日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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子供の事情(買い物後半)

グレンジャーさんとの話が終わると同時に、ハーマイオニー達が手続きを終わらせてこっちに来た。

 

「もうウィーズリーさん達があちらにいる。そろそろ行かなくては」

 

「そうなの? それじゃあね、ジン君」

 

「さようなら、グレンジャーさん」

 

「それじゃ、ジン! ホグワーツで会いましょう!」

 

「ああ、じゃあな、ハーマイオニー」

 

グレンジャーさん達と別れ、その後ろ姿を見送る。するとすぐに、俺の肩を叩く奴が現れた。誰だと振り返ると、ニヤニヤ笑っているブレーズがいた。

 

「よう、ジン。久しぶりだな」

 

「ブレーズ、久しぶりだな。今来たのか?」

 

「いや、かなり前。お前が出てきた時からいた」

 

「? 何で話しかけてこなかったんだ?」

 

「グレンジャーに先を越されてね。それで様子を見てたんだが……」

 

「盗み聞きか?」

 

「安心しろよ、何も聞いちゃいないって。様子を見てただけだって。それにしても、グレンジャーの母親は美人だな」

 

「そうだな。お前の好みか?」

 

「冗談。で、何を話してたんだ? 親攻略? 外堀から埋めてくタイプっぽいもんな、お前」

 

「そんなんじゃない。というか、俺はそういうのは直球で行くぞ」

 

「そうなのか? 意外だな」

 

「そうか?」

 

「ああ。なんだかんだ言って告白しない奴だと思ってた」

 

「好きな奴がいたら告白するさ、多分」

 

「どうだろうなぁ。で、何のお話だったん?」

 

「まあ、少し考えさせられる話だよ」

 

「どんなことを考えさせられたんだ?」

 

俺は周りのこともあってか、マグルと魔法使いの関わりを魔法使いの視点を基準に考えていた。やり方が違う、伝統を軽んじられる、危険性を分かっちゃいない。でも取り込まなければ魔法界は消滅しかねない。その上で、魔法使いのマグルへの対応に疑問を抱いていた。そう思うならマグルを魔法界に放り込まずにしっかりと時間をかけて馴染ませるべきだろうに、とか色々。

でもグレンジャーさんの話は、一般的に見ると少し特殊かもしれないが、マグルと魔法使いの関わりをマグルの視点から見たものだ。俺はどちらかと言えばグレンジャーさん側の立場なのに何を偉そうに一端に魔法使いの立場で物を考えていたのだろう。

 

「俺もマグル育ちだったんだなぁってことかな?」

 

「なんだそりゃ?」

 

こんな感じでブレーズと話していたら、いつの間にかマルフォイさん達も銀行に来た。話はすぐに止め、買い物の始まりとなった。

 

 

 

 

 

ドラコとブレーズと一緒にインクに羽ペン、羊皮紙にナイフなど必要なものをあらかた買って残すは教科書のみとなった。マルフォイさんは別に行動していて、教科書を買う時に落ち合うことになっている。

しかしフクロウ百貨店という店の前に来て、ついでにフクロウも買う予定だったことを思い出した。

 

「悪い、ここによってもいいか?」

 

「フクロウ百貨店? 君はフクロウが欲しいのかい?」

 

「ああ。いつまでも人のフクロウを借りる訳にはいかないからな」

 

「そうかい。なら行こう。折角近くにフクロウ屋があるんだ」

 

三人でフクロウ百貨店に入り、何がいいかを話し合う。白いのもいればトラ模様のフクロウもいる。ドラコ曰く、茶フクロウは安っぽいからやめた方がいいらしい。ブレーズ曰く、真っ白なのは綺麗だけど森フクロウの方が頑丈で値段的にもいいらしい。俺は特に拘りもないので、頑丈という森フクロウを見に行った。しばらく三人で見て周っていたのだが、急にブレーズが立ち止まった。

 

「コイツなんかいいんじゃないか?」

 

そう言ってブレーズが指したのは店でも五番以内に入るだろうデカいフクロウだった。堂々とした姿は確かに格好が良い。

 

「頑丈そうだな」

 

「だろ? フクロウは長持ちするに越したことはねえんだしよ」

 

「それに、コイツならある程度重いものも一匹で運べそうだな。値段は……。うん、そこらのフクロウよりは高いが良い買い物になると思うよ」

 

