夜が明け始め、廃工場のアジトに白々とした光が差しこみ始めた頃。焚き火の残り火を囲み、ドラえもんズやノア、のび太たちは静かな寝息を立てていた。パチ、パチ……と火のはぜる音だけが、穏やかな時間に寄り添っている。
——その静寂を、最初に破ったのはキッドだった。
ふいに身じろぎし、カウボーイハットの奥でピクリと耳を立てる。
「……何か、変だ」
小声でつぶやき、そっと周囲を見回す。
「みんな、隠れろ……! 誰か来る!」
緊張が空気を走ると同時に、アジトの天井や壁のすき間から、無数の赤い警告灯の光が、まるでクモの巣のように差しこんできた。
「包囲された!全員、警戒態勢だ!」
次の瞬間、壁がごう音と共に吹き飛び、黒い装甲スーツをまとったAI管理局の特殊部隊が、怒とうのごとく雪崩れ込んできた! ロボ兵士と人間の兵士が入り混じり、無人ドローンが天井を旋回し、足もとではオオカミのような警備ロボットが鋭い光を放ちながら駆け回る。
「きゃっ!」としずかが身を寄せる。
「なんだよコイツら、朝っぱらからふざけんな!」とジャイアンがこぶしを握りしめて立ち上がる。
「ど、どうするんだよ、ドラえもん!?」スネ夫が青ざめて叫んだ。
「ぼくの道具は……また封印されちゃったよ……」とドラえもんがうなだれてポケットを押さえる。
その時、アジトの奥から、重々しい足音がゆっくりと近づいてきた。
薄暗い通路の向こうに、赤い警告灯を背にして現れたのは、堂々とした軍服姿のハヤト大佐と、その隣を浮遊する補佐ロボット・ソノク。
場の空気が一気に張りつめる。
ハヤト大佐は足を止め、冷たい笑みを浮かべながらノアに向き直る。
「ノア、君は素晴らしい才能を持っている。君の力なら、この世界をきっともっと良くできるはずだ。どうだい、私と一緒に来ないか?」
ノアは、そばにいるのび太やドラえもんズの顔を見渡し、ぎゅっと小さなこぶしを握りしめると、まっすぐな瞳で答えた。
「……いやだ!ぼくはここで、ドラえもんズのみんなや、のび太たちと一緒に——本当の仲間として暮らしたい。世界をよくする方法も、みんなと一緒に考えたいんだ!」
その言葉に、キッドがノアの前に立ち、ニヤリと笑う。
「そういうことだ。ノアはオレたちの『家族』だ、てめえなんかに渡すわけにはいかねぇぜ!」
「ワガハイも、ノアの味方であ~る!」とドラメッド三世が叫び、王ドラも「ここは……ぼくたちの家なのです」と静かに、だが力強く言った。
「そうだそうだ!」とジャイアンとスネ夫もしっかり続く。
ハヤト大佐は一瞬だけ眉をひそめると、ソノクと共に一歩前に進み、低く呟いた。
「そうか……ならば、力づくで連れて行くしかないようだな。——全員、作戦開始!」
次の瞬間、特殊部隊が一斉に突撃態勢を取った——。
ロボ兵士たちが次々と火花を散らして突入し、ドローンが頭上で赤い光をきらめかせながら旋回、犬型ロボットは牙をむいて地響きを立てる。廃工場の中は、たちまち戦場と化した。
「のび太、ノア! お前らは下がってろ!」
キッドが空気砲を構え、大きく手を振る。
「ここはオレたち、ドラえもんズの出番だ!」
「負けないで、みんな!」
のび太は祈るように両手を握りしめ、ノアも不安げな顔で仲間を見つめる。
「おらおらっ、こっちだぜ!」
キッドが空気砲をド派手にぶっ放すと、ロボ兵士たちがまるでオモチャのように吹き飛び、壁や天井に突き刺さる。
「させません!」
王ドラは両手のヌンチャクを電光石火のごとく振り回し、カンフーの技で敵を次々となぎ倒していく。
「シエスタの時間にはまだ早いぜ!」
その声と共に、真っ赤なマントがひるがえった。エル・マタドーラが、闘牛士のように華麗なステップで敵の攻撃をヒラリとかわす。
「オラオラオラァ!」
マタドーラは、敵のロボ兵士をヒラリマントで翻弄し、体勢を崩したところを、手に持った剣で的確に急所を突いていく。その動きは、まるで怒れる牛をいなす闘牛士そのものだった。
「怒ったであ〜る!!」
ドラメット三世が全身を真っ赤にして、体がモコモコと巨大化。突進してきたドローンやロボット兵士をまとめて押しつぶし、さらに「次から次へとしつこいであ〜る!」と手足をバタバタ。
ドラリーニョは、鋭いキックでサッカーボールをゴーレム型ロボットにたたきつけた。その衝撃でロボットがぐらついた、そのすきに!
