日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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一話を短くして、ちょくちょく投稿するスタイルにしてみます

時間が余ったのもあって、早めの投稿


秘密の部屋へ

翌日、朝一にダンブルドアが校長の座を退いたこと。そして、ハグリッドが容疑者としてアズカバンへ連行されたことが発表された。またも友人が被害に遭ったことに心を痛めつつ、それでも自分はやるべきことを遂行しようとした。

先ずは情報の整理から。襲われたのは猫、クリービーというグリフィンドールのカメラ少年、ハッフルパフ生とゴースト、そしてハーマイオニーとパンジー。加えるのであれば俺も。しかし、それらの共通点など些細な物だった。人気が少ない場所、時間帯で襲われたということだけ。それ以外には何も見当たらなかった。

唯一、有力だと思える情報はかつて少女の殺された場所は女子トイレであったということ。それだけを頼りにするならば、手掛かりはその女子トイレにあるということになる。スリザリンが遺した物が化け物だか知らないが、その少女が殺された女子トイレのみが能力を発揮するのに都合がよい場所であったということになるのだから。

ということは、人気の少ない女子トイレ。それが調査の第一優先にするべき場所。その中で有力候補は二つ。一つは去年のハロウィンでハーマイオニーが泣いていたトイレ。以前にパンジーだかダフネだかが言っていたが、滅多に通らない廊下という立地上の問題に加え、トロールが襲ってきたこともあり今ではほとんど使われていないそうだ。もう一つは「嘆きのマートル」と呼ばれているゴーストの住み着いているトイレ。これも聞いた話だが、ただトイレを済ますにはそれに見合わぬ数々の障害を乗り越えねばならないとして一切使われていないらしい。

しかし、調査の目星がついたところで実際に行う機会というのは全くなかった。教室移動では常に先生が付き添っていたし、自由時間でも何処かで先生が目を光らせていた。いつになく、ホグワーツには厳重ね警戒態勢が敷かれているのだ。

ダンブルドアの不在。それが皆の不安を煽るのだろう。ダンブルドアがいなくなった報告を受けてから、ほとんどの生徒どころか先生までもが表情を暗くさせた。スリザリン生ですら、パンジーが襲われたことにある種の危機感を募らせている。唯一の例外は、ロックハートだった。

 

「皆さん、何をそんなに暗い顔をしているのです? 事件は終わりました! 犯人はハグリッドです。魔法省が勇敢にも先日、アズカバンへ連行していったでしょう?」

 

何人かがその自身の根拠を探ってみたが、返ってきたのは意味も無い言葉だけ。魔法省は根拠もなくハグリッドを連行しない。ダンブルドアがいないのに事件が起きないのは犯人がいない証拠。誰もがロックハートの言葉を信じるに値しないと判断していた。

また、様子が変わった一人として、ドラコがいた。

どこかピリピリしていて、隙あらばマグル生まれを中傷する。

 

「まったく、マグル生まれが未だに荷物をまとめていないとは……。恐れ入ったよ。次は殺されるかもしれないのにね。一緒にいるだけで狙われる僕達の身にもなって欲しいものだ」

 

昼食時の大広間でのこの言葉は、危うく騒動になりかけた。ドラコの言葉を支持するスリザリン生と、怒りを覚えるマグル生まれの生徒達。その場に先生がいなければ乱闘になっていたかもしれない。

ドラコが中傷を口にして、威張る様に自分の純血を強調する様はドラコをよく知らない者からしたら随分と奇妙に映った様だった。

 

「あのドラコ・マルフォイの奴、随分とこの状況を楽しんでいるみたいじゃないか……。僕は、アイツが継承者なんじゃないかって思うんだ」

 

名前も知らないハッフルパフの同期がそう言うのを聞いた。しかし、ドラコを知る者からしたら、ドラコの行動には心配以外の感情は湧かない。

カラ元気なのは一目でわかる。不安と恐怖に駆られているのは、話をすれば直ぐに分かる。そんな中で自分が、そして周りが石にされないように、何処にいるのかも分からない継承者に向かって叫ぶ様子は知る者からしたら本当に痛々しい。

