日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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針の筵

目を覚ましてから一週間、マダム・ポンフリーからの診断も問題なく終わり、お昼過ぎには俺は無事退院することとなった。

退院後、まずバグマンに呼び出された。第二試合の事で説明があるとのことだった。

呼び出された部屋に行くと、バグマンは金の卵を持って俺を待っていた。

 

「やあやあ! 随分と大変な目に遭ってたね。しかし、無事に終わって良かった! 待機していた魔法使いの腕が良かったね。君が飛ばされてすぐ、治療をしてくれた。問題なしだ!」

 

バグマンは陽気にそう言った。その態度が妙に鼻についた。

バグマンは俺の機嫌など気にした様子もなく、持っていた金の卵を俺に差し出した。

 

「さあ、第二の課題の話をしよう! 次の課題は二月二十四日の午前九時。それまでに、この金の卵の謎を解くんだ。この金の卵は、そこの蝶番で開くようになっている。卵を開けて、中にある謎を解くと、第二の課題の内容が分かるってことさ」

 

バグマンは俺が卵を受け取ると、励ますようにウィンクしながらこう言った。

 

「まだ第一の課題が終わったばかりさ! 君は確かに失敗したが、優勝の可能性はゼロじゃない。頑張ってくれよ!」

 

「……どうも」

 

言葉少なめにそう返し、金の卵を受け取ると足早に部屋を去った。

それから金の卵を持って寮に戻る。談話室に入ると、多くの視線が俺を貫いた。

不快な視線だった。二年前に秘密の部屋が開いて、スリザリンの継承者だと疑われた時もこのような状況であったことを思いだした。

そしてその時と同じように、どこからかドラコが現れて俺を自室へと引っ張っていった。

ドラコは俺を部屋に入れると、少し安心したように息を吐いた。

 

「やあ、退院おめでとう。……それは、ドラゴンの卵だよね? 次の試合に使うのかい?」

 

ドラコは周りの様子なんて気にならない、といった態度を取り繕った。少しでも俺が不快な思いをしないようにと気を遣っているのだろう。

俺もそれに乗っかるように、金の卵を軽く持ち上げて返事をした。

 

「ああ。なんでも、中に次の課題につながる謎があるらしい。それを解けば、第二の課題の中身が分かるんだと」

 

「へぇ……。もう、開けたかい?」

 

「いや、まだだ」

 

「なら、開けてみないかい? 僕も、なぞ解きを手伝うからさ!」

 

ドラコはそう言いながら、ドラゴンの卵を興味深げに眺めた。

俺はそんなドラコの様子に、少し苦笑いをしながら頷いて金の卵を開いた。

中は空っぽで、代わりに絶叫が響き渡った。何かの甲高い叫び声が部屋に響き渡った。

慌てて、卵を閉じる。すると途端に声はやんで、部屋が静かになった。

ドラコは突然の事で尻もちをついていた。俺も驚きを隠せずにいて、お互いに呆然としながら顔を見つめ合った。

 

「……これが、その、第二の課題の謎だっていうのかい?」

 

「……みたいだな。これを、どうしろって言うんだろうな」

 

そう言いながら、卵が簡単に開かないように蝶番をしっかりと閉めて自分のベッドの上に置く。

卵の中の絶叫が部屋の外にも響いたのだろう。外も少し騒がしかった。

ドラコは外の騒ぎから俺の意識をそらすように、話を続けた。

 

「僕が思うに、これは、次の課題に待ち受けているものの正体の筈だ! ……声だけきくと、バンシー妖怪の声にも聞こえなくもない。いや、叫び声の対策が必要だということのサインかも。……何か、鳴き声が脅威になる怪物なんていたかなぁ」

 

ドラコはそうまじめに考えるように話を始めた。

暫くは卵の謎に関する考察を一緒にしていたが、それもすぐに打ち切った。夕飯になり、パンジーが俺達の部屋に来たのだ。

パンジーとは、一週間ぶりだった。初めてお見舞いに来た日以来だ。

パンジーは俺を見ると、一瞬だけ弱気になったような表情になったが、すぐにいつもの勝気な表情になると、俺にまくし立ててきた。

 

「あんた、退院したなら言いなさいよ! ドラコとダフネ、それにアストリアもずっとあんたのこと待ってたんだから!」

 

パンジーは俺に対して、やはりきつく当たっていた。

それを止めようとドラコが慌てていたが、そんなドラコを俺がやんわりと止める。

 