二人の勧めもあって、俺のフクロウはそのデカい森フクロウになった。店員のお勧めでもあったソイツは大人しく、新しい飼い主の俺をじっと見てくる。その様子に、少し愛着がわいた。

 

「なんか可愛いな、コイツ」

 

「そうか? 俺はカッコいいと思うが」

 

「名前、どうしようか?」

 

「君のペットだろう? 君が付ければいいじゃないか」

 

「いや、こう、いいのが思いつかなくてさ」

 

「適当でいいんじゃねぇか?」

 

「適当ねぇ……。なんかないか?」

 

「シファーとか?」

 

「由来は何だい?」

 

「どっかで聞いたことありそうな名前だからいいかなってさ」

 

「……流石に適当過ぎないかい?」

 

「今日からお前はシファーだ、よろしくな」

 

「……君はそれでいいのかい? 可愛いんじゃなかったのかい?」

 

いつも通りのじゃれ合いで決まった名前だが、不満は無いらしく森フクロウ改めシファーは相変わらず瞬きせずに俺を見つめる。そんなシファーを満足げに眺め、三人で本屋へと向かう。

多少の時間は食ったが、本屋の集合時間にはしっかりと間に合った。本屋の外ではすでにマルフォイさんがおり、俺達を待っていた。その本屋というと、なぜか大きな人だかりができており入るのにも苦労しそうだった。

 

「来たかい。それでは、教科書を買おう」

 

本屋にたどり着いた俺達を見ると、マルフォイさんは人だかりの中へ進んでいった。俺達も何とか付いていくのだが、いかんせん本当に人が多い。何度もぶつかりながら、やっとのことで店内にたどり着いた。

 

「一体、何だっていうんだ。去年はこんな人だかりはなかったぞ?」

 

「おい、あれ見ろよ」

 

思わず文句を垂れるドラコに、ブレーズが何かを指さす。俺もつられてそちらを見ると

 

「サイン会……。ギルデロイ・ロックハートって……」

 

「そ、あの有名人。どうやら、今日はサイン会らしいな」

 

迷惑な話だ。三人が口にしなくともそう思っていたら、突如大きな声が聞こえた。

 

「もしや、ハリー・ポッターでは!?」

 

その声がもたらした変化は劇的だった。

ドラコは顔をしかめ、声の方を向く。前にいるマルフォイさんも同じ様に声の方を向き、何かを見て顔をしかめる。その顔が本当にそっくりで、ブレーズが必死に笑いを堪えながら俺の後ろに隠れる。笑っているのがバレたら面倒なのは承知の様だ。その後ロックハートが

 

「みなさん、ここに、大いなる喜びと、誇りを持って発表いたします。この九月から、私はホグワーツ魔法学校にて、闇の魔術に対する防衛術担当教授職を引き受けることとなりました!」

 

と発表し、さらに騒ぎが大きくなり、ますますドラコが顔をしかめる。ポッターが目立つのが気に食わない、と見事に顔に書いてある。

このままここにいたら面倒なのは目に見えている。後ろを振り返り、ブレーズに小声で話しかける。

 

「おい、さっさと目的の本を買いに行こう」

 

「え? 何で? 面白そうじゃん」

 

「このままここにいたら、いざこざが起きるだろ?」

 

「まあなぁ。ドラコの顔を見りゃわかる」

 

「だからドラコがポッターにちょっかい出す前にここを離れるぞ」

 

そう言うとブレーズは少し吹き出し、ニヤニヤ笑いをしながら俺の後ろを指さして答える。

 

「……あのよ、言いにくいんだけどさ」

 

「何だ?」

 

「手遅れ」

 

急いで振り返ると、確かに少し離れた所でポッターに絡むドラコの姿があった。ついでに、ポッターだけではなくその近くにいた赤毛の少女とウィーズリー、そしてハーマイオニーにも絡んでいる。

今にも飛び掛かりそうなウィーズリーの姿から、既に一悶着あったことが読み取れる。ブレーズの言うとおり手遅れだ。

 

「どうするよ? ここからじゃ、遠くて声が聞こえないぜ?」

 

「……近くに行こう。もうさっさと買い物終わらせるぞ」

 

