日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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ハロウィン

ドラコの言葉によりグリフィンドールから非難が溢れ出る中、当の本人であるハーマイオニーはキョトンとした顔であたりを見渡している。何故こんなにも荒れた状況になっているのか理解できていないようだ。正直、俺も少し驚いている。まさか「穢れた血」と言うたった一言でここまでの乱闘が起こるとは思いもしなかった。

取っ組み合いが今にも起きそうな雰囲気の中、ウィーズリーが杖を取り出して

 

「マルフォイ、思い知れ!」

 

と叫びながらドラコに向けて突きつけた。途端にバーンというデカい音がして、何故かドラコではなく杖を突きつけた本人であるウィーズリーが吹き飛んだ。

 

「ロン、ロン! 大丈夫?」

 

ハーマイオニーが悲鳴を上げながら近寄ると、ウィーズリーは上体を上げ何かを吐き出した。それを見たスリザリンチームは大爆笑で、グリフィンドールチームはウィーズリーから一歩離れた。やがてポッターとハーマイオニーがウィーズリーを助け起こし、引き連れて歩き始めた。スリザリンチームとグリフィンドールチームはそのまま競技場へと入っていき、見えなくなった。

俺は競技場から学校へと繋がる一本道にいる。そのため、自然と競技場から移動するウィーズリー達と鉢合わせることとなった。俺はあえて隠れず、面倒事も承知でこの場でハーマイオニーに話しかけることにした。少しでも、ドラコの態度を弁明したいのだ。

俺が前に出ると、当然だがポッター達はいい顔をしなかった。ハーマイオニーでさえ少し困った顔をしている。ウィーズリーは俺を睨みながらも本当に辛そうに何かを吐き出している。その何かは、近くで見るとナメクジだと分かった。

 

「……僕らに、何か用かい?」

 

ポッターが前に立つ俺に対して尋ねてくる。俺は少し頷き、ハーマイオニーに向かって話し始めた。

 

「……ドラコのことなんだが、許してやって欲しいんだ。アイツ、今は少し面倒な状況にいて……。カッとなって、ついハーマイオニーに対して悪態を吐いただけなんだ。だから、頼む。さっきのことは大目に見てやってくれないか?」

 

少し戸惑いつつもハーマイオニーが頷きそうになった時、ウィーズリーがナメクジをまき散らしながら怒鳴り始めた。

 

「カッとなってついだって!? カッとなってつい君たちは「穢れた血」だなんて言葉を使うのかい!?」

 

その剣幕に、少し怯みつつも何とか言葉を紡いでいく。

 

「あ、ああ。……あいつ自身、「穢れた血」って言葉がどれだけ酷い言葉かっていうのをそこまで理解していないんだと思う」

 

「そんなはずはない!」

 

ここでまた大きなナメクジを吐き出しながら、ウィーズリーは怒鳴り続ける。

 

「お前も純血なんだろ!? だったら、この言葉の意味ぐらい分かってるはずだ! それを、つい言ってしまっただけだって!? 馬鹿にしているにも程があるよ! それとも本当に分かっていないのかい!?」

 

実際に分かってはいないのだがドラコがどれだけ失礼なことをしたかウィーズリーの態度で分かった。ドラコはきっと「穢れた血」を「馬鹿」と同等の意味ぐらいにしか捉えていないのだろう。しかし実際は、マグル界にもあるが、決して口にしてはいけない罵倒と言うものに相当する様だ。

完全にこちらに非があるのだ。いや、こちらにしか非はない。ウィーズリーの怒りももっともで、何も知らずに許してくれなどと言った俺が間違いだった。

何も言えず俯く俺に、同情したのかハーマイオニーが声をかけてくる。

 

「私、その、穢れた血って言う言葉の意味を知らないから、何も言えないんだけど……。ごめんなさい、今はとにかくロンをハグリッドの所まで連れて行きたいの」

 

「……ああ、引き留めてごめん。それに悪いな、変なワガママまで言って」

 

ハーマイオニー達に道を譲り、三人が通り過ぎ、いなくなったところで大きく溜め息を吐いた。

どうも上手くいかない。何も上手くいかない。

ブレーズとドラコの仲は悪化し、ハーマイオニーとも亀裂を作った。そのどれも、俺が余計なことをしたのが原因だ。頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまいたい。