「……心配かけたな。もう、大丈夫だ。ありがとうな、気にかけてくれて」

 

パンジーが俺のために動いてくれている。それを忘れてはいけない。

パンジーに気にかけてくれたことに関するお礼を言うと、パンジーは少し呆けた表情になった。それから、ちょっと機嫌をよくして話をした。

 

「まあ、あんたが周りからなんか言われると、ドラコとダフネが悲しむから。しょうがないでしょ。……あんたも、他の奴らに言われてばっかになってんじゃないわよ。さっさと周りを黙らせてよ」

 

ドラコは俺とパンジーのやり取りを見て、ほっとしたように息を吐いた。

それから三人で、昼食を取りに大広間へと向かう。

俺は自分が思っていた以上に、パンジーとうまくやれていた。

 

 

 

周りの音、視線、人の気配。全てが不快だった。

集団で歩く者達も、俺が近くに来ると押し黙るかクスクスと笑うか、そんな反応を示す者ばかりだった。

ドラコはしきりに俺に話しかけ、俺が周りを意識しないようにしていることが分かった。

パンジーは口数が少なかった。途中で気が付いたが、パンジーは俺よりも周りを見ていている時間の方が長かった。周囲の人間を黙らせるように睨みつけていた。

大広間では、ブレーズやダフネ、アストリアも合流し六人で食事をすることとなった。

大広間での食事は異様だった。五人の親友達は俺の退院を祝い、次の課題のヒントについての考察や日常の関係ない話まで繰り広げていた。だが、周囲の人間の反応は冷たく、批判的で、嘲笑が織り交ぜられていた。俺と周りの五人だけ、まるで別世界にいるような、切り離された感覚に陥る。

全ての物音や視線が自分への当てつけのように感じるのは、自意識過剰ではあったと思う。しかし、完全な思い過ごしでもなかった。

事実グラハム・モンタギューは俺が一人でいれば間違いなく呪いをかけてきていただろうし、ハッフルパフの数名は明らかに俺を指さしていた。グリフィンドールの下級生は、ふざけたように脇腹を抑えて飛んでいる奴がいた。去年に吸魂鬼に気絶させられたポッターをからかうスリザリン生の様に。

そんな中で食欲などわくこともなかった。周りに合わせて食べたサンドイッチは、味なんてしなかった。

早々に食事を切り上げて、俺は自室に戻ることにした。親友達は誰も反対はせず、全員食事は終わってないはずなのに俺と一緒に大広間を出ることにした。それがありがたくもあり、苦しくもあった。

 

部屋に戻れば、金の卵の謎を解くというやらなくてはならないこともあった。それが救いになっていた。人込みを避ける大義名分となっているのだ。ただし開けば甲高い絶叫が響き渡る為、部屋で卵を開いて考えることはできなかった。

部屋に戻って、金の卵の謎に取り掛かろうとしたところブレーズが金の卵を取り上げた。

 

「まあまあ、まだ退院初日だ。折角だしよ、全員で今日は遊ぼうぜ。ほれ、遊び道具は充実してるからよ」

 

そう言いながら、ブレーズは用意していたであろうカードゲームをいくつか取り出した。他の親友達もブレーズの誘いに賛成し、退院初日はカードゲームで遊び倒すこととなった。

カードゲームに興じながら、俺はこの短時間で味わった自分の厳しい環境に考えを巡らせていた。

俺は堪えなくてはならない。次の課題まで三カ月近くある。その間に非難や嘲笑を受けながら金の卵の謎を解き、次の課題の準備を進める必要がある。そして課題当日には周りを黙らせるだけの実績を上げなくてはならない。

親友達しかいない部屋は、夏休みのテントの中のように平和で明るく楽し気な雰囲気であった。だが、そんなもの表面上のものであることくらいよく分かっていた。それが分かってしまうと、親友達の楽しげな姿ですら見ていて苦しくなった。

しかし部屋を出れば、非難と嘲笑に飲み込まれるだろう。それも嫌だった。八方ふさがりだ。

俺はこれに堪えなくてはならないのだ。俺が次の課題を完璧にこなすまで。しかし、次の課題も失敗すればどうなってしまうのだろうか……。考えたくもなかった。

カードゲームも終えて、親友達が各々の部屋へと戻っていく。

部屋はドラコと二人になると、言葉少なくすぐに寝る準備をした。

明日からは、金の卵の謎の解明に取り組もう。俺にとっては、それよりも重要なことなどないのだ。そう決心して目を閉じた。眠るのには、随分と時間がかかった。

 

