日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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短めですが、思ったより短時間でできて、きりが良かったのであげます。

前回の半分以下の文字数ですが、このぐらいでも大丈夫ですかね?



沈黙の限界

復活祭の休暇に、二年生には選択科目の決定が義務付けられていた。選択と言ってもそう幅があるものではない。

マグル学、魔法生物飼育学、数占い学、占い術学、古代ルーン文字学。

この五科目の中から二科目を選ぶだけ。今までの教科に二科目も加わるのは大きいが、そう悩むものでもないというのが第一印象だった。配られた科目のリストから自分が学びたい科目にチェックをつけていくため、いつも通りのメンバーで集まっての会議が開かれた。

 

「といっても、こんなものを深く考える必要はないさ」

 

少し自慢げにドラコが話した。

 

「この教科が続くのは三年間。五年生になったら、また科目を選択する必要があるからね。今回のは、まあ、科目選択のノウハウを知る練習と言ったところだね」

「また選択するのか?」

 

「ああ、五年生の方は重要だね。就職に大きく関わってくるからね。まあ、それでも僕達にはあまり縁のない話だ。実力さえあれば、父上達が何とかしてくれるしね」

 

ドラコのこの言葉は多くのスリザリン生の本音でもある。家のコネがあれば、余程のことが無い限り食いあぶれることはない。魔法省の何処かには就職ができる。実力が伴えば若くしてトップにも立てるチャンスなどいくらでもある。それほどコネの力は大きい。その辺は素直に羨ましいと思う。

 

「ま、やりたいことをやるってのも良いが、無難なものを選ぶのが一番だな」

 

そう言うと直ぐにブレーズは二個チェックを付けた。

 

「魔法生物飼育学、占い術か……」

 

ブレーズがチェックしたものを見て呟く。この二つが無難というのだろう。

 

「占い術に関しちゃ、別に数占いでも構わねぇよ。占いなんて、授業以外に使わねぇお遊びみたいなもんだし。逆に魔法生物飼育学は、ほとんどの奴が取るはずだぜ。なんせ、これを取んなきゃ魔法生物に関しちゃ知る機会が全くなくなるからな。古代ルーン文字はなぁ……。面倒な科目だぜ? と言ってもマグル学よりかは幾分もマシだと思うがな。マグル学みたいに必要かどうかも分からん科目よりはずっとためになる」

 

ブレーズは欠伸交じりで説明しながら、羽ペンを置く。選択に関しては全く興味が無いようだった。

 

「個人的には、古代ルーン文字を推したいわ」

 

ダフネもチェックを入れながら、自分の意見を言う。

 

「マイナーなものが主だけど、これを理解してないと全く分からないって魔法もあるし。魔法生物飼育学は微妙ね。少なくとも、女子はあまり好んでとらないわ。魔法生物に触れ合うことなんて、経験しなくてもいいって言う考えもあるし。占い術と数占いなら、私は数占いね。占い術は不確かで才能によるものが多いから、できない人はとことんできないわ。対して数占いは誰でもできるみたいだし」

 

ダフネもアッサリと選択を終える。

 

「僕は魔法生物飼育学と数占いだね。占い術は、上級生の意見では取り科目だそうだけど……。成績点はほぼ満点近くを狙えるそうだ。しかし、O・W・Lの試験ではかなり苦労する羽目になる」

 

「O・W・L? フクロウ(owl)か何かか?」

 

「ああ、通称『フクロウ』とよばれる試験のことだよ。Ordinary Wizarding Levels(普通魔法レベル試験)の頭文字をとってO・W・L。5年生の学期末に受ける重要なテストのことさ。仕事にも影響がある重要なテストだよ」

 

ドラコはそう言うが、ブレーズは占い術学を止める気は無いようだった。

 

「学校の成績も、仕事に影響を与えるっての。何でも、担当教師が不幸自慢をすれば成績をくれるメシウマな人間なんだってよ。要するに、でっち上げれば満点くれるんだよ。最高じゃねぇか?」

 

周りが呆れた様にしながら目配りをする。ブレーズはその隙をついて、俺に軽く耳打ちをした。

 

「ダフネもさっきは立派に何か言ってたが、不幸自慢が好きじゃないから数占いにしてんだ。皆、似たようなもんだって。あんまり深く考えんなよ」

 

どうやら、俺が悩みすぎることを心配したらしい。

 

「私はドラコと同じね!」

 

相変わらずぶれないパンジーはいそいそとチェックをつけていく。残るは俺だけとなった。

 

「まあ、お前もほとんど決まった様なもんだろ? 選択肢なんて、そう無いしよ」

 

ブレーズの問いに、少し考えてから答える。

 

