日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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黒木アギトさん、推薦ありがとうございました!

大変遅くなりましたが、この場でお礼を言わせていただきます!


アズカバンの囚人編
夏休み編・グリーングラス家からの招待状


夏休みが始まって割とすぐのことだった。夕方にフクロウがダフネからの手紙を持ってきた。去年と同じように近状報告かと思い、レポートを書く羽ペンを片手に封筒を開く。中身はいつもよりも高級な羊皮紙で書かれた手紙に、紙幣ほどの大きさで少々厚みのある銀の板が同封されていた。銀の板をひっくり返して見ると、それはグリーングラス家への招待状だった。何故これが送られてきたのか知るために、手紙を広げる。

 

『ジンへ

 

お元気? まだ最後に会ってからそう時間も経っていないから、きっと元気よね。あなたのことだから、宿題をやっているか本を読んでいる途中だったかもしれません。邪魔をしてしまったらごめんなさい』

 

ここまで読んだ時点で羽ペンを置いた。なんだか、とても失礼なことをしていた気分に陥った。椅子の背もたれに体重を預け、楽な姿勢で手紙の続きにざっと目を通す。中身は近状報告と招待状についてだった。招待状の部分をじっくりと読みなおす。

 

『それでは、本題に入らせてもらいます。同封されている招待状は見ましたか? それを送ったのはドラコ、ブレーズ、パンジー、それとあなたに私の家へ泊まりに来てもらおうと思ったからです。日程は招待状に書いてあります。都合が良ければその三日間、私の家で過ごしませんか? 急にこんなことを申し出たのは、少しだけ訳があります。私に妹がいることは知っているかしら? あなたには言ってなかったと思うのだけれど……。夏休み明けから一緒にホグワーツに通うことになるの。でも、その子が学校に行くのがちょっとだけ怖いというの。多分、上手くやっていけるか不安なんだと思うわ。そこで、あなた達に妹の不安を拭ってあげて欲しいの。私だけじゃ話に説得力がないもの。でも、どうせ家に来るのなら楽しみたいじゃない? だから、皆で俗にいうお泊り会というのを開きたいの。それって授業のない学校の様なものでしょう? きっと楽しいと思うわ。それでは、来られるかどうかの手紙を早めにください。来てくれたら、とっても嬉しいです。お返事、待っています

 

PS、課題を持ってくるなんて、野暮な真似は止めてね?

 

ダフネ・グリーングラスより』

 

手紙を読み終えて、招待状に目を向けた。確かに、日付が書かれている。今日から四日後だ。別段、予定のない俺としては即答でOKだった。書きかけのレポートをしまい、手紙のための羊皮紙を買いに出かける準備をする。招待状や手紙を見る限り、名家からの招待の返事に普段の手紙で使う安い紙では失礼な気がした。

財布を持って、部屋に鍵をかけて下に降りる。出口のすぐ前の受付にはゴードンさんがいた。ゴードンさんを見て、流石に相談抜きで外泊をするのはマズイと思い手紙のことを伝えることにした。

 

「ゴードンさん、四日後に友達の家に招待されたんだ。そこで三日間、泊まりたいんだけど行ってもいいかな?」

 

「友達の家にか? いいぞ、泊まってこい。まあ、相手から招待してきたなら断る方が失礼だしな。相手は名家か? ……まさか、マルフォイじゃあるまいな」

 

マルフォイと言いながらちょっとだけ嫌そうな顔をするゴードンさん。それを俺は笑いながら否定した。こうして軽口を叩きあえると、この人とも随分と馴染んだものだと思わせられる。

 

 

「違う違う、グリーングラスだよ。知ってる?」

 

「ふむ、グリーングラスか……。名前は聞いたことはある気がするが、客だったことは無いな」

 

「へえ、そうなんだ。あ、あと、これから返事を書くための羊皮紙を買いに行くんだ。何か買う予定の物があればついでに買ってくるけど?」

 

「いや、特にないな。羊皮紙なら確か余っていたはずだからそれを使わないか?」

 