「ヘイヘイ。相変わらずお前は面倒事が嫌いだねぇ」

 

ため息をつき、問題を避けることを諦めさっさと用事を済ませることにする。ブレーズと一緒にドラコの隣へ移動する。何とか人ごみを避けて、ようやくギリギリ声が聞こえるところまで来た。すると、先ほどよりも人が増えていた。

マルフォイさんと、知らない赤毛の男性――恐らくウィーズリーさんだろう。

 

「これは、これは、――アーサー・ウィーズリー」

 

マルフォイさんがウィーズリーさんに向けるその薄ら笑いは、ドラコがポッターに向ける物と同じで二人の関係がどんなものかすぐにわかる。案の定、二人は向き合ったまま明らかに友好的ではない会話を始める。

 

「お役所はお忙しいようですなぁ。あれだけ抜き打ち調査をしたのですから。当然、残業代を……いや、どうもそうでないらしい。そのようでは、わざわざ魔法使いの面汚しになる甲斐がないですねぇ」

 

「マルフォイ、魔法使いの面汚しがどういう意味か、私たちは意見が違うようだ」

 

「さようですな」

 

ここまで言うと、マルフォイさんはグレンジャー夫妻に目線を動かし、

 

「こんな連中と付き合っている様では、君の家族も落ちるところまで落ちたと思っていたんですがねぇ」

 

と冷たく嘲笑った。

その様子で、何故ゴードンさんがマルフォイさんを嫌悪するか分かった気がした。

根っからの純血主義。純血主義の一部どころか全部を肯定し、魔法界の存続に実質不可欠なマグル生まれを目の敵にする人達。マグルがまるで存在してはいけないというように過剰なほどの反発をする人達。いるのは知っていた、あったことは無かった。しかし、それはまさにマルフォイさんのような人ではないか。

ドラコがグリフィンドールと対立するのも専らこれが理由だ。俺と話し合ってから多少はマグルに対する見方が変わったとはいえ、それはあくまで「排除」から「利用」といった感じだ。きっと根本にあるマグル嫌いはこの人から来ているのだろう。

しかし、この場ではこれ以上深く考えることはできなかった。顔を真っ赤にさせたウィーズリーさんが飛び掛かり、乱闘へとことが発展したからだ。

 

「どうするよ? 本でも買いに行く?」

 

「いまさら何を言ってんだ……。別の場所に買いに行くしかないだろ……」

 

乱闘まで起こしては、もうここにはいられまい。どこからか現れたハグリッドが二人を引き離しあっさりと乱闘は終わったが、マルフォイさんとドラコはさっさと外へ行ってしまった。

もう一度ため息をつき、ブレーズと一緒にマルフォイさんを追いかけ店の外へと向かう。その際に、少しだけハグリッドの話声が聞こえた。

 

「みんな知っちょる。マルフォイ家の言うこたぁ、聞く価値がねぇ。そろって根性曲りだ」

 

スリザリンでは立派な家系と言われていても、どうやらグリフィンドール側では違うらしい。何となく分かる気もするが……。

 

「何か、難しいな」

 

「何がだ?」

 

「いや、家柄とか、主義だとか、考えとか色々」

 

そうブレーズに呟くと、少し呆れたような声で答えが返ってきた。

 

「別に難しくねぇよ。お前が難しく考えてるだけだろ」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。嫌いなのは嫌い。好きなのは好き。それでいいじゃねぇか。家柄とか主義だとか考えはそこまで関係ないだろ。利益不利益は関係あるだろうが」

 

ブレーズらしい考えだなと思うと同時に少し納得する。自分は少し難しく考えすぎていようだ。

 

「いいな、あっさりした考えで」

 

「これが普通なの。お前が考えすぎなだけ」

 

そうかもしれないな……。などと漏らしつつ、ドラコ達に追いつく。ご機嫌斜めな二人だったが、買い物が終わるころには直っており解散の時はにこやかに別れを告げた。

ブレーズは暖炉を使って帰るらしく、そこら辺の暖炉へと向かった。マルフォイさんは帰りも俺を送ってくれた。別れ際に

 

「それでは、エトウ君。君とも、いつかじっくり話をしたいものだ」

 

などと言われた。社交辞令にしては微妙なところを考えると、若干本気であったりするのだろう。俺の何が気に入ったか分からないが、普段ドラコがホグワーツの話をするときに俺が出てきたりするとかそういったところか。それ以外に思いつかない。

