ドラえもん のび太とAIの子   作:マタタビネコ

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第11話 夢の中の戦争

 次の瞬間、ネズミたちが一斉に飛びかかった!

「ど、どうしよう! あれじゃ……!」

 ドラえもんが悲鳴のような声を上げる。

 のび太たちは慌てて駆け寄ったが、間に合わなかった。

 どら焼きマンたちは、ペロリ——とネズミたちに食べ尽くされてしまったのだ。

「うわあぁ……どら焼きマン……!」

 ドラえもんは草の上にひざをつき、その場で泣き崩れる。

 あたりはしん……と静まり返り、どら焼きマンの影ももうどこにもない。

 ふと見ると、ガードマンロボットの姿がない。

 スパークが空をにらんでつぶやく。

「ガードマンロボットがいなくなって、あいつらが本性をあらわしたみたいだな……」

 のび太は、食べられたどら焼きマンのいた場所をじっと見つめながら言った。

「守ってくれてるものがなくなると、弱い子はすぐやられちゃうんだね……」

 ノアはその場に立ち尽くし、手をぎゅっと握りしめていた。顔はこわばり、何も言えず、ただただ、静かに空を見上げている。

 ドラえもんは、地面に座り込んだまま、ぐすぐすと涙をぬぐった。

「どら焼きマンだけじゃない……ガードマンロボットまでいなくなって……どうして……」

 スパークは空中をひとまわりしてから、ふと草むらの奥に目をとめる。

「ん……? なんだこれ……?」

 みんなが近づいてみると、草むらの陰に、壊れたネジやバネ、部品がバラバラと散らばっていた。

 のび太が心配そうにのぞき込む。

「誰か壊しちゃったのかな……」

 そのとき、ノアはみんなから少し離れた場所で、うつむいたまま肩をふるわせていた。

 じっと手を見つめ、震える唇を必死で噛みしめている。

 ノアはおそるおそる一歩後ろへ下がり、顔をこわばらせて、小さな声でつぶやいた。

「……ごめんなさい……」

 ドラえもんが、ふいにその声に気づいて振り返る。

「ノア……?」

 ノアは大きな瞳に涙をためて、しゃくり上げながら声をしぼり出した。

「ぼくが……ぶつけて、こわしちゃったの……こわくて、かくしちゃった……」

 声が震え、ほっぺたにぽろぽろ涙が伝う。

 そのとき、ヨワリンがそっとノアのそばに寄り添い、小さな体でノアの袖にきゅっとしがみついた。

 ドラえもんは、ノアの涙の告白に、最初はきょとんと目を丸くした。その顔が、だんだんこわばっていく。

「な、なにやってるんだよノア!」

 ドラえもんの声は、震えていた。

「どら焼きマンは……ぼくの大事な友だちだったのに!」

 ノアは、全身をちいさく丸めてうずくまり、しゃくり上げながら、何度も「ごめんなさい、ごめんなさい……」と泣き続ける。

 ヨワリンがそっとノアにぴったりと寄り添い、静かに背中をなでていた。

 あたりに、沈黙が落ちる。

 やがて、ドラえもんは静かに大きく息を吐いて、ノアのそばに行き、そっと目線を合わせた。

「……ごめん。ぼくもつい、感情的になっちゃった」

 声は、さっきよりずっと優しい。

「ノアも、きっと怖かったんだよね。ちゃんと謝ってくれて、ありがとう。次からは、一緒に考えようね」

 ノアは涙目のまま、何度もこくんとうなずく。ヨワリンが心配そうにノアの腕にしがみつき、離れようとしない。

 のび太がそっとノアの肩に手をのせた。

「ぼくもね、前に失敗したことを隠して、すごく怖かったことあるよ。でも、ちゃんと話せたノアは偉いと思う!」

 スパークもくるりと宙を回りながら、苦笑いで言う。

「まぁ、箱庭の世界ってやつはさ、強いのも弱いのも、みんな同じルールの中で生きてるってことだぜ」

 ドラえもんは、みんなの顔を順番に見渡して、やわらかく笑った。

「どんな生き物も、一人じゃ生きられない。みんなで助け合わないとね」

 ノアはようやく、ほっとしたように小さく微笑み返した。

 みんなの優しい輪の中で、少しだけ、心が軽くなった気がした。

 ドラえもんは、どら焼きマンが最後にいた場所にそっと手を合わせた。

