日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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純血主義とは

校歌も終わり、監督生に案内されて寮に着いた。石造りの部屋は何処か落ち着きのある雰囲気で俺は気に入った。

寮は二人部屋になっていて、俺は成り行きであの少年、マルフォイがルームメイトとなった。話の続きもできるし、丁度いいと思った。思ったよりも広い部屋で荷物をまとめ終えると、ベッドに座り、マルフォイと話を再開する。

 

「さて、君に何を話せばいいのかな?」

 

「とりあえず、純血主義についてで頼む」

 

「分かったよ。そうだね、ちょっと長くなるけどいいかな?」

 

「ああ、悪いね」

 

「いや、そんなことはない。むしろ、純血である君がこの話に興味を持ってくれて嬉しいよ。それじゃ、話そう………」

 

 

時はホグワーツ創立までさかのぼる。純血主義の原点となった人物は、知っての通り、サラザール・スリザリンだ。彼は、魔法を学ぶ人間も使う人間も厳選すべきと主張した。その考え自体は、実は、昔からそこそこの人が持っていたのであった。それには当時の時代背景が関わる。

当時、魔法が人間界でも使われることは少なくなかった。それは占いであったり、薬学であったり、呪いであったり………。マグルの間では魔法は敬意を払うとともに、恐れられていて、一部のマグルでは魔法使いを疫病や災害の原因と考えられていた。そして、その考えは、徐々にマグルの間で広がっていった。

この事実をいち早く察したのがスリザリンであった。彼はマグルが魔法使いを滅ぼしかねないと考え、魔法の制約について主張した。これが純血主義の始まりだ。

スリザリンの魔法の制約については、ちょっとした魔法が当時のマグルの国に混乱を起こす例もあったため、賛同するものも多かった。そのため、人間界での魔法の使用は徐々に厳しくなっていった。しかし、マグルが魔法使いを滅ぼすとはあまり思われなかった。魔法を使う人間を厳選するのには賛同だがマグルについては放っておけばいい、というのがスリザリンと一部を除く者の掲げる純血主義の考えだった。

そしてついに、依然とマグルを危険視するスリザリンと他のホグワーツ創立者の間で争いが起き、スリザリンがホグワーツを去った。自身の意志を継ぐ者のためにある武器を残して………。

スリザリンがこのような行動に出たのも、彼の主張があまり賛同されていなかったことを示している。現在のように、彼の掲げる純血主義の支持者がホグワーツの四分の一を占めていれば、他の勢力と対抗できたため去る必要もなかったからだ。

それから三百年は、純血主義は現在のようにマグルへの差別ではなく、むしろ、魔法を使うものとそうでないものをはっきり区別し、魔法によって混乱が生じることを防ぐための考えとして広まった。

純血主義が現在のような形となったのには原因がある。

 

魔女狩りだ。

 

これにより、数名の魔法使いが死んでいった。もちろん、生き延びる者の方が圧倒的に多かったが、傷付けられた者や杖を奪われた者もいた。マグルには今までの魔法使いへの敬意はなく、見えるのは憎悪だけだった。

魔女狩りが広まるにつれ、多くの魔法使いはスリザリンの言葉を思い出した。

 

「マグルがいずれ魔法使いを滅ぼす」

 

当時、戯言として信じられなかった考えが、急に形になって表れた。確かに被害はほとんど無かったが、マグルが魔法を覚えることを恐れるには十分なものだった。瞬く間に、純血主義はスリザリンが掲げていたものへと変わり、賛同するものも増えた。

魔女狩りが終わった頃と現在では、魔法界の仕組みには大きな差が無い。というよりも、魔女狩りが終わって、現在の魔法界の仕組みが作られたのだ。ついでに、純血が重要な役所につきやすいのはこの名残だ。

不幸中の幸い、魔女狩りの犠牲者はマグル生まれの魔法使いだったためか、魔法界は魔女狩り後もマグル生まれの者を受け入れることは廃止にはならなかった。なにより、受け入れなければ魔法使いは絶滅の恐れもあったのは大きいだろう。しかし、マグル生まれが純血から白い目で見られることは避けられなかった。そしてそれは今も続いている。

 

 

 

 

「……これが、純血主義の大体の歴史かな? 何か質問はあるかい?」

 

「そうだな………。「例のあの人」ってのは純血主義だったんだろ? その辺は世間ではどう認識されてるんだ?」

 

この質問にマルフォイは少し苦い表情をし、少ししてから口を開いた。

 