本当は直ぐにでも押さえつけて、止めさせたかった。しかしドラコの言葉に賛同する者がいるのも事実だし、なによりそうでもしないとドラコ自身の不安が紛れることは無いのではないかと思わせられた。もともと、人をからかうのが好きな所為もあるのだろう。ドラコが安堵らしい安堵を表情に出すのは自分の考えが周りに賛同された時ぐらいだった。

ブレーズは、そんなドラコの様子にヤキモキしていた。

 

「そりゃ、俺達の立場が下手すりゃ危険なのは分かるさ。グレンジャーとは、まあ、他人とは言い難かったしな」

 

薬草学の授業で熟成したマンドレイクを植木鉢に戻しながらドラコの様子を横目に、ブレーズは俺とダフネに言った。ドラコはクラッブとゴイルと一緒に作業をしていた。

 

「でも、あんなに躍起になって自分の考えまで否定しなくてもいいだろ……。手を出すなって言うなら、黙ってりゃいいのに。何がアイツをそうさせるんだか……」

 

溜め息を吐きながら疑問を口にするが、そんな物は分かり切っているつもりだった。スリザリンの継承者と、ドラコの父、ルシウス・マルフォイ。父が来ていた、と聞いた時のあの顔の青くなりよう。悪い事がバレる寸前の子供のそれだ。ダフネも同じ考えだったようだ。

 

「父親のこともあるんでしょ。ダンブルドアを追い出したのも、ドラコのお父さんでしょう? 責任を感じているのか、それとも、ただ父親の体裁を気にしているのか」

 

「どっちでもいい」

 

苛立たしげにブレーズが吐き捨てた。

 

「どっちにしろ、アイツがあんなことをする理由にはなんねぇよ」

 

マグル生まれの追放を主張しながら苦しげなドラコの様子を、ブレーズも見ていられなくなっているのだろう。

 

「もう少しの辛抱だ。この問題が解決すれば、いつも通りになれる」

 

ブレーズとダフネに向かってそう言うと、二人はもう一度ドラコを見ながら頷いた。

だが正直、このまま事件が解決するとは、俺は一切思っていない。必ず、もう一度継承者が動く時が来る。その時は俺も全力で止められるように準備をするつもりだった。

継承者を俺の手で潰す。いや、俺の手でとは言わない。俺が考えを曲げず、抵抗して、継承者に狙われたり対峙したりした上で、どんな形であれ無事でいることが大事なのだ。

そのために、監視の目を潜り抜けるタイミングを見計らっている。いざという時、真っ先に動けるように。生徒を監視する教師を、俺が監視する生活が続いた。

 

 

 

 

 

何も起きず、ドラコも変わらずマグル生まれに厳しい態度のまま、何日かたった。その日の朝食で、マクゴナガル先生が新たな知らせをよこした。

 

「皆さんに、良い知らせです」

 

普段から騒がしい大広間が、その言葉でますます騒がしくなった。

 

「継承者が捕まったのですか!?」

 

「ダンブルドアが戻ってくるんだわ!」

 

「クィディッチだ! クィディッチが再開されるんだ!」

 

口々に良い知らせへの期待を叫ぶ中、マクゴナガル先生は少し歓声が収まったところで知らせの内容を伝えた。

 

「スプラウト先生のお話で、とうとうマンドレイクが収穫できるとのことです。今夜、石にされた者達を蘇生させることが出来るでしょう。言うまでもありませんが、その内の誰かが、誰に、何に襲われたのかを話してくれるかもしれません。この恐ろしい一年が、犯人逮捕で終わりを迎えることが出来るのではないかと期待をしております」

 