 

 

授業をこなす。課題を済ませる。食事をとる。空いた時間は、全て金の卵と睨めっこ。

金の卵を開けると酷い絶叫がするので、俺は金の卵の謎を解く時は人気のない禁じられた森の方へ行くことにしていた。

金の卵の謎を解く時だけは親友達も遠ざけ、一人にしてもらった。

謎を解くのは代表選手一人の力でやらなくてはならないとのルールになっていたし、俺が一人の力でやらなくては意味がないと力説すると、ドラコ達はしぶしぶと了解した。そうして俺は、何とか一人きりになる時間を確保していた。

 

学校生活はどんどん憂鬱になっていった。

ドラコ達も俺のそばにずっと付いている訳にもいかなかった。それぞれの選択授業によってばらばらになる時もある。スリザリンでの人付き合いは随分と複雑で、顔出しや集会など名家にはあり、そっちに行かねばならないことも多々あった。そうなると、人込みの中にいる俺は針の筵だった。

 

俺は、三日で音を上げた。

 

人混みが嫌で、授業に行かなくなった。そもそも、授業の内容はほとんど分かっている。多少欠席しても課題さえこなしていれば問題がないことは自分で分かっていた。代表選手は期末テストを免除される。授業に出ないことで進級が危ぶまれることもないだろう。

 

他の者が授業をしている間に図書室で調べもの、放課後は一人で禁じられた森で金の卵とにらめっこ。

こうして俺は誰にも会わない時間を上手に確保することができていた。

 

しかし退院から一週間、一人でどれだけ時間を費やしても、金の卵の謎の解き方は一向に分からなかった。開けば絶叫が響くのみで、それ以外に何もない。絶叫にこそ意味があると考えるも、図書室にある本を片っ端から読み漁っても、叫び声に関するヒントは見当たらなかった。

叫び声いうヒントからは何も思いつかなくなり、もうやけくそで色々と試すことにした。

ドラゴンの卵ということで、思いつくことは色々やってみた。金の卵を開いたまま火であぶったり、生肉を中に入れて閉じて見たり、時には土の中に埋め見た。それでもヒントらしいものはつかめず、ただただ時間を浪費していた。傍から見たら、バカみたいな姿だと思った。

 

親友達は、俺が極力一人になりたいということを察してくれていた。なりふり構わず金の卵の謎を解くことに集中する俺を、止めないでいてくれた。

そして、陰で俺の事を庇ってくれていることも、思い知った。

日が暮れて、その日に金の卵の謎を解くことを諦めた俺が寮に戻った時に、モンタギューとドラコが言い争いをしているのを聞いてしまった。

 

「ドラコ、お前だって思ってるだろ? ……ポッターを増長させたのはアイツだ。俺は、アイツに一言言ってやらなきゃ気が済まねぇ。いいか? 不正で代表選手になっておきながら、全校生徒の前でへまをして、スリザリンの名に泥を塗ったんだ。俺達には、アイツに一言言う権利があるはずだ」

 

「随分と回る舌だな、グラハム。それに掌もよく回る。ジンが代表選手になった時、英雄だなんだと担ぎ上げていた奴だとは思えないよ」

 

「ああ、それはアイツがへまをしてスリザリンの名に泥を塗る前の話だ。アイツが上手くやってりゃ、俺もこんなこと言わねぇよ」

 

「なら、君ならもっとうまくやれたと? ゴブレットに名前を入れながらも、選ばれることすらなかった君が? 自覚したらどうだい? 君がジンよりも下だっていうことを。……君が怒っているのは、クィディッチで負けた憂さ晴らしの当てが外れただけじゃないな。ああ、そうか。君、さてはクリスマス・パーティーに誘う相手がいないんだね。ははぁ、それでジンを叩いて、目立って、あわよくば女の子をってことか……。ゴブレットの次は女の子に名前を呼ばれたくて必死なんだね。おーい! 誰か、グラハムの相手をしてやれよ! ゴブレットの次に君が好きだって、言ってくれるよ!」

 

ドラコはそう言って、談話室を笑わせていた。その後モンタギューがどれだけ喚き散らそうが、ドラコが俺を非難することはなかった。周りが何を言おうと、俺の事を責めなかった。

そして、最後に言うのだ。

 