「話を聞く分には、魔法生物飼育学。それと古代ルーン文字学かな? どうも、占い術では立ち回りが上手くいきそうにないし」

 

「でっち上げとか、君は苦手そうだしね」

 

ドラコの同意通り、俺は何処かでボロが出てしまいそうだ。それに、不確かなもので成績をつけられるのも腑に落ちない。

全員がチェックをつけ終えると、用紙を脇に置いて雑談に入った。

 

「そろそろ、クィディッチも最終試合に入るな」

 

ブレーズがふと思い出したように声をかける。ドラコは顔をしかめながら答えた。

 

「今年のスリザリンはほぼ二位確定。グリフィンドール以外には、勝ったのにな」

 

「グリフィンドールが次の試合でハッフルパフを負かしたら、グリフィンドールの優勝。ハッフルパフは六十点以上の差をつけて勝ったら優勝。グリフィンドールの優勢だな」

 

溜め息と共に、ブレーズは呟いた。クィディッチの話題に入ると、負けたことを蒸し返して少しドラコが落ち込む。そんなドラコに嬉々として声をかけるパンジーは、もはや流石と評するしかない。

 

「土曜日の試合はどうするの? ドラコは見に行く?」

 

そんな感じで出かける約束を取り付けようとしている。ドラコはそれに気づいているのかいないのか、少しへこんだ様子のまま見せながら返事をする。

 

「そりゃ、見に行くさ。ポッターが負けることを祈りながら観戦さ」

 

「それじゃ、私も行く!」

 

土曜日には全員でクィディッチ観戦ということになり、話も一段落する。後は各々、宿題をしたりチェスをしたりと気ままに過ごす。パンジーは自分の課題を終わらせようとダフネの課題を見せてもらって、ダフネはそれを楽しそうに見ている。ドラコとブレーズはチェスを始めている。茶菓子や銀貨などをベットに賭け事をしている様だった。穏やかな休日に癒されながら、手に持った本を読み進める。秘密の部屋の騒動や、日記のことはほとんど頭になかった。騒動はすでに多くの人が収まっていると思っていたし、事実、事件らしい事件もその予兆もなかった。あの不気味な声は欠片も聞こえない。日記のことは杞憂だったかもしれない。

 

「土曜日が楽しみね!」

 

課題を写し終えたパンジーがはしゃぎながらそう言った。

 

 

 

 

 

土曜日の朝、目を覚ますとドラコは既に部屋にいなかった。机の上に書置きがあり、「ブレーズと先に行く。一番上の席を取っておく」とだけ書かれていた。軽く伸びをしてから着替え、大広間へと食事をしに行った。

天気はカラッと晴れていて、クィディッチをやるのにも見るのにも申し分ない。食事を終えてクィディッチ会場へと向かう途中、パンジーとダフネに遭遇した。

 

「あら、あなただけ? 他の二人は?」

 

「先に行った。席を取りに行くんだと」

 

眠気の混じった声で、ダフネの質問に返す。まだ少し眠気が覚めないのだ。先に行ったと聞いた瞬間、パンジーはあまり良い顔をしなかった。

 

「何よ、私は聞いてないんだけど?」

 

「俺も書置きを見て初めて知った。まあ多分、ブレーズかドラコのどっちかの気紛れだろ。もしくは両方の」

 

そう説明するも。若干膨らませた頬は萎む様子を見せなかった。しかしそれも一瞬で、前方から小走りでこちらに来る人物を見た瞬間に顔を輝かせた。

 

「ハーミー! 久しぶり、元気?」

 

パンジーはハーマイオニーに向かって飛びついた。何か考え事をしていたのか、パンジーに気がつかなかったハーマイオニーはいきなり抱きつかれ驚きの悲鳴を上げた。

 

「きゃあ! って、パンジーじゃない。久しぶり! えーと、これからクィディッチ?」

 

「そう、ドラコとダフネと一緒に!」

 

「俺とブレーズもいるがな……」

 

思わず突っ込むと、ハーマイオニーはようやく俺とダフネにも気がついた。

 

「久しぶり、ダフネ、ジン」

 

「久しぶりね、ハーミー」

 

ダフネがクスクス笑いながら返事をする。それからハーマイオニーがこちらに向かって何か言いかけたが、パンジーが気付かずにそれを遮った。

 

「ハーミーはクィディッチ見ないの? 競技場は反対方向よ?」

 

そう聞かれると、ハーマイオニーは慌てて口を閉じてから少し戸惑いつつ返事をする。

 

「えっとね、少し図書室で調べなきゃいけないことがあるの。クィディッチには間に合うと思うから、その後に行くわ」

 

「なら私も手伝う!」

 