 

「そうですね。機会があれば、是非」

 

そう返す。こちらも聞きたいことがあるのは事実だ。ゴードンさんのことも、純血主義も。

急ぐことでもないとは思うが、ドラコと付き合っていく中でこの人の影響が大きいということは分かる。この人がどんな人かを判断することは必須だろう。

去っていく二人組を見ながら、考えることが増えたことを思う。ブレーズに考えすぎだと言われたばかりだが、自分は考えすぎの方が性に向いているようだ。こればっかりは仕方がないだろう。魔法界にいなかった十一年分、深く考えでもしない限り取り戻せはしないだから。

また考え事をしながら宿に入る。悩みを持つことにもそろそろ慣れた。

 

 

 

 

 

ジンを宿に送り、帰り道を歩くドラコとルシウス・マルフォイ。

今日、ルシウスがダイアゴン横丁に訪れたのはただ買い物の付添が目的ではなく『日記』をホグワーツへと送り込む下準備のためでもあった。最初、ドラコの友人である二人の内どちらかに何らかの理由をつけて日記を託そうかと考えていた。しかし、ドラコの話には聞いていたがジンという少年は確かに賢い。そして、想像以上に自分への警戒心も強かった。彼に『秘密の部屋』の鍵を託したらどうなるか……。面倒事を嫌う彼のことだ。『秘密の部屋』を開く前に処分するだろう。もう一人のブレーズという少年も無理だと悟った。この少年に古ぼけた日記帳を渡しても、捨てられるのがオチだ。よしんば『日記』の特異性に気がついても、必ずジンに相談をするだろう。そうなれば、ジンに渡すも結果は同じ。

何とも『日記』の行き場に困っていたら、幸運なことに混雑した書店にてウィーズリー家と出会った。そして、何とも内気で愚かな末妹がいたものだ。これ以上の好物件などありはしないだろう。早速、騒ぎに紛れ『日記』をその末妹の荷物に紛らわす。あの少女だったら古ぼけた日記を自分の物として使う確信もあった。ウィーズリー家はいつもみすぼらしいのだ。

目的を達成した後、ようやく人心地が付いた。いわば、連れの二人を息子の友達として見る余裕ができたのだ。

ブレーズは以前に何度か見たことがある。母子家庭であり、随分と自由に育ってきたようだ。しかし、家柄も人柄もさほど悪くはない。息子の友人としてはふさわしい分類に入る。

しかし、ジンは何とも言えない。親は知っている。何を隠そう、自分と同期だったのだから。家柄は悪くはない。両親を見る限り彼はグリフィンドールよりかと思っていた。彼の両親が純血主義を肯定することなど、一度もなかった。むしろ、マグルと仲良くしたりマグルの技術を褒め称えたり正反対に位置した。

……まあ、それが原因で目を付けられて殺されたのだが。

だがドラコの話を聞く限り彼は両親と異なるようだ(幼い頃に両親を亡くしている分、仕方がないかもしれないが)。その上、実に興味深い。何でも、マグルを糾弾しない純血主義を掲げるとか……。

そのような都合のいいものなど、あるのだろうか? ルシウスが純血主義を掲げるのは、偏に我が家の地位を確立させるため。そのためには純血主義は何かと都合がいい。しかし、その唯一の問題点はマグル賛同派との対立だ。それも、近年になってだいぶ増えてきている。もしドラコの言うとおりの物をジンが掲げるならば、彼は我が家にとって大きな問題の一つを解決してくれることとなる。

別にさほど期待している訳ではない。賢いと言っても子供だ。だが、その考えの根本さえ押さえれば何か変わるかもしれない。聞く価値はある。

 

「父上、今日はどうでしたか?」

 

ずっと横を歩いていた息子が問うてくる。

 

「ああ、実に有意義な時間だった」

 

そう答えてやると、少し嬉しそうにするのが分かる。

父親の心中など知る由もなく無邪気に友を誇る息子に愛おしさを感じつつ、その誇らしい友の有効活用に考えを巡らせる。

久しぶりに味わう、使える駒を見つけた時の満足した心持ちで家に帰る。実に有意義であった、ともう一度心の中で呟いた。

 

 

 




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