「君達、見る目がないようだから言っておこう。ジンが試合から逃げてるだって? 優勝はもうないだって? 馬鹿馬鹿しいよ。彼は今、金の卵の謎を解き、次の課題の準備をしている。ポッターが悠長に遊んでいる間にね。見てればいいさ。次の課題の結果で、分かるから」

 

それはドラコの俺への信頼で、俺への擁護で、ドラコ自身の本心だった。

俺は金の卵を持って森へ引き返した。謎が解けてないと、ドラコに知られたくなかった。俺はドラコすらも避けるようになった。

 

 

 

日が暮れた森の中で、ひたすらに卵と向き合っていた。叫び声をあげる卵にはどんな呪文をかけても弾かれるだけだった。叫び声を黙らせようとかけた舌縛りの呪いは素通りした。卵には舌がないので当然の結果であったが、それに気づくことすら時間がかかった。俺は明らかに何も考えられなくなっていた。

ずっと卵と向き合っていたからだろう。近づいてくる人の気配に気づかなかった。

叫び声を上げ続ける卵が急に閉じられ、肩を掴まれてようやく人が来たのだと気が付いた。

驚いて顔を上げると、近づいてきた人物はマクゴナガル先生であった。

マクゴナガル先生は、いつもと変わらない表情だった。厳格そうに眉を吊り上げ、口を一結びにしている。ただ、心なしか不安げな目をしていた。

 

「……エトウ、そろそろ門限です。寮に戻りなさい」

 

時間を確認したところ、確かにもう夕食の時間はとっくに過ぎていた。

 

「ああ、すみません、先生。もう戻りますよ」

 

金の卵を拾って、大人しく寮に戻る準備をした。ここに残りたいと粘っても、下手にもめるだけだ。どうせ帰らなくてはならないなら、今すぐ大人しく帰った方がずっといい。

俺は変なところで冷静な判断はできるようだった。

帰る準備を黙々とする俺に、マクゴナガル先生は話したいことがあるようだった。

 

「……エトウ。ここ数日、全ての授業を欠席しているそうですね」

 

「ええ。でも、課題は提出しています。代表選手は期末試験もありませんし、進級には問題ありませんよね?」

 

「ええ、進級には問題ありません。しかし、代表選手の模範的行動としてはいささか外れすぎています。……遊んでいるわけではないのは承知しています。しかし、代表選手である以上、模範的行動は心がけなさい」

 

「分かりました」

 

俺の気のない返事で、はなから守る気のない事をマクゴナガル先生は察したのだろう。大きく、ため息を吐いた。しかし、今日はそのことで深く追及する気はない様だった。

代わりに、別の話を持ってきた。

 

「エトウ。貴方に話があります。クリスマス・ダンスパーティーについてです。代表選手とそのパートナーは、伝統にしたがい、ダンスパーティーの最初に躍らなくてはなりません。……クリスマス・ダンスパーティーまではあと二週間あります。それまでにダンスのパートナーを見つけなさい。よろしいですね?」

 

有無を言わせない口調だった。

そして突き付けられたそれは、金の卵の謎と同じくらい嫌な課題だった。

 

「……パートナーを連れずに、ダンスパーティーを迎えたらどうなりますか?」

 

「必ず、連れてきなさい。代表選手としての責務です」

 

聞く耳を持たないとはこの事か。俺もため息を吐いた。俺のため息を見て、マクゴナガル先生は顔をしかめた。

それから、本気で俺がダンスパーティーに人を連れてこない可能性を考えたのだろう。

少しばかりきつい口調で、俺を叱咤した。

 

「エトウ。はっきりと言いましょう。私は、私達教師は、貴方が何を言おうと、そして周りの者達が何を言おうと、貴方を代表選手として扱います。貴方は、ホグワーツの代表選手なのです。そして、貴方はその責務をしっかりと果たすのです。……人から逃げることで、ダンスパーティーにパートナーを連れてこないことで、貴方が救われるのならばそれもいいでしょう。でも、そうはなりません。それは貴方の首を絞め、自分で自分を追い込むことになるだけです」

 

叱咤の中には、マクゴナガル先生が俺を確かに心配する気持ちがあり、優しさが垣間見えた。俺は本当に変なところで冷静だった。

だが、人に立ち向かい、ダンスパーティーのパートナーを探しても、それが俺を救うことになるとは全く思わなかった。

 

「……わかりました」

 

俺は変わらず気のない返事をした。波風を立たせないように。マクゴナガル先生はそれ以上、何も言わなかった。

 