歓声が爆発した。皆が期待に胸を膨らませている。ブレーズもダフネも言うまでもなく、安心した様に笑っていた。しかしドラコは、何やら複雑そうな顔だった。それはそうだろう。あれだけ純血主義を唱えておいて、その原因がこうもアッサリと終わりを迎えるかもしれないのだ。どのような態度でいたらいいかと、混乱しているのかもしれない。

これで事件が解決するならそれに越したことは無い。ドラコには杞憂だったと、いつも通りに戻ってくれと言うだけで、時間が解決するだろう。パンジーに関しては、何とも言えない。石化してしまったのだ。曲がりなりにも、ハーマイオニーといた所為で。俺の責任もあるが、こればっかりはパンジーに任せるしかない。パンジーが元に戻ってどのような反応を取るか、それによって今後の対応が変わってくる。

だが、それは全てこれで事件が解決したらの話だ。俺は、事件が解決するなど全く信じていない。むしろ、逆のことを確信している。

継承者が動き出すとしたら、今日しかない。

動かない理由がないのだ。今日を逃せば、被害者は蘇生する。そうなれば被害者はいなくなり、ダンブルドアが帰ってくるのも時間の問題となる。継承者にとって不利な状況になっていく一方だ。

ならば、俺がやることも決まっている。体調不良で今日は授業を欠席する。時間を十分に作る。寮を抜け出し、継承者を追い詰める。例の女子トイレ二つを中心に巡回しよう。きっと、いや、必ず見つけ出してやる。

 

「悪い、今日は体調不良で授業を休むよ。寮で寝てる。先生にそう言っておいてくれ」

 

隣にいたブレーズにそう話を振る。驚いた様子のブレーズをよそに、ドラコへと近づく。言っておかねばならないこともある。ドラコはクラッブ、ゴイルと一緒に朝食を取っていた。

 

「ドラコ、ちょっといいか?」

 

こうしてまともに話すのも、あの夜以来かもしれない。ドラコは少し戸惑ったような顔をしていた。

 

「あ、ああ、ジン、どうしたんだい?」

 

「いや、継承者が捕まるかもしれないってことで少しな」

 

あの夜での問答を蒸し返したようで、ドラコは少し顔をしかめた。

 

「……僕は態度を変えないよ。確かに、君の理想も悪くは無いと思うが、やはり、こうして起こった事実を受け止めないと。あの夜にも話しただろう?」

 

ドラコの意見はあの時と変わらない。それが恐怖や不安によって構築された考えであることも。

 

「俺も言ったはずだ。継承者は脅してるだけで、お前に何も教えちゃいない」

 

「そうさ、そうかもしれない」

 

ドラコは俺に向かって、少し強気になって言い返してきた。

 

「それでも、僕達に何ができる? 抵抗して無残に石になるか?」

 

「ああ、そう言うと思ったから、宣言と、ちょっとした話をしに来たんだ」

 

「……何だい?」

 

「俺も考えは曲げない。断固、マグルの追放に反対だ。そして、俺は絶対に継承者なんかに石にされない」

 

そう言った俺の顔を、ドラコはあんぐりと口を開けて見た。驚いた表情と焦った様な表情。そんなことが許されるのか? そう物語っていた。そんなドラコにさらに話を続ける。

 

「それでだ。俺が無事で、継承者が捕まったら、その時は――」

 

「……その時は?」

 

「その事実を、受け入れてもらおうと思ってね」

 

ドラコは依然して驚いた表情のまま固まっている。言いたいことも終わった。席を外して寮へと向かう。これで俺はもう絶対に後戻りはできない。自分で密かに残った逃げ道を、継承者に屈するという逃げ道を潰した。

しかし、それが返って清々しい気持ちにさせた。やることが一つだけなら、全力が出せるというものだ。

寮に帰ってからの準備は直ぐに終わる。杖を確認、念のためのナイフを持参、時計を確認、それだけだ。後は授業が始まって廊下に先生の見回りがいなくなった時に行動開始。例の女子トイレへと向かうだけ。

 

 

 

 

 

