カンカン照りの青空の下、のび太、ドラえもん、スパーク、ノア、ヨワリンは、**ヤシの木や小川が流れる人工オアシス都市——その名も『オアシスシティ・サバクゾーン』**の大通りを歩いていた。
道の両側には立派な白い石畳。そこにずらりと並ぶのは、砂色の立方体の家々——どの家の壁にも、なぜかスネ夫の『ドヤ顔写真』がズラリ!
さらに、オアシスの中心には金ピカの巨大なスネ夫の像が、まぶしい光を反射している。
「なんか……スネ夫の顔ばっかりだな……」
のび太は苦笑いしながら、金ピカ塔を見上げる。
「ひえ〜、ここまで自分推しだと逆に清々しいな……次から『スネオアートミュージアム』って呼ぼうぜ」
スパークは帽子をくるくる回しながら、わざと大げさに肩をすくめてみせた。
道のあちこちには噴水やヤシの木があり、家と家のあいだには小さな日よけテントや市場も。まるでアラビアンナイトの世界が、そのまま未来風になったようなオアシスの街だった。
街のあちらこちらには、埴輪型の生き物『ハニワル』たちが、ちょこまかと行進したり、杖を手に集まってぺちゃくちゃおしゃべりしている。
一番目立つのは、道沿いの日よけのテントや、ふかふかのクッションが並ぶ茶屋のような場所。
そこでは、ハニワルたちがだら〜んと寝そべって贅沢ざんまい。
しかも——
「えっ……あれ、うちわで仰いでるの、フワミルクじゃない!?」
のび太が目を丸くした。
見ると、フワミルクたちが、一生懸命ちいさな手でうちわをパタパタ。
ハニワルたちはお姫さま気分でごろごろ、ミカンやぶどう、お菓子をパクパク。
中には冷たい飲み物をフワミルクに運ばせているハニワルまでいる。
「なんだこれ……どう見ても変だよ!」
ドラえもんが驚いて声を詰まらせる。
そのすぐそばでは、フワミルクたちが小さな車輪のついた荷台をロープで引っ張り、まるで牛車のように重たい資材や食べ物をヨロヨロと運ばされていた。
「も〜……」
弱々しい声で、1頭のフワミルクが荷車を引っ張る。
その後ろでハニワルがムチを持ってジロリとにらみつける。
フワミルクがバタリと倒れると——
パシンッ! ムチの音が響いた。
ノアもヨワリンも、びっくりしてフワミルクたちに駆け寄りそうになる。
そのとき、ハニワルの一団を引き連れたスネ夫が、金ピカのサンダルを鳴らしながら、えらそうに近づいてきた。
「うわっ、スネ夫……!」
のび太が思わず声を上げる。「ちょ、ちょっと! これどういうこと!?」
スネ夫は顎をしゃくり上げて、余裕の笑み。
「何って? ちゃんと『役割分担』してるだけだよ。ハニワルは頭を使うのが得意、フワミルクは力仕事が得意。それぞれ得意なことをやれば、みんな幸せなんだって!」
「でも……フワミルク、つらそうだよ?」
ドラえもんが眉をひそめる。
スネ夫はちょっとめんどくさそうに肩をすくめ、
「見てみろよ、誰も文句言ってないだろ? それに、みんな自分で選んで働いてるんだし、効率もバッチリ!」
「……本当に納得してるのかな?」
のび太が首をかしげ、フワミルクにそっと声をかける。
「だ、大丈夫……?」
フワミルクは一瞬、のび太を見上げて何か言いたげな表情を見せるが、すぐにスネ夫の視線に気づく。
その途端、ピクリと体をこわばらせて、怯えた顔のまま、こくんと小さくうなずいた。
「……ほら、な? 協力ってのは、こういうことさ!」
スネ夫はしたり顔で塔の方へ去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、のび太は「……やっぱり変だよ」と小声でつぶやく。
スパークは腕組みして「これが『搾取』ってやつだな。オアシスどころか、ブラックすぎるぜ……」とピシャリ。
「フワミルクたち、助けてあげたい……!」
ノアも、じっと荷物を引くフワミルクたちを見つめる。
「なんとかしないと!」
ドラえもんが決意を込めて言う。
こうして、のび太たちはフワミルクたちをこっそり逃がす計画を立てるのだった——!