寮に戻ると、流石にもうドラコとモンタギューの言い争いは終わっていた。

俺がそれを聞いていたことも、ドラコにはバレていないようだった。

俺はいつもの様に談話室を素通りして、自室にこもる。自室ではドラコが疲れた様な表情でベッドに腰を掛けていたが、俺が入ってきた途端に顔を上げ、笑顔を浮かべた。

 

「やあ、今日もお疲れ。どうだい? 収穫はあったかい?」

 

ドラコの笑顔には期待があった。ドラコは大勢の前で啖呵を切ったことを俺に言う様子はなかった。ただただ、俺の今日の一日の成果を楽しみにしているような様子を見せていた。

 

「……少し、な。謎が解ける気がしてきたよ」

 

俺は何故だか分からないが嘘を吐いた。きっと、ドラコに失望されたくなかったのだと思う。

ドラコは笑顔を輝かせた。

 

「ああ、そうかい! やっぱりね! 君はいつだって、なんだってやる奴だって思ってたんだ! これで、周りの連中の鼻を明かせるね!」

 

ドラコは俺の言葉を信じた。そして俺を褒めちぎり、優勝できると期待を語った。

金の卵の叫び声を聞きすぎたのだろうか。耳が可笑しくなっているようだった。ドラコの声が妙に遠のいていった。そして俺の中で何かが壊れる音がした。

 

 

不思議な感覚だった。

自分の体が、自分のものではないような、そんな感覚。

翌日も俺は授業に出ることはせず、機械的に課題をこなし、食事をとり、金の卵の謎と睨めっこをしていた。それはダンスパーティーのパートナーが必要だと知っても変えることはしなかった。

今日も、金の卵に無駄なことをする。今日持ってきたのは、鶏の血とウィスキー。これを混ぜるとドラゴンの赤子のえさになるとのことだ。

ぼんやりと鶏の血をウィスキーに混ぜようとした。失敗してぶちまける。俺は血まみれになった。それがきっかけになったのかは分からない。俺の目の前が真っ赤になった。

 

気が付けば叫びながら地面を叩き、草をむしり、木に頭を打ち付けていた。

気がふれたのかと思った。いや、気がふれたのだろう。俺はもう、何もかも堪えられなくなっていた。

周囲の人間にうんざりしていた。陰口を言い、指をさし、非難と嘲笑を向ける。俺はただ、生き延びたかっただけなのに。

ドラコ達の優しさに苦しんでいた。すれ違った感情を向けるくらいなら、いっそ一人にして欲しかった。しかし、ドラコ達が守ってくれていなければ俺はもっと苦しむことになるのだ。

先生達を恨んでいた。守って欲しかった。しかし、それが叶わないことも分かっていた。代表選手への手助けは魔法的契約で禁止されている。授業に出ない俺をそっとしてくれているのも、先生達の気遣いであろうことを十分に承知していた。

 

ハーマイオニーに会いたかった。唯一、俺の気持ちを分かってくれた人だったから。

ハーマイオニーに会いたくなかった。唯一、こんな姿を見せたくない人だったから。

 

疲れ果てるまで暴れまわって、動くこともできなくなって、森の中で一人で横たわっていた。もう、何もかもどうでもよかった。

どれだけそうしていたのか分からない、少なくとも、いつの間にか降っていた雪が多少俺に積もるくらいの時間は、横たわっていたのだろう。

そうしていると、どこからか足音が聞こえてきた。ザクザクと雪を踏み歩く音。こっちに向かってきていた。

 

ボンヤリと思う。

ああ、もしかしたら俺を殺しに来たのかもしれない。それもいいだろう。こんな目に遭わせた奴の顔を拝めるのだ。願ったりかなったりだ。

杖を握りしめる。でも、立ち上がる体力なんてもうなかった。俺を殺したい奴がここに来たならば、一瞬で俺を殺せるだろう。

とびきりの憎悪を込めて足音の方へ目をやる。俺をこんな目に遭わせた奴を、心の底から憎んでいた。一目でも拝んでおきたかった。

足音がすぐ近くでして、がさがさと草むらをかき分ける音もした。そしてとうとう、そいつが姿を現した。

 

「……あんた、さっきからずっと変なことしてるよね。それに血の匂いが凄いみたい。この子達、みんなあんたの方に来ちゃった」

 

 

それは、ブロンド色の髪をしてバタービールのコルクをつなぎ合わせたネックレスをしている、奇妙な女の子だった。

 

 

 











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