に出して笑う。笑いながら、遠くで小鬼と何か話しているハーマイオニーを眺める。そんなグレンジャーさんを見て疑問がわいてきた。

どうしてハーマイオニーを魔法学校に行かせることを許可したのだろうか? 不安ではなかったのだろうか? 何を思って娘の進学先を魔法学校にしたのだろうか?

 

「どうしてハーマイオニーをホグワーツに通わせようと思ったんですか? 通わせての感想は? 悪口でも構いません。正直なものをお願いできますか?」

 

遠まわしに、不安じゃないのか? 後悔していないのか? そういったことを聞く。グレンジャーさんは少し驚いたように俺を見るが、少しして納得した様な表情になり答える。

 

「あなたも去年までは“普通”だったのよね」

 

“普通”という言葉が妙に胸に刺さった。グレンジャーさんの答えが続く。

 

「そうね……。本当はね、ハーマイオニーには医者を継いでもらいたかったのよ。歯医者なのよ、私の家。特に夫は「家族で営業していくのが夢だ」って言っていたの。ハーマイオニーもそのためにすっごく頑張って勉強していたわ。遊べなくなるワガママだって言わずに。嬉しかったわ、まだ小さい頃だけど「私、お父さんみたいなお医者さんになる」って言ってくれた時は……。夫なんて半泣きで抱きしめていたもの」

 

笑顔で話すグレンジャーさん。しかし、聞くに何故ハーマイオニーをホグワーツに送ったか全くわからない。

だが、ふとここで少し表情が暗くなる。

 

「でもね、それがいけなかったのかしら? こんなこと、あの子のいないところで話すのもあれなんだけど……。あの子、かなり前の学校で浮いていたらしいの。勉強はとってもできるのだけど、友達付き合いが中々上手くいかなかったみたい。私達、全然気が付かなくて……。あの子が中々笑わなくなって、どうしたんだろうって不思議に思っていたのに……。理由を知った時は後悔したわ。どうして気づかなかったんだろうって」

 

なんとなく分かる。ハーマイオニーには頑固で完璧主義なところがある。そのせいで、最初はポッター達とも仲たがいしていたのだから。

 

「そんな時ね、ホグワーツからの手紙が来たのは。あの子の笑顔が久しぶりに見れたの。すっごくキラキラした笑顔で、もう夢中になって説明に来た先生を質問攻めにして。先生、少し困っていたわ」

 

思い出したのかクスクス笑う。これも想像に困らない。説明に来た先生が誰なのか分からないが、ご愁傷様。

 

「それを見てね、思ったの。「ああ、この子はこんな風に笑うんだ」って。先生が帰った後にこう言ったわ。「ごめんなさい。私、医者よりも魔法使いになりたい」って。私には反対なんてできなかったわ。あの子があんな風に笑うんだって、初めて知ったもの。夫もそうだったみたい。それなら、ホグワーツに行こうって決まっていた進学先を取り消してくれたの」

 

「不安はなかったんですか?」

 

「勿論あったわ。でもね、あの子が嬉しそうにしていたからそれ以上に期待が大きかった」

 

「後悔は?」

 

「してないわ。だって」

 

チラリと、向こうを見る。俺もそっちを見ると、手続きを終えたハーマイオニーと父親が笑顔で話しながらこちらに来ていた。

 

「あの子、あんなに嬉しそうだもの」

 

微笑みながら言うグレンジャーさんに、俺は何も言えなかった。

 

 

 

 

 




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