ドラえもんズとの悲しい別れの後、ノアを探して未来都市の大通りに戻ったのび太たち。
しかし、そこに広がっていたのは、もうあのきらびやかで楽しかった未来の街ではなかった。
「えっ、何これ……」
しずかが目を丸くする。
歩道では、宅配ロボットが四角いボディでリズミカルにスキップし、小型の郵便配達ロボットは黒いカバンをぶんぶん振り回しながらグルグルと空中でバク宙。「ピーピー!ワープ先不明、ワープ先不明!」と大騒ぎ。
カフェの店員ロボは手にしたカップを空にしたまま「おかわり自由です!おかわり自由です!」と、困惑するお客の後ろをしつこく追い回している。
その中に混じって、交番ロボットが「ピーポーピーポー、ただいまよりカエル跳び訓練を開始しまーす!」と号令をかけ、同僚たちと一斉にカエル跳びを始めた。
さらに、バス停前では乗客案内ロボットが、「お乗りのお客様は……ワタクシ?」と突然自己紹介しだしたり、子どもたちと遊んでいたはずのペット型ロボも、くるくる回って止まらない。
まるで街全体が、めちゃくちゃなお祭りの会場になったかのようだ。
その混乱のど真ん中で、なぜかドラえもんもノリノリで「テケレッテー! テケレノレー!」と奇妙なダンスを続けている。
のび太があきれて「もう、ドラえもんやめてよ!」と止めようとすると、ドラえもんはピースサインを決め、「ぼく、今からヨーヨーになりまーす!」と宣言し、道路でゴロゴロと転がり始めた。
「おいおい、そっちに行ったら車にひかれるぞ、ドラえもん!」
スパークがあわてて追いかける。
「街中のロボットが、みんなおかしくなってるぜ……!」
ジャイアンが思わず叫ぶと、スネ夫は顔を引きつらせて、
「まるで……まるで、ウイルスがうつっていくみたいだ……」とつぶやく。
人間たちも、どうしていいか分からず、暴走するロボットたちをよけながら右往左往するばかりだ。
のび太たちは、戸惑いながらも異様な光景に目を奪われていた。
「これ、ノアくんの……あの時の力が、広がってるのかな……?」
しずかの小さなつぶやきに、みんな思わず黙りこくった。
その時、街の向こうから息を切らして駆けてくる小さな影があった。
「セワシ!」
のび太が手を振ると、セワシは必死の形相でこちらへ走ってくる。
「大変だよ、みんな! 街じゅうのロボットが次々おかしくなってて……! 『マツシバロボット工場』からも、さっきからヘンな動きのロボットがどんどん出てきてるんだ!」
セワシは焦った顔で説明した。遠くからもサイレンの音やアナウンスが風にのって響いてくる。
「きっと……ノアくんは、工場にいるんだわ……」
しずかが、心配そうに胸の前で手を組んだ。
その時、セワシの腕につけている時計型の通信機がピコン、と小さく鳴った。画面にはドラミの顔が映し出される。
「のび太さん、みんな無事? わたしは感染する前に避難したから大丈夫よ!」
ドラミの元気な声に、みんなは少しだけホッとする。
「ドラミちゃん、よかった……」
しかし、街の混乱はますますひどくなるばかりだ。あちこちでサイレンやパトランプの音がこだましている。
ジャイアンが、ぎゅっとこぶしを握りしめた。
「……よし、決めた! オレたちで、ノアを助けに行くぞ!」
「早くしないと、街じゅうメチャクチャになっちゃうよ!」
スネ夫も、ふるえながら叫ぶ。
のび太が、力強くうなずいた。
「ノアの心を分かってあげられるのは、ぼくたちだけなんだ!」
みんなは顔を見合わせ、決意を固める。
未来都市を救うため、そして、たった一人の友達を救うため——のび太たちは、マツシバロボット工場へと、最後の決意を胸に駆け出した。
白昼の未来都市——マツシバロボット工場の前にかかる幅広い橋の上で、AI管理局の人間の兵士たちが、ずらりと盾を並べたバリケードを張り、のび太たちを待ち構えていた。
「止まれ! おまえたちは重要施設への不法侵入および、裁判所襲撃の容疑で逮捕する!」
鋭い視線と、怒号。ものものしい空気が、橋全体を支配している。
そんな緊迫したムードの中、ドラえもんはただ一人、「テケレッテー♪」と調子っぱずれにスキップし、コロコロと橋の上を転がり始めてしまった。
「もーっ、ドラえもん、やめてってば!」
のび太があわててドラえもんの背中をつかんで引き止めるが、「テケレノレー♪」とごきんにスキップするばかりだ。のび太は焦って、「ドラえもん、何か道具出してよ! 何でもいいから助けて!」と頼みこむ。
「どーぐ?」
首をかしげたドラえもんが、ポケットをまさぐると、中からビョーンとびっくり人形が飛び出し、のび太の顔面にクリーンヒット!