それでも重たい足を引きずって、競技場に入りドラコの様子を見る。ドラコは、自分のいない間に何が起こったか知らず必死にフリントや他の選手が投げるボールをキャッチしていた。その様子に胸が締め付けられるように感じつつ、スタンドでジッと練習が終わるのを待つ。

どれ程の時間が経ったのかは分からないが、気が付けばスリザリンチームが全員集合しそのまま競技場の外へと向かっている。練習が終わったのだろう。追いかけようと急いでスタンドを下りると、こちらに向かってきたドラコと鉢合わせになった。

 

「やあ、ジン! 来てくれていたんだね! スタンドにいたのが見えていたよ」

 

「ああ、練習があるってダフネから聞いたからな」

 

嬉しそうに話しかけてくるドラコに、先程のこともありどうしても少し暗い口調で返す。俺の様子に気が付いたドラコは気遣う様にこちらを覗いながら尋ねてきた。

 

「どうかしたのかい? 少し様子がおかしいが?」

 

「……まあ、な」

 

「何があったんだい?」

 

「……最初はブレーズもいたんだ」

 

俺の言葉にドラコは驚いた顔になる。が、それも一瞬ですぐさましかめっ面になるとさらに問いただしてきた。

 

「それで? ブレーズは何だって?」

 

「……他の奴らが持ってる箒を見ると、練習も見ずに帰って行った」

 

「へぇ……。まあ、それでも僕のやることは変わらないさ」

 

予想以上に冷静な反応に驚き、ドラコの顔を見る。確かに迷いは無いように見えた。

 

「もともと、アイツは僕がズルをして入ったと思っていたんだ。さっきと何も変わらないよ。それに、そう思っているのはブレーズだけじゃないみたいだしね。そういった連中に、絶対に僕のことを認めさせる。そのためにも、クィディッチは辞める訳にはいかないんだ」

 

熱く語るドラコから確かな決意を感じる。そういえばコイツもかなりの頑固な性格だった、と思い出す。ブレーズのことも、ハーマイオニーのことも、ドラコにとっては決意を新たにする切欠となったようだ。

思ったよりも事態がプラスの方向に向いていて一種の安堵を覚える。ドラコとブレーズの喧嘩が始まってから、初めて仲直りの切欠らしい切欠を見つけた。

 

「そうか。なら、良いんだ」

 

「おや、止めないのかい? 僕は一歩も譲らないと言っているんだ」

 

「ああ。何だかんだ言って、お前が皆に認められる方が丸く収まりそうだしな」

 

ここでクィディッチを辞めたら、ブレーズとは寄りが戻せるかもしれないが周りの連中やハーマイオニーには誤解を生むだろう。逃げた、と思われるのは俺もドラコも本意ではない。

 

「話は終わりかい? なら、寮に戻ろう。今日はもうクタクタだ」

 

「ああ、少し待ってくれ。聞きたいことがあるんだ」

 

少し笑いながら寮に向かって歩くドラコだが、俺はそれに待ったをかけた。ドラコは不思議そうな顔をしながらも、律儀にこちらに向き直り話を聞こうとする。

 

「何だい? 大事な事なのかい?」

 

「ああ、大事なことだ」

 

そう答え、一息おいてから本題に入る。

 

「お前が認めさせたい連中の中に、ハーマイオニーは入ってるか?」

 

ドラコはビクリッとして固まる。

今のドラコにとって、ハーマイオニーの話題は明らかな地雷だ。折角の穏やかな雰囲気をぶち壊すことになるだろう。しかし、それでもこのことはハッキリさせておきたいのだ。実際のところ、ドラコがハーマイオニーをどう思っているのか。

 

「どうしてこんなことを聞くんだい?」

 

「お前がハーマイオニーを穢れた血って呼んだからだ」

 

今度こそドラコは動揺を隠せなかった。驚きで目を見開き、俺を凝視する。

地雷を踏むことへの戸惑いはなかった。何度も避けようとして踏んできたのだ。正直、少し開き直っている。

 

「お前の中で、ハーマイオニーはどうしても受け入れられない存在なのか? 穢れた血って言う言葉は、そういう意味もあるんだろ?」

 