スネ夫のオアシスシティ広場には、きらきらと太陽が降りそそいでいた。パームツリーの日陰、色とりどりの絨毯、石造りの噴水——
そこに突然、ドラえもんが「はい、おまちどうさまー!」と元気な声を響かせた。
グルメテーブルかけをバサリと広げると、そこから次々と現れるミルクプリン、ミルクドーナツ、ふわふわミルクケーキ、冷たいアイスにあま〜いミルクシェイク!
広場じゅうに、たちまち甘い香りが広がった。
「おーい、こっちで無料試食会やるぞー! サバク名物ミルク祭りだー!」
スパークが三角帽子をくるくる回しながら、マイク代わりの貝殻を手に、ハニワルたちへ呼びかける。
「そこのハニワル、そっちのハニワル! 今ならスネ夫王様のスペシャルおやつだぜー!」
「ハニハニ!」「ハニッ!」「ハニワ〜ッ!」
あちらからも、こちらからも、ハニワルたちがぞろぞろ、ワクワク顔で集まってくる。みんな手を伸ばしてお菓子を奪い合い、鼻の穴をパカパカさせて踊りだすやつまでいる。
スパークは帽子の上にぴょんと飛び乗って、得意のトーク全開。
「みんな注目〜! このオアシスシティの王様、スネ夫さまのご登場だーっ! みんなでスネ夫さまに盛大な拍手っ!」
——そのにぎやかな声を背に、
のび太、ノア、ヨワリンは、こっそり街の片隅へと抜け出していた。
「みんな、こっちこっち!」
のび太が合図を送り、ノアもヨワリンも一生懸命フワミルクの縄や荷車をほどいていく。
「もぉ……?」フワミルクたちは不安そうに見つめるが、ノアが優しく「だいじょうぶ、にげて!」と声をかけると、次々にヨタヨタと街の外へ走り出す。
一方、広場では——
「さぁさぁ、みんなでスネ夫王様コールいくぞー!」
スパークがステージにスネ夫を引っぱり上げる。ドラえもんはどこからともなく王冠を取り出して、スネ夫の頭にちょこんと載せる。
「スネ夫! スネ夫! スネ夫ーーっ!」
ハニワルたちは「ハニワ〜!」「ハニニッ!」と大合唱で、スネ夫もどや顔で両手を広げている。
一方その頃、広場のにぎやかさとは裏腹に、のび太・ノア・ヨワリンは街の奥深くへと向かっていた。
「ここ、なにかヘンなかんじがする……」
ノアがそっと呟く。
その先には、小さな石づくりの建物。中からは、かすかな「も〜……」という声が漏れ聞こえてくる。
のび太がそっと覗きこむと——
そこはなんと、フワミルクたちがずらりと並び、お腹のポケットからせっせとミルク瓶を取り出しては、どんどん積み上げている『ひみつのしごと場』だった。
「な、なんてことを……!」
ミルク瓶を取り出すたび、フワミルクたちはげっそりとした顔。まるで元気がなくなっている。
「こんなの、あんまりだよ……!」
のび太は、拳をぎゅっと握った。
警備のハニワルは昼寝中。今がチャンス!
のび太はこっそり、ドラえもんから預かった『通り抜けフープ』を取り出し、壁にポンッと貼り付ける。
「さぁ、みんないそいで!」
ノアが小声でフワミルクたちを手招き。
フワミルクたちは、もじもじしながらも次々とフープをくぐって、オアシスの外へと逃げていく。
ところが——
最後の一体がフープの前に立ったとき、うれしさのあまり「もぉぉぉ〜〜っ!」と大声で鳴いてしまった!