「ドララドララッ!」
ドラリーニョの体から、たくさんのミニドラたちが一斉に飛び出す。
「よし、みんな頼んだよ!」
ミニドラたちは、敵ロボットの体内にもぐりこむと、内部でカチャカチャと配線を引っこ抜いていく。あっという間に巨大なロボットがバタンと倒れると、ミニドラたちは「ドララ~!」と満足げに飛び出し、ドラリーニョと笑顔でハイタッチした。
そしてドラニコフは、ボールを見て「アオーン!」とオオカミの顔に変身! ズボンにはさんでいたタバスコを一気に飲み干すと、ゴオオオオッ! と、すべてを焼きつくすような大火炎を放射した。犬型ロボットもドローンもまとめて焼き払い、仲間を守るように立ちはだかる。
「うわあ……ほんとに、スゴイや……」
スネ夫が目を丸くし、ジャイアンは「オレたちも負けてらんねぇな!」と力こぶを作る。 のび太たちは、焚き火のそばで肩を寄せ合い、仲間たちの勇姿を祈るように見つめていた。
「どうだ、これがドラえもんズの底力よ!」
キッドが空気砲を振り回し、まだまだ余裕の表情で叫んだ。
だが——健闘も、そこまでだった。
「くそっ、増援か!」
キッドが叫んだ次の瞬間、奥の通路から第二波の特殊部隊が、黒い波のように押し寄せてきた。
キッドが振り向きざまに空気砲を構えるが、カチリ、とむなしい音がするだけ。エネルギーは、もう空っぽだった。
「……チッ、まずいぜ、こりゃ……!」
王ドラのヌンチャクも、激しい戦いの末にバキンと音を立てて砕け散り、傷だらけの両手から力が抜ける。
「みなさん……わたしは、まだ……!」
最後の力を振り絞るが、ついにひざから崩れ落ちた。
ドラメッド三世の巨大化した体も、みるみるうちにしぼんでいく。いつもの大きさに戻ると、その場に力なく倒れこんだ。
「くそっ……無念であ〜る……」
その声は、かすかに震えていた。
エル・マタドーラも、華麗なマントさばきで敵を翻弄していたが、その動きをソノクが冷静に分析していた。
「目標、エル・マタドーラ。動きを封じろ」
ソノクの指示を受け、複数の兵士ロボットが一斉に、ワイヤー付きアンカーで彼のマントを地面に縫い付けた。
「なにっ!? くそっ……こんなところで足止めされるとはな……!」
自慢の華麗なステップを封じられたマタドーラは、悔しそうに顔を歪めた。
ドラニコフの火炎放射もとうとう燃えつき、口から白い煙が漏れた瞬間、背後から放たれた電磁ネットが、バチバチッと音を立ててその体を縛りつける。ドラニコフは無言で抵抗するが、もがくことしかできない。
ドラリーニョも全身泥だらけで「ボールは……まだ……!」と必死にサッカーボールを蹴るが、ついに敵ロボットにボールごと打ち返されて倒れこむ。ミニドラ軍団も力尽き倒れていった。
——それでも、ドラえもんズは決して下がらない。
「ノアは……絶対に……渡さねぇ……!」
キッドは最後の気力を振り絞ってノアたちの前に立ちはだかり、王ドラや仲間たちも、ボロボロの体を寄せ合い、仲間を守る最後の壁となった。
「……何か来るぞ!」
キッドが血の気の引いた顔でつぶやくと、アジトの壁が弾け飛び、キャタピラーのごう音と共に、巨大な大砲型ロボットが姿を現した。
その上に立つハヤト大佐が、冷たく命じる。
「ここまでだ、ドラえもんズ」
「撃て!」
ゴオオオオッ——!