「あー、いや、ありがたいけど、新品でなるべく高いのを買いたいんだ。……招待状がね、銀の板だったんだ」

 

「……そうか。金粉入りの羊皮紙でも買ってこい。夕食までには帰ってこいよ?」

 

ゴードンさんは苦笑いと共にそう言って送り出してくれた。

外は夕方なのにも拘らずジリジリと焼けるような暑さだった。流石夏だと思わせられる。ダイアゴン横丁まで、徒歩で大体三十分。その間の道のりは既に見慣れたものだ。

去年は友達とは手紙だけのやり取りだったので、こうして顔を合わせるのは今年が初めてとなる。といっても、まだ二回目の夏休みだが。友達の家に泊まるというのも初めての体験だ。相手が名家では、気軽に遊びに誘い辛いのだ。ハーマイオニーやネビルも同様に手紙だけのやり取りだった。ハーマイオニーは純粋に予定が合わなかった。家族旅行に行っていたらしい。ネビルとは一度は遊びに行こうかという話が挙がった。しかし、ネビルからおばあちゃんがどうとかなんとか、分かりづらい返事が返ってきて有耶無耶になった。面倒事になるから、と言いたかったらしい。俺がスリザリンに所属していることで、何か問題があるようだった。こういったこともあって、去年の夏休みは淡々と過ごした。羽を伸ばすにはいい機会ではあったが、物足りないと思う所もあった。

ここでのダフネの誘いは願ったり叶ったりだった。楽しみでしょうがない。要するに、浮かれているのだ。

目的地に着くと手短に用事を済ませ、上機嫌に帰路につく。歩きながら、そう言えば、と考える。

ダフネは、妹がホグワーツに行くのを不安がっていると書いていた。それを見た時はそんな奴もいるのかと驚いてしまった。ホグワーツに来る奴は、何となくだが、希望に満ち溢れているようなイメージがあったのだ。魔法を望み、学問を志し、初めての経験にマグル生まれも魔法使いの家系も心を躍らせる。そんなイメージ。しかし、ダフネの妹の話でそれが崩れてしまった。それから何を不安がっているのだろうかという好奇心も沸いた。俺も入学は不安だったが、それはマグル育ちということに加えて行き場がここしかないということから生まれる不安だった。ダフネの妹が抱きようのない物だろう。いろいろ考えたが、思いつくものは無かった。

宿に着き、部屋で招待への了承の返事を書き終え、シファーに括り付けて送り出す。窓から飛び立つシファーを眺めながら、向こうに行けば分かることだと結論付けて考えるのを止めた。

 

 

 

 

 

それから四日経ち、ダフネの家へと行くこととなった。

行き方は簡単で、暖炉から指定された場所まで飛べば後は案内が来てくれるらしい。準備を整え、宿に常備されているフルーパウダーを少し貰う。フルーパウダーを使うのは初めてだった。暖炉の火に向かって投げ入れると、たちまち火は緑色となった。その火に入り込むと視界が緑に覆われ、回る様な感覚と共に妙な浮遊感が体を襲う。それがしばらく続くと、浮遊感は弱まり地に足がつく感覚がした。徐々に視界が開け、見たことのない場所が目の前に広がっていく。よろけながら暖炉から出ると、そこに見覚えのある後姿があった。俺に気付いたのか、その人がこちらを振り返える。その人の顔を見て、俺は驚きで口を半開きに、呆然と呟いた。

 

「……ルシウスさん」

 

「やあ、エトウ君。しばらくだね」

 

微笑みながら挨拶してきた人はルシウス・マルフォイだった。この人が来るとは思ってもいなかったのだ。

去年、秘密の部屋の黒幕がルシウスさんだと分かってから、俺はこの人に対して敵意を抱くようになった。この人がいる限り、ドラコが心から変わることが無い気がしてならない。ドラコの父に対する思いの深さは一緒にいればわかる。

また、ルシウスさんの計画を潰すのに協力したこともあってルシウスさんも俺に対して敵意を向けているのではと危惧していた。それとなくドラコに聞いたところ、ドラコはそんなことは無いと手紙で否定してきたがその答えを信用してはいなかった。