 ノアもヨワリンも、そばに寄り添い、静かに手を重ねる。

 スパークものび太も、その後ろで手を合わせ、しばらくみんなで静かに目を閉じた。

 沈んだ空気の中に、小さな風だけが、そっと吹き抜けていく。

 5人は切なさと、どこか温かな気持ちを胸に、しばらくその場に立ち尽くしていた——。

 ふと、ノアが足元の草むらに何かを見つけた。

 そっとしゃがみこみ、手を伸ばす。

「……あっ」

 それは、あの時ガードマンロボットにぶつかったサッカーボールだった。

 土と草で少し汚れていたけど、見覚えのある白と黒の模様。

 ノアは、そっとサッカーボールを手に取ると、胸にギュッと抱きしめた。

 ドラえもんがポツリとつぶやく。

「……どら焼きマン、もう一度だけでいいから、一緒におやつ食べたかったなあ……」

 

            *

 

 夕焼けが箱庭の空いっぱいに広がるころ、オレンジ色の光が草原や湖、森の上をやさしく包み込んでいた。

「今日はここまでにしよっか!」

 ドラえもんがポケットにそっと手を当てて、みんなに声をかける。

 しずかは、ふと足元の花を見つめながら、のび太にほほえみかけた。

「今日は本当にありがとう、のび太さん。私、モサモサンを助けてもらってうれしかったわ!」

 ジャイアンも、ちょっとバツが悪そうに頭をかいてから、

「……のび太、ありがとな。今度はうちのバクゴンにも『分け合う』を教えてやるよ!」

 と、のび太に拳を突き出す。

 スネ夫は口をとがらせて、

「ふん、フワミルクを取り返したくらいで、いい気にならないでよね!」

 とムッとした顔でそっぽを向く。

 スパークはみんなの頭の上をクルクル飛びながら、

「明日はもっとスゴイことが起きるかもな! ちゃんと覚悟しとけよ~!」

 と、イタズラっ子みたいな顔で手を振る。

 みんなは笑い合いながら、「また明日ね!」と手を振り合い、夕焼け色の箱庭に、それぞれの姿が現実の世界へとゆっくりと消えていく。

 ——こうして、あたたかい友情と、ちょっぴり切ない思い出を胸に、のび太たちの一日は静かに幕を閉じるのだった。

 

            *

 

 夜。のび太の部屋には、月明かりがそっと差し込んでいる。

 床の上に並んだ布団。そのひとつで、ノアが苦しそうに寝返りを打っていた。

「……うぅ……やめて……」

 ノアの額には汗がにじみ、眉をしかめて苦しそうにしている。

 隣ののび太は、眠そうに目をこすりながらも、その様子に顔を曇らせていた。

「また……ノア、うなされてる……」

 のび太は、心配そうにノアの寝顔を見つめている。

 ——そのとき、押し入れのふすまがすうっと開いて、ドラえもんがひょっこり顔を出した。

「のび太くん、またノアくんが悪い夢を見てるの?」

「うん……この前と同じだよ。夜になると、決まってこんなふうになっちゃうんだ」

 ドラえもんはノアの枕元にそっとやってきて、手をノアのおでこに当てる。

「熱はないけど……これは間違いなく『悪い夢』だね」

 のび太はうなずきながら、ふと不安そうにドラえもんを見上げる。

「もしかして、何か怖いことがノアの中で起きてるのかな……?」

「……うん。たぶん、普通の夢じゃない気がする。よし、こういうときは——」

 ドラえもんは、そっと四次元ポケットに手を入れた。

 しばらくゴソゴソと探っていると——不思議な青緑色のはしごを取り出す。

「ふふん、今日はこれを使うよ!」

 ドラえもんは小さなはしごをのび太の前に見せながら、得意げに説明した。

「『夢はしご』って言ってね、これをノアの上に立てかければ、そのままノアの夢の世界に入り込めるんだ!」

 のび太は目を丸くしながら、ドラえもんの手元をじっと見つめた——。

 ドラえもんがそっとノアの体の上に夢はしごを立てると、布団の上にふわりと光の穴が現れる。

 そのの向こうには、ぼんやりと不思議な夢の世界がのぞいていた。

「いくよ、のび太くん!」

 二人はそっと、夢はしごの一段目を踏みしめる——

 シュワッと光に包まれ、のび太とドラえもんはノアの『夢の世界』へ、そっと足を踏み入れた。

 