「わっ! な、なんでこんな時に~!」
のび太は、そのまま派手にしりもちをついた。
「違うよ、そうじゃなくて……!」
半泣きでドラえもんのポケットに手を突っこもうとするが、ドラえもんは「エッチ!」と叫びながら、両手でしっかりとポケットをガードしてしまう。
そのドタバタを見ていたみんなも、さすがに途方に暮れた表情に。
「もう、どうしよう……」のび太がうつむいた、その時——
「そうだ! こういう時こそ、こいつらの出番だろ!」
ジャイアンが拳をぐっと握って叫ぶ。
「そうね! みんな、カードを出して!」
しずかの呼びかけに、全員がそれぞれのパートナーが描かれた召喚カードを高く掲げた。
「いけっ、バクゴン!」
「モサモサン、お願い!」
「出てこい、ハニワル!」
「……ヨ、ヨワリン、たのむよ!」
カードがまばゆい光を放ち、みんなの足もとにカラフルな魔法陣が浮かび上がると、パートナーたちが次々と姿を現した!
現れたパートナーたちは、仲間を守るように一斉に前に出て、兵士たちに鋭い視線を向けて構えた。
「いっけぇ、バクゴン!! ——ファイヤーブレス!!」
ジャイアンが叫ぶと、黒い影と炎が渦巻く怪獣・バクゴンが橋の上で大きく口を開ける。「ゴオォォッ!」と炎をまき散らし、兵士たちが「うわああ!」と悲鳴をあげて後退した!
「いくわよ、モサモサン——フローラルウィップ!」
しずかの掛け声と共に、モサモサンから黒いツタのムチがビュンッとしなり、バリケードの盾ごと兵士たちを豪快に跳ね飛ばす。
「ハニワル、スモークショット!!」
スネ夫が自信たっぷりに叫ぶと、ハニワルが「ぷしゅぅ~っ!」と黒い煙を噴き上げ、たちまち橋じゅうをモクモクと覆いかくす。兵士たちは「前が見えん!」と大混乱だ。
「ヨ、ヨワリン……いっしょにがんばろう!」
のび太も構えるが、ヨワリンは「ぷるぷる……」とのび太の足元に隠れて、ただ震えるばかり。
「……いるだけ邪魔じゃねーか!」
スパークが、思わずツッコミを入れた。
パートナーたちの奮闘と煙幕で、橋はパニック状態!
「今だ、走れ!」
ジャイアンの掛け声と共に、のび太たちは、敵の隙をついて工場の正面ゲートにすべり込み——
「ま、待てー!」という兵士たちの声を背に、無事に工場内部へと駆け込んだ!
工場の重たい扉をすり抜けると、中はまるでおもちゃ箱をひっくり返したような大混乱だった。耳のある黄色いネコ型ロボットたちが「テケレッテー!」と叫びながら、あちこちでくるくる踊ったり、壁をよじ登ったりしている。
「うわっ、なにこれ、全部ドラえもん!?」
スネ夫が叫んだとたん、ロボットたちが一斉にこちらを向いた!