今、こうして目の前で何事もなかったかのように微笑みかけられているが、何か裏があるのではと訝しんでしまう。そのせいか、隔たりがあるような息苦しい雰囲気が漂う。

 

「……ルシウスさんが案内してくださるんですか?」

 

「ああ、そうだ。ドラコを送った後、折角だからと名乗りださせてもらったのだよ」

 

「お手数をおかけします。ここからグリーングラス邸までどれくらいでしょうか?」

 

「徒歩十分と言ったところか。さほど遠くは無い」

 

つまり、十分間は一対一の状態だ。十分間、この気まずい状況に耐えねばならない。

 

「そうですか……。では、出発しませんか? ダフネやドラコを待たせている訳ですし」

 

その十分間を一秒でも縮めようと出発を促す。ルシウスさんは頷き、そのまま歩き始めた。

ルシウスさんの誘導のもと、着実にグリーングラス邸へと向かう。しばらくは沈黙の状態が続いたが、ルシウスさんがおもむろに話し始めた。

 

「こうして、君とじっくり話す機会は前々から望んでいた」

 

「……ええ、去年にそう仰ったのを覚えています」

 

やや身構えながらも、受け応える。話しかけられるのは覚悟していた。

 

「ドラコから君の話はよく聞く。去年は私の後始末をしてくれたそうだね? 私の身勝手な行動が君にまで迷惑をかけてしまって申し訳なかった。まさか、あんなことになるとはね。私も驚いていたのだよ、五十年前の事件の再来には」

 

「……いえ、御気になさらず。過ぎたことですから」

 

返事をしながら、そう来たか、と安堵する。

ルシウスさんが意図的に秘密の部屋を開いたのは明確だが、それは表立って言えることではない。ドラコや理事会の様に一部の事情を知る者にはこのようなスタンスを取ると決めた様だ。つまり、何か企みを持っていたのは認めるが、それがこのような形になるとは思わなかったということ。だからこそ理事会からの処罰が除名のみでことが済んでいるのだろう。

ルシウスさんにとって問題なのは、全貌を知った俺がどのような態度を取るか。

俺はそのスタンスに異議は無い。そう意味も込めた返事は、ルシウスさんを満足させたようだった。俺の同意は、俺の口からルシウスさんの企みが漏れないことを意味する。

ルシウスさんがこういったスタンスを取る限り、俺に対して感謝や謝罪を向けることはあっても敵意を向けることは無い。俺にとってもありがたい話だ。ドラコはこのルシウスさんの言うことを鵜呑みにしたのだろう。

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

ルシウスさんは微笑みながらそう言い、更に会話を続ける。

 

「ドラコは君に教わったことを、家では私達に教えてくれる時があるのだよ。君の聡明さには、しばしば舌を巻く時がある」

 

「……光栄です」

 

「魔法史、薬草学、闇に対する防衛術……。中でも、魔法薬学と変身術は君の得意分野だそうだね? 君の父親もそうだった」

 

「父をご存じで?」

 

少しだけ驚いて、ルシウスさんの顔を見る。俺の驚いた顔を見て、ルシウスさんはニヤリと笑みを漏らした。

 

「私はね、君の両親とは同期だったのだよ」

 

まるで俺が食らいつくのを誘うような口調で言葉を漏らす。

 

「君の父は魔法薬学と変身術が大の得意でね。その科目では、いつだって一番だった」

 

それから、俺の反応を覗う。両親について、質問するのを待っているかのようだった。ルシウスさんの意図が純粋に会話を盛り上げようというのではないは明らかだ。

 

「……自分は、一番を取れてはいないのですがね」

 

こちらは両親の話を意図的に避ける。ルシウスさんの反応は素早かった。

 

「ドラコから聞くのは勉強だけではない。そう、ドラコから聞いた話の中でも最も興味深かったよ、君の唱える純血主義とは」

 

話を切り替え、今度は純血主義の話へ。無駄なく進む話から、この人は徒歩十分の間に出来る限り俺を見極めようとしていることが分かった。

 

