タイムホールから飛び出した瞬間、のび太たちの目に飛び込んできたのは——夢みたいにきらびやかな22世紀の大通りだった。
空には透明なチューブの道路が何本も走り、その上を人間やロボットが乗ったホバーカーが滑るように行き交う。ビルとビルをつなぐガラスの橋の上では、人とロボットが手をつないで歩いている。
「うわあっ、なんだここ!?」
スネ夫が目をまん丸にして叫ぶ。
「お、おれ空飛ぶクジラ見てるぞ……!」
ジャイアンは口をあんぐり開けたまま、頭の上をふわふわ泳ぐ巨大なクジラ型バスを指さしている。
「ビルが、虹色に光ってるわ……!」
しずかも思わずため息。
道路の向こうでは、人間のおじさんが花屋のロボットと水やりのタイミングでもめている。
「おいブリ坊、また花に水やりすぎだぞ!」
「だっておじさん、昨日は水やらなすぎだったロボ」
「……言い返すんじゃない!」
「ケンカしてるのに、なんか楽しそうだなぁ」とのび太がぽつり。
その様子を見て、ドラえもんが少し誇らしげに胸を張った。
「さぁ、ここがぼくが生まれた22世紀の世界だよ! 人間もロボットも、みんなで力を合わせて暮らしてるんだ。」
そこへ、ドドンと足音。
「おいキミたち! 腹が減ってないか!?」
クマみたいに大きなコック帽ロボットが現れた。隣には髭モジャの料理長が「この子は自慢の相棒だよ!」とにっこり。
「マジか! オレ、未来グルメ全部食うぞ!」
ジャイアンはクマロボットに腕をひっぱられ、ズルズル横丁へ。
「ジャイアン、待ってよ!」
スネ夫が後ろから叫ぶと——
スネ夫の前にオシャレな未来のデザイナーと女性ロボットが現れた。
「あなた、ファッションセンスがあるわね!」
「えっ、ぼ、ぼくですか?」とスネ夫が胸を張ると、デザイナーがピンク色の『着せかえカメラ』を取り出した。
「これで未来の服を着てみて!」
デザイン画を差し込みカメラをパシャッとすると、スネ夫の服が一瞬でピカピカの未来スーツに変身!
「な、なにこれ!? すごい!」
スネ夫は嬉しそうにクルクル回り、次々と新しい服に変わっていく自分に大満足。 人間もロボットも集まってきて、「似合ってるよ!」「未来のモデルだね!」とみんなで大盛り上がりになった。
「スネ夫さんってほんと、どこでも調子いいんだから……」
しずかが苦笑い。
すると今度は、ウサギ耳の園芸ロボットが「お姉ちゃん、お花好き?」と手を振って近づいてきた。
「うん、好きよ」としずかが優しく返すと、園芸ロボは虹色の小さな花を一輪、そっと手渡してくれる。
「この花、ね? 歌も歌うんだよ!」
ロボットが花を軽く揺らすと、ふわっと優しいラブソングが響き出した。
「まあ、すてき……!」
しずかの顔にぱっと笑顔が咲き、ロボットと一緒にその不思議なお花を見つめた。
その横で、のび太はぼんやり立ち尽くしていた。みんな楽しそうなのに、ノアのことが心配でたまらない。
そんなとき、小さな子供型ロボットがトコトコ近づいてきた。
「ねえ、お兄ちゃん、なんでしょんぼりしてるの?」
「えっ……」
「よかったら、ボクが悩みを聞くよ?」
ロボットは、目をくりくりさせてのび太の顔を覗き込む。
「友達が……いなくなっちゃったんだ。なんにもできなかった」
のび太がぽつりとつぶやくと——
近くにいた子供型ロボットが、のび太の手をそっと握った。
「大丈夫。悲しいときは、泣いてもいいんだよ。でも、ひとりじゃないよ。ぼくたちがいるから!」
そこへ、大きな犬型の配達ロボが、まるでお父さんみたいな頼もしい声で言う。
「心配しなくていい。未来の仲間は、ピンチのときほど力を合わせるものさ!」
カモメ型のメッセンジャーロボが翼を広げて、空からくるっと舞い降りる。
「ねえ、もし手紙を書きたくなったら、いつでもぼくが届けるよ。友達にも、きっと気持ちは伝わるから!」
のび太はみんなの温かい言葉と、ポンと肩を叩くロボットたちのやさしさに、自然と涙がこぼれた。
「なんだか……ちょっと元気が出てきたかも」
のび太は、みんなの手の温かさに思わず微笑んだ。
みんなで空を見上げると、子供たち——人間とロボットが一緒になって、空中をすいすい飛び回りながら、カラフルなライトバルーンをふわふわ追いかけて遊んでいる。
「未来って、なんだかすごいな……」
のび太は思わず、ぽつりとつぶやいた。
「オレ、未来に住みたくなってきたぞーっ!」
ジャイアンが焼き肉の串をかじりながら叫ぶ。
「やっぱり、22世紀は最高だねぇ〜」
スネ夫はピカピカの新作スーツで決めポーズ。
「ノアくんにも、この世界を見せてあげたいわ」
しずがやさしくのび太を見つめる。
のび太は、静かに空を見上げたまま、心の中で強く願った。
(ノアと、みんなで……またここに来たいな……)
未来の大通りで、のび太たちがそれぞれの体験を満喫していたそのとき——。
「ドラえもん!」
「のび太さん!」