「うわぁー!見つかった!」とのび太は思わず身をすくめる。
黄色いネコ型ロボットたちが、「テケレッテー!」と大声で叫びながら、四方八方から飛びかかってきた。
「モサモサン、フローラルウィップ!」
しずかが叫ぶと、モサモサンのツタがムチのようにしなってロボットたちを薙ぎ払う。
「バクゴン、ボルケーノチャージ!」
ジャイアンの号令で、バクゴンが炎をまといながら頭を下げ、「ゴオォッ!」と地面すれすれを一直線に突進! ネコ型ロボットたちを次々と吹き飛ばして、道を切り開いた!
スネ夫が叫ぶ。「ハニワル、トリックトラップだ!」
ハニワルが地面をバンバンとたたく。その瞬間、床のあちこちからバネじかけの金属トラップが「パカッ! パカッ!」と大量に出現! 踊り狂うネコ型ロボットたちはそれに気づかず、「ガチャン!」と次々に足やしっぽをはさまれ、「テケレレー!?」と悲鳴を上げて動けなくなっていく。
ジャイアンたちが「おおっ!」とおどろく中、スネ夫は「ふふん」と得意げに親指を立てた。 ——そんな中、のび太だけが、くるくる回転中のドラえもんと、背中に隠れてふるえるヨワリンにはさまれて、オロオロするばかり。
「ど、どうしよう……このままじゃボクだけ何もできないよ!」
必死でお尻のポケットを探っていると——ふと、指先に固いものが触れた。ドラリーニョからもらった『動物変身ビスケット』だ。
「これだ!」
のび太は、ポケットに入っていたゴムパチンコにビスケットをセットすると、敵ロボットにバシン! バシン! と次々に発射した!
「ぷぅぷぅ」「きゅーん」「キュウ、キュウ!」
命中したネコ型ロボットたちが、次々にウサギやリス、モグラなど、まんまるでかわいらしい小動物に変身していく。ふわふわ跳ねたり、穴を掘ったり、しっぽをふりふりして工場の床を駆け回る。
「な、なんだこれ、かわいすぎて戦う気になんねー!」とジャイアンが絶句する。
スネ夫も「やるじゃんのび太、これなら——」と褒めかけた、その瞬間。
のび太は勢いにまかせて、「えいっ、これもだ!」ともう一枚ビスケットを発射! すると、それを食べたネコ型ロボットの一体が、急にモコモコと体をふくらませ始め、立派なたてがみを生やしていく——。
「ガオォォ!!」
なんと、巨大なライオンの姿に大変身してしまった!
「えっ!? あっ、これ……『ライオンに変身するビスケット』も混ざってたんだぁ!」
のび太が青ざめる。
「なにやってんだよ、のび太! 強くしちゃってどうすんだ!」
ジャイアンとスネ夫が、顔を真っ赤にしてのび太につめよった。
のび太が「ご、ごめん……」とうなだれる間もなく、ジャイアンが叫ぶ。
「バクゴン! ファイヤーブレス!」
「モサモサン! フローラルウィップ!」
炎とツタの同時攻撃がライオンに炸裂! バチバチと火花を散らし、ライオンはついに床に大の字になった。
スパークは頭を抱えながら、「頼むから、次はクジラとか出すんじゃねえぞ、のび太ぁ!」と、ヒヤヒヤしながら叫んでいるのだった——。
工場の奥へ進むにつれて、のび太たちの行く手には、ベルトコンベアや巨大なプレス機、頭上からパーツを運ぶクレーンアームなど、さまざまなワナが待ち受けていた。スネ夫がハニワルの煙幕で敵の目をくらませ、しずかのモサモサンが花の香りのバリアでみんなを守る。ジャイアンとバクゴンは、炎を吹きながら立ちふさがる機械を強引にこじ開け、のび太たちは必死にその背中を追いかけた。
しかし、うなりを上げるコンベア地帯を抜けた先で、突然ドラえもんがぴたりと足を止めた。
「のびた……これいじょうは、こないで……ひとりにして……」
小さく、でもはっきりとつぶやくドラえもん。
のび太が心配そうに駆け寄ろうとした。