意気込んで調査したものの、目ぼしい物など何もなかった。ハーマイオニーが去年に襲われたトイレで扉の一つ一つにスペシアリス・レベリオ(化けの皮 剥がれよ)を試したり、時にはレダクト(砕けろ)で壁を砕いたりもした。色々調べたが、結果は変わらず。誰かが来る気配もない。午前中の約一時間をかけて、このあり様だ。

午前の授業もそろそろ終わりに差し掛かってきたため、今移動しなければ廊下は教室移動の生徒で溢れ、マートルのトイレに行く機会を無くしてしまう。

これ以上やることも思いつかないので、早々に最初のトイレを去る。むしろ、次が本命なのだ。

なるべく駆け足でマートルのトイレに向かう。そして、ようやく着いたトイレの前の廊下に人影が見えた。慌てて角に隠れて様子を覗う。

この時間帯、先生と生徒は基本授業でいないはず。人影がゴーストではないのは、影があるし足も地に着いていることから明確だ。では、そいつの正体は? そんなの、一つしか思い浮かばない。

興奮を押さえつける。角から顔をだし、慎重にその人影が誰かを確認する。壁に何やら書き込んでいるらしいそいつは赤毛の長髪の少女だった。髪に隠れて顔は確認できないが、何処かで見たような覚えがある。

ジッと観察していると作業が終わったのか振り返り、背後にあったマートルのトイレへと入って行った。その際、チラリと横顔が見えた。

人影の正体、スリザリンの継承者は、ウィーズリーの妹だった。

驚きで息をのむ。ウィーズリー妹がマートルのトイレへと姿を完全に消したのを確認してから、何か書かれていた壁へと近づく。そこにはこう書かれていた。

 

『ジニー・ウィーズリー 彼女の白骨は永遠に秘密の部屋で横たわるであろう』

 

これを自身で書いていた、ということは間違いなく彼女がスリザリンの継承者ということだ。ということは、今し方彼女が入って行ったマートルのトイレにこそ、何かがあるのだ。

姿を消したマートルのトイレに耳を澄ます。何やらギギギと錆びた車輪の回る様な音がする。中で何かやっている様だった。

飛び込むか? 今なら、現行犯で捕まえられる。

そういう考えが興奮した頭によぎったが、冷静な部分で待ったがかかった。

殺された女子生徒は、トイレにいた。間違いなくこのトイレだろう。ここで無闇に動けば、俺は死ぬ。

背筋にヒヤリとしたものが走る。焦ってはいけない。あと一歩という所でこそ、慎重になる必要がある。

結局、物音が完全になくなるまでトイレの外で待機した。

そして、やっと静寂が訪れてから少し待ち――思い切って突入する。

真っ先に目についたのは、大きな穴が開いた蛇口。それは地下へ続く滑り台のようだった。丸い穴の先には、真っ暗な闇が広がっている。

間違いない。秘密の部屋の入口だ。

 

「ルーモス(光よ)」

 

杖に光を灯し、穴の中をのぞき込み、耳を澄ます。穴は奥まで見えないほど続いている。音もなし。風が耳元を通り抜けるだけだった。

行くか? このまま、継承者を追うか?

秘密の部屋の入り口を目の前にして、考える。自分で行くのではなく、先生に任せるべきなのでは? 俺の役目は、ここまでで十分じゃないか?

しかし、その瞬間に色んな事が頭に過った。

 

石になったハーマイオニー、パンジー。何処か辛そうに、必死に純血主義を唱えるドラコ。それらを見て怒るブレーズ、悲しむダフネ。そして、ダンブルドアの言葉。

 

『君が望むものは、君自身がやらねば手に入らん。誰でもなく、君自身がやらねばならんのじゃ』

 

迷いは無くなった。秘密の部屋へと繋がる穴へ飛び込んだ。

 




番外編のアンケートに答えてくださった皆さん、ありがとうございます。
とりあえず、本編を進めることにしました。
番外編は今回は無しという形で。日常編は、夏休みでの話を書くことで補完することにします


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