日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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ロンドンだと思ったか?ダイアゴン横丁だ

十時くらいになった時に、インターホンが鳴った。恐らく、迎えだろう。叔父は警戒しながら、ドアを開けた。そこに立っていたのはダンブルドアだった。

 

「約束通り、刃を引きとりに来た。刃をこちらに連れてきてくれんかのう?」

 

「……少々お待ちを」

 

叔父は無言で俺を玄関まで引き連れ、ダンブルドアの前に突き出した。俺はされるがままになっていた。

 

「うむ、確かに」

 

「これでいいですね。それでは」

 

まるで荷物の引き渡しだ。

なんてことを思う前に、叔父はドアを閉めてしまった。あちらは一刻も早く俺のことを忘れたいのだろう。そんな確信があった。

それは、父さんたちのことを思い出して俺を恐れているからなのか、俺を追いやることへの罪悪感が原因なのかはわからないが、伊達に十年以上も同じ屋根の下で暮らしていない。そんな現実に軽くへこんでいると、ダンブルドアが声をかけてきた。

 

「さて、行くとするかのう。準備はいいかな?」

 

「俺の準備なんて関係ないでしょう?」

 

「ふむ、じゃが、できるものならしたほうがよいじゃろう?」

 

けんか腰の俺に特に気にした様子もなく、俺に準備を促す。準備なんて言っても鞄を拾うだけ。ため息を吐きながら、とりあえず今後のことを考えることにした。

 

「今から、何処に向かうんですか?」  

 

「ロンドンじゃ」

 

淡々と告げられる驚きの知らせ。頭痛を覚えたように頭を押さえる。

 

「俺、英語とか話せませんよ」

 

「大丈夫じゃ。これをつけて御覧」

 

そう言って、ダンブルドアは俺に指輪を差し出した。とりあえず、つけてみたが、何も変わった感じはない。

 

「何ですか、これ?」

 

「これは魔法がかけてあってな。これをつけていると、言語による心配はない。君は英語を読み、書き、聞いて話すことができる」

 

「はあ……。あと、どうやってロンドンまで? 飛行機とかも金がないので乗れませんよ?」

 

「それも、問題ない。準備はできたんじゃな? では、わしのローブをつかんで。そう、それでいい。では、いくぞ」

 

そうダンブルドアが言ったとたん、妙な浮遊感に襲われた。だが、次の瞬間には地面に叩き付けられた。何事だと、状況を把握しようと顔をあげたら目に入ってきたのは全く知らない裏路地の光景。これも魔法か? なんて一人で考えていると、ダンブルドアが話しかけてきた。

 

「ここで、君はホグワーツに必要なものをそろえてもらう。だが、買い物に付き合うのはワシではない。別の者が、付き添ってくれる。ついてきなさい」

 

そう言って、何やら古い店に入っていった。俺はその店の看板を見た。それは確かに英語で書かれていた。しかし、俺は何の苦も無く、英語で書かれたそれを、「漏れ鍋」と読むことができた。驚いた俺は、試に、指輪をはずして再び看板を見た。すると、看板の表記は変わっていないが、俺は何と書いてあるか理解できなかった。 なるほどだ、指輪の魔法は本物らしい。 そのことに若干の感動を覚えながら、急いで「漏れ鍋」の中へと入った。そこでダンブルドアは微笑みながら待っていた。外で何をしていたかお見通しのようだった。

少し不気味だった。俺の考えのどこまでをこの人は知っているのか、本当にわからない。俺が自分のことをあまり信用していないことは知っているのだろうか? 知らなくとも、子供相手には勝手な行動をしないよう、普通は釘を打つ。それとも、自分についてこさせる自信があったのだろうか? 

 

「どれ、子供には少し入りづらい店だったかのう? ここはバーじゃからな」

 

ダンブルドアが冗談を交えて俺に笑いかけた。つかみどころのなく、まじめなのか不真面目なのか。まったくわからない。それも不安の一端を担っていた。

そんな感じでまたもやへこんでいると、いつの間にか変なアーチができていて、奥に石畳の通路が伸びていて……

 

「さて、この先がダイアゴン横丁。君の買い物先じゃ」

 

行き先が、実はロンドンではないことがなんとなく分かった。

 

 

 

ダンブルドアに連れられて、ダイアゴン横丁に来た。そこは俺にとって、理解しがたいものばかりだった。道を往きかう人々も、店の商品も、建物の形すらおかしいものがあった。ドラゴンの肝と書かれた商品はどう見てもレバーにしか見えない。箒を見ながら「ニンバス2000の最新式か……」なんて興奮している子供は俺にとっては掃除用具に発情している変態。

そんな異様な光景の中、ダンブルドアは俺を巨大な、毛むくじゃらな男の前に連れてきた。どうやらこの人が俺の買い物に付き合ってくれる人の様だ。

 

「さて、刃。こちらが、君の買い物に付き合うものだ。」

 

「おお、お前さんがアキラの息子か。なるほど、あいつの幼い頃を見てるみてぇだ……。本当に懐かしい……」

 

「父をご存じで?」

 