ドラコは黙ったまま俺を見る。俺もドラコを見つめ返す。何でもいいからドラコの口から聞きたい。軽い気持ちで言ったというのでもいい。逆にどうしても受け入れられない存在だという言葉でもいい。このままにしていたら、いずれ大きな問題になってしまうだろうから。ここらでケリを付けたかった。

しばらくして、ドラコが小さく呟いた。

 

「……僕は何も、そんなつもりで言ったんじゃない。事実を言ったまでだ」

 

その言葉に少なからず安堵する。ハーマイオニーのことがどうしても受け入れられないのではない、と言っている。現状を改善する余地があるのだ。

 

「僕は純血だ。名家でもあるんだ。マグル生まれに馬鹿にされて黙っているなんてできない」

 

言い訳がましい口調で悪態を吐いた理由を説明する。いや、これはいっそ言い訳だ。悪態の根底にあるのは嫌悪や憎悪と言った感情ではなく、プライドだろう。名家としての立場、威厳、品格。以前もどこかで言っていた気がする。ドラコ自体はハーマイオニーのことを嫌悪している訳ではないようだ

 

「……ああ、分かったよ。安心しろよ。いつか、折り合いがついたらハーマイオニーとも仲良くやっていけるさ」

 

声色にも安堵した気持ちが出ていたのだろう。俺の言葉を聞くと、顔を赤らめ

 

「仲良くなりたいんじゃない! 認めさせてやるだけだ!」

 

そう叫ぶと、俺を置いてツカツカと校舎へと帰って行った。その後を追いながら、俺も同様に校舎へと戻って行く。

結局、事態はよくはならなかった。ハーマイオニーとも亀裂を生み、ドラコもブレーズも引くに引けなくなったことを考えるとむしろ悪化している。それでも、ドラコの本心に近づけたのは大きな収穫だと思う。名家の意地や穢れた血と言った問題があるが、解決の糸口が見えた俺は事態とは反対に気分が少し晴れていた。

寮に帰ると、喧嘩してからいつも通りのブレーズとパンジー、そして疲れた表情をするダフネがいた。ドラコが帰ってくると、ブレーズは部屋に帰りパンジーはドラコに話しかけに行った。クィディッチの練習後なので多少何かあるかと思っていたが、どうやらダフネが気を利かせて説得でもしてくれたらしい。

 

「お疲れさん」

 

「ええ疲れたわ、とても」

 

素直に労いの言葉をかけると、苦笑いと共にダフネにしては珍しく弱音を吐いた。

自分用のカップに紅茶を入れるついでに、空になったダフネのカップにも注いでやる。いつの間にかドラコとパンジーもいなくなっており、いつかと同じように俺とダフネが紅茶をすする音だけが談話室を支配した。

 

「思っていたよりも、状況は悪くないみたいだ」

 

「そう? 私達がいなくなってから何かあったのかしら?」

 

沈黙を破ったのは俺からで、競技場での出来事を掻い摘んで話していく。ハーマイオニーのことも、ドラコの本心も。

一通り話し終えると、ダフネは少し溜め息を吐いて紅茶を飲み干す。

 

「まあ、確かに賄賂云々の後に現状維持の形が取れているだけで収穫よね。でも、ハーマイオニーのことは正直甘く見すぎよ」

 

「そうか?」

 

「ええ。穢れた血って言葉はかなりの痛手ね。マグル育ちのあなたにはピンとこないでしょうけど」

 

「ドラコが撤回するだけじゃ収まらないのは分かるが、償いができないわけじゃないだろ?」

 

「さあ? ハーマイオニー次第ね」

 

「……穢れた血って、どれくらいヤバい言葉なんだ?」

 

何処か諦めの入ったダフネの言葉に、確認を取る。

 

「人によっては、絶縁ものね。唯一の救いは、ハーマイオニーがあまりその言葉の意味を知らないことかしら」

 

「でも、言葉だろ?」

 

たった一言。たとえそれが禁句だとしてもそれで崩れてしまうほど二人がもろい関係とは思えなかった。

 

「そうね、その一言で私たちの親の世代は何人もが死んでいったわ」

 

冷静に返された言葉に、少し冷や汗が出る。改めて、いや初めてその言葉の重みを感じた。言葉を失った俺にダフネはフォローをする。

 

「でも、それも十年以上も前の話よ。今では多少はその重みも薄れてきているもの。それに、ハーマイオニーなら分かってくれるわよ」

 

「……そうだな」

 

頷きつつも、少し疑問に思う。ダフネは、穢れた血という言葉の重みを理解しているようだがドラコはどうも違うようだ。二人の間に何の違いがあるのだろうか?