明るい声とともに、人ごみをかき分けてやってきたのは、ちょっと小柄の少年と、黄色いリボンをつけた小さなネコ型ロボットだった。
「やあ、久しぶり!ひいひいおじいちゃん!」
のび太によく似た、けれど気の強そうな少年が元気よくのび太に手を振る。
「も、もう! ひいひいおじいちゃんって呼ばないでよ、セワシ!」
のび太が慌てて抗議する。
セワシは22世紀・野比家の末裔。ドラえもんを過去に送り出した張本人でもある。
その隣で、にこやかに頭を下げるのは、ドラえもんの妹・ドラミ。
「突然連絡が来たから、何ごとかと思ったわよ。みんなで未来に来るなんて珍しいじゃない」
ドラえもんが一歩前に出て、深刻そうな顔で話し始めた。
「実は……ノアっていう子が、大変なことになってて……」
セワシは「ノア……?」と、首をかしげる。
ドラえもんは、ノアと過ごした日々や箱庭の異変、そしてノアがAI管理局に連れていかれたことまでを、短く区切りながら語った。
セワシとドラミは、険しい顔でじっと耳を傾けている。話が進むにつれ、セワシの表情には焦りが滲み、ドラミも何度も辺りを気にするようになった。
ドラえもんが話し終わると、その場に一瞬、重たい沈黙が落ちた。
のび太はじっと下を向いたまま、膝の上で小さな拳をぎゅっと握りしめている。肩が小刻みに震えているのを、誰もが気づいていた。
やがて、のび太の唇から、途切れ途切れの声が漏れる。
「どうして……どうしてノアが、あんなふうに連れていかれなきゃいけないんだよ……。ノアは……ノアは——」
のび太は顔を上げ、涙ぐんだ目で叫んだ。
「ノアは、ぼくの友達なんだ!」
のび太の叫びが、大通りの喧騒を切り裂いた。
……その瞬間、周囲の空気が張りつめる。行き交う人々やロボットが、一斉に立ち止まり、こちらをじっと見つめた。
ついさっきまで、のび太たちに優しく声をかけてくれていた花屋のおじさんや配達ロボ、子供型ロボットたちまでが、不安そうに顔色を変え、ざわざわとひそひそ話し始める。
「ノア……? まさか、あの危険なロボットのことじゃないよな……?」
「ニュースで見たわよ。『適応度』が異常だって……」
「この子たち、あのノアと関係あるのかしら……?」
ざわざわと広がる声、遠巻きの視線。
ドラミは顔色を変えて、そっとのび太の腕をつかむ。
「だめ、のび太さん……今、ここでそんな名前を出したら……!」
セワシも慌てて小声で続けた。
「とにかく、今はここにいたら危ないよ。ノアのことはみんなが注目してるんだ。ぼくの家に移動しよう!」
ジャイアンもスネ夫も、いつになく小さな声で辺りを見回した。
「なんか……やべえ雰囲気だぞ……」
のび太たちは、セワシとドラミに急かされるように、賑やかな大通りを早足で離れていった——
その背中に、いくつもの視線が突き刺さっていた。
セワシに連れられて、のび太たちは超高層エレベーターに乗り込んだ。扉が音もなく閉まると、エレベーターがふわりと浮かび上がったかと思う間もなく、ビューン!という軽やかな音とともに、一気に上昇を始めた。
「わぁっ、見て見て! ビルのてっぺんがどんどん小さくなってくよ!」
スネ夫が窓に顔をぺったりとくっつける。
「お、おれ……足がすくむぞ……」
ジャイアンは手すりをガッチリ握りしめている。
「ちょっと、たけしさん、怯えすぎよ」
しずかがクスッと笑いながら、軽やかに窓の外を見つめた。
「うわぁ……どんどん高くなっていく……」
のび太も思わず声をあげる。
下の方には、22世紀の賑やかな大通り、人やロボットが行き交う姿、色とりどりのチューブ道路、そして空を泳ぐクジラ型バスが次々と小さくなっていく。
「どう? すごい眺めだろ?」
セワシが自慢げにウインクする。
エレベーターは、みるみるうちにビルの中層を突き抜け、街全体を見下ろす高さに達した。遠くの水平線まで一望できるパノラマが、目の前に広がる。
やがて「ピンポーン」という音とともにエレベーターが止まり、セワシが「着いたよ!」と案内してくれる。
ドラミが、「ここが私たちの家!さあ、みんな遠慮しないで」と明るく手を振る。
リビングに入ると、片側いっぱいが巨大な窓になっていて、22世紀の街と、その周りの緑あふれる大地が、まるで絵のように広がっていた。
「わぁあ……」
のび太たちは思わず感嘆の声を漏らす。
街の外側には、緑の森が果てしなく広がり、その中にぽつんぽつんと街がいくつも浮かんでいる。それぞれの街は、空中の透明なチューブでつながり、その中をカラフルな車や列車が、まるでおもちゃみたいに走り抜けていた。
「未来の野比家、スケールが違うな!」
ジャイアンが思わず口を開ける。
「きれい……ほんとに、夢みたいな景色……」
しずかが窓辺に立ち、うっとりと見とれていた。
「ここから見たら、悩みごとなんてどこか遠くに行っちゃいそうだな……」
のび太も、初めてちょっとだけ笑顔を見せた。
「ふふっ、未来の野比家へ、ようこそ!」
セワシとドラミが、ちょっと誇らしげに微笑んだ。