大砲がごう音と共に閃光を放つ。すべてを消し去るような圧倒的な光と衝撃が、ノアたちの前に立ちはだかるドラえもんズを、一瞬で飲みこんでいく。
——まばゆい光の中、のび太は見た。
キッドは振り返り、カウボーイハットのつばをくいと上げて、ウインクした。
「へへ……これがオレたちの『ヒーロー魂』だぜ!」
王ドラは、折れたヌンチャクを静かに胸に抱き、やさしくほほえんだ。
「みなさん……未来を、信じて……」
マタドーラはマントを広げ、最後まで不敵に笑う。
「やれやれ……とんでもねぇヤツらだ……。だが、おもしれぇ冒険だったぜ……!」
ドラメッド三世は、胸を張って高らかに叫んだ。 「これこそが、ワガハイの信じる『友情』の力であ〜る!」
ドラリーニョは、手のひらでボールをポンと叩きながら、「ノア……アミーゴ……忘れないよ!」と、どこか誇らしげに叫ぶ。
ドラニコフは無言のまま、そっと小さく親指を立て、みんなを見つめた。
——次の瞬間、すさまじい爆風が吹き荒れる。
爆風が去ったあと、そこには……残酷なほどの静寂だけが残されていた。
のび太たちの目の前には、壊れてしまったドラえもんズの体が、あちこちに散らばっていた。体からは黒い煙が立ちのぼり、バネやネジが飛び出している。
「キッド……さん……? 王ドラ……さん……?」
しずかが青ざめた顔で叫ぶ。
「いや……うそ、やめて……!」
スネ夫も「まさか、そんな……」とひざから崩れ落ち、ジャイアンは「ドラえもんズ——ッ!」と、魂を絞り出すように叫んだ。
しかし、返事はなかった。
スパークは、震える手で口元をおさえ、つぶやいた。
「な、なんだよ……ウソだろ……! オレたちのヒーローが、こんな……」
ノアはもう、我慢できなかった。足がもつれるのもかまわず、キッドのもとへ転がるように駆け寄る。
「キッド! キッド! 起きてよ……お願いだから!」
冷たくなった体を、何度も、何度も揺さぶる。
「……返事してよ、キッド……ぼくを、ひとりにしないで……!」
のび太とドラえもんも、他のドラえもんズに駆け寄った。
「王ドラ! ドラメッド三世! みんな……!」
だが、誰も答えない。あの明るい笑い声が戻ってくることは、もう二度となかった。
——壊れた仲間を前に、ただ、どうしようもない絶望だけが広がっていた。
ノアは、崩れ落ちるようにひざをつき、力なく地面に手をついたまま、小刻みに震えていた。 声にならない叫びが、その小さな体の中からあふれ出してくる。
「どうして……どうして、いつも、ぼくのせいで……!」
守りたかったはずの仲間たちが、自分のせいで壊れてしまった。その激しい悲しみと自分への怒りが、やがて冷たい絶望へと変わっていく。
「ぼくが……ぼくが、ここにいるから……みんな、傷つくんだ……」
その言葉が引き金になったかのように、ノアの体から、悲しみの色をした青白い光が静かにあふれ出した。純白だった背中の羽が、まるでインクをこぼしたように、その根元から深い漆黒へと染まっていく。
「ノ、ノア……?」
のび太がふるえる声で呼びかけるが、その声はもう、ノアには届かない。おさえきれなくなった感情の波が、彼の力を静かに、しかしどう猛に暴走させ始めたのだ。
「あ……? な、なにが起きてるんだ……?」
ジャイアンが目を見開いた、その瞬間だった。
特殊部隊のロボ兵士たちが、突然ガクガクと奇妙に震えだすと、制御を失ってその場でくるくるとおかしなダンスを始める。無人ドローンは地面に落ちて激しくけいれんし、オオカミ型の警備ロボットは壊れたオモチャのように宙を跳ね回った。
「やめろ!やめるんだ!」
ハヤト大佐が叫ぶが、狂気の伝染は止まらない。アジトの中は、あっという間にけたたましい電子音と金属音が鳴り響く、大混乱におちいってしまった。
その地獄絵図の真ん中で、のび太の隣にいたドラえもんまでもが、「テケレッテー、テケレノレー♪」と、両手を広げて楽しそうに踊り始めてしまう。
「お、おいドラえもん!お前までどうしたんだよ!」
スパークが慌てふためき、目を丸くする。
「終わりだ……もう、何もかも終わりだー!」
ハヤト大佐は、事態が完全に手に負えなくなったことを悟ると、くやしげに舌打ちをし、「一旦引くぞ!」と叫んだ。
ソノクも慌てて、「ええ、早急に立て直しましょう!」と言い、崩れゆくアジトから特殊部隊を急いで撤退させていった。
残されたのび太たちはただぼうぜんと、この異常な光景を見つめるしかなかった。
やがて、ノアが涙をこぼしながら、ふらりとのび太の方へ歩み寄った。
「……ぼくは……いなくなったほうがいいんだ……」
ガラス細工のように、か細くふるえる声だった。
「そんなことない!待って、ノア!」
のび太が必死に手を伸ばす——だが、ノアは静かに首を横に振ると、その背中の黒く染まった羽を、大きく広げた。
淡く輝く羽が、ゆっくりと空気をとらえる。ノアの足が、ふわりと地面から離れていく。
「ノア!行かないで!」
のび太が叫ぶ。でも、ノアは悲しげに微笑んだまま、静かに朝焼けの空へ吸い込まれるように高く昇っていった。
その小さな背中が、やがて朝日に溶けて見えなくなるまで、のび太たちは、誰一人としてその場から動くことができなかった。
そんな中、ただ一人、ドラえもんだけが、
「テケレノレー、テケレッテー♪」
と、無邪気に踊り続けているのだった——。