「……ハニッ!?」
寝ていたハニワルの目がカッと開く。
「ハニワニッ!? ハニニーーッ!!」
警備のハニワルが大声で叫び、建物の外へダッシュ!
あっという間に広場にも騒ぎが伝わり、ハニワルたちが大あわてで広場から押し寄せてくる。
「ど、どういうことだよ、ドラえもん!」
スネ夫が目を三角にして、ドラえもんたちを問い詰める。
ドラえもんは涼しい顔でウインク。
「ごめんね、フワミルクはもう返してもらったよ!」
「ええええーーっ!!?」
広場がざわつくなか、スパークがひょいっとスネ夫の肩に手を置き、軽くウインク。
「じゃ、あとはよろしくね、王様〜!」
ドラえもんはタケコプターを頭につけて、くるっと一回転。
「それじゃ、失礼しま〜す!」
スパークもパタパタと羽を広げて、空へぴゅん!
二人は陽炎のまぶしい空へ向かって、軽やかに飛び立っていった。
取り残されたスネ夫とハニワルたちは、「えっ?」「ちょ、ちょっと待って!」と大騒ぎ。
広場の真ん中で、スネ夫が「ああっ、僕の王国が〜〜!!」と叫ぶ声が、砂漠の空に響き渡るのだった——。
フワミルクたちを連れて、のび太、ノア、ヨワリン、そしてドラえもんとスパークは、熱く乾いた砂の上をひたすら北へ、北へと走っていた。
「急げ急げー! スネ夫とハニワル軍団が迫ってるぞ!」
スパークが空中からパタパタとみんなを急かす。
フワミルクたちは、まんまるの足で一生懸命ダッシュ。ヨワリンは最後尾で、「ぷに〜……」と半泣きで転がるように走っている。
「がんばれヨワリン、あともうちょっとだよ!」
ノアが何度も振り返り、必死に応援する。
しかし——
「待て〜っ!! 返せーっ!!」
砂嵐の向こうから、スネ夫とハニワルたちがずらりと追いかけてくる!
なかには、馬型の土器にまたがって、パカラッパカラッと駆けてくるハニワルもいる。
「うわぁ、馬まであるの……!」のび太は、思わず振り返って青ざめる。
「このままじゃ追いつかれる……!」
ドラえもんが心配そうに言ったとき、砂嵐がビューンと吹きつけて、みんな目も開けられない。
その間に、ドドドドッとハニワルたちがじりじり距離を詰めてきた。
「もうダメだ〜!」と、のび太が泣きそうになったそのとき——
「ぷにぃ……!」
ヨワリンがとうとう座り込んで動けなくなってしまった。
「あっ、ヨワリン!」ノアが駆け寄ろうとするが、足場はどんどん砂に沈むばかり。
その時、数匹のフワミルクがくるりとUターンして戻ってきた。
「も〜っ!」と息を切らしながら、ヨワリンをひょいっと持ち上げ、肩車ならぬ『背中乗せ』で、いっしょに逃げ始める。
「フワミルクたち……ありがとう!」
ノアは思わず目を潤ませる。
だけど——
ついにハニワルたちの軍団が、のび太たちに追いついてきた!