「マグル生まれを追放ではなく利用する。マグル生まれを含めた社会の中で、純血家系を優位におく。実に合理的な意見だ。君の意見に賛同するものも、少なくないだろう」

 

ルシウスさんの俺の反応を覗う様子は変わらない。探る様にしながら話をしてゆく。

 

「しかし、疑問に思う所もある」

 

「……所詮は人一人の、それも子供の理想です。問題点や疑問点なんて、数え切れないのは自覚しています」

 

「いやいや、そういう話ではないのだよ」

 

俺の言葉を穏やかに微笑みながら否定しても、目は笑ってはいなかった。

 

「君の立場の問題だ」

 

「……立場、ですか?」

 

オウム返しに質問すると、ルシウスさんは頷きながら答えた。

 

「君は純血主義を謳いながらマグル生まれを受け入れる。言っていることは正しく純血主義だ。しかしやっていることは対立的だ……。君の本質は、どちらに属すのかと思ってね……」

 

味方か敵か。単純に言ってしまえばそんな質問だ。純血主義と反純血主義。どちらとも言えぬ考えを持つ俺をどう位置付けるか。そのための質問。

 

「……明確にさせる必要は、ありますか?」

 

質問に対して、質問で返す。随分と無礼な事だとは自覚している。しかし、それが答えであり本心なのだ。

純血にもマグル生まれにも捨てがたい人物が属している俺からしてみれば、これほどおいしい立ち位置は無い。どちらにも属せる、架け橋となれる立ち位置。立場を明確にさせることなど、不利にしかならない。

しばらく沈黙が流れた。それから、ルシウスさんが答えた。

 

「いや、ただ興味があっただけだ。答える必要はない」

 

それっきり、お互い何も話さなくなった。ルシウスさんの中で回答は出た様だ。

それからすぐにグリーングラス邸の前に着いた。デカい家だ、というのが第一印象。名家からしたら普通かもしれないが、俺からすればそれはまるで小洒落た宿泊施設だ。

敷地内に入り、ルシウスさんが扉をノックする。

 

「ルシウス・マルフォイだ。エトウ君を連れてきた」

 

ルシウスさんがそう言うと、扉はガチャリと開かれた。扉の向こうには、ダフネが立っていた。ダフネはルシウスさんに向かって軽く会釈をした。

 

「お疲れ様です。本来なら、私が行くはずだったんですが……」

 

「いや、私が頼んだことだ。気にすることは無い。それでは、私はこれで。お父上によろしく頼む」

 

挨拶を済ませるとルシウスさんはダフネからは目線をそらし俺に向き直った。

 

「それでは、エトウ君。またの機会に」

 

「ええ、さようなら」

 

握手をしながら別れを告げる。ルシウスさんは俺に対する評価を保留にしたらしい。スタスタと敷地の外へと出て行った。

ルシウスさんが完全にいなくなってから、ダフネに声をかける。

 

「お招きいただき、光栄です」

 

「堅苦しいのは止めて。普通でいいわ」

 

少しだけ茶化す様に挨拶すると、ダフネは手を顔の前で振りながら苦笑いで返す。ルシウスさんとの間に会った緊張が緩んでいくのが分かった。

それから、思い出したかのように俺に手を差し伸べる。

 

「招待状、持ってきてくれた?」

 

「ああ、ほら」

 

カバンから取り出して、招待状を手渡す。ダフネはそれをじっくりと見てから頷き、俺を家の中へと招いた。

 

「ようこそ、グリーングラス家へ。お待ちしておりました」

 

「……堅苦しいのは、なしじゃなかったのか?」

 

「これは別なの」

 

笑いながら、グリーングラス邸へと上がる。夏休み初めてのイベントが始まった。

 

 




グリーングラス邸は大体三話ほど。その次に気が向けばハーマイオニー編を一話ほども。

夏休みの話は大体四話ぐらいになりそうです。
原作から遠くなってしまいますが必要な部分もありますのでお付き合いお願いします

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