「ドラえもん、どうしたの? ねえ、しっかりしてよ!」
そのとき、ドラえもんがいきなり顔を上げ、「ガオー!」と意味のわからない雄叫びを上げた。そのすさまじい気迫に、のび太は思わずしりもちをつく。次の瞬間、ドラえもんはポケットから『ビッグライト』を取り出すと、自分に向かってその光を当て始めたのだ。
みるみるうちに、ドラえもんの体が巨大化していく。天井に頭がつきそうになるほど大きくなったその姿は、もう知っているドラえもんではなかった。
「おいおい、なんでこんなことになるんだよ……!」
スパークが、思わず後ずさる。
ドラえもんはもう我を忘れて暴走していた。巨大な腕を振り上げて、のび太たちに迫ってくる。
「いやだよ、ドラえもんと戦いたくなんかない!」
のび太が叫ぶが、ジャイアンは拳を握りしめ、低くうなった。
「でも、やるしかねえだろ……!」
「いけっ、バクゴン! ファイヤーブレス!」
バクゴンが吠え、口から灼熱の炎を吐き出す。しかし、巨大ドラえもんはポケットから取り出した『ひらりマント』を広げ、その炎をまるで風のように受け流してしまった。
「いまよ、モサモサン! フローラルウィップ!」
しずかが叫び、花のムチがうなりをあげてドラえもんに襲いかかるが、これもマントではじかれてしまう。
「ハニワル、スモークショットだ!」
スネ夫が指示を出すと、黒い煙がドラえもんの視界をうばう——かと思いきや、ドラえもんはポケットから『バショー扇』を取り出し、たったひとあおぎで煙をすべて吹き飛ばしてしまった。 「な、なんだよその強さ……!」
ジャイアンが、くやしそうに歯ぎしりする。
とどめとばかりに、ドラえもんは腕に『空気砲』を装着すると、バクゴンもモサモサンもハニワルも、まとめてドカンドカンと吹き飛ばしてしまった。「ワハハ! 楽しぃなぁ~!」と、巨大な声が高らかに笑う。
目の前で、頼りの仲間たちが次々と倒されていく。のび太はその場にひざをつき、ただ震えることしかできなかった。
「どうして……どうしてドラえもんと戦わなきゃいけないんだよ……」
巨大なドラえもんが、ゆっくりとこちらに手を伸ばしてくる——。
「もうダメだ……!」
のび太は、無我夢中でポケットから動物変身ビスケットを一枚つまみ上げると、持っていたゴムパチンコにセットし、やみくもにドラえもんに向かって発射した。
「ごめん、ドラえもん!」
ビスケットは、ドラえもんの鼻先をかすめる——が、『ひらりマント』がそれをきれいにはじき返してしまう。
「あっ!」
ビスケットは、放物線を描いて、あらぬ方向へ飛んでいき——。
「もぐっ……え? な、なに!?」
その先にいた、スネ夫の口の中に、スポンとぴったり入ってしまった!
次の瞬間、スネ夫の頭からピンと大きな耳が生え、お尻からは長いしっぽが伸びてくる!
「ネ、ネズミだー!」
しずかとジャイアンが、同時に叫んだ。
その姿を見た巨大ドラえもんは、ぎょっと目をむいて全身を震わせる。
「な、な、な、なんだってぇぇぇぇぇぇ!!」
——そのままバターンッ!と大きな音を立てて白目をむくと、気絶してしまった。
「え、これでいいの……?」
思わずみんなが顔を見合わせ、スパークも「ちょっと情けなさすぎじゃねーか?」と苦笑する。
「今のうちに……!」
のび太は気絶しているドラえもんのポケットから『スモールライト』を取り出し、その光を当てる。みるみるうちに、ドラえもんはいつもの大きさに戻った。
「さあ、急ぐぞ!」
ジャイアンが小さくなったドラえもんを引きずるようにして、みんなで最上階を目指して走り出す。
息を切らせながら階段を駆け上がると、重たい鉄の扉の向こうに、ついに——ノアが待つ工場の最深部が現れるのだった。