「ハニハニハニーッ!」
先頭のハニワルが、砂ぼこりを巻き上げながらフワミルクの集団に手を伸ばす。
「も、も〜っ!」
ヨワリンをおぶったフワミルクたちが、よろよろと必死に逃げようとするけど、その体に、ガシッ!とハニワルの手が食い込む。
「やめて……!」
ノアが駆け寄ろうとした瞬間、もう一体のハニワルが背後からフワミルクをぐいっと引きはがし、ヨワリンも、つるんとフワミルクの背中から転がり落ちてしまう。
「ぷ、ぷにぃ!」
ヨワリンも、あっという間にハニワルに捕まえられ、手足をじたばたさせている。
「だめぇーっ!!」
ノアが絞り出すような大声で叫ぶ。
と、その時、まるで見えない『何か』がハニワルたちに走ったように、全員ピタリとフリーズ。
腕を伸ばしたまま、片足を上げたまま、全員が石像のように固まってしまった。
「え? な、なにこれ……!?」
スネ夫がうろたえてハニワルを揺さぶるも、全然動かない。
「今のうちに!」
ドラえもんがすぐにみんなを誘導し、フワミルクとヨワリンと共に、のび太たちは全力でその場を離れる。
砂漠の真ん中に、カチコチに固まったハニワルたちと、ぽかんと口を開けたままのスネ夫の声だけが、しばし風に漂っていた。
——走りながら、のび太たちは「今の、なんだったんだろう?」と不思議そうに顔を見合わせた。
だけど、ノアだけは胸の奥がひやりと冷たくなるのを感じていた。
(もしかして……ぼくが、なにか……?)
ノアは走りながら、ちらりと自分の手を見つめた——。
何とか砂漠を駆け抜けて、のび太たちは自分たちのエリアとの境界までたどり着いた。
だけど、後ろを振り返ると——
「うわっ、また来た!!」
スネ夫とハニワルたちが、正気を取り戻したのか再び「ハニハニハニーー!」と叫びながら追いかけてくる!
のび太が「どうしよう……!」とオロオロ。
ドラえもんもあわてて四次元ポケットをガサゴソ、「うーん、何か役立つ道具……!」と探すけれど、こんな時に限ってピッタリのものが見つからない。
そのときだった。
フワミルクたちが、ぷう〜っと大きな鼻ちょうちんをふくらませはじめた。
「も〜……ぷぅ〜……」
その鼻先から、ぽこぽこと透明なシャボン玉が膨らみはじめる。最初は小さな玉だったのが、どんどん大きく、丸く、ふくらんでいく。
やがて、フワミルクたちは大きなシャボン玉をぷかぷかと膨らませると、それぞれが顔を見合わせて——タイミングを合わせるように、ぽふん、ぽふん、と空中に次々と並べていった。
みるみるうちに、泡の壁が境界線にずらりとできあがっていく!
そこへハニワルたちが突進!
「ハニハニハニーーッ!」
パチンッ!
シャボン玉に触れたハニワルたちは、つるんっと滑って転がりまくり、まるでスケートリンクの上みたいに、バタバタとひっくり返ってしまう。
スネ夫も「あわわ……なんでこんなバカな……」と唖然。
「わぁ、泡のバリケードだ!」
「すごいぞ、フワミルクたち!」
みんな大喜びで拍手喝采。
ハニワルたちはしばらくドタバタしていたが、ついにあきらめたようにしょんぼりと引き返していった。
スネ夫も、頭を抱えながら金ピカのオアシスへと退散。
ほっと胸をなでおろすのび太たちに、スパークが頭の帽子をクイッと傾けて一言。
「搾取に立ち向かう『やさしさの反撃』が、最後は勝つってことさ!」
砂漠の風に、どこか甘いミルクの香りがふんわり流れた——。
砂漠の果ての冒険を終え、のび太たちは、ようやく自分たちのエリアへと戻ってきた。
——ふわふわのフワミルクたち、そしてヨワリンもいる。みんな、ほっとした顔で草原に足を踏み入れる。
どこか、なつかしい匂いと、やわらかな風。
でも、何かが違う——空気がざわめいている。
「……あれ、なんだ?」
スパークが首をかしげて、草むらの向こうを指さした。
その先で、どら焼きの形をした小さな生き物たち——どら焼きマンたちが、ちょこちょこと集まっていた。
しかし、その輪の中に、おためし生物のネズミたちがじわじわと忍び寄っていた!