 

「ドラコは、どうして穢れた血って言葉を軽く受け止めているんだ?」

 

そう聞くと、ダフネは少し悲しそうに笑いながら答えた。

 

「こればかりは、家柄としか言えないわね」

 

同じ名家なのに、家柄の違いなどあるのだろうか? 疑問は深まっただけだが、ダフネがあまり話したくないようなので話をそらすことにした。

 

「ああ、そうだ。ここに来る途中に一つ思い出したんだ。仲直りの切欠になりそうなもの」

 

「またかしら? 言っては何だけど、私たちがそう言った物の全ては事態を悪化させているわよ」

 

「まあ、これは悪化しえないものだ」

 

「何かしら?」

 

「ああ、もうすぐハロウィンだ。去年も、ハーマイオニーと仲良くなれる切欠になったんだ。そう悪いことは起きないだろ」

 

「そうね。ハロウィンなら仲直りの切欠にならなくても楽しめそうだし。でも、去年みたいな目に遭うのは嫌よ?」

 

「あり得ないだろ。もしまたトロールが出てきたら、本格的に学校に訴えを出したくなるな」

 

「同感ね」

 

先程の悲しげな顔は成りを潜め、いつも通りになった。立ち上がると、空になったカップを運び、自室へと戻るようだ。

 

「あなたはハロウィンパーティー、どう過ごすつもり?」

 

「ああ、他の奴の邪魔はしたくないからな。気ままに過ごす。まあ飯を食って、飾りを楽しんで、ネビルにでも話しかけて、飽きたら自室に戻って本を読むさ」

 

「そう。別に私達といても邪魔になんてならないわよ?」

 

「そうか? ブレーズは、あれで結構人気だからな。女の先輩や、他の女子やらに話しかけられるだろ。ドラコとパンジーは言わずもがな、だな。馬に蹴られたくはない」

 

「馬に蹴られる?」

 

「恋路の邪魔ってこと。それに、ダフネだって知り合いに話かけられて忙しいだろ」

 

「まあ、否定はしないわ」

 

「そう言った相手もいないし、去年は散々だったし、最近疲れたし、ゆったりと過ごすよ」

 

「そう、なら良いわ。ハロウィンまであとどれくらいかしら?」

 

「あと十日ほど」

 

「分かったわ。今年は楽しめると良いわね。おやすみ」

 

「お前もな。おやすみ」

 

俺も紅茶を飲み干すと、自室に戻った。その日はベッドに入ると直ぐに眠りに落ちた。

 

 

 

ハロウィンまでの約十日間、変化は訪れなかった。ドラコはクィディッチで忙しく、ブレーズは相変わらずドラコには近寄ろうとしない。ハロウィンになった今日だって、それが変わるとは思えなかった。

朝から漂うご馳走の匂いに、去年と同じように多くの生徒がパーティーを今か今かと焦がれつつ授業を受けていた。授業が終わり、パーティーの時間になると全員が仲の良い者でかたまり大広間へと向かう。その中、めかし込んだブレーズと二人の女の先輩が楽しげに話しながら歩くのを見た。予想通りの光景に苦笑いを漏らしながら、周りを見渡して他に誰かいないか探してみた。ダフネの姿はすぐに見つかった。二人の女子と一緒に、何やら数名の男の先輩に話しかけられている。青春の一ページだろう。邪魔にならないよう、そっとその場を離れた。ドラコとパンジーは見当たらなかった。もしかしたら、もう先に行っているのかも知れない。二人の邪魔は一番したくない。もし、俺が一人の所を見られてしまえば気を遣わせてしまうかもしれない。見つからないよう、隅の方にいるのがいいだろう。ハーマイオニーの姿は見えなかった。あの出来事以来話していないので、今日くらいは話したかったがいないのでは仕方がない。そして目当てのネビルも見つけたのだが、側に他のグリフィンドール生がいるのを見て話しかけるのを止めた。折角ゆったりとできる機会なのだ。自分から面倒事は起こしたくはない。