「ああ、ああ、知っている。お前さんの親父さんはいいやつだった。俺とも気があった……。ああ、自己紹介がまだだったな。俺はルビウス=ハグリッド。ホグワーツの禁じられた森の森番をしてる」

 

「ご存じだと思いますが、俺はジン エトウです。よろしくお願いします、Mr.ハグリッド」

 

「そうかしこまらんでくれ。俺のことはハグリッドでいい。普通に話してくれ」

 

そう笑顔で言う男、ハグリッドは優しい笑顔で何となくその人となりが分かった。

少なくとも、どこか不思議な印象を与えるダンブルドアよりは安心感を与えてくれる。

 

「そうですか……。えっと、じゃあ、ハグリッド。この後はどこへ?」

 

「ああ、とりあえずグリンゴッツ銀行に行って、必要なものを取らんとな。金が無けりゃ、なんも買えん」

 

「では、ハグリッド、あとは君に任せるとしよう」

 

「ええ、お任せください、ダンブルドア先生!しっかりやりますだ!」

 

ダンブルドアの声掛けに、胸を張って答えるハグリッド。

こうして、ダンブルドアと別れてハグリッドとグリンゴッツ銀行に向かうことになった。

案外近くにあったその銀行は、小鬼が経営している物だった。その銀行は盗人が入ることが無いと思われる程守りが強固で、盗人に入った奴は狂気の沙汰と言われるほど。そのことは入口の二枚目の扉が物語っていた。ハグリッドはカウンターに向かうと鍵をだし、金庫への案内を頼んだ。ほどなくして、別の小鬼がやってきて、後ろの扉を開いてくれた。俺は小鬼についていきながら、ハグリッドに話しかけた。

 

「俺の両親の金庫にはなにがあるの?」

 

「ああ、お前さんに残した遺産と、確か手紙がある。遺産も金だけではない。まあ、見れば分かるわい」

 

「そう……」

 

なんて話しているうちに、トロッコについた。どうやらこれに乗って移動の様だ。三人で乗ったら、トロッコは急に動き出した。それもかなりのスピードで。

 

(……ジェットコースターってこんなもんかな?乗ったことないからわからんが)

 

なんて下らないことを考えていたら、割と早くに金庫についた。何やら吐きそうになっているハグリッドはそっとしておいて、俺は小鬼について行った。

小鬼が扉を開け、中を見てみると、中には金貨と銀貨と銅貨でできた山があった。驚いている俺に、回復したのか、ハグリッドが俺に話しかける。

 

「どうだ。これは、みんなお前さんのものだ! 驚いたろう?」

 

そう言うハグリッドに反応できず、俺はただその山を見ていた。そして、山とは別に鞄が部屋の脇に置いてあるのに気が付いた。

 

「これは?」

 

「おお、それはお前さんの両親が残したものだ。見てみるといい」

 

俺は鞄の中身を見ると、そこには手紙と本が数冊入っていた。

手紙を開けると、両親から俺宛の、遺書だと分かった。

 

『愛する息子 刃へ

お前に親らしいことをするどころか、思い出さえ作ってやれなかったことが本当に悔しくて、悲しくて、寂しくて、何よりお前に申し訳ない。もしかしたら、お前は私たちを恨んでいるかもしれない。寂しい思いも、つらい思いもさせることになった私たちをこの上なく恨んでいるかもしれない。でも、どうか、これだけは伝えたいし、知ってほしい。私たちがお前を愛さなかった時は一瞬もない。そして、死んでもなお、お前を愛している。わがままかもしれないが、お前は愛されていることを、どうか知ってほしい。それだけが伝えたい。お前をずっと見守っている

江藤 彰・加奈』

 

両親の遺書を見て、少し嬉しくなった。俺も子供だ。寂しくなる時もある。両親の愛はこの手紙で十分伝わった。それでいい。もう十分。

少し、淡白な反応かもしれないが、仕方ない。俺からしたら、知らん人からの手紙を両親の物だと判断しただけでも上出来だ。そう見切りをつけて数冊の本へと手を伸ばす。

本にも何やらメモのような物があった。

『これは私たちがホグワーツで学んだことの全て。あなたがホグワーツで役に立てて欲しくて作りました。これには、授業のこと以外にもホグワーツについても載っています。読んでみてね』

 

この本にはどうやら、ホグワーツのことも書かれているらしい。ものすごく助かる。魔法の学校と身構えているが、これがあれば何かと無駄に驚くことも少なくなるだろう。

そんなことを思いつつ、お金と鞄を持って、地上に戻っていった。ハグリッドは、あまり感動した様子を見せない俺に少し疑問を持っていたようだった。

 

「もう行くのか? 手紙もざっと目を通しただけだろうに」

 

「本もあるんだ。後でじっくりと目を通すよ。それに、買い物だってしなくちゃならないでしょう? 本の量も多いし、後でじっくりね。トロッコに行こうか」

 

ハグリッドはまたトロッコに乗ることが分かって青ざめている。  

ついでに、俺は、初めてここに来て良かったと思えた。

 




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