突然のパンジーの宣言に、ハーマイオニーだけでなくその場にいた全員が驚いた。

 

「あの、でも、悪いわ。もしかしたら遅れちゃうかもしれないし……」

 

ハーマイオニーが控えめに遠慮をしても効果はなかった。

 

「大丈夫! 私が手伝ってあげるから直ぐに終わるわよ! その後、一緒にクィディッチ見ましょ!」

 

既にノリノリで退く気のないパンジーに、ハーマイオニーは押され気味だった。どう止めたものかと思案していたら、ダフネが先に動いた。

 

「それじゃ、こうしましょう。パンジーはハーミーと一緒に行って、邪魔をしない。終わるまでジッとしてるって約束する」

 

「何よ、失礼ね!」

 

ダフネの物言いに不満を覚えたのか、反論するが直ぐに崩される。

 

「はいはい。課題を一人で出来るようになってから言いなさい」

 

ダフネは反論できないパンジーをそのままハーマイオニーに笑顔で押し付ける。

 

「ハーミー、お願いね」

 

ハーマイオニーは助けを求める様にこちらを見るが、顔を背ける。申し訳ないが勝ち目はない。

 

「わ、分かったわ。じゃあ、早く図書室に行かなきゃ」

 

ハーマイオニーも諦めたようで、パンジーを連れて図書室に向かう。

 

「さ、行きましょ!」

 

パンジーは上機嫌に、ハーマイオニーを引っ張っていく。ハーマイオニーもやれやれと言った感じだが、微笑みながらそれに答える。満更でもなさそうだった。

二人が見えなくなってから、改めて競技場へと向かう。移動中、ダフネが疑問を投げかけてきた。

 

「そう言えば、ハーミーがあなたに何か言いかけていたけども、結局なんだったのかしらね?」

 

ダフネも気づいていたらしいが、スルーしたようだった。そう言えば、聞けず仕舞いだった。ハーマイオニーは何を言おうとしたのだろうか?

日記のことが頭をかすめたが、直ぐに追い出す。日記の特異性に気がついたなら、きっと先生に届け出しているはずだ。何も俺に報告する必要はない。それとも、何か聞きたいことでもあったのだろうか?

 

「俺も分からない。聞けばよかったかな……」

 

「まあ、大した事ではなさそうだったし気にし過ぎることもないんじゃないかしら?」

 

ダフネにそう言われ、無言で同意する。事件のことはなるべく蒸し返したくなかった。疑われるのも、逃げるのも、誤魔化すのも、もうコリゴリだ。

 

「そういや、ダフネまでハーミーって呼ぶようになったんだな」

 

話をそらしてそう聞く。不思議に思っているのは確かだが。

 

「パンジーと一緒にいるうちに、ね。中々癖になるわよ、愛称呼びも。あなたもやってみる?」

 

「いや、遠慮しとくよ」

 

そうしてついた競技場では、既に多くの人がいた。上の方にいるという情報をもとにドラコ達を探すと、意外にも直ぐに見つかった。

 

「よう、遅かったじゃねぇか」

 

「パンジーはいないようだが、どうかしたのかい?」

 

ブレーズが大きく手を振りながら場所を示す。隣に座りながら、ドラコに先程のことを話す。

 

「途中でハーマイオニーと会ってな。図書室でやることがあるって言うから、パンジーが手伝いに行ったんだ。最初は引き止めようとしたんだが、聞かなくて。諦めてハーマイオニーに押し付けてきた」

 

「そりゃいいね。パンジーは調べ物の強力な助っ人だしな。アイツがいれば退屈しない。作業スピードは地に落ちるけど」

 

笑いながら言うブレーズに、ドラコも賛同した。

 

「以前パンジーと魔法薬学のレポートを書いていたんだが、三日月草について調べようとしたら何故か『月の満ち欠けと明るい未来』という本を持ってきた。彼女曰く、『役に立つと思った』だそうだ」

 

「おう、今になってようやく役に立ったな」

 

爆笑しながらブレーズがドラコの肩を叩く。そんな様子を眺めながらパンジーとハーマイオニーの帰りと試合開始を待っていたが、一向に始まる様子がない。それからしばらくして、マクゴナガル先生が拡声器を持って足早に競技場へとやってきた。

 

「この試合は中止です!」

 

そう言った途端、競技場は怒号や野次で溢れかえった。しかし、そんな声が聞こえないかの様に先生は話を続ける。

 

「全生徒はそれぞれの寮の談話室へ戻りなさい! そこで寮監から詳しい話があります。皆さん、できるだけ急いで!」

 