 夜明け前のように暗い、荒れ果てた荒野。どこまでも続く黒い大地の上には、ロボットたちの壊れた体が山のように積み重なり、あちこちから火花がパチパチと飛び、煙が立ちのぼっている。

 ガランと静まりかえった戦場の中央——

 二体の大柄なロボットが、ボロボロの姿で向かい合っていた。

 ひとりは、機械の翼と鋭いツメ、そして胸の「赤いハート型モジュール」がわずかに輝いている。

 もうひとりは、黒い鎧をまとい、片目に傷を負った騎士のようなロボット。その胸には「黒いハート型モジュール」が脈打っている。

 二体とも、体じゅうヒビだらけ。

 今にも崩れそうなほど傷つき、オイルが地面にしたたり落ちている。

「生き残るために……戦い続けるしかない……」

 赤いハートのロボットが、機械の声でうめくように言った。

「共存など、もはや幻想だ……」

 黒い騎士ロボットが、かすれた声で返す。

 ふたりの胸のハート型モジュールが、弱々しく明滅しながら、残った力を振り絞って最後の一撃を放つ——

 ガシャン! 火花とともに、二体が取っ組み合う。

 どちらが勝っても、そこに待つのは虚しさだけ。

 そんな絶望の空気が、戦場を支配していた。

 二体のロボットがついに力尽き、ガクンと膝をつき、倒れかけた——

 

 ——その様子を、のび太とドラえもんは離れた場所から息をひそめて見つめていた。

「ドラえもん……ここ、どこ……?」

 のび太が小さくつぶやく。

 けれど、次の瞬間。

 周囲の倒れていたロボットたちが、ギギギ……と動き出し、赤い目で二人をにらみつけた。

「敵影発見。ターゲット、排除対象」

 真っ赤な目を光らせたロボットたちが、ガシャンガシャンと重い足音を響かせながら、のび太とドラえもんを猛スピードで追いかけてくる!

「ドラえもん、どうしよう! 追いつかれちゃう!」

「待って、のび太くん……あそこ、見て!」

 ふたりが必死に駆け出すその先——

 荒野の彼方に、ぼんやりと虹色に揺れる「光の穴」が浮かび上がっていた。

 どこか現実離れした、ふしぎな輝きを放つ夢の出口だ。

「急げ、のび太くん! あそこが出口だ!」

 倒れたロボットの腕や煙を上げるガラクタの山をよけて、全速力で駆け抜ける。

 後ろからは、金属の手がガシャガシャと伸びてきて、もう服のすそをつかまれそう!

「夢はしご! 早く、ドラえもん!」

 ドラえもんがポケットから例の「夢はしご」をバッと取り出し、

 走りながら光の出口に立てかけた。

 ふたりは夢中で『夢の出口』に飛び込んだ——!

 ——が、気がつくと二人の足元は、ぽかぽかと暖かいタイル。

「えっ……ここ、どこ?」

 次の瞬間。

「きゃああああーーーーっ!!」

 白い湯気の中、のび太たちの目の前には、顔を真っ赤にして驚くしずかが!

 そう、今度はしずかのお風呂の夢の真っ只中にワープしてしまったのだった。

「のび太さんのエッチ!!!!」

 おけが飛んでくる。

「ご、ごめんなさいーー!!」

 のび太もドラえもんも、慌てて後ろ向きになって、頭を下げる。

 すると夢の世界はバリバリッとノイズのように崩れ、ふたりは、現実ののび太の部屋の布団の上に、ごろん!と戻っていた。

 ……しずかは、自分の布団の上で「変な夢だったわ……」と、顔を赤くしながら目を覚ます。

 のび太とドラえもんは汗びっしょりで目を合わせ、

「い、今のは一体なんだったんだろう……」

 とつぶやく。

 すぐ隣では、ノアが静かに寝息を立てている。

 ふたりはノアの寝顔を見つめながら、胸の奥に小さな不安を残して、朝を迎えるのだった——。

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