結局一人で大広間に行き、去年は見ることのできなかったハロウィンの飾りつけに御馳走をなるべく目立たない隅の方で堪能することにした。傍から見たら随分と寂しいハロウィンパーティーだろう。まあ、少し寂しかったりする。それでも、羽を伸ばし疲れをとるには十分で気落ちすることは無かった。

食事も楽しみ、飾りつけも十分眺めたので早いが自室に戻ることにした。扉を開け、薄暗い廊下に出る。外に出てしまえば、パーティーの騒がしさは一切なくなり足音さえ聞こえる静かな空間だった。

欠伸をかみ殺しつつ、自室に向かっていると後ろの方で扉の開く音がした。俺以外にもいるパーティーを抜ける奴が気になって振り返ると、そこにはダフネがいた。

「丁度、あなたが出ていくのが見えたから追いかけてきたのよ」

 

余程、呆然とした俺の顔が可笑しかったのであろう。クスクスと隠す気もなく堂々と笑う。

 

「いいのか? 俺はこのまま帰るつもりだが。パーティーは終わってないだろ?」

 

「抜け出したあなたが言う言葉じゃないわね」

 

そのまま隣を歩き始めたダフネに、どうしても戸惑いを隠せない。俺自身が好きでこうしているのがダフネは分かっているはずだから、そこまで気を使う必要はないだろうに。そう考えたのが分かったのか、苦笑いをしながら説明をしてくる。

 

「流石に、ずっと名家や知り合いに挨拶するのは疲れるのよ。息が詰まるわ。嫌いではないけど、ブレーズみたいにずっと楽しめはしないのよ」

ああ、と納得して頷きつつもこの会話がハロウィンパーティー以来の初めてのものだと気が付く。そして、そんなことを気にしてしまう自分は、思ったよりも寂しがっていたのかもしれない。

 

「来年は……皆で過ごしたいものだな」

 

そう漏らすと、ダフネは少し驚いた顔をしたが直ぐに笑って

 

「そうね。私もそうしたいわ」

 

と賛同してくれた。

そのまま自室に帰ろうとしたのだが、次の瞬間に妙な声が聞こえた。

 

「……殺してやる……殺す時が来た……」

 

ゾッとするような声に、思わず声の方を振り向く。しかし、そこには何もいなかった。

 

「どうかしたのかしら?」

 

急に立ち止まった俺を不審に思って、ダフネが聞いてくる。

 

「なあ、声が聞こえなかったか?」

 

「声? 何も聞こえなかったわ」

 

嘘は言っていないようだ。しかし耳を澄ませると、確かに声が聞こえる。

 

「……腹が減った……何か殺そう……腹が減った」

 

徐々に遠ざかっていくそれは、どこかに向かって移動している様だった。

 

「こっちだ、こっちから聞こえる。間違いない」

 

こんな物騒な声を出す物を放っておくことはできない。しかし、移動しているそれは誰かに報告に向かったらすぐに見失うだろう。急いで音源を追う俺に、ダフネは心配そうに声をかけてくる。

 

「私は聞こえないわ。……疲れているのよ、帰りましょう?」

 

何処か恐怖も入った声色を聞いて、少し冷静になる。どうやらダフネには本当に聞こえていないらしい。

 

「先に戻っててくれ。ちょっとだけ様子を見てくる」

 

恐らく、危険を伴う。なら俺一人の方がいい。ダフネの静止の声に耳を貸さず、急いで音源を追う。階段を駆け上がり、声に耳を傾ける。

 

「……血の臭いがする……血の臭いがするぞ!」

 

嬉しげな叫びが聞こえると共に、確信する。

この声は危険だ。そして、誰かが狙われている。

杖を構え、いつでも逃げられるようにしながら声の聞こえた角をこっそりと覗き込むと、誰もいない代わりに壁の一部が光っていた。そーっと近づくと、それが文字であることが分かった。

 

 

秘密の部屋は開かれたり

継承者の敵よ、気をつけよ

 

 

どういう意味かさっぱり分からないが、危険な事だけは分かった。しばらくそれを観察し、誰かに報告に行こうと決めた瞬間、次なる訪問者が現れた。

 

「……ジン?」

 

振り返ると、ポッター、ウィーズリー、そしてハーマイオニーの三人が立っていた。

 




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