「「例のあの人」は確かに純血主義だったけど、理想をかなえるために魔法界を乗っ取ろうとしている中で死んだ。世間では純血主義者というよりは反逆者として認識されている。」

 

「そうか」

 

マルフォイは俺の質問に答えているようで、微妙にずれた回答をした。恐らく、純血主義者も「例のあの人」は掘り返したくない話なのだろうか。予想はしていた。

 

「それより、この話を聞いて君はどう思った? 僕はそっちの方が気になるね。」

 

「俺か? そうだなぁ……」

 

俺の感想。それはマルフォイの期待に応えられそうにない。

マルフォイの言葉から期待したのは、魔法界におけるマグル生まれへの対応の改善だった。マグル生まれと魔法使いの間にある慣習の違いを問題視するのであれば、当然、いきなりマグル生まれを魔法界に連れてきて「今日から君も魔法使いだよ!」なんて現状を変える案があるのかと思っていた。しかし、実際に聞いてみると、マグル生まれを魔法界から追放し、純血や半純血だけで社会を成立させようという実現不可能な考えだった。

落胆。それが俺の答えだろう。

少なくとも、俺が期待したものは純血主義の中には形として存在していなかった。

しかし、収穫はあった。俺にとっては、慣習が全く違うマグルをあっさりと受け入れがたいという考えが存在することが分かったのは大きい。その考えが少し変われば、マグル生まれと魔法使いの関係を改善するものができそうだ。

しかし、こうもストレートに言ったらマルフォイとの関係は崩れるのは目に見えている。どう言ったものかと少し頭を悩ませた。

 

「ちょっと思想としては不完全なものかな? とは思ったな」

 

「不完全? いったいどこがだい?」

 

「マグル生まれを魔法界から消して、その後どうするんだ?」

 

「純血と半純血だけの理想の社会を作ればいいだろう?」

 

「無理だろ? 純血や半純血なんて限られてる。話を聞く限りね。それに社会を成り立たせるには役所の仕事だけやりゃいいってもんじゃないだろ。過疎化は深刻な問題だぞ。 今までマグル生まれの人達がしてきた仕事を半分近くの人数でどう補うんだ? ほら、ちょっと考えただけでこれだ」

 

「い、いや、それは………。君はスリザリンにいながらマグルとの共存を主張するのかい?」

 

逆切れに近い反応をされてしまう。やはり、こう遠回しに告げているのは正解だったと少しばかりの確信と、マルフォイの内面も分かった気がした。

 

「そんなはっきりとした意見じゃないよ、これは。ただ、純血主義の理想が実現不可能だと指摘しただけ。まあ、考え自体は納得できるところもあるし、具体性を作ったら周りも賛同する理論になるんじゃないか? 今のままじゃただの理想だろ。そう思わないか?」

 

俺の言葉に、マルフォイは黙り込んでしまった。俺の言葉に思うところがあるのか、予想よりも反論しない。しばらくして、マルフォイが口を開く。

 

「結局、君は純血主義に賛成なのかい? 反対なのかい?」

 

「今のままじゃ賛成はできないな。要するに、マグル生まれやマグルの追放にだけこだわるんじゃなくて、もっと未来を見据えた、広い視野を持った意見を組み入れるべきじゃないかって言いたい。そうしたら、賛同できるかもな」

 

俺の言葉に、考える表情のまま固まったマルフォイを放っておいて時計を見た。ずいぶん話し込んでしまったようで、すでに二時前だ。もう寝ようと声をかけようとしたら、マルフォイの方が先に口を開いた。

 

「すごいね、君は。そこまで純血主義について考えてくれるだなんて」

 

「いや、そうでもないだろ。普通のことだろ」

 

普通かどうかは分からなかったが、少なくとも、目の前の少年よりは考えをめぐらせているとは言えない。ただ、視点が違うだけだ。しかし、自分の持っていなかった意見を持つ俺は、マルフォイにとっては思慮深い人間に映ったようだった。

 

「いや。謙遜しなくてもいい。君となら理想の社会を作れそうだ!」

 

「そうか? まあ、あれだ。もう遅い。話は明日にしよう。お休み、マルフォイ」

 

何やら俺を過大評価、というか、勘違いしてマルフォイが俺にキラキラと尊敬のまなざしを送ってくる。なんか嫌な予感しかしない。

 

「ドラコだ。そう呼んでくれ。僕も君のことはジンと呼ぼう」

 

そういった後、嬉しそうにこう続けた。

 

「一緒に、マグルがいなくても成り立つ社会について考えよう!」

 

いつにない盛大な勘違いをただす気力はその日にはもう湧かなかった。

 




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