不満たらたらに多くの生徒が移動を始める。ブレーズもドラコも、不満を呟きながらその列へと加わる。

何故、試合が中止になったのか。それを考えると、不安に襲われた。もしかしたら、また何か起こったのかもしれない。日記のこともある。犯人がやけになって何か起こしたとしたら……。もしそうなら、最初に日記を手にしていた、日記の存在を知りながら保身のために隠していた自分のせいだ。血の気が引くのを覚えながら、列に加わる。

どうやって寮に着いたかはあまり覚えていない。談話室は大勢が集まって少し窮屈だった。ザワザワと一体何事かと話し合う生徒の声が絶えなかった。しばらくすると、スネイプ先生が現れた。全員が見えるであろう位置に立つと、そんなに大きくない、それでいて何故か響く声で話し始めた。

 

「また犠牲者がでた。二人同時だ」

 

途端に、水打ったように静かになる。スネイプ先生は相変わらず平坦な声で話を続ける。

 

「これから全生徒は夕方六時までに各寮の談話室に戻るように。それ以後の外出は一切禁ずる。移動時には必ず教師が一人引率する。トイレに行きたい場合も教師が引率する。また、クィディッチや全てのクラブも一切行ってはならない。話は以上だ。寮の中で大人しくしていろ」

 

話が終わると、再びザワザワと声が出始めた。スネイプ先生は外に出ず、こちらに向かって歩いてくると俺たち全員に話しかけてきた。

 

「マルフォイ、エトウ、ザビニ、グリーングラス。ついて来い。お前達には見せなければならないものがある」

 

いきなりそう言われ、戸惑いを隠せない。疑われている訳ではないようだが、何かあるようだった。

 

「あの、先生。僕達が一体何か?」

 

ドラコが質問すると、スネイプ先生はこちらをチラリと見ると進みながら返事をした。

 

「マクゴナガル先生の御判断だ。お前達は知る権利があると判断なされた。それと、何か聞きたいことがあるようだ」

 

足早に進むスネイプ先生に付いて行かなければならないお蔭で質問はそれっきりとなった。向かった先は医療室だった。そこには既にマクゴナガル先生がいた。石になった者達でベッドが埋まっており、そのベッドはカーテンで囲われていた。その静かな光景は霊安室を想起させる。

 

「セブルス、ご苦労様です。さて、あなた方四人には見せた方がいいと判断してここに来ていただきました。ショックが強いかもしれません。覚悟してください。こちらへ」

 

そう言うとベッドを隠すカーテンの内側へ入って行った。嫌な予感しかしない。無意識に唾をのみ込み、マクゴナガル先生を追ってカーテンの内側へと入る。そこには最悪の光景があった。

 

「パンジー、ハーミー!」

 

ベッドに横たわる二人を見て、ダフネが思わず声を上げる。いつも冷静なダフネが取り乱す様は見ていて痛々しい。隣でブレーズが息をのみ、ドラコが呻き声を漏らした。

 

「二人は図書館近くで発見されました」

 

マクゴナガル先生はローブから何か取り出しながら説明する。

 

「二人の側にこれが落ちていました。これが何だか、あなた方には分かりますか?」

 

そう言って見せられたのは、折り畳み式の丸い何かだった。マクゴナガル先生から受け取って開いてみると、少し洒落た手鏡であることが分かった。

 

「これ、パンジーの手鏡!」

 

「ミス・パーキンソンの?」

 

「ええ、いつも持ち歩いているから見たことあるの。間違いないわ!」

 

ダフネの言葉を聞いて手鏡を見たドラコが驚きで声を漏らす。

 

「これ、僕のプレゼントだ……」

 

それを聞いたマクゴナガル先生は視線をドラコへと移す。

 

「これをあなたが?」

 

「……ええ、今年のクリスマスに。希少ブランド物ですから、そうそう二つも持っているとは思えないし」

 

ドラコの返事を聞いて、マクゴナガル先生は考えるようにしながら手鏡を受け取り観察する。

 

「どうやら、これは今回の事件とは関わりがないようですね……。何か他に、知っていることは?」

 

この質問に、思わずビクリと反応する。

日記のことがどうしても無関係だとは思えなかった。ポッター達の前で日記のことを話したのはついこの間。俺が持っていた時も襲われて、今度はハーマイオニーが襲われている。無関係なはずがなかった。その考えが自分の中で否定できなくなった瞬間、黙っていることの限界を迎えた。

 

「あの……」

 

かすれた声が出た。マクゴナガル先生だけでなく、ドラコ、ブレーズ、ダフネ、スネイプ先生の視線も集まる。

 

「……俺、ダンブルドア校長に、伝えたいことが」

 




少し短いところで切ってしまったので、秘密の部屋完結までもう少し話数を重ねることになりそうです。

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